やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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四条眞妃は頼りたい

 今日は7月31日。明日には白銀妹、圭の誕生日が行われる。

 白銀に圭に何かを買う約束をしてしまったのだが、これといってめぼしい物が思い当たらない。そもそも圭が何を欲しがっているか分からない。

 

 無難にケーキ辺りを差し出しとけば、多分それでいい気がするんだが…。

 

 悪い言い方をすると、白銀家は貧乏なのだ。ショートケーキだけで済ませていいのだろうかと、俺は思ってしまう。世話になってるわけじゃないが、圭とはなんだかんだ交流がある。どうせなら、それなりに値の張る物、あるいは圭が買いたくても買えないような物を買ってやりたい。

 

 とはいえ、だ。白銀の妹とはいえ、女の子に一体何をあげたら正解なのか分からん。最近の女子って、何が欲しがるんだろうか。

 化粧品とかそういうのだろうか。それともそういう消耗品より、ずっと使えそうな物の方が良いのだろうか。

 

「…とりあえず外に出るか」

 

 どのみち買いに行かなきゃならんし、歩いていたら勝手に閃くだろう。

 そう思った俺は、部屋着から着替えて、外に出る準備を始めた。準備を終えた俺は、部屋の扉を開ける。

 外に出ると、太陽から強い日差しが肌に直撃する。立っているだけで汗が出そうな気温である。

 

「…あっつ…」

 

 このクソ暑い中、わざわざ外に出るのがアホらしく感じてしまう。

 ケーキは帰りに買うとして、何か彼女が使える物がないかを探しに、ショッピングモールへ向かうことにした。

 その道すがら、何やら揉め事が起きている。どうやら、男二人が女の子の手を掴んでいる。

 

「いいからさっさと離して。そろそろあんた達鬱陶しいわよ」

 

 なんかどっかで見た記憶のある女の子だ。触角の部分を三つ編みにし、両サイドをゴムで纏めている茶髪の女子。

 

「こっちが下手に出れば調子に乗りやがって…!」

 

 周りは誰も助けない。介入するどころか、周囲はスルーして通り過ぎて行く。

 まぁ気持ちは分からんでもない。介入して、今度は自分が巻き込まれたら嫌だからな。

 

 ただ、目の前で連れて行かれたら夢見が悪い。しかし、介入して二人まとめてやっつけるみたいなヒーロー的な展開は俺には無理なわけで。

 

 ならどうするか。俺は俺らしく、陰湿に汚くやるだけだ。

 俺はスマホを取り出して、耳に当てる。

 

「あっすいません。目の前で女の子が連れて行かれそうなんですけど、大至急来てくれませんか?場所は渋谷の…」

 

 その話し声は男達に伝わったのか、一瞬で顔が青ざめる。

 

「あ、あいつ警察を呼ぶつもりだ!」

 

「クソッ!」

 

 男達は女の子から離れて、どこかへと去って行く。

 まぁ、警察は嘘なんですけどね。

 

「…さてと」

 

 圭への誕生日プレゼントは一体何にしようか…。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 この場を静かに去ろうとすると、先程男達に絡まれていた女の子に、今度は俺が絡まれてしまう。

 

「…別にあの程度の輩なんて、私にかかれば余裕だったんだから。大体、助けてなんて言ってないし」

 

「勝手に俺がああしただけだ。別にお礼を言う必要もない」

 

 というか、本当にこいつどっかで見た記憶があるんだけど。多分初対面なんだろうけど。

 

「じゃあな」

 

 まぁどうせ今後会わないやつだろうし、気にしても仕方ない。俺はそんな謎の女の子を放置して、ショッピングモールに向かおうとするが。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「…今度は何?」

 

「名前、教えなさいよ」

 

「はぁ?別にもう会わねぇんだから名前言ったところで…」

 

「廊下ですれ違ったりするでしょうが。同じ学校の生徒なんだし。ていうかこの間も会ってるでしょ」

 

 同じ学校の生徒で、この間も会ってる……?

 

「…あ」

 

 思い出した。前に、四宮が白銀の唇に人差し指を触れた瞬間を一緒に目撃した女子だこいつ。名前は知らんけど。

 

「思い出した?ていうか、私の名前を知らない人間がいるなんて。とんだ不調法者ね」

 

「そんな有名なのお前」

 

「当たり前よ!学年3位の天才にして、四宮の血筋を引く者!四条眞妃(しじょう まき)とはこの私のことよ!」

 

 四条と言われたら、確かに聞き覚えがある。学年1位の白銀、2位の四宮に続く天才。必ずこの3人は、学年順位のトップ3にいるのだ。

 

 だが、一つ疑問が残る。

 

「四宮の血筋を引くってことは、お前四宮の従姉妹かなんか?」

 

「えぇ、まぁそうね。再従祖叔母にあたるわ」

 

「ほとんど他人だろそれ」

 

 日常会話で初めて聞いたよ再従祖叔母って。

 まぁ要するに遠い遠い親戚だとでも思ってもらえればいい。普段じゃこんな単語は多分使わんだろうから、全然覚えなくて大丈夫だぞ。

 

「で、あんたは?」

 

「比企谷八幡だ。覚える必要はないぞ」

 

「比企谷……聞いたことないわね。外部受験?」

 

「まぁな」

 

 というか、いつまでこいつと話してなきゃならないんだろうか。早く買って早く帰りたいんだけど。

 

「あっ」

 

「ん?」

 

 四条が別方向に視線を向ける。その視線の先には、男子Aくんと柏木さんが仲睦まじく歩いている。

 なんだかんだで恋人らしいことしてるじゃねぇか。けどやっぱリア充はくたばるべきだと思うんだ。

 

「…え?」

 

 俺は四条に視線を戻すと、四条はうるうる涙を溜めていく。今のどこに泣く要素あったの?

 

「翼くん……」

 

「…あぁ…」

 

 四条は小さくその名を呟く。この表情はアレか。失恋してしまった感じのやつか。男子Aくん、もとい翼くんに恋をしていたが、柏木さんと付き合った結果、失恋したと。

 

 ていうか、男子Aくんの名前今初めて知った。

 

「…翼くん?のことが好きだったのか、お前」

 

「はぁ!?好きとかじゃないわよ!バカにしないでちょうだい!」

 

 じゃあさっきの儚げな表情はなんだったの?

 

「四宮家の血筋を引く者よ?虎が鼠に恋すると思う?」

 

「表現の仕方やべぇな」

 

「…まぁ?向こうから告ってきたら?付き合ってあげなくもないけど」

 

 うわめちゃくちゃ馴染みのあるセリフ。こういうところは四宮の血を引いてるのね。いらんDNAだな。

 

「…まぁ頑張れ。そんじゃ」

 

 これ以上話を聞くと絶対面倒な気がしたので、俺はこの場から再び去ろうとしたのだが。

 

「ちょっと待ちなさい。この私が話をしている最中にどこかに行くつもり?これだから不調法者は」

 

「聞くとか言ってねぇし。第一、俺これからショッピングモールに行くんだけど」

 

「あら、何か買うの?」

 

「知り合いの妹が明日誕生日なんだよ。そのプレゼント買いに行くんだよ」

 

「なら私も同行してあげるわ。どうせ暇だし、その妹さんのプレゼント選びを手伝ってあげるわ」

 

「いや結構です。それじゃ」

 

 何故同行してこようとしたのか分からんが、何やら面倒な気がしてならない。というか、こいつ自体面倒なやつだから嫌なんだけど。

 

 俺はそう結論付けて、颯爽と立ち去ろうとするのだが。

 

「四宮の血筋を引くこの私が同行するのよ。感謝の一つもないの?」

 

「なんでナチュラルに来るんだよお前は」

 

「見た感じ、あんたってセンスが無さそうだもの。それとも、もうプレゼントする物は決まっているの?」

 

「…それはまだだが…」

 

「なら、私が同行する方がいいじゃない。少なくとも、貴方よりいいセンスの持ち主であることは自負出来るわ」

 

 こうして四宮の血筋を引く者、四条眞妃が同行することになった。

 こんな仲間は嫌だランキングで、多分トップクラスに上り詰めるぐらいの傲慢な性格してる。

 

「……はぁ…」

 

「何ため息吐いてるのよ。この私と出かけることなんて、国一つ差し出さないと出来ないレベルなのに」

 

「別に一緒に行きたくて行ってるわけじゃないんだが。お前だって、俺と出かけるよりさっきの翼くんと出かける方がいいだろ」

 

 すると四条はあからさまに動揺し始める。

 

「な、なんでそこで彼の名前が出るのかしら?別に、私は彼のことなんとも思ってないけど」

 

「いや、明らかに翼くんのこと意識しまくってたろ。ていうかほとんど好きだろあれ」

 

「好きじゃないわよ!」

 

「じゃあ嫌いなのか」

 

「嫌い……ではないけど!」

 

「じゃあ無関心なのか」

 

「そういうことじゃなくてっ…!」

 

 もうこれ答え出てるだろ。どう考えても翼くんのこと好きなやつだろこれ。大体好きじゃない人間のことを付き合ってもいいとか言わない。

 

「好きなんだろ」

 

「……うん」

 

 あっめっちゃ素直。

 四宮と違ってなんか可愛いんだけど。恋する乙女はなんとやら、ってやつか。

 

「…つっても、翼くんには柏木さんがいる。略奪でもする気か?」

 

「はぁ嫌だ嫌だ。これだから庶民は野蛮で困るのよね。私がそんなはしたないことをするわけないでしょう?」

 

 めっちゃ呆れられたんだけど。

 

「学生のお飯事みたいな恋愛なんて長続きしないの。どうせ放っておけば勝手に別れるわよ。それまでゆっくりお茶啜って待てばいいの」

 

 結構、達観したような考え方だ。四宮とは違って、恋愛に対する考え方がずっと大人だ。

 

「だから別に、彼が誰と付き合おうと構わないの……。…最後に私のそばにいてくれたら、それで十分……」

 

「…そうか」

 

 傲慢なやつだと思っていたが、結構健気で可愛げのあるやつじゃないか。どこかの暗殺者なんて、白銀の周囲に女の影があろうものなら、すかさずぶっ殺していくところだろう。

 

「じゃあ、何?別に別れさせたりするっていうことはしないわけか」

 

「当たり前よ。渚は私の大切な友人なんだから。まぁ多少の憂さ晴らしはさせてもらうけど」

 

 翼くんと同様、柏木さんのこともちゃんとと大切にしている辺り、四条の優しさが窺える。

 

「待つしかない、か。でもそういうのって、結構精神的にキツかったりするんじゃないのか?いや、別に略奪を勧めてるわけじゃないけど」

 

「?どういうことよ」

 

「この夏休みは始まったばかりだ。あのラブラブカップルがただデートするだけで終わるとは思いにくい。どっかのホテルに泊まって、恋のABCとか全部クリアしちゃって、学校が始まったら前以上にラブラブな姿を見ることになる」

 

 そして精神的に傷を負う恐れがある。それならいっそのこと、さっさと告って玉砕した方がいい。そっちの方が、後々楽になることもある。

 

「…なんで、そんなこと言うの……?」

 

 突如、四条は涙を溢し始める。

 

「えっ、あ、わ、悪い…」

 

 女子を泣かしてしまった。全く傷つけるつもりなかったのに、なんかすんません。

 

 これ大丈夫?後々四宮家にこの情報が渡らない?四条を泣かしたことで四宮家を敵に回したとかそんなんないよね?大丈夫だよね?

 

「わ、悪いって。別に泣かせるつもりはなかった。あ、アレだ、俺の話だこれは。去年そういう目に遭ったから…」

 

 全くそんな目には遭っていません。普通に平和に一人で過ごしていたし、好きな人なんていませんでした。

 

「でもそういえば渚、夏休みにディスティニーに遊びに行くとか言ってたし、その周辺のホテルも予約したって言ってた……」

 

「あ……」

 

 地雷を踏ませてしまったか…?

 

「他人を顧みない自己愛の権化……男を誑かすしか能がないヘンテコヘアピン女……絶対許さない」

 

「さっきまでの大事な友人はどうした」

 

 こういうところは四宮に似てるのな。秀知院の女子生徒ってヤンデレ属性ばっかりか?

 

「それもこれも、誰かが彼に変なことを吹き込んだせいよ」

 

「変なこと?」

 

壁ダァンとかいう変な技のことよ!」

 

 んーそれめちゃくちゃ聞き覚えあるなぁ。なんならそれを吹き込んだ人間も知ってるなぁ。

 

「それまでいい感じに距離を詰めていたのに…!アレがなければ今頃…!奥手な彼にアレを吹き込んだやつの皮を剥いで鞣してやる…!!」

 

 その犯人の妹の誕生日プレゼントを今から買いに行くんですけどね。俺どんな顔で白銀に会えばいいんだろうか。

 

「もう四の五の言うのはやめたわ!略奪だろうがなんだろうがやってやるわ!」

 

 もう自棄になってる。さっきまでの健気な可愛げのある四条は一体どこへ。

 

「協力……してくれる?」

 

 だから急に可愛くなるなよ。お前さっきまで暗殺者ばりの殺意剥き出しの表情だったじゃねぇか。

 略奪の手伝いなんて俺まで刺されそうで怖いんだけどな…。

 

「……ダメ?」

 

 こいつがやろうとしているのは一般的には最低のことで、そして必ず実らぬ恋だ。それでも、それが届かないかも知れないと分かっていても、あがき、悩み、苦しむ覚悟を決めているのだ。

 そんな彼女の覚悟をあっさり断るほどの言葉を、俺は持ち合わせていない。

 

「……あくまで行動するのはお前だ。俺は助言かアドバイス程度しかしないし、それに本当に成功するかどうかも分からない。それでも本当にいいなら、構わない」

 

「ほ、本当……?……ありがとう」

 

 全く、圭の誕生日プレゼントを買いに行くだけのはずが、なんでこんなわけ分からんことになっちまったんだ。

 

「じゃあ、これからよろしく頼むわよ!比企谷………ううん。八幡っ!」

 

「はっ…!?」

 

 急に名前呼びはやめて?うっかり勘違いして惚れてしまうからやめて?

 

「それじゃあ行きましょう!」

 

 さっきの殺伐とした表情が一転し、彼女の表情には曇り一つない清々しい笑顔であった。

 ころころ表情が変わる辺り、やっぱり四宮の血を引いているんだな。

 

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