千葉県民が「千葉に行く」と言えば、まず間違いなく千葉駅周辺を指すのだが、この感覚は他の地域の人には伝わりづらいかも知れない。例えば東京都民が、「東京行ってくる」って言い出したら、なんだか夢を追ってビッグになりそうな感じがしてしまう。
「八幡くーん!」
そんな千葉駅周辺とは全く関係の無い場所で彼女を待ち合わせている俺。すると俺の名前を高らかに挙げながらこちらに走って来る。ていうかそんな走らないで、揺れる揺れる。目が上下にいってスロットみたいな事になりそうだから。
「お待たせしました〜!」
彼女の名前は藤原千花。秀知院学園生徒会の書記を務めていた女の子。周りを乱し、己が楽しむだけに他者を苦しめる危険人物。
そして、俺の恋人である。
「なんか今途中私の悪口言ってませんでしたか?」
「言ってねぇよ」
なんで分かるのこの子。俺の周りエスパー多くね?
「まぁそれはさておき、デートですよ〜!イチャイチャラブラブしちゃいましょ〜!」
「すごいバカっぽいセリフだな」
「バカっぽいとはなんですか!」
彼女と付き合っても、こういった軽口を交わす関係なのは変わらない。変わらないのは良い事ではあるのだが…。
「それじゃあ早速行きましょう!」
彼女は俺の右腕を抱きしめる。彼女になった今、積極的にアタックしてくる。モロに巨大なメロンが当たって心臓バクバクする。この手の行為だけ寿命を縮められている気がする。
「…てかこれデートっつうか、必要な物とかの買い出しだけどね。これ」
「雰囲気ぶち壊さないでください。デートはデートです」
「すいません」
俺達はこれから過ごす同棲生活の為の買い出しを行う為、ららぽーとへと向かった。
高校最後の奉心祭。あの時、俺は藤原千花……千花に告白。彼女からOKを貰い、恋人となった。その後の関係は良好、そして今に至る。
「もう私もすっかり千葉県民ですね〜」
「まだお前は千葉県に片足を突っ込んだだけのひよっこに過ぎん。俺のような生粋の千葉県民になる為には、まず千葉県全体の面積ぐらいは把握しなきゃいけない」
「えっ別にそこまで求めてないです。ぶっちゃけ面倒」
そりゃそうだ。こんなん暇人がやる事だし。年中暇な俺は、千葉県の隅々まで知り尽くす事も可能である。千葉県学概論とかあったら俺絶対高評価なまである。
「とりあえず何を買うか決めないといけませんね」
「各々の私物は既に運んだから、日用品とか食器ぐらいか」
「後は…べ、ベッド、ですかね〜…?」
「疑問系やめて?照れるのもやめて?」
そんな様子見せられたらめっちゃ意識してしまうでしょうがよ。
「だ、だって……」
「だってじゃありません。俺も照れるから。なんなら現在進行形でフラッシュバックしてるから」
既に彼女とは何度か致している。だからこそ、ベッドという単語を照れながら言うのはNGなのだ。普通にベッドシーンが回想として浮かびそうになるから。
「…えっち」
なんだその言い方可愛いな。
「と、とにかくだ。俺達の家の家具だ。今日1日で全部揃わせる事も無いだろ。ゆっくり選ぼう」
「そ、そうですね!」
無理矢理話を終わらせて、俺達は家具を見に行く為にららぽーとへと向かった。南船橋駅から歩いて到着したららぽーとには、人混みが多く目立っていた。
「やっぱり休日ですから人が多いですね〜」
「それはまぁ千葉のららぽーとだからな」
「別に千葉を強調してもそこまで魅力は感じませんよ?」
何故だ。ららぽーとは千葉が発祥地だぞ。これに魅力を感じないとか終わってる。
「最初はどこに行きましょうか」
「日用品辺りで良いだろ。食器とか重いし、最後まで持てん」
「非力な人ですね〜全く。石上くんより弱いんじゃないんですか?」
「まぁ小中は帰宅部のエースだったからな。足腰の強さならそこそこ自信があるぞ」
高校は生徒会に入れさせられてすぐに帰宅出来なかったけど。
「そんなの私もありますよ。ペスのお散歩やサイクリングで運動してましたし。ていうか今腕力の話してるんですよ、腕力の。腕力は石上くん以下、足腰諸々私以下って、とても非力じゃないですか〜?もし私が変な男に襲われたら、八幡くん守れるんですか〜?」
俺の頬をつんつん突きながら揶揄う千花。こうやって自分が優位に立つと揶揄ってくる癖は相変わらずだ。高校の時、この癖に俺達はどれだけ迷惑被られたか。
今現在も千花の揶揄いに鬱陶しかったり可愛らしかったり邪魔くさかったり恥ずかしかったりと、色んな感情がごちゃ混ぜになっている。
「守れるかどうかは知らんけど、守りはするだろ。お前に手を出す男居たら迷わず前に出る。盾になるぐらいの使い道はあるって、いつか言ったろうが」
「あっ…」
四宮を助けに行く時の、四宮の本邸に向かう途中に四宮家の連中に襲われた際に言った言葉。
「手が届く範囲で、お前を守るよ」
とりあえず前に出て俺がフルボッコにされて、それを見た周りの人が騒ぎを起こしたり警察を呼んだりするだろうからそれに任せる。それかもう襲われた瞬間、警察呼ぶ。どっちにしろ他力本願である。これがヒッキーのやり方です。
「…ん?」
先程まで揶揄っていた千花が静かになり、すると俺の身体に抱きつく。えっこんな往来で何抱きついてんの?せめて腕にして、腕に。
「そうやって突然言ってくるのずるいです…」
「や、ずるいも何もお前が言わせてきたようなもんだろ」
「そんなだから、他の人を病ませちゃうんですよ」
「俺そんなメンタル攻撃してないよ?」
確かに居たよ病んでた人。それはもうモテ期を超越していたね。でも少なくとも全責任が俺にあるわけではなくない?多少なりとも責任があるのは分かるけども。
「これ以上私をデレさせてどうするんですか…もう好感度カンストしてるんですよ…?私まで病ませちゃう気ですか…?」
おや、千花の様子が…?ってこれポケモンの進化みたいだな。つうか進化しないでくれ。今以上厄介になったら手を付けられなくなる、ガチで。
「別にデレる分には何も悪い事じゃないだろ。なんならその分、俺もお前にデレまくる。これでウィンウィンだ」
あっやべ。俺がデレまくる所を想像したら気持ち悪くなる。どこ向けのサービスだよこれは。俺のデレとか需要無いぞ。むしろ反乱分子を生み出すまである。
「あっ八幡くんのデレデレは気持ち悪いので却下です。需要無いですよ」
あまりの気持ち悪さに素に戻った。嬉しいような悲しいような。
「こんな事してる場合じゃありません!早く日用品を見に行きましょう!」
「忙しい奴だなお前…」
彼女が先導し、俺が後を追う。しかし、彼女の後ろ姿がいつも以上に変…というか、不気味というか。変化があったのか、なんか違和感を感じる。
「私以外の女の子にデレデレなんて、想像するだけで気持ち悪いんです。需要が無いんです。…そんなの、絶対に嫌なんですから」
彼女を追いかけ、隣に立って顔色を伺う。
「っ!」
その表情に、俺は背筋が凍る感覚がした。無機質な表情で、瞳から光が一切ない。これもしかして、本当に…?
「ち、千花…?」
「…あっ、はい?なんですか〜?」
途端に、普段の千花に戻る。
「お前、今すごい表情してたぞ」
「え?あぁ、八幡くんのデレがあまりに気色悪いので気分がちょっと悪くなってました〜」
なんだ、それなら納得だ。いや納得するのかよ。今普通に思いっきりディスられたんだぞ俺。もうちょい怒れよ。
「いや、まぁ自分でも分かるけどさ。俺のデレがどこにも需要無い事ぐらい。小町にデレても"えっお兄ちゃんキモっ。どうしたのキモっ"って、まるで句読点のようにキモって言ってくるけど」
「言われてたんですね…」
俺がもし逆の立場なら、即警察を呼ぶ。間違いなく。無期懲役の刑にでもして欲しいレベル。俺のデレそんな重度の犯罪なのかよ。既に顔が犯罪顔だから仕方ないと言えば仕方ないのか?
「まぁキモいって思ってただけなら良い。とにかく行くぞ。人が多くなる」
「あ、待ってくださいよ〜!」
ていうか、俺一応曲がりなりにも彼氏的立場なんだけどね。キモいキモいって言うのはいかがなものかと思うんだが千花ちゃん。そのキモいと言われて容認しちゃう辺り、もう俺も末期かしら。
バランスの取れない2人の半日は、ららぽーとの中を巡るだけで終わった。
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「これでようやく全部揃ったか…」
各々の私物、日用品、食器、ベッド等、生活に必要な物は全て揃った。すぐに持ち帰れる物は揃えれるが、ベッドやタンスと言った大きな物は業者に頼まなければならない。故にすぐに全てが揃うわけも無く。
「ようやくちゃんとした2人暮らしが出来るんですね〜!」
千花はリビングに設置しているソファに寝転がって寛いでいる。ていうかシャツから少しお腹見えてる見えてる。いくら2人とはいえ、もうちょっと警戒して?
「今度お姉様や妹ちゃんも連れて来て良いですか〜?」
「…せめて俺の部屋には入れないでね。後、それ俺が居ない時によろしく」
ここまで頑なに会いたくない理由は1つ。苦手だから。
妹はサイコパスのサディスト気質。姉はビッチ気質があるし、そんな2人に挟まれたら俺確実に死ぬ。身体的にも精神的にも瞬殺されるのは明らかだ。
「あー…2人とも確かに八幡くんに懐いてますもんね〜…」
「そろそろ俺被害届を出して良いと思うんだが」
「特に萌葉の場合は本当に事案になりそうですから〜…」
何度か監禁されそうになったし、何度かよく分からない薬も飲まされそうになった。あれはヤンデレとかじゃなく、ただ単純にそういうマッドサイエンティストな趣味をお持ちになっているだけ。
『あははっ!比企谷さんが私を見上げて苦しんでる姿が、もうさいっこう!一生私のペットとして飼ってあげたいなぁ〜』
…怖ぇよ。そのうちニーナとアレキサンダーみたいな末路になったりしない?キメラとかにされない?
「…とにかく、こっちに連れて来る時は俺が居ない時な。なんなら死んだって事にして」
「しませんよ?」
むしろそっちの方が藤原妹の手から離れられそうだけどな。
「そういえば、八幡くんは就職先はどうするんですか?もうそろそろ就活を意識し始める頃ですし」
「…一応、教師かな。教育実習に行ったけど、どうやら実習先から声が掛かるぐらい高評価だったらしいし。他の学校とか探してみるけど、まぁそこまで不安になるほどでは無いな」
相手が高校生なのは結構面倒だったが。中高生辺りは教師に反発する生徒も多いし。教育実習生いじめがあるのではと不安になったレベル。
「お前は?本当に総理大臣になんの?」
「最初はそうだったんですけど〜……」
「ん?」
寝転びながら寛いでいた千花は起き上がり、口ごもっていた。何、どうしたの?
「八幡くんの専業主婦が良いな〜…って」
「…おっふ」
彼女は照れながらそう答えた。確かに総理大臣への道は険しいし、仮になれたとしても休みなんてほとんど無い。にしても、それはちょっと可愛過ぎませんか?ぶっちゃけグッと来ました。
「…なら…その、ま、毎朝俺に味噌汁作ってくれないか…?」
やっべぇ思わずプロポーズした。ていうかこれプロポーズなん?絶対違うだろ。雰囲気も指輪も無いぞ。こんな古臭いプロポーズがあって良いのかよ。令和だよ今。
すると、彼女はソファから離れてこちらに寄って来る。そして俺を見上げて。
「はい。よろこんで」
短く、かつ自分の想いを全部乗せて返した。その時の千花の表情は、とても幸せである事をすぐ理解した。
雰囲気も無ければ指輪も無い。おまけに古臭いプロポーズ。それでも尚、藤原千花は俺のプロポーズ(仮)を受け入れてくれた。
今度は、ちゃんとしたプロポーズをしよう。そう心に決めた。
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数年後。
「うわ!パパの目死んだお魚さんみたい!」
「でしょ〜?しかもこれで性格が意地悪だったんだよ〜?」
「ねぇなんで俺ママと娘から貶されてるの?ていうかなんで高校のアルバムなんて出してるのん?」
藤原千花……もとい、比企谷千花と、俺と彼女の間に生まれた娘がケラケラ笑いながら俺をディスっている。お休みの日になんで俺はディスられて心に傷を負わなきゃいけないの?もうちょっとパパを労ってくれても良いと思うの。
「部屋のお掃除してたら懐かしいのが出て来ましたし。あるじゃないですか、部屋掃除してたら懐かしいのが出て来て一旦掃除止まるの」
「それでアルバム引っ張って来たわけか…」
「パパいっつも目死んでるけど、この時も目死んでたんだね!不審者みたーい!」
「パパを不審者呼ばわりする娘…」
きっとそのうちパパとすら呼ばなくなるだろう。反抗期には不審者呼ばわりになって、いつか誤解されて逮捕されそうだ。冤罪だろこれ。
「確かに顔はまんま不審者なんだけどね、そんなパパもママは大好きなんだよ?」
お、嬉しい事言ってくれる。そうそう、こういうのが欲しかったんだ。
「性格はゴミクソだし、なんかカッコ付けてタバコ吸い出すし、"人生なんて苦いんだからコーヒーくらい甘くても良いだろ"とかわけ分かんない事言うし、昔なんて女関係にだらしなかったけど」
そういうのは欲しくなかった。今の俺を褒める流れじゃなかったのん?上げて落とす感じは性格の悪さが出てるぞ。
「でも、とっても優しいの。カッコ悪いとこが多く目立つけど、時々カッコ良いとこもあるの。頼りないけど、とっても頼れるとこもあるの。
「わたしも!パパだーいすき!優しいしカッコ良いもん!将来はパパと結婚する!」
うわぁ何これめっちゃ泣きそう。えっ泣いていい?もう醜く号泣していい?今すんごい胸の辺りが温かいんだけど。千花も五花も大好き愛してる。もうマジで離さんわ。特に五花、好きな男とか出来たらパパ許さんからな。その男俺が処すからな。
「パパはママのだよ〜?」
「パパはわたしのー!」
なんか睨み合ってるけどそれすらほんわかする。うわぁめっちゃ幸せなんだけど。誰だよ結婚は人生の墓場とか言ったの。天国だろこれもう、最高の休日ですありがとうございます。これで明日からも頑張っていけそうです。
今日1日で彼女達からありったけの愛を貰い、明日からの仕事に備えていた。時間は夜の9時を過ぎた辺り。五花を寝かしつけていた千花がリビングに戻って来た。
「ぐっすり寝ましたよ。いやぁ、娘の寝顔は何度見ても可愛いですね〜」
「それな。天使なまである」
うちの天使に手を出す愚か者は片っ端から滅してやるから覚悟しろよ。
五花の周りに居る見知らぬ男子達に心の中で忠告していると、ソファに腰掛けていた俺の隣に千花も腰を掛ける。
「子どもと言えば、会長とかぐやさんの子どもって凄いですよね。幼稚園児なのに、既にカオス理論を理解出来るって」
「バケモンかよ」
思考回路どうなってんだその子ども。
「私達の子どもが遺伝した部分って、パパのアホ毛と私の大きい二重の目ですかね〜」
「後、所々で毒吐くとこな。あの天使が堕天したら泣くぞ俺は」
「親バカですね。ふふっ」
「親バカじゃない。単に娘が大好きなだけだ。…お前含めてな」
「…不意打ちはずるいって言ったじゃないですか。未だにときめいちゃうんですよそれ」
事実ですからね。
しかし、まさかダークマターを擬人化した女の子を溺愛する事になるとは。俺ってば案外ゲテモノ好きなんだろうか。好きなタイプが決まっていたわけでは無いけれど、それでも千花を異性として好きになるとは思わなかった。今やそれが覆り、彼女は俺にとって居なくてはならない存在と化した。
「私、今とっても幸せですっ」
と、彼女は俺の肩に頭を乗せて言う。
「俺もだ。…千花」
依然、ダークマターを擬人化した人物なのには変わりない。彼女の奇行は今に始まった事では無いし、今後も変わる事もないだろう。
しかし、千花の奇行や、その奇行を生み出す元気な様子は周りを温かくしてくれる。蝋燭の火のような、ささやかな温かさを持つ優しさに、俺は何度も助けられた。
いつぞやの占いで、彼女をこう表していた。"慈愛""献身"の象徴だと。今だからこそ分かる。あの占いは当たっている。彼女こそ、俺が知る中で慈愛と献身を備え持つ女の子なんだ。
「パパっ」
「ん?」
すると、千花は頬にキスしてくる。急になんだと思い、隣に視線を向けると、照れている千花の表情が目に映った。えっ何マジで本当に可愛いな。
「ほら、パパも」
千花は自分の頬に指を差す。どうやら俺にもやれと。彼女にお返しするように、俺も指定された部分に唇を当てた。
「…このやりとりバカっぽくない?やっててあれだけどいい歳してこれはちょっと恥ずかしくない?」
「そうですか〜?私は嬉しいですよ〜」
そう言って、今度は俺の唇に自身の唇を当てた。温かい柔らかいちょっと湿ってる恥ずかしい。
「ほらっ、次はパパから」
「えぇ…」
「断ると、かぐやさん直伝のキューバリファカチンモを食らわせますよ?」
「待ってそれだけはやめて?ていうか何余計なレシピ教えてんのあいつ」
あんなん食べたら一瞬で昇天するだろうよ。娘と千花残して先立つの嫌だぞ俺は。
「…千花」
先程の触れ合うキスのお返し。俺から彼女の唇に当てる。キスされた彼女は、今にも蕩けそうなだらしない表情になっている。
「えへへ〜…」
「すっげぇ顔だなお前」
人前に見せられねぇぞこれは。ていうか見せたくないんだけどさ。
「じゃあ次は、ベロとベロのちゅーしましょ〜!」
「お前酔ってる?」
「酔ってないですよ〜」
彼女はそう微笑みながら否定し、俺を押し倒す。押し倒された俺の隙を突いて、彼女は上に乗って来る。
「パパへの愛がいっぱい溢れてきちゃって、ちょっと我慢出来ないんですよね〜。それに、最近ご無沙汰だったじゃないですか〜?」
「じゃないですか〜って言われても。そらお前子どもが居る前でそんなんしたら教育的にまずいだろうがよ」
「でももう五花ちゃん寝ちゃいましたよ〜?」
「そういう事じゃなくてだな…。ていうか俺明日仕事仕事」
「嫌、なんですか…?私、パパといっぱい愛し合いたいのに……」
そう言う彼女の瞳は潤んでおり、今にも泣きそうになってしまう。やっべ、まさかの千花ちゃん泣かせた?
「…分かった。分かったから泣くなって」
「やった〜!」
ケロッと表情が変わる。あっこれ演技だったわ。見事に騙された。クソ、それこそずるいだろ。こいつってこういう駆け引きに関しては長けているんだよなぁ。NGワードゲームの時とか思いっきり騙されたし。
「それじゃあ〜…」
彼女は舌舐めずりをして、こちらを捉える。普段の彼女からは見られない、妖艶な仕草。
「いっぱい愛してくださいっ。パーパ」
…明日遅刻したらどうしよう。理由が「妻と愛し合ってました」とか言ったら即刻クビになりそう。本当は昨日の方が良かったけど。
全く、千花には敵わねぇわ。
次回、ハーレムハッピー(バッド)エンドです。