やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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かぐや様は診られたい

「そろそろ解放してくれません?」

 

「いいじゃん、ちょっとくらい遅刻しても。比企谷くんと話す機会なんて無いんだし。クラスでもいっつも一人でいるし、昼休みになったら教室にいないし」

 

 放課後。

 缶コーヒーを買って生徒会に向かおうとしていたところ、早坂と出会して捕まってしまい、二人でベンチに座って話している。

 

「…それに、最近あの風紀委員ちゃんと距離が近いようだし。その辺の話も聞きたいなって」

 

「風紀委員……あぁ、伊井野のことか。いや別に、同じ生徒会で後輩だしな。距離が近いか知らんけど、何かしたわけじゃないぞ」

 

「頭を撫でておいて何もしてないなんてよく嘘つけるよね」

 

 はいそうですねすいませんガッツリ嘘つきました。

 だってあんなん忘れるしかないだろ。あの時はとんだ黒歴史を生み出したもんだ。俺は黒歴史製造機かよ。

 

「風紀委員ちゃんだけじゃない。眞妃様とだって親しくしてるようだし」

 

「四条はただ恋愛相談を聞いてるだけだ。別に何もねぇよ」

 

 第一、あいつと何かがあるわけがない。あいつは男子Aが好きなのだ。多少なりとも距離が近づいたとはいえ、四条は相談を持ち込んでくるクライアントでしかない。

 

「…どうだか」

 

 なんかちょっと不機嫌になる早坂。

 何、どうしたの?状況的にそれじゃまるで、彼氏と話してる女の子に嫉妬する彼女みたいだぞ。俺のこと好きなの?勘違いするよ?いいの?

 

「…あ」

 

「ん?どうした」

 

「そのミサンガ、まだ使ってくれてるんだ」

 

 早坂が俺の手首に着けているミサンガに注目する。

 

「…なかなか切れないからな。それに」

 

「?」

 

「お前から貰ったプレゼント、雑に扱うわけにはいかんだろ」

 

 妹以外から貰ったプレゼント。いくら性格がゴミみたいでも、人のプレゼントをゴミにしたりはしない。

 

「比企谷くん……」

 

 そんな時、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。その音は次第に近づき、秀知院の中に入り込んできた。

 

「…なんだ?」

 

「何かあったのかな?」

 

 俺達はそのサイレンが鳴り続ける方に向かった。そこに停まっていたのは、救急車のようだ。俺達が到着した途端、救急車が秀知院を出て行ってしまった。

 

「誰かが運ばれたみたいだな…」

 

「…なんだか嫌な予感がする」

 

 早坂の言う、嫌な予感は的中した。しばらくすると、早坂のスマホに一件の着信が入った。

 

「はい、もしもし……え!?」

 

 その早坂は途端に慌て始める。通話が終わり、事の顛末を早坂が教えてくれた。

 

「かぐや様が倒れて、病院に搬送されたって!」

 

「マジ…?」

 

 じゃあさっきの救急車で搬送されたのは、四宮ってことか。

 

「今からかぐや様が搬送された病院に行く!比企谷くんも付いてきて!」

 

「お、おう。分かった」

 

 なんだか急展開であるが、同じ生徒会の同じクラスメイトが倒れたってなって放っとくのも気が引ける。

 俺と早坂は急いで、四宮が搬送された病院へと向かった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「不整脈と言うのでしょうか…。突然心臓が激しく鳴り出し、時折死んでしまうのではないかと…。やはり、何かの病なのでしょうか…?」

 

 早坂と、何故か俺まで四宮の診察に立ち会った。

 

「かぐや様、あまり身体が丈夫な方じゃないの。季節の変わり目には体調を崩し、かぐや様のお母様も心臓病で…」

 

「…そうだったのか」

 

 世には美人薄命という言葉がある。死ぬとは思っていないが、こうして倒れて搬送されてしまった以上、万が一のこともある。

 

「お話を伺い、大体のところは分かりました。…四宮さんいいですか。慌てずに聞いてください」

 

「はい……」

 

「それは恋の病でしょう」

 

「……ん?」

 

 鯉の病?身体の中にお魚さんが住んでるのかな?

 それとも故意の病?わざと体調を崩したのかな?

 もしかして恋の病?誰かに恋してるのかな?

 

「…それは、何かそう呼ばれる心臓病などがあるのでしょうか」

 

「いや。普通に好きな人にドキドキする感情のことです」

 

 えっ嘘でしょ。なんだこれ。

 

「お医者様でもご冗談を仰るのですね」

 

「冗談ではないのです」

 

「でしたらなんですか!?私は恋のドキドキで倒れて救急車で運ばれたと!?」

 

「はい。私も医者を30年やって初めての出来事に少し動揺しています」

 

 まさかこのご令嬢、白銀に対するドキドキのせいでぶっ倒れて搬送されたんか?何だそのギャグコメディは。

 身体弱いって話はなんだったんだよ。めっちゃシリアスな展開だったぞさっきの。

 

「馬鹿仰らないでください!私は恋されることはあっても、恋に落ちるような無様な真似をする筈ありません!」

 

 なんて典型的なツンデレなんでしょう。

 

「話を整理しましょう。学校の活動で特定の人物の事を考えると鼓動が速くなると」

 

「はいそうです!」

 

「それで今日、髪に付いていたゴミを彼が取ってくれて、頬に手が少し触れたタイミングで、胸に突然キュンキュンとした痛みが走り、息も出来なくなると」

 

「だからそう言ってるじゃないですか!」

 

 もう答え出ちゃってんじゃねぇか。

 

「それはね……恋だよ

 

「違うって言ってるでしょうもう!!」

 

 もうなんか聞いてるこっちが恥ずかしくなる。恋のドキドキで倒れたご令嬢の知り合いとか思われてそうで嫌なんだけど。

 

「絶対心臓の病気です!今までの人生でここまで胸が苦しくなったのは初めてなんです!」

 

「じゃあ初恋だね」

 

「もう!分からない人ですね!」

 

「かぐや様…」

 

 黙っていた早坂が、顔を赤面させて四宮に言った。

 

「私達外で待ってますので、終わったら呼んでください…」

 

「早坂!?」

 

 自分の主人が恥を晒したからか、四宮の顔から逸らし、俺の胸に顔を埋める形で、自分の顔を隠した。

 

「私だってこの病院使ってるのに……もう来れないですよ…。マジ最悪…」

 

「…まぁ、うん。少なくとも今の内容を誰かに言わない方が得策だな。これ以上バカを晒したくなかったら」

 

「バカ!?」

 

 今の状態を石上が知ってしまったら、あいつは間違いなく四宮がいない場でディスり始める。どころか、もしかしたら藤原にさえ揶揄わられるかも知れない。

 

「とにかく!もっとちゃんと調べてください!」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 四宮の診察は大事になり、ついには医療ドラマでしか見たことのない最新技術がお出ましになってしまった。

 

「これはウチでも一番新しい測定装置でメインはカテーテル入れて使うやつなんだけど、やたらマルチに使えてね。先端医療だから医療費は相当高くなりますが、よろしいのですね?」

 

「自分の命と比べれば安い出費です」

 

「…恋の病とかいうもののためにこんな仰々しい機器使う人間初めて見たわ」

 

「やめて……お願いだから何も言わないで…」

 

 最新技術は四宮の身体に異常がないかを調べ始める。

 

「計測終わりました」

 

「どう?」

 

「とても綺麗で健康な心臓しています」

 

「ぶっ!」

 

 これだけ調べた結果異常無しとは恐れ入る。こんなもんネタでしかねぇだろ。

 

「そんな筈ない!穴の一つや二つ空いてる筈です!」

 

「だったらもう死んでるかな」

 

「じゃあなんですか!?私は顔を触られたくらいで倒れる程ドキドキしてたって言うんですか!?確かに多少は嬉しかったですが、それで倒れるなんて、私は会長のこと死ぬ程大好きってことになるじゃない!」

 

 何を今更な事を。そんなもん第一話からみんな知ってることだぞ。

 

「因みに彼の写真とかありますか?」

 

「…まぁありますが。早坂!いつまでもそうしてないで、早く持って来て!」

 

 四宮からの指示で、早坂は四宮のガラケーを持っていく。極力誰とも目を合わせず、四宮に渡した瞬間、ササッと戻って来た。

 

「比企谷くん…助けてぇ……」

 

「よちよち」

 

 一方、ガラケーの中にある白銀の写真を見た医者は。

 

「もっと普通の写真はないのかい?…だが、ふむ。面白い子だね。君にとてもお似合いの男の子だ」

 

 よく写真だけで分かったな。えぇもうそれはもうお似合いなことこの上なきですよ。むしろなんで早く付き合わんのかが分からん。

 

「彼と付き合いたいとは思わないのかな?」

 

「はぁ……だから言ってるじゃないですか。本当にそういうのじゃないんです。ただ私は会長のことを人間として、理想的な人だと思ってるんです。別にお似合いだと言われてもなんとも思いませんから」

 

 すると心電図を見るモニターからピピピと機械音が鳴り始めた。

 

「心拍数200オーバーです。凄くバクバク言ってます」

 

「めっちゃ意識してるじゃねぇか。大嘘じゃねぇかよ」

 

「やめて……最先端技術を使って、主人の気持ちを暴くのはもうやめて…」

 

 とはいえ、いくらなんでもおかしい。

 白銀のことを意識しているのは分かってることだが、いくら少し頬を触られたくらいで倒れるか?

 今まで頬を触られる以上にだいぶヤバいことしてたんだし。となると考えられるのは、最近二人に何かあった、ということになる。

 

「…早坂、最近四宮何かあったのか?こんな無様な姿晒すほどの何かが」

 

「…かぐや様、ついこの間彼とキス寸前までいって、それ以来凄く意識しちゃってるんです…」

 

「…わぁお」

 

「ちょっと早坂!今その話は関係ないでしょ!」

 

「いやもう的確な情報だったぞ今の」

 

 俺が知らん間にキス寸前までいってたとは。そら意識しまくっても仕方ないわな。

 

「あれは純粋な恐怖です!いざ迫られると、どうすればいいのか頭が真っ白になってどうしたらいいのか分からなくなっただけ!意識しているのではなく恐怖してるの!」

 

 四宮の叫びはただキスしそうになった時の感想にしか聞こえないんだけど。周りの女性陣ちょっと顔を赤くしてるし。「高校生の恋愛って甘酸っぱいな〜、アオハルだな〜」みたいな視点になってるよ多分。

 

「先生も気持ちは分かる。おじさんも恋する時代はあった。まぁ勿論まだまだ気持ちは現役だけど」

 

「聞きたくありません!!」

 

 診察結果。

 四宮かぐや、身体に異常なし。ただし片思いしている彼がいることにより精神的な不安定が見られる。

 

 なんだこの診察結果。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 翌日。

 

「四宮、もう大丈夫なのか!?」

 

「えぇ、お陰様で」

 

「かぐやさんが無事で良かったぁ〜!!」

 

 四宮は普段通り、生徒会室にやってきた。

 

「心臓、悪いのか…?」

 

「いえ、綺麗で健康な心臓してるそうです」

 

 四宮は顔を引き攣りながらそう言った。まぁあんな診察結果、言えるわけないからな。俺だったら黒歴史扱いにするわ。

 

「じゃあ他のところが悪いのか!?」

 

 白銀は四宮の肩を掴んで迫る。

 

「完治したのか!?」

 

 してない。

 

「原因は!?」

 

 お前。

 

「…はぁ…」

 

 俺はそのやりとりを見て、大きく溜め息を吐いた。そこに伊井野が尋ねてくる。

 

「?どうしたんですか、比企谷先輩」

 

「…いや。俺ちょっと保健室行ってくる」

 

 なんかもう頭が痛くなるわ、これ。

 

 


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