「コスプレ、な…」
近々、ここ秀知院学園と、フランスの高校との交流会があるそうだ。そのために、ダンボール箱の中にある様々なコスプレグッズが必要になるとのこと。
「フランスは日本に次ぐコスプレ大国です。コスプレに言葉はいりません。言語の壁を超えて親睦を深めるにはこれ以上の策はありません!」
「ですが…」
「まあまあ!やってみたら意外と楽しいものですよ!」
藤原は楽しげに、ダンボール箱の中にあった猫耳のカチューシャを四宮に着ける。
四宮は四宮で、ちょっとノリに乗ってみたのか。
「にゃあ……で、合ってますか?」
「ほら可愛い〜!二人もそう思いますよね?」
「…うん。そだね」
うん似合ってると思うよ?ちょっとお腹が捩れそうなくらい笑ってしまうのを堪えてるけど、似合ってると思うよ?あの四宮が猫耳カチューシャを着けるって状況が既に面白いから、いいんじゃないの?ぷぷっ。
「あぁ。猫耳が藤原書記の頃に四宮は俺だな」
「ですよね〜」
「………ん?」
何か今、日本語がおかしくなかったか?
「つまりだな、お前の持って来た時間は元々四宮と猫耳だけってことだ」
やっばこいつ完全にキマってる。
さてはあれだな。四宮と猫耳カチューシャという組み合わせが可愛すぎて、英文を自動翻訳させたような無茶苦茶な言葉が出て来てるわけだな。
「ひぃ!こ、怖いです!」
「おい白銀。しっかりしろ」
「だから言っているだろう。四宮と俺、そして藤原と比企谷。互いが可愛ければ猫耳になると」
「マジで何言ってんの?お前元からバグってんのに更にバグってどうすんだよ」
伊井野のギャップの違いと同じレベルのホラーなんだけど。
「こう言った扮装は初めてで勝手が分からないですが……似合っているでしょうか?」
四宮が猫っぽいポーズを取って、白銀にアピールする。
対する白銀だが。
「…まぁ、いいんじゃないか?(ぎゃああああぁぁかっわああああぁぁ!!)」
ようやく言語を取り戻すも、どこか白銀の様子がおかしい。なんというか、めっちゃ無理して平静を装っている。まさかこいつ、可愛いって言いたいのを我慢しているのか?
すると途端に、白銀が藤原の方を睨み付ける。
「顔怖っ!え?え?な、なんなんですか?」
「何がだ」
こういう猫耳って、案外藤原や伊井野が似合いそうなもんだけど。四宮は普段とのギャップで笑ってしまうから没です。
「もう!会長も晒されてください!」
四宮はもう一つの猫耳を、白銀に無理矢理着けた。しかし、それはお世辞にも可愛いとは言えない姿であった。
「に、似合うな……くく……」
「それ絶対似合ってないリアクションだろ。分かりきってただろ。俺にこういうの似合うはずがない」
「ですよね〜」
それは分からないぞ。世の中、変な趣味をした女だっている。お前のことを可愛いとかいう変人がいるかも知れない。
例えば、そこで白銀を凝視してにやけ面している四宮かぐやとかな。四宮の猫耳はまだ万人に需要があるが、白銀の猫耳は四宮にしか需要がない。
つまり、四宮は変人である。
「なんだ四宮、その顔は。俺の猫耳に文句でもあるのか?」
「いえ、まさかそんなこと。とてもよく………お似合いですこと」
客観的に見たら、なんか蔑んだ表情なんだけど。人として似合ってないって言いたげな表情。
だが客観的に見れば、だ。俺からすれば、白銀の可愛さににやけが戻らないような表情なのだ。なんかもう無茶苦茶だな。
「比企谷くんは何が似合いますかね〜」
「ちょっと待て。まさか俺にも着ける気か」
「当たり前じゃないですか〜。比企谷くんはこれかな」
藤原は変な角が付けられたカチューシャを取り出す。それを俺に無理矢理着けた。
「比企谷くん雑魚悪魔っぽ〜い」
「雑魚は余計だろ」
「でもちょっと可愛い〜!写真撮っちゃおー!」
藤原はスマホをこちらに向けて、パシャパシャと連写していく。こんなん撮って何が楽しいか全く分からん。
「藤原さん。ついでに会長の写真も撮って差し上げましょう」
「あっ、そうですね」
俺に向けていたスマホは、次に白銀へと向けられていた。向けられなくなった俺は、鬱陶しいカチューシャを外す。
「未来永劫、この会長の姿を残して差し上げなくては…」
うっわすっげぇ顔。四宮家として、今おそらく人の前に出しちゃいけない顔してる。
「絶対にダメだ!」
「そんなこと言わずに〜。さっ、かぐやさんも一緒に。後、比企谷くんも」
「俺は外したからいいわ」
あー良かった外しておいて。あの中に単身で入り込むとか命が何個あっても足りない。似合わないやつはいるわ、人前に出したらやばい顔するやつはいるわ、カオスだろこれ。
「もう!外さないでくださいよ〜!」
「とりあえずそれは後でいいだろ。今は四宮と白銀の写真を撮ってやりな」
「後で絶対ですよ?」
うんうん。きっと、そのうち、気が向いたら、撮ってもらっていいから。
それにしても、白銀も人前に出せないような表情してんぞ。何?猫耳のカチューシャ着けたら何かに取り憑かれるの?
そして、先程まで撮るなと言っていた白銀が一転して。
「篤と取れ藤原書記!」
めちゃめちゃ撮る気になりました。
「あ、あれよ!4Kってやつで撮ってください!」
「は、はい!」
藤原が二人にスマホを向けると、何故か互いが互いを睨み付けている。
「なんでお前ら睨み付けてんの?」
「ふ、二人とも、もっとにっこり笑ってください…」
「「無理」」
「ええーっ!?」
睨み合いは尚も続き、二人の顔の距離は徐々に近づいていく。俺らこれ今何見せられてんの?
「お二人とも!喧嘩するならこれは没収です!」
藤原は二人から猫耳カチューシャを取り上げた。
その瞬間、二人の様子が元に戻る。しかし、互いの顔がバチバチに近いことを理解したのか、彼らは一瞬で距離を大きく離した。
こいつら、今危うくキスまでいきかけてたな。あの猫耳カチューシャは着けた人間をキス寸前までさせるのか。なんて恐ろしいカチューシャなんだ。
そしてこの瞬間、誰もがこう思ったのだ。
「(猫耳怖い!)」
…と。
それ以来、生徒会での猫耳カチューシャ使用は満場一致で禁止になりましたとさ。