やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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彼と彼女は蹴落としたい

 

「そういえばそろそろ期末テストですね。皆さん、勉強はなさってますか?」

 

「ぴゅ、ぴゅ〜……」

 

「吹けてないぞ藤原」

 

 期末テストの時期がやってきた。学生となれば誰もが必ず通る道。中間と期末合わせて、1年に5回もテストを受けなければならない。そのテストの度に、ある1週間が設けられる。

 それがテスト週間。大半の部活や委員会はテスト週間になると活動が一時的に休みとなり、その1週間にテストのための知識を詰め込む者が多い。

 

 勿論、普段から勉強している物好きもいないわけではないが、大半の人間はそのテスト週間になり始めて、初めて勉強することが多い。俺は1週間というより、2週間に勉強し始めている。特に理数系が壊滅的なため、勉強しても精々赤点取らない程度なのだ。文系に至っては、得意分野である。

 国語だけならば、毎回学年3位の四条辺りと同じレベル。

 

「そんなもん普段からちゃんと勉強していれば問題ないんだ。試験前だけ勉強しても身に付かん。一夜漬けなんてもってのほか。体調を崩すだけだ。君らはくれぐれも、一夜漬けなんてするなよ」

 

 一見、まともなことを言ってみせた白銀。白銀の言う通り、一夜漬けは所詮一夜漬け。前々から準備している者が試験で高得点を取れる。だからこいつの言うことは間違っていない。

 だがしかし、この白銀御行は。

 

 嘘をついている。

 

 こいつ、最近はバイトも休んで一夜漬けどころか十夜漬けに達しようとしているらしい。ソースは白銀の妹。夜中になっても机の上の明かりが点いており、教科書を捲る音が聞こえてくるそうだ。

 

 白銀が十夜漬けをしてまで高得点を取ろうとしているのは、四宮に勝つためだろう。四宮だけでなく、秀知院の全員に。

 所詮一夜漬けではあるが、一夜漬けでも稀に高得点を取れる者もいる。それを危惧して、一夜漬けをするなと言っている。自分は一夜漬けどころか十夜漬けになろうというのに。

 

 1位を死守するためならば、嘘も駆け引きも一切躊躇わない。

 

「そうですね。テストは自分の実力を見るものです。無理に背伸びして良い点を取っても本来の自分は見えません。自然体で受けるのが一番でしょう」

 

 一見、こちらもまともなことを言っているように聞こえる。実際、四宮が言っていることも正しい。結局はその場凌ぎのようなものになるからだ。

 だがしかし、この四宮かぐやは。

 

 嘘をついている。

 

 自然体とかなんとか言っておきながら、毎回テストとなると四宮は本気になっているそうだ。ソースは早坂。白銀のような十夜漬けとはいかなくとも、最近は勉強の時間を増やしたりしているらしい。

 天才の四宮が本気を出しても尚、白銀にまだ一度も勝てた試しがない。プライドの塊の彼女からすれば、白銀に負けることは容認出来ない屈辱だという。

 

「…まぁ勉強の仕方は人それぞれだし、別にいいんじゃねぇの。そいつが納得出来りゃそれで」

 

「確かにそうですが……。…石上くんはもうちょっと背伸びしないとまずいですよ?また赤点を取ったら…」

 

「大丈夫ですよ。今回は試験勉強ばっちりです。じゃ僕は帰って勉強でもしますので」

 

 石上は一足先に、帰宅した。

 一見、本当のことを言ってみせる石上。客観的に見ても、確かにそれらしい雰囲気を見せている。

 だがしかし、あの石上優は。

 

 嘘をついている。

 

 あいつ、つい最近新しいゲームを買って遊んでいると俺に自慢していた。あいつは根っからのゲーム好きであり、古いゲームから新しいゲームまで、幅広くやり込んでいる。そんなゲーム好きの人間が、テスト週間になってゲームを一時停止するだろうか。

 

 答えは否である。

 テスト前にも関わらず、ゲームを買うというその堂々とした立ち振る舞い。自身の死期を察したかのように生き急ぎ、そして赤点を取るのだ。

 

「私どうしても国語がダメで、外国語もスラング使っちゃうので試験だとあんましなんですよね。比企谷くんって確か文系が得意でしたよね?教えてくれませんか?」

 

「別に構わんけど…」

 

 まぁ国語や英語ぐらいなら、余裕を持てるし。誰かに教えるくらい、なんてことはないだろう。

 

 だがしかし。

 

「待て藤原書記。藤原書記は語学習得がちょっと特殊だ。普通の勉強法や誰かから教わるのは効率が悪いかもしれん」

 

「勉強量が必ずしも点数に反映されるわけではありませんしね。いっそ勉強しないという選択肢もありますよ」

 

「いっそ過ぎだろそれは」

 

 そんな選択肢ありなのかよ。

 

「そうだな。俺も試験前は3日ほど寝ずに座禅組んで精神統一してる。これが効くんだわ」

 

 やっべぇこいつら嘘ばっか。どんだけ周りを陥れたいんだよ。凄い執念だけどもなんか歪んでて怖い。

 

「むむむ……なるほど。分かりました!」

 

「え」

 

「私勉強しません!」

 

 一見、冗談のように言っているように聞こえる。まぁあるあるだが、「俺勉強してない」って言ってるやつに限って結構勉強しているのだ。だから、藤原が言ったセリフも客観的に聞けば冗談だと思うだろう。

 だがしかし、藤原千花は。

 

 嘘をついていない。

 

 成績自体は平均的だが、学習意欲は非常に高く、性格以外は優等生と言っても過言ではない。だからこそ、秀知院の1位の白銀と2位の四宮の大嘘を信じるのだ。

 つまり、こいつは本気で勉強しないつもりである。

 

「んなアホな」

 

 確かにテストは大学、あるいはどこかの会社に入るための一つの材料である。しかし、他を蹴落としてまでは流石にしない。周りが勉強してようがしてまいが、俺はいつもと変わらない。

 

 各々が違う過ごし方をしたテスト週間。

 そして、テスト当日。

 

「比企谷くん、勉強したー?」

 

 ギャルモードの早坂が声をかける。今まで話していなかったが、実は四宮や早坂と同じクラスだったりするのだ。

 

「…まぁ赤点取らんくらいにはな。お前は?」

 

「ウチ?ウチはちゃーんと勉強したし〜。今回の期末テストは比企谷くんに勝てるかもだし!」

 

「…そうかい」

 

 少しするとチャイムが鳴り響き、みんなが席に座る。もう一度、チャイムが鳴ると。

 

「はじめ!」

 

 それぞれの思いを胸に抱いた期末テストが、先生の合図によって始まった。

 

 そして数日後。

 

 テストが終え、みんなが採点を終えたテスト用紙を返却された当日、廊下に期末テストの学年順位の紙が貼られていた。

 

 1位は白銀、2位は四宮である。

 俺は98位辺り。文系で点数を稼いだものの、理数系がやはり低い点数なので、上位には食い込めなかった。が、まぁ自分としては悪くない順位だと思う。

 

「後は夏休みだけか…」

 

 期末テストも終わり、もう1学期の行事は無くなった。後は適当に過ごして夏休みを迎えるだけ。

 

 夏休みはもうゴロゴロして過ごそうそうしよう。誰も俺の夏休みを邪魔させん。

 

 


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