やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

42 / 115
八幡♡少女漫画脳シンドローム

「…泣き過ぎた」

 

 昨日、"今日あま"を白銀一家と共に読んだのだが、それはもう泣いた泣いた。バカみたいに泣いたわ。今年最大の大泣きと言っても過言ではないかも知れない。

 その"今日あま"の余韻からか、今すんごい恋したくなってしまっている。俺の脳内に少女漫画が割り込んで来ているのだ。

 

 つまり何が言いたいか。

 

「…下手すりゃマジで誰かに告ってしまいそうで怖い

 

 多分、きっと、十中八九、そんなことはないと思われるが、"今日あま"を読んでからか、俺が俺じゃないみたいだ。厨二的な話とかそんなんじゃなくて。

 

「…今日はとりあえず、あまり女子と関わらないでおこう」

 

 "今日あま"の余韻が消えるまで、不用意に女子と関わらないでいるべきだ。エンカウントしたらアウトの完全な運ゲーだなこれ。

 

 そうこう考えていると、家を出る時間が迫り、俺は制服に着替えて学校に行く準備を始めた。準備を終え、家の扉を開けると。

 

「あっ、八にぃっ。おはよう」

 

 はいオワタ。始まった瞬間エンカウントするとかどんなクソゲーだよ。

 ていうかなんか作画おかしい気するんだけど。なんで圭が少女漫画風のキャラに見えるのん?

 

「お、おう。どうした?」

 

「一緒に、学校に行かない?」

 

 あっやっべぇ落ちそう。

 "今日あま"の余韻+圭の上目遣いが想像以上に俺の心をざわつかせる。

 

「唐突だな…今まで一緒に行ってたわけじゃないってのに」

 

「そ、そうだけど…理由がないと、ダメ?」

 

 圭は瞳をウルウルさせながら、こちらを誘惑してくる。

 これはあれだ。断ったらあかんやつだ。大人しく圭と一緒に登校するしかないやつや。

 

「…別に、理由はいらねぇよ。圭が行きたいっつーなら、俺はそれに従うだけだ」

 

「八にぃ…」

 

「じゃあ行くか。さっさと行かねぇと、遅刻になるし」

 

 何より風紀委員が口うるさくなりそうだからな。

 

 俺は何も考えず、圭の手を取って通学路を歩き始めた。しばらくすると、圭も俺の手をギュッと握る。

 

「今日の八にぃ、少し積極的…」

 

「そうか?普段となんら変わらんぞ」

 

 そう。今の俺は普段通り。何かおかしい気もしなくはないが、もう一度言おう。

 今の俺は普段通りなんだ。

 

 しばらく二人で歩いていると、秀知院が見え出してくる。俺は秀知院が見えてくるあたりで、圭の手を離した。が、逆に圭は手を離してくれない。

 

「やだ…」

 

「え」

 

「八にぃとまだ一緒にいたいよ」

 

 なんだかデート終わりの彼女みたいなセリフだが、秀知院の生徒に今の状況を見られるのはあまり良くない。嫌われ者の俺が、中等部屈指の容姿を誇る圭と一緒にいたら、圭が何言われるか分かったものじゃない。

 

「…ダメだ」

 

 俺は無理矢理腕を動かし、圭が握る手を解く。途端、圭は途方もない悲しみの表情に変わる。

 今は一緒にいることは無理。だから。

 

「また今夜な」

 

「えっ…!?」

 

 俺はそう言い残して、圭の目の前から去る。どうせ家隣だし、そんなに話したければゆっくり出来る夜の時間でもいいだろう。

 

 何やら圭の声が聞こえるが、周りの喧騒でそれはかき消されてしまった。

 遅刻ギリギリで秀知院の正門を潜ると、そこにはやはりあいつがいた。風紀委員兼会計監査の伊井野ミコ。

 

「比企谷先輩!ギリギリじゃないですか!生徒会の人間が遅刻ギリギリなんて、他の生徒に示しが付きません!」

 

 いつものように噛み付いてくる伊井野。

 きっと朝早くに登校して、頑張っているのだろう。普段からずっと頑張っているが、誰もその苦労を知らない。知っていても、大仏か石上ぐらいだ。

 

「ほら、第二ボタンも開いて…」

 

「よく頑張ってるな、伊井野」

 

「る………えぇッ!?」

 

 普段から頑張っている伊井野に、もしかしたら俺は厳しかったのかも知れない。そう思った俺は小町と同じように、頭を撫でる。

 

「な、な、な、何をっ……」

 

 伊井野の顔が唐突に赤くなり、慌てふためく。なんだか小動物みたいで、反応が可愛いらしい。

 

「ひ、比企谷先輩、撫でないでっ……」

 

 これ以上は流石に伊井野に悪いな。俺は撫でるのをやめて、伊井野の頭から手を離した。依然、伊井野の顔は赤くなったまま。

 

「き、急になんなんですかっ!撫でてくるなんて…」

 

「普段から頑張ってるからなお前。偶に頑張った褒美に、妹にやってやるんだが、それとまぁ同じ感じだ」

 

「私が…頑張ってる……」

 

「ま、頑張れよ。伊井野」

 

 俺はそう言って、教室に向かおうとしたのだが。

 

「ま、待ってください!」

 

 後ろから伊井野が引き止める。振り向いて伊井野の様子を見てみると、何やら落ち着かない様子であった。

 

「そ、その…」

 

「ん?どうした?」

 

「頑張ったら…ま、また撫でてくれるんですか…?」

 

 圭に続き、伊井野までもが上目遣いを仕掛けてくる。その潤んだ瞳の裏には、何かしらの期待が込められているように見えてしまう。

 

「…そんなに褒美が欲しいのか?お前」

 

「ち、ちがっ、私は…」

 

「冗談だ。…まぁそうだな。お前が努力してるのは伝わってるからな。またこういうのも悪くないかもな」

 

 と言って、また彼女の頭を撫でる。今度は軽く撫でただけだが、それでも伊井野は満たされた表情をしている。

 

「わ、私頑張りますから…。…だから、もっと見ててください。もっと撫でてください。もっと、もっと先輩の優しさを私にください」

 

「…おう。頑張れ」

 

 俺はいい加減正門付近から離れて、高等部の校舎の玄関に向かった。靴箱で上履きに履き替えて、自分のクラスへと向かった。

 自分の席に着席し、恙なく授業に取り組んだ。そして4限目が終わり、昼休みとなった頃。

 

「まーたあいつら私の目の前でイチャコライチャコラしてたのよ!!」

 

 いつも通り、ベストプレイスで昼飯を食べていると、通りかかった四条がこちらに気付くや否や、柏木さんと翼くんの愚痴を聞かされる羽目になった。

 

「本ッ当あり得ない!イチャイチャするなら私がいないところでやりなさいよ!」

 

「でも見えないところでイチャイチャしてたの気付いたらそれはそれでお前怒るだろうが」

 

「当たり前でしょ!」

 

「面倒くせぇな」

 

 いつものように荒んでいる四条の愚痴を聞く俺。

 こいつはこいつで、不器用なりに自分の恋愛に対して向き合って頑張っている。相手がカップルってのが最大の難点だが。

 

「私ってそんなに魅力がないのかしら…」

 

 と、落ち込む四条。怒ったりしょげたり忙しいやつ。

 

「…んなことないだろ。人の魅力はそれぞれだ。お前にはお前だけの魅力ってもんがあるんじゃねぇの」

 

「な、何よ。急に持ち上げるような真似して」

 

「別にそういうのじゃない。四条とそこそこ関わってきたから分かるから言ってるだけだ。…お前の魅力は心。何かに直向きに執着出来て、諦めない精神力を持ってる上に、相手が恋敵でも優しくなれる心の強さ。…だと思う」

 

「……八幡、今日随分私に優しいわね。何かあったの?」

 

「別に何もねぇよ。普段と特に変わってねぇだろ」

 

「…そう」

 

 俺はその場から立ち上がり、四条に背中を向ける形で校舎に戻って行こうとした。

 

「八幡!」

 

「ん?」

 

「…いつもありがとう。あんたがいてくれるから、私も自信持てる気がするの」

 

「…そうか」

 

「まぁこれでもし翼くんと付き合えなかったら覚悟しておきなさいよ」

 

「怖ぇよ」

 

 俺はそう微笑しながら、四条にそう返した。ここのところは、四宮と似たり寄ったりなのかね。

 

 昼休みも終わり、午後の授業も適当に受けて過ごした。そして放課後となり、俺は生徒会に向かう準備を始めたがその前に。

 

「…缶コーヒー買いに行こ」

 

 俺は生徒会室より先に、自動販売機に向かった。自販機を見つけ、缶コーヒーを買おうとすると。

 

「比企谷くん」

 

 背後から、早坂が声を掛けてきた。

 

「早坂か。どうした?」

 

「さっき、風紀委員ちゃんとすれ違った時に、"もっと頑張れば比企谷先輩に優しくしてもらえる…"って、なんだか雌の顔で呟いてたんだけど。何したの?」

 

「普段から頑張ってるやつだからな。精神的に脆いところあるし、先輩として優しくしただけだ」

 

「…私も普段頑張ってるんだけどな…」

 

 なんだか拗ねたような表情で呟く早坂。

 

 確かに、早坂も早坂で苦労が絶えないやつではある。四宮家の近侍を務めている上に、学校では仮面を被って偽りの自分を見せながら過ごしている。本当に休めている時は、きっと寝る時ぐらいなんだろう。

 

「…そうだな。お前も、普段から頑張ってるんだよな」

 

「比企谷くん…?」

 

「凄ぇよ。お前」

 

 と言って、俺は伊井野と同じように、彼女の頭を撫でる。それが早坂にとって良かったのか、少しうっとりした表情である。早坂はそのまま、自身の頭を俺の胸に預ける。

 

「…比企谷くん」

 

「ん?」

 

 俺を見上げる彼女は、不安げな瞳でこちらを見つめ、そして。

 

「いつか、私を助けてね」

 

 突拍子に、早坂がそれを言った。その言葉にどういう意味が含まれているのかは分からない。少なくとも、これからも頼る、迷惑をかけるという意味では無さそうなのは確かだ。

 

 俺が彼女に返した言葉は。

 

「…おう。力になるかどうかは分からんけどな」

 

 その答えに対して、彼女は微笑む。

 

「…ありがと。比企谷くんと出会えて、良かった」

 

「…そうか」

 

 早坂は満足したのか、俺から離れる。

 

「じゃあね、比企谷くん。また明日」

 

「…おう」

 

 早坂は俺の目の前から去り、俺は缶コーヒーのプルタブを引いて開ける。コーヒーを少量口に含み、缶コーヒーを持ったまま、俺は生徒会室に向かった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 生徒会が終わり、俺は我が家に帰宅した。風呂に入り、簡単な夜飯を作って済ませる。

 まだ寝るまで時間があるので、暇潰しにラノベを読むことにした。俺はラノベを読みつつ、今日のことを振り返っていた。

 

 普段と変わらない日常。

 圭と登校し、伊井野や早坂を労り、四条の愚痴を聞いた。その上、生徒会。

 

 本当、今日もいつも通りの日常……。

 

「じゃねぇ!!」

 

 待って待って待って待って全然いつも通りじゃねぇよ!何、俺今日何した!?俺のいつも通りってなんだ!?

 

 思い返せ。今日、まず圭と一緒に登校したな。

 いつも通りじゃないが、家が隣だから無いわけじゃあない。ここから既におかしいのだが、まぁ許容範囲だ。

 

 その後俺は何した?

 

『今日の八にぃ、少し積極的…』

 

 えっちょっと待って俺マジで何してんの!?

 圭の手を繋いで!?そのまま登校して!?バカじゃねぇのバカじゃねぇの!?マジ誰だこんなことしたの!

 

「そ、その後は…」

 

 確か、遅刻ギリギリで学校に入ったんだっけ。その時、確か風紀委員の仕事をしていた伊井野と出会したんだよな。

 まぁここは何もおかしくないな。遅刻を取り締まるのも、風紀委員としての役目だし、伊井野と出会すのはなんらおかしくない。

 

 確か、朝からよく頑張ってるなーって思ってたんだったな。

 

『よく頑張ってるな、伊井野』

 

 バッカじゃねぇの!?

 

 なーにが「よく頑張ってるな」だ!しかもきっしょいセリフを吐いた上に俺あいつの頭撫でたんだよなぁ!?

 あー死にたい!!死にたいよぉ!!なんであんな意味不明な行動してんの俺ェ!!

 

 し、しかも俺確かあの後…。

 

『…そんなに褒美が欲しいのか?お前』

 

『お前が努力してるのは伝わってるからな。またこういうのも悪くないかもな』

 

 きっも死ねよ!!

 

 なんだよそれ!何俺どういうキャラなの!?キザでドSみてぇなキャラじゃねぇか!俺様キャラとか意味が分かんねぇよ!誰得だそんなもん!

 

 今日生徒会でチラチラ伊井野が見てたのって、俺の行動が奇怪過ぎたからだよなぁ!?あーもう死にたい!今すぐ過去に戻って過去の俺を撲殺したい!

 

「…で、次確か四条の愚痴聞いてたんだよな…」

 

 俺は四条とのやり取りを思い出す。今日も柏木さんと翼くんの愚痴を聞いていたが、俺あの時何言ってたんだろうか。

 

『私ってそんなに魅力がないのかしら…』

 

 そういえば四条がそんなことを言っていた気がする。で、対する俺はなんて返したんだっけ…。

 

『んなことないだろ。人の魅力はそれぞれだ。お前にはお前だけの魅力ってもんがあるんじゃねぇの』

 

『お前の魅力は心。何かに直向きに執着出来て、諦めない精神力を持ってる上に、相手が恋敵でも優しくなれる心の強さ。…だと思う』

 

 うるせぇバァーカ!!

 

 何が心の強さだよ!伊井野だけじゃなくて四条にまでクソみてぇなセリフ吐いてるってどうなってんだよ!

 

『庶務の比企谷とか言うやつクサいセリフ吐いてドヤってたんだけど』

 

 うっわきっつ!どうしよう!?なんの因果か四条から柏木さんや翼くんに知れ渡ったらどうしよう!?

 ただでさえ俺の立場はゴミみたいに底辺なのに、加えて意識高い系のセリフ吐いてるって知られたら、もう俺学校行かないまであるぞ!!

 

「…最後は早坂だっけ」

 

 確か伊井野と同じことをしてた気がする。もうここまで恥ずい思いをすると、一周回って冷静になったわ。

 

『いつか、私を助けてね』

 

 早坂が残したあの言葉。

 あの言葉通りであるなら、これからあいつに降りかかる何かに対してSOSを送っていることになる。

 

 そのSOSが一体なんなのか…。

 

「…にしても、今日の俺マジでバカ過ぎた」

 

 圭と手を繋いで登校、伊井野と早坂には頭を撫で、四条には気持ち悪いアドバイスを送った。

 

 いや本当、広められたりしたらどうしよう。早坂に頭撫でてしまったが、あいつ四宮と繋がりがある。もし早坂が四宮に今日のこと言ったら、四条どころか四宮家にまで目を付けられるんじゃないか。

 そんで四宮から生徒会に広められたら、俺もう避難する場所が無くなっちまうじゃねぇかよ。

 

 全ては"今日あま"の催眠効果のせいである。うん、俺は悪くない。"今日あま"が悪い。

 

「…死にたい…」

 

 これからの学園生活に絶望を感じてそう呟くと、我が家のインターホンが鳴り響く。

 

「…誰だよ」

 

 俺は扉を開くと、そこには。

 

「は、八にぃ…来たよ…?」

 

 何故か目の前に、圭がパジャマ姿で立っていた。

 

「…何しに来たん?」

 

「は、八にぃが言ったんじゃんっ。"また今夜な"って…」

 

「……」

 

 …俺は一体、圭に何を言ったんだろう。「また今夜な」って何だ。俺まさか圭にまでなんか恥ずいこと言ったのか。

 手を繋いだだけじゃ飽き足らず?とんだクソ野郎じゃねぇか散り腐れよ。

 

「は、八にぃ?」

 

「…八にぃ今アイデンティティークライシスだから」

 

「何言ってるの?」

 

「分からん」

 

 とりあえず死にたいってことで察して欲しい。

 

「と、とにかく、八にぃが夜って言ったんだから、部屋に入れてよ」

 

「…はい」

 

 もうやだ。俺絶対"今日あま"なんて読まねぇからな。あんなん販売禁止にするべきだ。キャラ崩壊を招く禁断の書物だろ。

 

 まさか高二にもなって、黒歴史を生み出すとは思いもしなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 比企谷が自身の一日を振り返って悶絶している頃。

 

「比企谷先輩が撫でたの、気持ち良かったなぁ……。もっと頑張ったら、もっと優しくしてくれるのかな……」

 

 伊井野は、先輩から撫でられたことが嬉し過ぎたのか、自身の脳内で件の先輩を美化して妄想し始めていた。

 

「…今日のあいつ、優しかったわね…。やっぱり、あいつが相談相手で良かった」

 

 四条は、相談相手に自分の魅力を褒められたことが嬉しかったのか、相談相手の彼を思い浮かべていた。

 

「早坂!今日、会長が…」

 

「すみません。少し考えたいことがあるので黙っててください」

 

「早坂!?」

 

 早坂は、友人に撫でられたこと、そして自身の努力や苦労を労ってくれたことに対し、笑みを溢していた。

 

「八にぃ…」

 

 白銀の妹の圭は、手を繋いで登校した上に、今夜もまた彼に会えることが嬉しかったのか、あらゆる妄想や期待を膨らませていた。

 

 今回の勝敗。比企谷の敗北。

 (黒歴史を生み出してしまったため)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。