やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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比企谷八幡は帰りたい

「間に合った〜!」

 

 今日は秀知院とフランス高の交換留学歓迎会。設営やら買い出しやらでこの三日間、クソほど忙しかった。

 

「皆サマ、お疲れ様デス」

 

 俺達は会場の入り口で少々休憩していると、秀知院の校長がやってきた。

 

「いやはや、急ナお願いでしたがよくぞ形にしてくださいまシタ」

 

「校長……次から直前に言うのやめてください。他の役員に負担をかけるのは、俺の方針じゃありませんので」

 

「ハハッ、分かってマース!」

 

 本当に分かってんのかこのおっさん。だいぶ無茶振りなことを平気で言ってきたってことを忘れてないだろうな。

 

「あれ〜?比企谷くん、イメチェンはどうしたんですか〜?普段となーんにも変わってないですけど〜」

 

 チッ、覚えてたか。言われなかったらノーチェンジでいくつもりだったのに。

 ついこの間、NGワードゲームで藤原に敗北し、イメチェンを強いられたのだ。後こいつのニマニマした顔は何?なんか腹立つ。

 

「…最初はワックスとか付けようか考えたが、あれ一朝一夕で出来るようなやつじゃないって思ったからやめた。そういうわけで」

 

 俺はポケットからある物を取り出した。そのある物とは。

 

「それ…眼鏡か?」

 

「伊達眼鏡だ。イメチェンなんてしたことないし、眼鏡をかけただけで印象が変わるみたいな話を聞いたことがあるからな。これにした」

 

 俺は伊達眼鏡を掛ける。度が入っていないとはいえ、生まれて初めて眼鏡なんて掛けた。

 俺が眼鏡を掛けると、3人は固まってしまった。

 

「…なんだよ」

 

「誰だお前は」

 

「は?」

 

「あわ、あわわ……」

 

 こいつら何?何その反応。そんなに似合っていないとでも言いたいのか。白銀の猫耳カチューシャに比べればだいぶマシだろ。………マシだよね?

 

「ハイハーイ!お喋りはそこまでにして、皆サマも楽しんでクダサーイ」

 

 こいつらの視線が気になるが、似合わないことは百も承知。見たくなさ過ぎて、鏡で自分の顔を見るのすら躊躇ったぐらいだ。気にしないようにしよう。

 

「…うわぁ…」

 

 何このパリピ感。パーティって言ってるから多少合ってるけど、これ俺絶対馴染めないやつ。ついでに言うならフランス語なんて俺は話せない。付け焼き刃で得たのは精々挨拶程度だ。

 まぁこちらから話しかけなければ、そんなに話すことはない。入り口の近くで一人でいれば、大丈夫だろう。

 

 石上と一緒に帰ればよかった。

 

「…はぁ」

 

 他のみんなはフランス語を話せるのだろうか。

 

「C’est nous qui vous remercions d’être venus d’aussi loin. Nous ferons tout notre possible pour que vous gardiez un souvenir impérissable durant votre séjour parmi nous.」

 

 うっわ何話してるか分かんねぇ。ただ、流石四宮と言ったところか。フランス語もお手の物。隣にいる白銀なんてあたふたしてるぞ。

 まさかお前も、こちら側か。

 

「La pluparts des contenus japonais sont focalisés sur le marché domestique. Le Japon n’a pas encore établi la façon de se promouvoir à l’ étranger.」

 

 うっわこっちも何話してるか分かんね。ていうか藤原、お前フランス語話せたのか。お前もこっち側だと思っていたのに。

 …帰りたくなってきた。ステルスヒッキー使って一旦抜けようかしら。俺一人抜けてもなんら問題ないだろう。よし、抜けよう。

 

「Bonjour. Est-ce que vous êtes tout de suite」

 

 誰だよ声かけるなよ知らないやつと話しちゃダメって言われてるから無視していいよね。

 振り向くと、俺に声をかけたのはフランス高の女子生徒だ。

 

「Je suis le nom de Laura. Comment vous appelez-vous ?」

 

 何言ってるかさっぱり分からん。初対面に対して疑問系ってことは、おそらく名前を聞いているのだろう。

 

「め、Merci. Ça s'appelle Hikigaya Hachiman. Enchanté」

 

 自己紹介はすると思って、ちゃんと最低限のフランス語は覚えてきたのだ。ほんの付け焼き刃だが。

 

「Ouah ! C'est un joli nom !」

 

 何言ってるか分からん。分からんけど、なんか褒められてる気がする。多分。

 なんでもいいけど、とっとと抜けたい。何話してるか分からん相手とこれ以上一緒にはいにくい。こうなったら、適当にフランス語っぽい言葉で誤魔化して、とっとと立ち去ろう。話が通じないやつと一緒にいても、楽しくないだろうしな。

 

「Tu es belle. J'ai failli tomber amoureux à première vue.」

 

「Quoi!?」

 

 自分で何言ってるかさっぱり分からん。フランス語っぽいことは言えたつもりだが、さてさて、相手の反応は…。

 

「…Je suis tombé amoureux à première vue de votre belle expression.」

 

 え。

 めっちゃ顔赤いしもじもじしてるんだけど。俺一体何言ったの?俺この子に何言ったの?

 なんか分からんけど、とりあえずアレだ。感謝の言葉を押しつけて退散しよう。

 

「Merci.」

 

 俺は彼女にそう告げて、その場から立ち去った。

 休息も兼ねて、俺はコーヒーを飲むために、一旦会場から出て行った。自動販売機を見つけ、コーヒーを購入する。

 

「…疲れた」

 

 知らん人と話すだけでも気が滅入るのに、その上他国の言語で話さなきゃならない。この三日間、俺はよく働いたと思う。明日一日くらい休める権限が欲しい。

 そんな下らないことを思い耽って数十分。

 

「…そろそろ戻るか」

 

 俺は缶コーヒーを捨てて、パーティ会場へと戻った。すると、入り口の前では校長と、泣き崩れるフランス高の女子がいた。

 えっ校長何したの。校長まさか女子泣かせたの?うわ最低。

 

「あ、比企谷くん!一体どこほっつき歩いてたんですか!?もうフランス高のみんな帰っちゃいますよ!」

 

「あぁ、ちょっとアレがアレでアレだったから休んでた」

 

「なーに言ってるかさっぱり分からないんですけど。あ、それよりっ」

 

 藤原はスマホを取り出し、俺に向けて写真を撮り始める。

 

「比企谷くんの眼鏡姿、すっごくカッコいいですよ!フランス高の女の子達から結構絶賛でしたよ!」

 

「えっ嘘だ。白銀の猫耳カチューシャレベルじゃないのかよ」

 

「そんなことないですよ!これは保存ですよ保存!」

 

 藤原はパシャパシャと連続で撮り続ける。するとそんな中、先程のフランス高の女子がこちらに寄ってきた。その女子は、俺に薔薇の折り紙を差し出して来る。

 

「C'est mon amour pour toi! Prends-le!」

 

「ほわあああぁぁぁ!?」

 

 突如、藤原が奇声を発し始める。急に奇声出し始めてめっちゃ怖いんだけど。

 とりあえず、なんか分からんけどくれるってことだよな。じゃあ感謝の意を伝えないといけない。

 

「Merci.」

 

 俺がそうお礼を言うと、フランス高の女子生徒は走ってパーティ会場から出て行った。

 

「ひ、比企谷くん、いつの間に女の子を引っ掛けてたんですか!?」

 

「え」

 

「今の女の子、比企谷くんにほの字でしたよ!何したんですか!?」

 

「いや、それ俺が聞きたい。急に薔薇の折り紙渡されて困惑してんの俺だし」

 

 俺は彼女に自己紹介して、その後彼女からさっさと離れるようにフランス語っぽい言葉を使っただけなんだが。こんな薔薇の折り紙渡される義理もないし。

 

「藤原書記、比企谷!そろそろ片付けを始めるぞ」

 

「ん、分かった」

 

「は、はい!比企谷くん、後でちゃんと説明してくださいね!」

 

「お、おう……」

 

 説明も何も、そもそも自分が何言ったか覚えてないんだが。

 彼女から薔薇を渡されるような何かを言ったってことか?あの出来損ないのフランス語で?

 

「…よく分からん」

 

 もう考えるのやめにしよう。どうせもう会わない人物だし、これ以上考えると頭が痛くなる。さっさと片付けてさっさと帰ってさっさと寝よう。

 




 翻訳はどうぞ自分で行なってください。多分翻訳した瞬間「八幡こんなこと言ってたのうわやっべマジ卍」みたいなことになるので。笑

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