やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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石上優は生き延びたい

 

 今日の生徒会室は一味違う。女子達がいないことと、珍しくこの男が生徒会室にいることである。

 全体的に髪が長く、片目だけ隠れた男子生徒。第五のメンバーである生徒会会計役、石上優。今まで名前くらいしか出てこなかった彼が、珍しく生徒会に顔を出しているのだ。そんな彼が満を辞して。

 

「…生徒会を辞めたいんです」

 

 彼の瞳には、希望とかいうポジティブ染みた類が存在していなかった。

 

「なるほど……生徒会を辞める…」

 

 白銀は冷静に、先の言葉を確認する。そして。

 

「勘弁してくれ!!お前いないと破綻する上に比企谷への負担がバカみたいに増える!!このとーりだ!!」

 

 白銀は机に頭を打ち付けながらも、俺達に向かって頭を下げる。

 確かに、石上が辞めるのは生徒会にとって痛手だ。こいつの仕事っぷりは半端ない。白銀が認めるほどだ。こいつが辞めれば冗談抜きで破綻する。

 

「…なんで辞めたいんだ?」

 

「僕としても辞めたくて辞める訳じゃありません。けれどどうしようもない理由があって…」

 

「理由?」

 

「…僕、多分殺されると思うんです」

 

「ころっ!?」

 

 そんな怯えた表情をした石上の瞳から、涙が下へと流れていく。

 

「…一応聞く。誰にだ」

 

「四宮先輩です。多分僕あの人にそろそろ殺されると思うんです」

 

「お前もか……」

 

「ということは比企谷先輩も……?」

 

「あぁ。多分俺も殺られる」

 

 俺もお前も、寿命が近かったようだ。

 

「待て待て待て!なんで四宮がお前らを殺すっていうんだ?何を根拠にして…」

 

「眼です」

 

「眼…?」

 

 石上の言葉にいまいち理解出来ない白銀。しかし、俺にはそれがとても共感できるものだった。

 

「人の眼球は脳に直結した器官であり常時脳の半分は視覚処理に使われています。眼球の動きは何を警戒して何に飢えてるか脳の活動が明確にでる器官なのです。僕、眼を見ればその人の本性が5~6%判るんです」

 

「微妙な数字!それくらいなら多分俺も出来るわ!」

 

 石上の観察眼は中々鋭い。彼の観察眼の精度は5〜6%なんてものではない。俺と同じ、いやそれ以上の観察眼を兼ね備えている。そんな石上が言っているんだから、間違いない。

 

「四宮先輩はたまに、すごい眼で僕を見るんです。あれはそう…紛れもなく殺意です」

 

「…何があったんだ?」

 

「何があったかは……脅されているので話せないです」

 

「おどっ!?」

 

「もういい。お前は今まで十分耐えたよ。あんな暗殺者の卵に狙われても尚、生き延びてるなんて大したもんだよ」

 

「暗殺者!?お前ら一体四宮をなんだと思ってるんだ!」

 

 だから言ってるだろ。暗殺者の卵だと。あいつ多分そこそこの人数殺ってるよ。きっと暗殺教室に送れば、最高戦力で迎えられ、いち早く殺せんせーを殺せるだろう。

 

「藤原先輩なんて僕よりもヤバいです。時々、人として見てない眼で見られてます」

 

「それな。多分俺らより先に殺されると思う。持って2ヶ月ぐらいだろうから、後で別れの言葉を伝えんとな」

 

「余命宣告!?」

 

 藤原、今までありがとう。ご愁傷様でした。南無阿弥陀。

 

「藤原先輩だけじゃないです。会長だって危ないんですよ。たまに会長を獲物を狙う目で見てますよ。心当たりありませんか?」

 

「心当たりなんて、そんなもんない筈…」

 

 白銀は今までの四宮を思い出す。すると心当たりがあったのか、顔色が青くなる。

 

「…あったんだな」

 

「ば、バカな……そんな筈……」

 

「会長。ああいうタイプはヤバ…」

 

 石上が言い切ろうとした瞬間、生徒会室の扉がゆっくり開く。俺達はそちらに振り向くと。

 

「会長……石上くん来てますか…?」

 

 血に塗れた四宮が虚な眼で、包丁を持って尋ねる。その姿は正しく、誰かを殺った姿であった。

 俺はその場から動けず、白銀と石上は怯えながら、四宮から距離を取る。

 

「先程会議の……」

 

「これ以上罪を重ねるなぁー!!」

 

「演劇部の予算の話で……」

 

「自首するんだ四宮ぁー!!」

 

「もぉ……話を聞いてください!」

 

 四宮は血塗れの包丁を勢いよく机に振り下ろす。しかし、ザクッと突き刺さらず、先端でグニャグニャ曲がり始める。

 

「演劇部の助っ人に借り出されてるって言ったじゃないですか。今日はその衣装合わせなんです」

 

 なんだびっくりした。既に殺ったんだと思ったよ。ちょっとちびりそうになったじゃねぇか。

 

「にしたって、そんな小道具まで持ってくる必要ないだろうに……」

 

「それは…えっと……ちょっとした悪戯心というか……。…ふふっ、ごめんなさい」

 

 四宮は恥じらいながらそう微笑んだ。白銀からしたら、「可愛い」とか思っていそうだが。

 

「会長、これは罠です。そうやって可愛い風を装って油断させたところをザクッです」

 

 四宮に根っからの恐怖を抱いている石上は、これがほんの悪戯心と捉えることが出来ず、本当に誰かを殺ったと思っている。まぁ普段の四宮を見ていれば、その可能性もなくはないと俺も思う。あいつの眼力めっちゃ怖いし。

 

 すると、再び生徒会室の扉が開く。そこに現れたのは。

 

「会長……たす…けて……」

 

「いっ…!?」

 

 身体中が血塗れになり、更には大きいメロンの間に包丁がぐさりと刺さった藤原がゆらゆらと現れた。

 

「かぐやさんに殺されちゃいました〜」

 

「やっぱり!!」

 

「やっぱりってなんですか!?ただの特殊メイクですよ!流れで分かるでしょう!」

 

「あ、そ、そうだよな……」

 

 しかし、石上は未だに信じ切れず。

 

「会長、これも罠です。多分彼女本当に死んでて、四宮先輩にヤバめの手術を…」

 

「…石上会計。君はいつも被害妄想が過ぎる。四宮は絶対に人を殺したりなんかしない。もっと仲間を信じてみろよ」

 

 その仲間に向かって蔑んだ眼で見たり獲物を捕らえるような眼で見てるんだけど。本当に四宮が気に入らないやつは、物理的にじゃなくとも、精神的に、社会的に殺しかねない。

 

「石上くん。あの件……黙ってもらってて嬉しいです。口が固いのは美徳ですよね」

 

 四宮は微笑みながら石上に近づく。一件、白銀と同様にいいことを言っている雰囲気なのだが。

 

「もし喋っていたら……」

 

 四宮はおもちゃの包丁を石上に突き刺し。

 

「おもちゃじゃ済みませんから」

 

 石上は恐怖で声も出ず、ただただ頷くだけであった。

 

「それと、会長を困らせてはいけませんよ?辞めるだなんて、もう言わないでくださいね」

 

 …ちょっと待て。石上が辞めたいって言ってたのだいぶ序盤だぞ。それを知ってるってことは…。

 

「それと比企谷くん」

 

「ひ、ひゃいっ」

 

「誰が、何の卵ですって?」

 

 …聞かれてた。全部聞かれてた。すんごい笑顔だけどそれが却って恐怖を煽ってる。なんでだろう。さっきから震えが止まんない。

 

「…なんでもございません」

 

「ふふ、よろしい」

 

 小町。俺もしかしたら千葉に帰る前に殺されるかもしれない。一応実家に遺書送っておこうかな。

 

 


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