「部活ってちょーくだらないですよね」
今日も今日とて絶好調の石上。そして今の言葉に若干戸惑ってしまう白銀。石上の言葉にやや賛同出来る俺。
「部活は大事だぞ。何かに打ち込むことで心身ともに大きく成長して…」
「いえ、部活の大事さは分かりますよ。部活が無かったら暇を持て余した若者達は非行三昧。補導、停学、家庭崩壊。最終的に妊娠してみんなでカンパですよ。精神的に未熟な子供を社会から隔離するのに、部活は尤もらしい理由になりますからね部活は」
「いや俺はそこまで言ってない。そういう側面があるのは事実だが…」
「まぁでも部活に入ってる大半は、仲良しごっこしてるやつらばかりだろ。本気でやってるやつなんてほんの一握り。実力関係なく属してるだけで人気なったりするのなんなんだろな」
あれが青春を謳歌せし者達だというのであれば、今すぐそいつら全員砕け散れ。
「比企谷先輩やっぱ分かってますね。そうなんですよ。本気でやってる分にはいいんですけど、俺達マジだぜって顔で仲良しこよししてるのを見てると、なんか薄ら寒く感じます。…何楽しんでんだよっていうか……もっと必死こいてやれよっていうか……。…あぁ、本当…」
石上は壁に頭を付けて、恨めしそうな表情で小さくこう呟いた。
「全員死なねーかな……」
時々現れる石上の青春ヘイト。俺が石上と気が合うのは、まさしくそこだろう。一瞬で気が合ったし。
「…まぁそれは置いといてだな。今日来てもらったのは部費の予算案作成の件だ。昨今の不況もあり、寄付金も減少傾向にある。部費も削れるところは削っていかねばならない。是非とも、会計としての意見が欲しい」
「そうですね……親の会社の経理に触れている僕から言わせると、この予算案には無駄が多いと言わざるを得ません。サッカー部の予算を大幅に削りましょう」
玩具メーカーの社長の息子である石上は、普段はこんなでも仕事はデキる男。やはり会計は、石上でないと成り立たない。
「ふむ……して、その理由は?」
「あそこ彼女持ち多いじゃないですか」
「そんな理由!?」
やはり石上は石上であった。
「だとするなら、バスケ部やサッカー部、後それなりにモテそうなテニス部の部費も削った方がいいんじゃねぇか?」
「それいいですね。1カップルにつき50000削りましょうか」
「重課税!?」
「幸福こそ1番の課税対象じゃないですか。幸せ税です」
「いかなる暴君だってそこに税金掛けてねーよ!完全に私怨じゃねーか!」
「まぁ待て白銀。確かに私怨かも知れないが、これは悪じゃない。これから未来に繋げるための正義なんだよ」
「そんな綺麗なこと言っても悪だよ!結構な悪だわ!」
どうやら白銀とは分かり合えないようだ。
まぁ、惚れられてる女がいるのにも関わらず告らないチキンが何を言っても響きはしない。どうせそのうちお前もリア充になるだろう。お前や四宮からも金を巻き上げてやるからな。
「会長は分かってないんです。僕達の気持ちが…!」
「こういう話をしてやろう。サッカー部のレギュラー、まぁ仮名を中島としよう。で、彼女が佐藤でいいか。佐藤は彼氏と遊びたいがため、今度の休みの日にデートに誘った。しかし、中島は断った。理由は、"俺……今サッカーに命懸けてっから…"と。佐藤はそんな彼にときめく……」
「うっ……ぐすっ……うっ…」
「えっ号泣ポイントあった!?」
石上は悲しみのあまり、涙を抑えきれなかった。
「彼女がいること自体は許せます。今更それになんの感情も湧いてきません。でも彼女がいるならデート行けよ!何練習してんだよ!大事な彼女がいて!?そんで彼女より大事なもんが練習ってか!?」
一通り不満をぶちまけ、そして。
「…僕には何もないのに……」
再び涙を流して悲しみ始める。そんな状況を見ていられなかった白銀が、フォローに入る。
「ほ、ほら君パソコンとか詳しいし…」
「オタクはみんな同じこと言われてます……」
「それ系の部活入ってみたらいいんじゃないか…?」
「生徒会との両立出来ますかね…?」
「…まぁ四宮と藤原も部活してるし、なんとかなりそうだけどな」
「へぇ…何の部活入ってるんですか?」
「藤原はテーブルゲーム部だと」
「あぁ…好きそうですもんねあの人」
ちょいちょい生徒会でゲームを出してくるのはその余波みたいなものだけどな。NGワードゲームとか。
「四宮は弓道部だったな」
「弓道部ですか…。めちゃめちゃ向いてるじゃないですか」
「どういうことだ?」
石上はケラケラと笑ってそう言う。白銀はどういう意味か理解出来ずに、石上に尋ねる。
「弓道ってほら、胸があると弓の弦が当たっちゃうんですよ。だから胸当ては必須で…なんならサラシとか巻く必要あるんですよ。でも四宮先輩のサイズなら、何の心配もいらないじゃないですか。こんなんですし」
石上はご丁寧に胸がないジェスチャーまでやってみせた。それご本人の目の前でやったら確実に……。
「ッ!?」
今、俺は寒気を感じた。風邪を引いているわけじゃない。のに、何故寒気がした。そんな寒気がし、嫌な予感がしたので、ここから先は一切口を開かないと決め込んだ。多分、石上に便乗したら殺される。
「サラシ巻いてどうにかなるのはDカップまでらしいんですよ。藤原先輩は確実にそれ以上あるでしょうから、弓道やった日にはビシバシですよビシバシ」
石上は笑いながら、今度は巨乳のジェスチャーをやってみせる。多分石上死んだな。
「石上くん?」
普段と変わらない声色で、石上に声をかける藤原。その瞬間、石上は顔を真っ青にして後ろを振り向く。そこには藤原と四宮が立っていた。
藤原は新聞紙をハリセンのように折りたたみ、グリップの部分を赤色のテープでぐるぐる巻きに仕上げる。即興ハリセンを仕上げた藤原は、ニパーッとした笑顔。
そして。
「んんんッ!んんッ!!んんんんッ!!」
藤原は怒り狂いながら、石上の頭に何発もハリセンを叩き込んでいく。叩き終えた藤原は疲れて肩で息をし、叩かれた石上は撃沈している。
「良かったですね石上くん。藤原さん、優しいから許してくれるんですよ。……でも藤原さん以外は絶対に赦さないでしょうねぇ…」
死を悟った石上は急いで帰宅の準備を始め、そして。
「僕遺書を遺したいので帰ります…」
「お、おう…。でも死ぬなよ…」
石上、帰宅。
「君らは部活帰りか?」
「えぇ。部費予算案が終わってなければお手伝いしようかと」
「会長。テーブルゲームの予算上げてください。コーラあげますので」
政治家の娘が堂々と賄賂を使っちゃったよ。いいのか政治家の娘。
「…しかし、俺は部活やったことないから、感じが分からないんだよな…。前年度の案から下手に弄らない方が良いかもしれん」
「あら、そうなんですか」
だから言ってるだろ。運動系の部活の大半の予算を大幅に削れって。ガチで練習してるやつらより、なんか遊び半分でいるやつの方が多いんだよ。削ってその金を生徒会の金にそのまま横流ししてしまえばいい。
「だったらうちの部に入ってみたらどうですか!?会長がいれば4人用のゲームが出来るんです!」
「テーブルゲーム部か…」
「会長?文化部はどこも予算の変動が少ないです。生徒会の視察という意味でしたら、予算の大きい運動部に入る方が合理的ですよ」
「いえいえ!うちは別です!すぐ新しいゲーム買うからすっごく金食い虫です!」
「どうなんそれ…」
「うち!うちに入ってください!」
「ダメっ。ダメですよ…」
と、藤原と四宮の、白銀の取り合いが始まった。傍からみたらなんかハーレムみたい。やっぱあいつが一番のリア充だろ。
砕け散れ。