やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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白銀御行は働かせたい

 

「恋愛相談?」

 

 ちょっと待てこの始まり方何回目だ。お前また恋愛相談しに来たのか、男子A。

 

「今僕は、大きな問題に直面しているんです!恋愛マスターの会長なら、この悩みを見事解決してくれるんじゃないかと!」

 

 どれだけ他力本願だよ。もうちょい自分で頑張れ。出来るなら恋愛相談持ってくんな。過去に常軌を逸した答えが返ってきたのを忘れたのか。

 …とはいえ、その常軌を逸した答えで付き合えているわけだから、一概にバカには出来ないんだけど。まぁとりあえず。

 

「そんじゃあ邪魔者は出て行くわ」

 

「あ、待って!君の意見も聞きたいんだ!頼むよ!」

 

 この間と似たようなこと言われたな俺。特に意見したわけでもないのに、何故か残らされる。

 

「…仕方あるまい。乗りかかった船だ…最後まで面倒見てやるよ」

 

 恋愛において百戦錬磨の強者である白銀が、渋々男子Aの相談に乗ることになった。そういえばこいつの名前知らない。ずっと男子Aで通してたし、別にいっか。

 

「それで、相談というのは?」

 

「はい。実は僕………」

 

「…おう」

 

「柏木さんと手を繋ぎたいんです!」

 

 …これほどどうでもいい恋愛相談はあっただろうか。恋愛相談といえば、「あの子と付き合いたい」、とか「あの子の誕生日プレゼント何あげたらいいんだろ」的なやつだろ。

 なんだこのどうでもいい恋愛相談は。今までクッパは何回マリオに倒されたかっていうくらいどうでもいい。

 

「僕ら付き合い始めてもう1ヶ月じゃないですか。そろそろ恋人らしいことの一つもしたいなって思って〜」

 

 なんか無性にイラつくのは俺の気が短いだけなんだろうか。

 

「ですので会長!どうやったら手を繋げますかね!?」

 

 そんなもん周りに聞けよ。なんでそのレベルの相談を生徒会にしていいって思ってんだ。お前生徒会舐めとんのか。

 つーかこいつさりげなく惚気てるよな。俺がイラつく理由は多分惚気られてるからだよな。本当、リア充くたばれ。

 

 白銀結構心広いけど、この程度の恋愛相談じゃ怒るよな…。

 

「白銀…流石にこれは…」

 

「ははっ、それな」

 

「待てなんだその顔。お前何を悟った」

 

 何故そんな仏みたいな顔になる。まさか、この程度の恋愛相談乗る気じゃないよな。こんな「朝眠いよな〜」みたいなレベルのクソどうでもいい恋愛相談を。

 

「…つーか、手を繋ぎたきゃ勝手に繋げばいいだろ」

 

「待て比企谷。確かに手を繋ぐなんてのは簡単だ。しかし、それだけでは甘い」

 

 手を繋げば終わりなのにそれだけで甘いって言われた。

 

「じゃあ他に何があるんだよ」

 

「決まっているだろう?クルーザー借りて水平線に沈む夕日を眺めつつ、ふと触れ合った指先を意識して俯いた彼女に微笑みながら握ればいい」

 

 手を繋ぐだけでなんでそんなハードル高くなるの?手を繋ぐってなんだっけ?

 

「ちょっと待て。そもそもクルーザー借りるって言うけど、金かかるだろあれ。そんなに金あるのか?」

 

「い、いえ……そんなお金持ってないです…」

 

「そうか……じゃあバイトしようぜ!」

 

「バイトですか……」

 

「バイトは良いぞ。汗して働いた後の水道水の美味さと言ったら…コーラくらい美味いぞ」

 

 普通にコーラ飲めよ。何水道水で美味しさを見出してんだよ。

 

「何も豪華客船を借りろというワケじゃない。小さいのなら1〜2万で借りられる」

 

「でも船って免許いりますよね…?」

 

「小型船舶免許で十分だ。結構サクッと取れるからオススメだぞ」

 

 白銀は小型船舶免許を取り出して男子Aに勧める。ていうか取ってたのねその免許。

 

「よくやるなお前…」

 

「教習所行けば3日で取れるし、費用は10万もかからん」

 

「でも10万なんて大金……」

 

「バイトしようぜ!」

 

「そのバイト推しはなんだ」

 

 ちょっと熱いよお前。どっかのテニスプレイヤーみたいな熱さを持ってくんなよ。

 

「確かにそのシチュエーションは良いのですが…根本的な話、僕汗っかきで手汗が凄いんです。べちゃべちゃになった手で柏木さんの手を握るのが怖くて……」

 

 彼の言っていることも、分からんでもない。女子はそういうところには結構過敏に反応すると聞く。

 

「つまり…手掌多汗症、ということか!」

 

「分かんないけど多分そうだと思います!」

 

「先に診断しろアホ」

 

 この間から思うのだが、相談に乗る方も乗る方なのだが、相談を持ちかけて来る方も中々恋愛について理解していない。

 

「…すると手術だな。多汗症手術は10万前後かかる!」

 

 待て。お前それ以上悪魔の言葉を言うなよ。

 

「バイトしようぜ!!」

 

 何故そんなにバイトさせたいんだお前は。

 

 さっきの例えでテニスプレイヤーを出したが、撤回しよう。その熱さといいセリフといい、こいつ多分イナズマイレブンの円堂だろ。「サッカーやろうぜ!」がいつの間にか、「バイトしようぜ!」に変わってる。バイト限定の円堂守かよ。

 

 後さらに言うと、多汗症手術と小型船舶免許だけで20万近くしてるぞ。手を繋ぐだけなのに何故そんな大金がかかる。握手会でもそんなにしないぞ。

 

「手に汗かくより、額に汗かく方が建設的だろう?」

 

「決定的ですね…」

 

 ちょっと上手いこと言うな。

 

「手を握るのにバイトは必須!」

 

「なんでそうなる」

 

 全然必須じゃない。もしそんな世の中なら、俺一生握らなくていいわ。働きたくないし。

 

「ちょうど、俺の働いてるところで夏休みにバイトを募集してる。そこで働いてみるか?」

 

「会長…」

 

 待て待て騙されるな男子A。

 

「安心しろ、俺も付き合ってやる。初めての労働は大変だろうから、きっちりサポートしてやる」

 

 なんでお前は白銀の言うことを疑わないんだ。おかしいだろ普通に考えて。

 

「船代と教習所、手術代合わせて20万ってところか。時給1000円のバイト5時間で5000円だから、大体40日働けばいけるな。楽しい夏休みになりそうだな!」

 

 男子Aもちょっと顔が引き攣ってるじゃねぇか。白銀こいつ悪魔かよ。ここでこいつの暴走を止めないと、マジで面倒なことになる。

 

「ちょっと待て白銀。流石にそれは…」

 

「ちょっと待ったー!!」

 

 こ、この声は。恋愛相談の時にしか現れない名探偵。見た目は大人以上、頭脳はちびっ子のあいつが来た。

 

「虫眼鏡の色はピンク色!これが本当の色眼鏡!ラブ探偵参上!」

 

 赤い鹿撃ち帽を被ったラブ探偵千花と、隣には同じく鹿撃ち帽を被った四宮が現れた。

 

「ラブ探偵千花、待ってた。お前の力が必要だ。マジで」

 

「まっかせてください!ラブ探偵千花、チカッと解決いたしまーす!」

 

 良かった。このラブ探偵千花は恋愛相談において神のような存在。きっと、この地獄のような状況も打開してくれる。

 

「で、どういう相談なんです?」

 

「いや、何。彼が彼女と手を繋ぐにはどうしたらいいかと…」

 

「ふむふむなるほど!ふーむふむ!」

 

 藤原は白銀の簡単な説明を聞き、少し固まる。そして。

 

「普通に繋げばいいじゃないですか。どこに悩む要素あるんですか?」

 

「だよな。そうだよな」

 

 あー良かった。恋愛面においては藤原が頼りになる。手を繋ぐって一体なんなのかって改めて考え直すとこだった。

 

「いやいや、心理的ハードルが高いのがポイントだろうが。手汗とか…」

 

「はぁ…折角の恋バナセンサーが反応したのに…。男子の恋愛相談ってその程度ですか。可愛いものですね」

 

 藤原に呆れられるとかもう終わりだな。

 

「…悩むまでもないと言うのか?」

 

「だってそんなの、頑張る以外にないじゃないですか!」

 

「頑張るって、そんな適当な…」

 

「適当じゃありません!すっごく緊張して!手に汗かいちゃって恥ずかしいのに!なのに!なのにです!」

 

 藤原は乙女のような表情に変わる。

 

「それでも頑張って手を繋いでくれるから、いいんじゃないですか…。ねっ?」

 

 藤原は四宮にそう振って、四宮はコクっと縦に頷く。

 

「逆に頑張らないで手を繋がれるなんて興醒めです!そこをサボろうとするなんて根本的に間違ってます!猛省してください!」

 

「流石はラブ探偵千花。やっぱり恋愛面では頼りになるな」

 

「えへへ〜。でしょでしょ〜?」

 

 やっぱりこれから恋愛相談するってなったら藤原に頼ろう。間違っても白銀にじゃないや。

 

「な、なるほど……。僕に足りてなかったのは純粋な頑張り…」

 

「頑張るだけでいい……?じゃあバイトは……?」

 

「いらねぇ。お前こいつの夏休みを危うくクソみたいな夏休みにさせるとこだったぞ」

 

 なんとか間違った答えじゃなくなって良かった。これから白銀に恋愛相談は禁止だ。恋愛相談の悪魔だよこいつは。

 

 後日、男子Aは柏木さんと手を繋ぐことに成功したとか。

 

 


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