「あーだる…」
庶務の仕事は会計と同じくらいでクソ面倒なのだ。資料の作成や整理など、雑務ばかり。早く生徒会終わって自由の身にならんかな。
「別に帰ってからやってもいいんじゃないですか?」
「帰ったら尚のことやる気が出ないからな。やる気もない俺が更にやる気失くしたらお終いだろ」
この場にいるのは俺と四宮のみ。他3名は生徒会が終わるとさっさと帰った。
正直、こいつと二人は気まずい。別に何かあったってわけじゃないんだが、特に仲がいいわけじゃない。生徒会で一緒のメンバーであっても、ほぼ他人みたいなもんだ。
「かぐや様、お帰りの時間です」
すると、無機質な声で生徒会室に入ってきたのは、四宮の近侍の早坂であった。
「早坂……生徒会には来ないでって言っているでしょう?」
「大丈夫です。会長をはじめとした皆様が帰宅したのは確認しましたし、比企谷くんがいても私達の関係とっくにバレてますし」
バレたっつか、四宮との関係バラしたのお前だと思うんだけど。俺そこ別に見抜いた覚えないんだけど。
「…そういう油断が命取りとなるのよ。貴女最近気が緩んでるんじゃない?その格好といい、その爪といい、スカートの丈も校則違反じゃ…」
「ちゃんと校則の範囲内ですよ。まぁ多少、校則の穴を突いてはいますが」
しかしこの女、どうやら風紀委員からブラックリスト扱いされているらしい。理由は言わずもがな、この身だしなみだ。
「多少、ねぇ……」
「私達にとって、美貌は
「あぁ…。確かに四宮がお洒落をしてる姿は見たことないな。外じゃ知らんけど」
「そう。最近
「…本当?」
四宮は少し、恥じらいながら早坂に聞く。
「それをしたら会長に……じゃなくて、男子に可愛いって思わせられる?」
「よくそのボロの出し方で今までやってこれましたよね」
「早坂も苦労するな…」
「本当それ。さっさとくっついてくれると助かるのに」
白銀も白銀で、結構分かりやすいんだけどな。どっちも分かりやすいのに、なんで早く付き合わないのかよく分からん。はよ告れ。
「比企谷くんはどう思いますか?女子が突然お洒落をしてきたら」
「そもそも女子の知り合いそんないないから聞く相手間違えてるんだけど」
「例え話です」
「…まぁあれだな。好きな人がお洒落したら、多少は意識するんじゃないか?」
まぁ問題は、そのことに白銀が気付くか。気付いたとして、それを直で四宮に伝えるか、だ。あいつのことだから、またチキって何も言わなそうな気がするけど。
「じ、じゃあ会長……ではなく、男子も意識する…かしら?」
ボロボロ出しすぎだろ。本当、気付かれないのが奇跡なレベルだ。
「俺はそう思うってだけだ。そこはそういうのに詳しい早坂に聞いてみないと分からん。そういうのって、男子にウケいいのか?」
「うん。勿論、男子に……」
しかし、早坂はそこで言葉を途切らせて、四宮の腕を引っ張る。
「さぁ早く帰って塗りましょう。会長に意識させたいのであれば」
おっとこれはどうやらウケがいいわけではなさそうだ。あからさまに話を終わらせちゃったよ。
「じゃ比企谷くん。またね」
「ん」
早坂は少しウキウキした足取りで、四宮は不安な表情で生徒会室から出て行った。
「…さて、仕事」
俺は残った仕事を一人で、淡々と終わらせていくのであった。俺もだいぶ社畜ってるよな。
そして、翌日。
普段通り、生徒会室に集まって仕事を始めていた。少ししてから、白銀と四宮が生徒会室に入って来る。
「あ、かぐやさーん。ここの部分なんですけど」
「あ…はいはい」
藤原が手に持つ資料を四宮は拝見する。そのこと自体に何も不思議ではないのだが、彼女は何故か両手を後ろにしている。そのことに気付いた藤原は。
「後ろに何か隠してます?」
「え!?い、いえ何も……」
どうやら四宮、ネイルしたことを隠している。別に隠す必要はないと思うのだが…。
しかし、隠すということは何かあるということ。唯一この中で知ってる俺がネタバラシなんてしたら。
『余計なことしてくれたわね……このお礼はたっぷり払わないといけませんね』
うわこっわ。四宮がネタバラシするまで俺黙っとこ。絶対殺される。物理的にじゃなく、精神的に。
「会長、これを…」
すると、四宮が行動に移した。ネイルを見せる………のではなく、資料を見せていた。
「こないだの議事録です」
「あぁ、ありがとう」
しかし、そこからが何かおかしかった。資料を見せるだけならまだしも、見せ方にすごいあからさま感があったのだ。
最初は資料越しにネイルを見せつけるものの、途中から思い切りネイルを見せつけたのだ。挙げ句の果てには自身の手で目隠しする始末。どんだけ見せつけたいんだよ。
ただ、白銀はネイルに関して一切触れなかった。あれだけあからさまに見せつけられたら、鈍感なやつでも気付くと思うのだが。
まさか、褒めるのが恥ずかしいとかそんなんじゃないよな。褒めるとはいかずとも、せめて触れるくらいはしてやれ。そんなネイル褒めるだけで何か言われたりはしないと思うぞ。
「藤原先輩…リンス、変えましたね」
すると突然、石上が藤原のリンスに触れた。藤原の長い髪が靡いたのか、藤原が使っているリンスの香りが石上に届いたのだろう。
「えっ、分かるの?」
「えぇまぁ……いつもと匂い違うんで…」
「ちょっと待て石上」
「まぁ今日がムレるってのもありますが、なんていうかいつもより匂い方が可愛いんですよね」
ストップ石上。お前それ以上自ら死地へと向かおうとするな。
「例えるなら赤ちゃんの匂いっていうか」
「あ…」
こいつ終わったな。
「石上くん……キモ〜っ。あははっ」
藤原は笑いながらエゲツない言葉で石上に大ダメージを与えた。こればっかりは石上を擁護出来ねぇわ。
石上は立ち上がり、一滴の涙を流して白銀にこう伝えた。
「死にたいので帰ります…」
「お、おう。でも死ぬなよ…」
石上は落ち込みながら、生徒会室を退室していく。石上、帰宅。
「私臭いますか!?臭いですか!?比企谷くんどうですか!?」
藤原は自身の髪を俺に近づける。何故お前は躊躇いなしに自分の髪の毛を男子に近づけるんだ。並の男子なら、うっかり勘違いして告白するぞ。そんで振られるんだよ。
「知らんって。別に臭くねぇから」
いい香りがすんだよちくしょう。そんな馴れ馴れしく髪の毛を近づけてくんな。
そして生徒会が終わるまで、白銀は四宮のネイルに触れなかった。
俺は下駄箱でローファーに履き替えて、正門に向かおうとすると、後ろからでも分かる落ち込んだ四宮の姿が見えた。白銀にネイルのことを褒められるどころか、触れられないことに落胆しているのだ。
まぁこればかりは、白銀が触れなかったのが…。
「四宮!」
トボトボと歩く四宮に、白銀が声をかける。
「その…爪なっ…!」
白銀が"爪"という単語を発した瞬間、落ち込んでいた四宮が一転して、少しソワソワし始める。
俺は遠目から彼らのやり取りを見ていたのだが。
「いやなんでもない!」
「えぇーっ!」
白銀は結局ネイルの感想を言わず、自転車で帰って行った。
「なんですか!?最後まで言ってください!」
本当、お前らのやりとりなんなん?見てるだけでなんかむず痒くなってくる。目の前でリアルのラブコメを見なきゃならんとかアホらしい。
「はよ付き合えっつの」
そんな彼らに俺は呆れ、家へと帰って行った。