やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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 かぐや様は許せないと許したいの2本投稿です。どうぞご覧あれ。


二人は仲を直したい

「食べてください」

 

「冗談じゃない。四宮が食え」

 

 目の前で広がる白銀と四宮の修羅場。怯える石上。呆れる俺。不在の藤原。何故こんな修羅場になったかというのは、1時間前に遡れば理解出来るだろう。

 

 1時間前。

 

「あれ、ケーキだ。どうしたんですかこれ」

 

「校長からの差し入れだ。食っていいぞ」

 

「わーい」

 

 校長の差し入れであるケーキを俺と石上は頂くことにした。白銀がケーキ箱を覗くと。

 

「あれ?ケーキこんだけ?」

 

「ん、どうした?」

 

「ケーキが残り一つしかなくてな。本当に気が利かないよな校長は……せめて役員の数だけ用意してくれよ」

 

「さっきまで石上くんがいなかったですしね…」

 

 どうやら、俺と白銀と四宮の分しか用意していなかったようだ。それを聞いた石上は、ショートケーキを口に運ぶ寸前で止める。

 

「あ…」

 

「なら俺の食うか?」

 

「気にせず食え石上。比企谷もだ。俺の分は無くていい」

 

「いえ、会長が食べてください。私は構いませんので」

 

「いや、いいって。四宮が…」

 

「いえいえ、会長が…」

 

 白銀と四宮は懲りもせずイチャラブしていた。それを気にもせず、俺と石上はショートケーキを美味しく食べていた。

 

 最初はただただ、いつものようにイチャラブしてるのだと思っていた。しかし彼らの声色は徐々に険しくなり、譲り合いのはずがいつの間にか押し付け合いとなっていた。

 1時間もこんな状態が続くと、それは修羅場と差し支えないのだ。石上なんて、身体を震わして怯えている。

 

「お前も強情なやつだな!もういいから食えって!」

 

「会長こそここで意地を張る必要は無いでしょう!?どうして素直に食べないんですか!」

 

「お前ら痴話喧嘩するなら他所でやれよ」

 

「痴話喧嘩じゃありません!部外者は引っ込んでいてください!」

 

 四宮に軽く一蹴された。

 この修羅場、俺が付け入る隙が無さそうだ。つまり、この場にいる誰にも止められない。俺は小さい声で、石上に話しかける。

 

「石上。今のうちに藤原呼んでこい。あいつが介入すればこの修羅場は止まる」

 

「は、はい!」

 

 石上は生徒会室を出ていき、急いで藤原を呼びに向かった。残った俺は、彼らの痴話喧嘩の原因を考える。

 

 たかだかケーキを譲り合うだけで喧嘩に発展するのだろうか。この二人の考えが普通では無い故、一般常識に照らし合わせても分からないだろう。

 

「なんでそこまで頑なに食べようとしないんですか!意地っ張りにも限度があります!」

 

「あぁ意地の一つも張るってもんさ!でもそれは昔、四宮が言ってたからだろ!」

 

「私が何を言ったっていうんです!」

 

「生徒会発足して間もない頃、俺が好きなものは何か聞いたらお前、"ショートケーキ"って言ってただろうが!めっちゃ印象深いからあれ!あの表情も嘘だって言わせんぞ!」

 

 ということは、白銀は四宮の好物であるショートケーキを食べて欲しかったってことなのか。しかし、そんな前の話をよく覚えてるな。

 

「はー!?よくもまぁそんな昔のことを覚えててくれましたね!」

 

「忘れるかよ!」

 

「はーそーですか!はーそーですか!ちょっと鼻頭が痒いので掻きますけど、気にしないでくださいね!」

 

「あー好きなだけ掻けば!」

 

 突如、四宮は鼻頭が痒いと言って白銀から顔を逸らす。しかし、その逸らした時の彼女の表情を、俺は見てしまったのだ。

 

「(そんな昔のことを覚えてて……)」

 

 あっこれちょっと嬉しいやつだな。「昔のこと覚えててくれてたなんて」みたいな感じのあれか。分かりやすっ。

 

「それを言うんだったら私だって主張がありますよ!」

 

「何!」

 

「去年の年末です!会長にクリスマスは何して過ごすのか聞いたら、バイトって言っていたでしょう!?しかも、"俺にとってクリスマスは平日だからな。特別祝ったりしないし、クリスマスケーキも食ったことない。別に羨ましくもないけどさ"って!私はその話聞いてちょっと悲しくなったんです!」

 

 四宮もよくそんなことを覚えているよな。無駄なところで記憶力を働かせるよなこいつらは。

 

「だから、会長には今まで食べれなかった分ケーキいっぱい食べて欲しいんです!」

 

「はー!?お前そんなこと思ってたわけ!?」

 

「えぇそうですよ!」

 

「はーそう!はーそう!ていうかおでこ痒い!ちょっとおでこ掻くけど気にすんなよ!」

 

「好きなだけ掻けばいいでしょ!」

 

 白銀はおでこが痒いと言って、四宮から顔を逸らす。こちらからは白銀の表情は見えないが、多分さっきの四宮みたく顔を少し赤らめていることだろう。「そんな昔のこと覚えててくれたのか」みたいなこと絶対思ってる。

 

 ていうか話の逸らし方下手くそかよさっきから。

 

「もういいです!こうなったら私だって考えがあります!」

 

 痺れを切らした四宮はフォークを手に取り、ショートケーキを切って白銀に差し出す。

 

「今日だけ特別にあーんしてあげます!」

 

「あーん!?」

 

 すると今度は白銀が対抗して。

 

「いやお前だ!俺が四宮にあーんしてやる!」

 

「私のあーんパクらないでください!」

 

 今度はどちらがあーんするかの押し付け合いが始まった。ていうかこれ、藤原呼ばなくても勝手に収束する気が。

 

「あーこのままでは拉致があきません!こうしましょう!会長が食べたら私も食べます!」

 

「いやそっちが先だ!そっちが食ったら俺も食う!」

 

「もう面倒ですね!」

 

「いや互いに面倒なんだけど」

 

 俺は一体何を見せられているんだろう。痴話喧嘩を目の前で見せられる俺って一体なんなんだろうか。

 

「じゃあ同時ならいいでしょ!?」

 

「いいよ!?」

 

 すると、白銀と四宮は、互いに互いの口へとフォークに刺さったショートケーキをゆっくり、ゆっくり差し出していく。

 

 その瞬間、ホイッスルが高らかに生徒会室に響き渡る。

 

「仲良し警察です!喧嘩する悪い子はここですか!?」

 

 石上が仲良し警察の藤原を連れてくる。

 藤原は二人が手に持つフォークに刺さったケーキをパクッと食べる。

 

はめでふほへんはひひゃ(ダメですよ喧嘩しちゃ)ー!ははほふへきはひはは(仲良く出来ないなら)へーひはほっひゅうへふ(ケーキは没収です)!」

 

 こうして、藤原の介入で修羅場は収まったのだが。

 その翌日の昼休み。

 

「マジっすか。僕らに恋愛相談って」

 

 白銀が俺と石上に何やら相談を持ちかけて来たのだ。

 

「まぁ恋愛相談っていうか…喧嘩した異性との仲直りの仕方について語りたいというか……」

 

 どう考えても四宮のことですねありがとうございます。

 

「なるほど…そういうことでしたら任せてください。僕恋愛マスターなんで」

 

「えっマジで?」

 

「嘘です」

 

「嘘かよ。比企谷はどうだ?」

 

「恋愛マスターかは知らんけど、告って振られたことはある」

 

 そして翌日、元から女子の好感度が低かったのが更に低くなったのである。

 

「でも僕ら、ラブコメとかめっちゃ読んでるから、相談に乗れないことはないですよ」

 

「んー…ならいいか。…これは友達の話なんだがな」

 

「白銀の話か」

 

「何を言っている。友達だと言っているだろう」

 

「会長、その話の入り方だと会長の話みたいに聞こえちゃいますよ。ラブコメじゃあ結構あるあるです。まさかそんなベタなことは無いでしょうけども…」

 

「ははは、まさかまさか」

 

 今ちょっと図星を突かれたな白銀。

 まぁ気にするな。俺も友達の友達の話って話し出すことは多々あるからな。

 

「…それで、友達の話ってのはなんなんだ?」

 

「あぁ……。実は俺の友達……名前を伏せてAくんにしよう。Aくんの友達である女の子が風邪を引いてしまったらしくてな。Aくんは女の子の家にまで見舞いに行ったんだ」

 

 これはあれだな。白銀が四宮の屋敷に行った時の話だな。俺が四宮の屋敷から出て行った後に、何かあったってことか。

 

「けど女の子は意識が朦朧としていてな……。Aくんが女の子に話しかけると、女の子はAくんをベッドの中に引きずり込んだんだ」

 

「マジ!?」

 

「うわっびっくりした。どうした?」

 

「い、いや……なんでもない。続けてくれ」

 

 今の話が本当なら、アホモードの四宮は白銀をベッドの中に引きずり込んだってことじゃねぇか。俺が帰った後、そんなエロティックな展開になってたのか。

 

「…それでだな。Aくんは限りある理性を保ちながら、女の子には手を出さなかったんだ。しかし、女の子はAくんを引きずり込んだことを忘れてしまってな。その上、"なんで私のベッドに入ってるんですか"、"人が寝ている隙になんて酷いこと"って厳しく言われたそうなんだ…」

 

 要するに白銀は四宮に引きずり込まれた時、理性が爆発しそうになったけどなんとか抑えて手を出さなかったと。けれどアホモードの四宮が目を覚ました時、自分から引きずり込んだことを忘れてしまい、白銀が勝手にベッドに入ってきたと勘違いした、ということか。

 

「はぁ?なんすかそのクソ女。クソオブクソじゃないですか。自分から誘っておいてよくもまぁぬけぬけとホザきますね」

 

 これに至っては、正直どちらかが悪いって断定は出来ない。

 

「モラルってのが無いんですかね。絶対面倒臭いですよその女。ラブコメだと黒髪貧乳にありがちなタイプです。ティピカルですよティピカル」

 

 にしても石上、早い段階でエンジンかかったな。

 

「いくら意識が朦朧としてたと言っても、男をベッドに引っ張り込むって…。その女絶対ド淫乱ですよ。一見清楚でお高くとまってるやつに限って性欲の出し方が歪んでて自己中心的なんですよ。なんですよ」

 

 やっべぇこいつ暴走しとる。一応友達の話って建前だからここまで強く言えるんだが、お前がボロクソに言ってるの四宮だからな。

 

「"男なんて興味がない"フリしてるくせにいい男を前にしたらきっちり食らいつく。男が狼だったら女は蛇です。すぐ絡み合って尾を噛み合うウロボロスですよ。あーやだやだ。どうせその男が帰った後も…」

 

「ブレーキ踏め石上。一時停止しろ。話が進まねぇ」

 

 こいつは赤信号でも走り切るつもりだったのかよ怖い。

 

「白銀、続けてくれ」

 

「あぁ…。いやまぁ、それでも男は流されるべきじゃなかったのも確かだろう。もっと穏便に済ませる方法があった筈なのに、そうしなかった…。いや……そうしたくなかったんだろう」

 

 つまり、勢いで引きずり込まれたものの、白銀はそんな状況を利用しようとしたのだろう。手は出していないようだが、四宮から引きずり込まれるなんてことは低確率にも程がある。

 

「…で、それ互いに謝ったのか?」

 

「あぁ、まぁ一応な。それでも女の子は何か不満があったのか、Aくんのことをずっと睨んでいたようなんだ。Aくんは女の子に手を出していなかったし、女の子からも"手を出されていなかった"って言っていたんだ。なのに、未だにずっとAくんを睨み続けてな…」

 

「うるせぇバーーーーカ!!」

 

 すると突然、石上が声を大きく荒げる。ていうか誰に対するコメントなの今の。

 

「お互い謝ったんですよね!?だったらその話はおしまい!何引きずっとんねんって話ですよ!」

 

「聞いてる話じゃ、なんか女の子が何考えてるかよく分からんな」

 

「あー聞いてるだけでムカついてきました!僕から言ってやりましょうか!?そのバカ女にビシッと!」

 

 やめとけ。また暗殺術を喰らう羽目になる。死にたくなければそれ以上突き進むな石上。

 

「大体女って、えっそこ!?みたいなところで怒ったりするじゃないですか。男が女の全てを理解しようとするのが、そもそも傲慢なのかもしれません」

 

「それに、互いに理解出来ないところだってあるからな。…とりあえず、ほとぼりが冷めるまで待った方がいい。男側が本当に何もしていないなら、別に気に病む必要はないと思うしな」

 

 四宮が白銀に対して何を怒っているのか全く分からない。

 四宮が寝てる間、不可抗力でベッドに入ってしまったとはいえ、白銀が何もしていないことは、早坂が後々調べて分かったはずである。にも関わらず、四宮の怒りが収まらないのはよく分からない。

 

 四宮は白銀に対して、何を怒っているんだろうか。

 そんな疑問を抱いたまま、時は夕方となる。

 

「また伊井野に取り締まられた…」

 

 生徒会室を一旦離れてトイレに行った時、伊井野に意味もなく捕まえられた。長々とした話をし終え、俺は生徒会室に戻ろうとした道すがら。とある女子生徒が曲がり角で何かを覗いている。

 

 俺は無視して通り過ぎて行こうとすると、曲がった先には白銀と四宮が二人きりでいた。俺は曲がる寸前で、曲がり角で女子生徒と共に隠れてしまう。

 

「あんたこの状況でよく行こうとしたわね……」

 

「気付かなかったからな…」

 

 白銀と四宮は何かを話している。俺達は聞き耳を立て始める。

 

「四宮……俺はお前に言わなきゃならないことがある。…俺は四宮に指一本触れていないと言った…が……。…本当は指一本だけ触れた」

 

「!」

 

 あいつ何が「全く手を出していない」だ。ちょっと出しちゃってんじゃねぇか。

 

「…どこに、触れたんですか?」

 

「…唇…」

 

 …何この甘酸っぱいラブコメ。ドラマでも見てんのかな。もしかしたら実写版のかぐや様を見てる最中なんだろうか。

 

「こう、人差し指でツンっと…。いやなんか変な意味があったんじゃなくて、悪戯っていうかなんというか…」

 

「会長」

 

 白銀は申し訳なさそうに、四宮の方に振り向く。

 

 刹那。

 

「お返しです」

 

 四宮は、白銀の唇に人差し指を当てた。それ目の当たりにした俺と女子生徒は、思わず顔を赤くしてしまった。

 

「これでチャラですよ。…私達、明日からはいつも通りですよね」

 

 そう言って、四宮はその場で去って行った。取り残された白銀は自身の唇に触れて、頬を真っ赤にする。

 

「はえー……」

 

 早坂へ。

 ほんの少しだけであるが、彼と彼女は進展したようだ。

 

 


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