やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

20 / 114
早坂愛は防ぎたい

 

「生徒会に誰も近づけるな?」

 

「そう。今、かぐや様と会長が取り込み中なの」

 

 生徒会室に向かおうとした矢先、部屋の前には早坂が立っていた。曰く、四宮の命令で誰にも近づけさせるなと。

 

「どういう状況なんだ?」

 

「かぐや様の肩に会長が頭を乗せて寝ている状況」

 

「どういう状況なんだ」

 

 まぁ確かに、そんな場面を他に見せたら面倒なことになるだろう。四宮的にも、そういったシチュエーションを堪能したいのだろうな。

 すると、早速生徒会室に向かって走ってくる者が一人。

 

「忘れ物忘れ物ー……ってあれ、比企谷先輩?どうしたんですか、生徒会室の前で」

 

「石上。悪いことは言わんから回れ右しろ。四宮、さっきから人殺しそうな目してる」

 

 石上は無言で頷き、そのままくるりと右に回って来た道を戻って行った。

 

「…これでいいだろ」

 

「流石。比企谷くんがいると頼りになるよッ……!」

 

 突然、早坂は敵を察知したような表情になる。バッと振り返ると、そちらには。

 

「あーっ!早坂さん!と、比企谷くん!」

 

 対象F(フジワラ)がバカ面で生徒会室にやってくる。早坂曰く、彼女の存在は脅威。予測出来ない、思考が読めない、ダークマターを擬人化した存在、それが藤原千花。

 

「書記ちゃんじゃーん!どしたし〜?生徒会に何か用事〜?」

 

 一般人擬態(ギャルモード)を発動した早坂。途端に雰囲気を作り替える辺り、流石である。

 

「その、用事って程ではないんですけど……。というか、二人が一緒にいるのって珍しいですね」

 

「比企谷くんには時々勉強教えてもらってるんだよ〜!だから仲良いもんねウチら〜?」

 

「え?あ、そうだな……」

 

 いきなり俺に話を振ってくんなびっくりする。

 

「…それでどうした?」

 

「あ、そうだ。あのですね、頭のリボン落としちゃったんです〜」

 

「リボン?頭に付いてるじゃん」

 

「違います!これはスペア!よく見てください、色がちょっと違うんですよ!」

 

「いや微妙過ぎて分からないし!」

 

「私はあの極黒リボンが無くちゃダメなんです〜!」

 

「そんな名前だったんだあのリボン!」

 

 ギャルモードの早坂、ツッコミのテンションが異様に高い。ツッコミキャラでギャルという設定なのだろうか。

 

「それで一応生徒会室も探しておこうと思って…」

 

 まずいな。石上みたいに、四宮を使って帰ってもらうことは出来ない。どうする早坂。

 

「しっかたないなぁ書記ちゃんは〜。ウチらが一緒に探してあげるよ〜」

 

「本当ですか〜!?」

 

「え、俺も?」

 

「当たり前だし!こういうのは、男手も必要になってくるんだよ?」

 

 理由聞かずにさっさと帰れば良かった。俺は溜め息を吐いて、やむなく承ることにした。

 

「…でも闇雲に探しても時間の無駄だろ。場所絞った方がいいんじゃねぇの?」

 

「そうだよね〜。だから今日書記ちゃんが行った場所を……()()()()()()探してみよっか」

 

 藤原の突破力は数値じゃ測りきれないレベル。ならこいつに有効なのは、物理的に生徒会室から引き離すことだ。とりあえず今日通った道を最初から辿らせていけば、勝手に生徒会室から距離が離れていくという寸法だ。

 

「リボンを最後に見たのはいつなんだ?」

 

「えっと……。かぐやさんにこの画像送った時には付いてたから〜…」

 

 藤原はスマホを操作し、とある画像見せる。そこに映っているのは、藤原が目を閉じて、その藤原の周りに鶏が戯れる写真である。

 

「何これ怖い」

 

 "鳥葬なう"じゃないんだよ怖いんだよ。時々お前が垣間見せる闇は一体なんなんだ。

 

「要するに放課後に送ったってことか。その後、どこに行ったんだ?」

 

「ちょっと待ってください。今日通ったルートを図にしますね〜」

 

 藤原は白紙の手帳に、今日通ったルートを描き始める。そして出来上がったのが。

 

「こんな感じです」

 

「どういう生き方してるの!?ルンバでももうちょっと規則性ある動きするよ!?」

 

 藤原は学校内をぐちゃぐちゃに歩き回っていた。酔っ払いですら、もうちょいまともなルートを通ると思うんだが。

 

「いえ、今日はたまたまですよ」

 

「何してたの?」

 

「えと、そのっ……今日はその…」

 

「?なんだ?」

 

「…ピカチュウ探してて…」

 

「ポケモンGOすんなし!」

 

 この規則性皆無のルートはポケモンGOをしていた時の動きだったのか。何学校内でポケモン探してんだよ。

 

「書記ちゃんお父さんにこういうゲーム禁止されてるんでしょ!?なんでしてるし!」

 

「私はやってないです!部活のみんながやってるのを見てただけです!」

 

「部活ってテーブルゲーム部でしょ!テーブルでゲームしろし!」

 

「テーブルゲーム部だからってテーブルでやるゲームが全てじゃないです!わりとアウトドアなゲームもやってますもん!」

 

「そもそも校内でスマホゲームは禁止だし!生徒会が校則破っていいの!?」

 

「私は見てただけです。私は校則破ってないです」

 

 うっわ汚ねぇ。こいつ自分だけ保身に走りやがった。そこは一緒にやれよポケモンGO。それかドラクエウォーク。

 そしてその後、俺達は藤原が通ったルートを基にして、学校内を探索した。それはもう、かの有名な歌のように、火の中水の中草の中森の中と、秀知院中を探した。

 次は土の中か?それか雲の中?まさかのスカートの中じゃないよな。

 

「うーん…見つからないですね〜」

 

「ミナサン、探しモノですカ?」

 

 藤原のリボンを探していると、そこに野生の校長が現れた。

 

「まぁそんなとこですけど。校長は何してるんですか」

 

「イマ、生徒会室は鍵、開いてマスか?」

 

 まずい。ここで校長を行かせたら、それこそ面倒なことになりかねない。

 

「…どうでしょうね。生徒会に何か用事でも?」

 

「イエ、生徒会室の方にどうやらピカチュウが…」

 

「お前もやってんかい」

 

 何?秀知院じゃ今ポケモンGOが流行ってるのん?ていうか、校長が堂々とスマホゲームやっていいのん?

 

「さっき体育館の方でピカチュウ見たって話聞きましたよ」

 

「本当デスか!」

 

 早坂の言葉を信じた校長は、一目散に体育館の方へと走って行った。

 

「…今日に限ってなんか面倒なことが降りかかるのって俺の気のせいだったりする?」

 

「かぐや様絡みは大体面倒だよ。特に恋愛面についてはね」

 

「お前もよく頑張るよな…」

 

 俺なら1日持たずに辞めるかも知れない。1日どころか1時間ぐらいで。

 

「もう慣れたよ」

 

「…ま、あれだ。あんま詰め込まんようにな」

 

「…心配してくれてるの?」

 

「お前の苦労は聞いてるだけで凄まじいし、今日お前を手伝ってよく分かったからな。終わったらマッカンを布教してやる。俺のオススメだ」

 

 苦労人を労らないほど俺は鬼じゃない。それに早坂が倒れたら、少なくとも心配して白銀どころじゃないやつがいるからな。

 

「…ありがと。そういうとこ、好きだよ」

 

「あんま適当なこと言ってくれるな。うっかり惚れそうになる」

 

 そんで告白して振られるのが当たり前のパターン。振られるのがパターン化しちゃダメだろ。俺の春はいつ来るんだよ。

 

「にしても、これだけ探して見つからないなら諦めるしかないだろ」

 

「…そうだね。…って、あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

「書記ちゃん、スカートの中に付いてるのって…」

 

 四つん這いになっている藤原のスカートの中を指差す。すると中には、黒いリボンが引っ付いていた。

 

「あー!あった!」

 

 なんてとこにリボンを付けてんだ。というより、あんま男子の目の前で四つん這いとかしないでね。目に毒だから。

 

「ちょっと見過ぎ」

 

 ほら早坂に怒られた。俺は悪くない。あんなとこで四つん這いになってる藤原が悪い。

 

「ていうか、なんでそんなとこにリボンがあるんだよ」

 

「えーっと……あ、そっか!鶏さんの写真撮った時、リボン食べられそうになったから服の内側に付けてたんでした!」

 

 何その妙に機転が効いた動きは。

 本当、やっぱこいつの行動は読めんわ。

 

「幸せの青い鳥って案外そばにいるものなんですね…」

 

「やかましいし!」

 

「リボンGETだぜーっ!」

 

「だからやかましいし!」

 

 最後の最後までポケモンネタかよ。なんのクロスオーバーだこれは。俺ガイルとかぐや様のクロスじゃなかったのかよ。

 

 …俺は何言ってんだ?

 

「見つかったんならとっとと帰れ」

 

「はい!一緒に探してくれてありがとうございます!」

 

 藤原はスキップしながら目の前から去って行った。そんなに極黒リボンが見つかったのが嬉しかったのね。

 

「…そろそろ生徒会室に戻るか。何か進展があったかも知れないぞ」

 

「そうだね。キスとまではいかずとも、膝枕くらいまでは…」

 

 俺達は藤原という脅威を排除し、生徒会室に戻って行った。生徒会室に戻り、俺も早坂の陰に隠れて様子を伺うと。

 

「何一つ変わってないし!」

 

 まさかの膝枕まですら進展していない。

 四宮の後ろ姿からでも分かる。あいつ、しばらく固まってたな。

 

「…苦労するな、早坂」

 

「…本当だよ」

 

 早坂は呆れの余り、溜め息を大きく吐いた。

 本当、お疲れさん。マッカンを布教してあげるから、元気出しな。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。