やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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伊井野ミコは正したい②

 生徒会が解散して数日が経ち、衣替えの季節になる。夏の暑さは潜め、やや冷たい風を感じる程度の記憶が当たり前になる。

 そんな秋の季節、秀知院には大きな行事がある。

 

「会長ぶっちぎりじゃないですか」

 

「これはもう勝ったも同然ですよー!」

 

 それは、生徒会選挙。過去に白銀が通った道。

 生徒会選挙予測速報という記事を見ている俺達は、白銀の支持率の圧倒的な高さに感嘆の声を出す。

 

「いや、予測の数字なんてアテにならん。前期の活動で俺達の名前を記憶してる層が多いだけだ。他の候補者の活動次第でこの数字は変動し得る。油断は禁物だ」

 

 とかなんとか言って、多分こいつ内心舞い上がってるに違いない。だってチョロいから。

 

「…にしても、結局生徒会長やるんだな。てっきりもうやらんのだと思ってたが」

 

「まぁ色々あってな。それに生徒会長を続けるということは、それ相応のメリットがある。逃さないわけにはいかないさ」

 

 生徒会長になった実績は、大学への進学や社会において良き方向に影響する。勉学で常に上を目指す白銀にとっては、掴んでおきたい手綱なんだろう。

 

「次点に来てる子は1年なんですね〜。石上くん知ってる人?」

 

「クラスメイトの名前を覚えてない僕に訊きます?」

 

 生徒会選挙に参加しているのは3人。1人は白銀で、もう1人は本郷とかいうモブ。モブは言い過ぎたかな。

 そして3人目が、あいつである。

 

「やっぱ参加してたんだな…」

 

「比企谷くん、知ってる子なんですか?」

 

「ん、まぁな。伊井野が生徒会選挙に参加するっつー話は何度か聞いていたが…」

 

「伊井野…!?」

 

 すると石上が、顔色を変えて反応する。記事を食い入るように見る。

 

「すみません。この名前は流石に知ってます」

 

「有名人なのか?」

 

「まぁ1年の間では……。学年1位ですし」

 

「おっ、おう……マジか」

 

「でもその……それ以上に強烈な部分が…」

 

 まぁあの猪突猛進ぶりは、インパクトの強い部分と言っても仕方ないだろう。それに考え方がだいぶ古臭い部分もある。それを周知されているなら、有名人になってもおかしくない。

 

「あそこでビラ配ってんのが伊井野じゃねぇのか?」

 

 遠目で伊井野と、友達の大仏がビラを配っているのが確認出来た。

 

「百聞は一見にしかず……僕らが話すより、直接見た方が早いと思います」

 

 俺達はビラを配っている伊井野の下へ向かった。

 到着し、伊井野がダンボールからビラの束を取り出しているところに、石上が声をかける。

 

「…ちょっといい?」

 

「…石上……何の用?見ての通り私は忙しいの。不良に構ってる時間はないんだけど」

 

 めっちゃ嫌われてんじゃん。

 伊井野の人格からすれば、石上や俺といった校則を蔑ろにする人物はあまり良くは思わないだろうけど。

 

「せめて話は聞いてやれって」

 

「!比企谷先輩……!」

 

 俺の声を聞いた瞬間、伊井野は立ち上がってこちらに振り返る。

 早い早い。怖いよ。急にキャラ変わって怖いよ。

 

「何か用ですかっ?」

 

「いや、俺じゃなくてこいつが…」

 

「君が伊井野ミコか?」

 

 今度は白銀の声を聞いた瞬間、目をキリッとし、姿勢も正しくする。

 だから早いの。今この数分でお前3人分のキャラを使い分けたよ?

 

「はい。初めまして…でしょうか。白銀前会長

 

「前……。…聞いたぞ、1年の学年1位なんだって?」

 

「はい。入学以来ずっと1位です」

 

「ふ、ふぅーん…。でも勉強だけが全てじゃないからな。バイトとか社会経験が大事なんだからな」

 

 嘘だろまさかこいつ1年に対抗心燃やしてんの?

 

「ビラ配りか。そういう地道な努力も大事だ」

 

「前会長こそ、選挙も間近だと言うのに選挙活動らしい活動をしていませんよね。王者の余裕というものですか?私から見たら、ただの怠慢ですけど」

 

 なんつー辛いコメントだ。俺だったら迷わずここから逃げ出すわ。

 

「選挙活動なんて所詮単純接触効果を期待した票集め。普段の実績があればそんなまやかしは必要ないんじゃない?」

 

「それが怠慢だというのです。生徒達に政策を考える機会を与えてこそ、健全な学園運営に繋がるという発想には至りませんか?」

 

 伊井野や大仏の言葉により、白銀と石上は後退る。完璧な反論と言えるだろう。

 

「私達は、この秀知院がより健全で尊いものになるよう努力を重ねているだけです。その想いを選挙活動を通して生徒達に伝えたい。単なる票集めのつもりはありません」

 

 なんでこういう時に限ってスラスラと言葉が出るのかね。もう反論の余地なしだぞ。

 

「な、中々弁の立つ小娘だな…」

 

「小娘て…」

 

「どんなに立派な理想を抱いていても所詮は理想!」

 

「投票日が楽しみですねぇ……現実の厳しさをその身で知ることになるでしょう」

 

「何お前ら。どこの悪役?」

 

「理想なき信念に、意味なんてないと言うのに…」

 

「ほらー!こっちの方が完全に良いこと言ってるもん!」

 

 まさに正義vs悪。どう考えても軍配は伊井野の方に上がるんだけどもね。

 

「ごめんね〜。みゆきくんだいぶ伊井野さんを意識しちゃってるみたいで…。普段はこんなんじゃないんだけど…」

 

「藤原先輩…」

 

「あっ、私のことも知ってるんだ〜!」

 

「勿論です!…あの……それで…よろしければなのですが…」

 

「?」

 

「私が生徒会長になった暁には、藤原先輩が副会長になっていただけませんか!?」

 

「えぇーっ!?」

 

「比企谷先輩には、庶務を命じます!」

 

「ごめんそんなことより藤原が副会長とか何事だよ」

 

 俺が庶務とかそんなん一旦どうでもいいんだよ。なんだよ藤原が副会長て。

 

「ちょっと待て!よりにもよってなんで藤原なんだ!」

 

「この人知ってたら絶対出てこないセリフですからそれ!」

 

「失礼って言葉知ってますか男子ども!」

 

「ちょ、おい大仏。お前こいつのブレーキ役だろ。ここでブレーキせずにいつするんだよ」

 

「いえ、論理的に考えて藤原さんは副会長に相応しいでしょう」

 

「ヘイSiri。論理的で検索」

 

 論理だけじゃ推し量れないのが藤原という人間だぞ。どういう思考を巡らせたらそんな頭ハッピーみたいな考えが出てくるんだよ。

 絶対後悔するぞ。藤原が副会長になった瞬間、生徒会は正に魑魅魍魎のようなゴミみたいな集会と化すぞ。いいのか。

 

「貴方達こそ、藤原先輩の何を知ってるんですか!藤原先輩ほど立派な人がいますか!」

 

「いや探せばいる…」

 

「静かに!!人の話は最後まで聞きましょう!!」

 

 お前俺のセリフ遮ってよくもまぁそんなこと吐かせたな。

 

「藤原先輩はあのピティアピアノコンペで全国大会金賞を取ってるんです!」

 

「小4の時ですけどね…」

 

 何をもじもじしてるんだ己は。

 

「しかも5ヵ国語を操るマルチリンガル!」

 

「親が外交官で…」

 

 何をテレテレしてるんだ己は。

 

「それでいて秀知院で普通の成績を誇る秀才!」

 

「あーそこは普通かー」

 

 一気に下がったじゃねぇか。

 

「私も小さい頃からピアノやってて、藤原先輩に憧れていたんです。藤原先輩は私なんか足元にも及ばない天才なんですから!」

 

 確かに、藤原って変なとこで天才的なところ見せるよな。ただそれ以上に、普段の人格に問題があるんだが。

 

「もっと褒めて〜」

 

 藤原がなんか溶けそうになってんじゃねぇか。

 

「分かりましたか!?藤原先輩は凄いんですから!」

 

「引退して以来過去の人扱いされてたから嬉しいよぉ〜」

 

「いいですか前会長。確かに票数では劣勢かも知れません。しかし理念だけでは絶対に引けを取りません。そしてそれらは、必ず時間と共に理解が得られるものと確信しています。藤原先輩、ついでに比企谷先輩を引き入れるためにも、この選挙は勝たせて頂きます」

 

「絶対に負けませんよ!」

 

「なんでナチュラルに寝返ってんだよ」

 

 そんな論争が繰り広げられ、俺と白銀、そして石上は廊下を歩きながら伊井野について話していた。

 

「伊井野ミコ……中々手強い奴のようだ…。これは対策を講じる必要が…」

 

「どうでしょうかね……その心配はないと思いますよ」

 

「何?」

 

「そのビラ、ちゃんと読んでください」

 

 ビラにはこう書かれていた。

 男子は丸坊主、女子は三つ編みかおさげにしなければならない。服装にいたずらな装飾を着けてはならない。スマホ持ち込み不可。週一に持ち物検査が行われる。男女は50cm以上の接近禁止。

 

「…流石伊井野。あいついつの時代の人間だよ」

 

 昭和か大正辺りからタイムスリップでもして来たんじゃねぇのか。

 

「にしても、比企谷先輩と伊井野、後大仏って知り合い同士だったんですね」

 

「過去にちょっと出会って、それ以来目ぇ付けられてな」

 

「そうですか」

 

 生徒会選挙の日は近い。

 だが俺は、伊井野の信念や強烈なビラより懸念していることが一つある。

 

 それが何かは、選挙当日でまた話そうと思う。

 

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