今日も今日とて通常業務。そんな中、翼くんの彼女である柏木さんが生徒会室に相談を持ちかけてきた。今回は恋愛の相談ではなく、ボランティア部の相談でやって来た。
まぁそれとは関係なく、柏木さんと四宮が雑談していた。曰く、白銀が怖くて近寄れないとのこと。
「あらあら。どうしてそんなにうちの会長は怖がられているのでしょう」
「原因は分かっている。俺の目付きだ。特に目の隈、これが怖がられる原因だと思う…」
白銀のルックスは決して悪くはない。俺と違い、白銀は結構人気がある。生徒会長という肩書きが相まっているのかも知れないが、それでも特別嫌われてはいない。
だが当の本人はそんなこと一切考えておらず。
「ほんとイヤ……整形したい…」
まさかの整形までしたいと吐かしている。
「お前で整形しなきゃならんなら俺どうなる。来世に超絶イケメン顔を期待してワンチャンダイブしなきゃならんくなるぞ」
「そ、その通りですよ!ダメです、整形なんて!」
俺の言葉に便乗するように、四宮も白銀を慰める。
俺は単純に、白銀がそう言うと俺の生きる価値が無くなるので引き止めたまでだが、四宮は前に確か目付きが悪いのが好きだと言っていた。白銀が整形するのはあまり良く思わないのだろう。
本当、白銀大好きだよね。四宮って。
「親から貰った大事な体です!今のままで十分…」
突然、四宮の口が止まる。そしてみるみる顔を赤くしていく。
これあれだね。続く言葉がいかに恥ずかしいものかを悟った顔だね。今のままで十分カッコいいとか言ったら、こいつら基準では告白したも同然である。
「…十分……可愛いですよ…?」
絞り出した結果がそれか。女子の言う可愛いなんて、私可愛いと同義の言葉だが、四宮に関しては嘘偽りない言葉である。だから結構どストレートな気がするけど。
まぁ可愛いって言われて嫌な気分になる男子なんて少数派だし、白銀もこれで立ち直って…。
「ぐぐぐぐ……!」
えっ何その顔。可愛いという言葉に畏怖を感じたかのような表情。どういう心境なんだよ。
「四宮に俺の気持ちなんか判るものか!お前みたいな美人に俺の気持ちなんて…!」
「えっお前何言ってんの」
今こいつ四宮のこと美人って言ったよ?
いや、全く間違いじゃない。間違いじゃないのだが、今までならば美人ってワードを発した時点で即刻アウトだったろ。
素で言ってんのかお前?だとしたら相当あざといぞ。男子にあざとさとか需要ないだろ。
「えっ…あ……びじ……」
やっぱ四宮顔を赤くしてる。好きな人から美人って言われたらそら照れるんだろうけど。
「会長こそ、そのままで十分イケメンじゃないですか!」
「お前までマジ何言ってんの」
こいつらどっかの神経ぶっ壊れたのか?今までじゃあり得ないレベルのワードがポンポン飛び出てるんだけど。
大丈夫?後から恥ずかしくなって死にたくならない?
「そんな見え透いたお世辞はいらん!」
「お世辞じゃないです!心の底からそう思ってます!」
俺達は一体、何を見せられているんだろう。
こいつら喧嘩しているようで、その実イチャイチャしているだけではないか。…まぁ今に始まったことじゃないんだけども。
「…比企谷さん。これどうしたらいいんでしょうか」
「俺に聞くな。今俺らが見てるもんは怪奇現象とでも思っとけ」
そう。怪奇現象は解決出来ない。無視に限る。
「…お前らとりあえず落ち着け。柏木さんが何も話せんままだろ」
「そ、そうだな。失礼した」
一旦、彼らを落ち着かせて、柏木さんに本題を話してもらうことに。
「ボランティア部の勧誘ポスターのことなんですけど、こんな感じで大丈夫でしょうか?」
柏木さんがパソコンの画面を俺達に見せる。内容は、ボランティア部の勧誘である。
「まぁ文面はこれで問題ないが」
「ちょっと画が堅いですよね」
「フリー素材とか使って、もうちょい親しみのある感じでもいいんじゃねぇの?」
「なるほど…」
パソコンを操作し、勧誘ポスターに使うフリー素材を探すと、餌の前で犬がお座りしている画と、猫が寝転んでいて、かつ滑らかな枠線に猫が引っ付いている画の2つがあった。
「この2つなんかいいですね。三人はどちらが好きなんですか?」
「犬」
「猫」
「家に猫いるけど別にどっちでもだな」
俺がいなくても、カマクラは大丈夫だろ。なんなら小町にベタベタ引っ付いているわけだし。チッ、俺とカマクラが入れ替われることが出来れば!
「判ってないな。この2択なら断然猫だろ」
「判ってないのは会長です。猫なんて人を見下す小狡くて冷たい生き物じゃないですか」
まぁ犬と猫は結構違うからな。犬は尻尾振って甘えてくるけど、猫はちょっと冷たい時がある。懐いたら結構引っ付いてくるんだが。
「確かに猫は一見小狡く冷たいように見える……。だがそれは、少し臆病で恥ずかしがり屋なだけだ!そこが可愛いし愛おしいだろう!」
「いいえ!犬の方が可愛いです!心根がまっすぐで見返りを求めず、人に愛を注ぐことが出来る尊い生き物じゃないですか!」
「アーモンドのようなクリッとした目にすらっとしたライン!猫より可愛いものがあるか!」
「撫でたくなるつやつや毛並みにキリッとした顔立ち!犬の方が可愛いです!」
一見、犬と猫の論争をしているようだ。
だが普段のこいつらを見ていたからか、何故か別の意味で見えてしまう。
「比企谷さん」
柏木さんが小さい声でこちらに話しかけてきた。
「これ、犬と猫の話ですよね?」
「…そう思え。決して互いの好きなところを言い合っているわけじゃない」
そう、これは犬と猫の論争。俺には好きなところを言い合っているようにしか聞こえないが、決してそんなアホな内容ではない。
「やっぱり、この二人って…」
「まぁ、多分そうだと思う」
柏木さんもなんとなく読み取ったらしい。白銀が四宮を、四宮が白銀を好いていることに。女子って、結構そういうところに敏感なんだろうか。
「いいか四宮……一度しか言わないからよく聞け…」
「な…なんですか…?」
「俺は他の何者でもなく、
やっべぇついに四宮に対する愛の言葉に聞こえたんだけど。
「わ…私も他の誰よりも、
うっわこっちからも渾身の愛の言葉が聞こえてきたんだけど。もう幻聴だわこれ。こいつらの空気に当てられて幻聴が聞こえてしまったんだけど。
これ絶対自覚なしでぶっ放してるだろ。
「柏木さん!」
「どっちの方が可愛いと思う!?」
「や……その…。…どっちも怖いくらい可愛いです」
柏木さんは何やら顔を赤らめながら、そう答えた。
「なんだそれは!」
「答えになっていません!」
もう本当、こいつら爆破しねぇかな。リア充爆発しろとはまさにこのことだぞ。目の前でイチャイチャしやがってくたばれ。石上がこんなところ見たら間違いなくトイレットペーパーで何かするぞ。
「比企谷は!どっちが可愛いと思う!?」
「…いや、もうなんかどっちも面倒くさいです」
「なんだその答えは!」
可愛いかどうか聞かれて面倒くさいって答えは意味分からんけど、素朴な感想を言うとするなら間違いなく面倒くさいです。
もうやだ。帰りたいよ。