やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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彼ら彼女らは誘いたい

「うおらぁ!生徒総会お疲れェい!」

 

「&明日から夏休みー!いえーい!」

 

 1学期が終了し、明日からは夏休み。明日からやっと家でゴロゴロ出来る。毎日毎日生徒会の仕事に追われていたが、それも一時的に休み。

 

 俺は自由だ。

 

「これで心置きなく夏休みを謳歌出来るってもんだな」

 

「そうですね…」

 

「四宮はなんか予定立ててたりするのか?」

 

「少し買い物に行くくらいですかね……大きな予定は無いです。会長はバイト三昧ですか?」

 

「いや、思ったよりシフト調整に難航してな。結構暇な時間が多い。なんかしたいよな」

 

「何かしたいですね」

 

「「なぁ(ねえ)藤原書記(さん)」」

 

 白銀と四宮が同時に藤原に話を振る。

 以前、夏休みに行くのは山か海かバトっていたが、結局は白紙と化した。藤原が恐山とかわけ分からんことを言いだしたんだっけ。

 

「藤原書記……やっぱり夏はパーッと羽を広げたいもんだよな」

 

「そうですね!やっぱり夏は普段出来ないことをしたいですものね!旅行とか最高です!」

 

 えっ面倒。どこに行くのか知らないけど俺は家に引きこもりたい。今までゆっくり出来なかった分、俺は夏休みの全部を使ってゆっくりするんだ。

 

「旅行な。やっぱ都会の喧騒から解放される時間ってのは必要だよな」

 

「はい!私も明日から1週間ほどハワイ行ってきますよ〜!」

 

「…ってことはあれか?ホノルル?」

 

「はい!アロハでホノルるっちゃいますよ!」

 

 ホノルるっちゃうってなんだ。

 まぁとりあえず、藤原がハワイに行くなら生徒会で出かけることはないだろう。俺の自由は守られた。

 

「藤原書記……海外もいいが、やっぱり国内も良いよな。夏は色々イベントも多いし」

 

「何言ってるんですか!受験は2年の夏が天王山ですよ!遊びにうつつを抜かしてる暇なんてありません!」

 

「急に優等生みたいなこと言い出したな。旅行行くくせにそんなまともなこと言うのな」

 

「当たり前です!遊びと勉学のメリハリはちゃんと付けないと!来年の受験シーズンに"夏休み少しでも勉強しておけば良かったな"って思う羽目になるんですから!」

 

 すっげぇど正論じゃねぇか。

 とはいえ、俺からしたら別に遊びに行く必要もないし、家でゴロゴロ出来たらそれでいいんだよな。

 

 後さっきからちょいちょい思ってたんだが、四宮の顔から一切の覇気が感じられないんだけど。何、どうしたお前。

 

「…でも、一度くらいは思い出作りしたいですよね」

 

 ここでずっと黙っていた石上が口を開いた。

 

「僕は1年ですけど、会長や比企谷先輩は2年。来年は受験勉強でそれどころじゃ無いのかもしれない。会長や比企谷先輩とゆっくり遊べるのは、今年だけかも知れませんから…」

 

 そんな風に思っていたのかお前。

 確かに、2年が終わればこいつらと遊ぶ機会なんていつ来るか分からない。今まで遊びの誘いを断ってきた俺だが、後輩にこうも言われてはな…。

 

「…どうせ夏休み中家でゴロゴロしてるだけだし、連絡さえしてくれたら一緒に行ってもいい」

 

「比企谷先輩……」

 

「ふっ…。そうだな。行こうぜ石上。夏の終わりには大きな祭りがある。たこ焼きくらいなら奢ってやる」

 

 すると、ここで()()が反応する。

 

「良いですね夏祭り!行きましょう行きましょう!」

 

 藤原が食いついた。

 さっきまで優等生面して天王山がどうのって言ってたくせに、夏祭りの存在一つで掌ひっくり返しやがった。

 

「良いですよね〜!わたあめ!射的!打ち上げ花火!」

 

 藤原が夏祭りの醍醐味を挙げていくと、さっきまで覇気が消えていた四宮の表情が復活し、目をキラキラさせる。

 

 白銀と夏祭り行くことが楽しみなんだね。

 

「祭りは8月20日だったな。スケジュールは空けておこう」

 

「そうですね。私も…」

 

「あ」

 

 その瞬間、藤原が固まる。

 

「あ……ダメです。そのあたりトマト祭りでスペインでした」

 

「お前海外行き過ぎだろ」

 

 ていうかトマト祭りって。全身にトマト浴びるやつだろ。間違って誰かの血まで浴びたりしない?

 

「えっ。まさか行っちゃうんですか?私だけ除け者にしてみんなで夏祭りとかそんな酷い事するんですか…?」

 

 そんな藤原の言葉に白銀と四宮はバツの悪い顔に。

 だがしかし。

 

「え。普通に行きますけど」

 

 藤原とは違う意味で空気を読まない人間、石上がなんの躊躇いもなくそう言った。

 

「藤原先輩もトマト祭りじゃないですか。そっちは楽しんでくるのに僕等に行くなってのはあんまりじゃ……」

 

「う…!ぐぅ…!」

 

 石上の強烈な口撃が藤原を攻める。その言葉に、藤原の目からは涙が溢れ出してきて。

 

「わぁぁぁん!石上くんひっどぉぉぉぉい!ばかぁ!冷徹人間!前髪長すぎ!石上君なんて、たこ焼きで舌火傷しちゃえばいいんです!」

 

 藤原は大号泣し、そんなわけの分からないことを言い残して生徒会室から出て行った。

 

「またやってしまった……。僕も……帰ります」

 

 藤原の言葉に傷ついた石上も、帰宅の準備を始めたが。

 

「いや石上」

 

「今日は正しいです」

 

 こうして結局、8月20日は藤原を除いたメンバーで夏祭りに行くことになった。

 

 だがしかし。

 生徒会が終わった夕方、缶コーヒーを買っていた俺の前に現れたのは。

 

「比企谷先輩!」

 

 伊井野ミコが現れた。

 ていうかさ、缶コーヒー買いに来るたびに誰かとエンカウントするんだけど。ここそんなエンカウント率高いの?

 

「お、おう…。…大仏は?」

 

「こばちゃんは既に帰りました。私もそろそろ帰るつもりです」

 

「そうか。それじゃあ」

 

 俺は缶コーヒーを持って歩いていくと、何故か後ろからトコトコ伊井野が歩いてくる。

 

「…何?」

 

「そ、その……な、夏休み、どこか予定空いてませんか?」

 

「え」

 

 今度は伊井野から誘いがきたのだが。伊井野が意外に誘ってきたものなので、少しびっくりして固まってしまった。

 

「…なんでだ?」

 

「え、えっと……私、夏休み中も勉強するつもりでして……比企谷先輩、文系に強いから教えてもらおうかと…」

 

「あぁ…そういう…」

 

「ダメ…ですか?」

 

 いつかの圭に続いて伊井野までもが必殺の上目遣いを発動してくる。最近女子の間じゃそれ流行ってるのん?

 

「…じゃあ、適当に連絡してくれ」

 

「ということは、いいんですか!?」

 

「…もういいよ。それで」

 

「や、やったぁ!じゃあ、また連絡しますね!」

 

「お、おう…」

 

「それじゃあ、さようなら!」

 

 伊井野は嬉々とした表情で目の前から去っていく。そんなに勉強を教えてもらいたかったのかあいつ。勉強熱心なことで。

 

 まぁ二日くらい我慢してやろう。俺って超優しい。

 

「比企谷、ここにいたか!」

 

 すると今度は、チャリを押しながらこちらに走ってくる白銀が。

 

「お前、まだいたんか」

 

「生徒会室の鍵を返しに行っていただけだ。それより比企谷、8月の1日と8日の二日、予定空けることが出来るか?」

 

「…まぁ出来なくは無いけど。なんかあんの?」

 

「1日は圭ちゃんの誕生日なんだ。圭ちゃん、比企谷に懐いているからな。比企谷から圭ちゃんに祝ってくれると喜ぶと思うんだが、出来るか?」

 

「そういうことか…」

 

 それならば、断る理由がない。女の子にプレゼントなんてしたことないから、何あげたらいいか分からんけど。

 

「…分かった。じゃあなんか買っとく」

 

「ありがとう。圭ちゃんも喜ぶよ」

 

「それで、1日は分かったけど。8日は何があんの?」

 

「8日は……秘密だ」

 

「は?」

 

 自分から誘っておいて秘密ってなんだ。内容を教えろモンスター童貞さんよ。

 

「8日、何も聞かずに生徒会室に来てくれ。頼むぞ」

 

 そう言って、白銀は俺の返事も聞かずに帰って行った。

 8日に何があんの?何、俺いよいよ生徒会から除外されるの?わざわざ呼び出して戦力外通告でも言い渡されるのだろうか。

 

「…せめて何するか言えよ」

 

 俺はボソッと文句を言って、缶コーヒーを飲み切る。空になった缶コーヒーを捨て、俺は自分のお家への帰路を辿ることにした。

 

 


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