やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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生徒会は撮りたい

 

「モデル、ですか?」

 

 普段のように生徒会の業務を行なっていると、生徒会室に校長がやって来た。曰く、秀知院のパンフレットを作りたい故に俺達にモデルをやってもらいたいとのこと。

 

「モデルさんですか!楽しそ〜!」

 

 モデル、なぁ…。

 俺の場合、集合写真でも体調不良枠で右上辺りに載せられそうなほどの存在感の薄さだし、なんなら秀知院の評判を貶めるような目してるし。

 

 自分で言ってて悲しくなってきちゃう。

 

「申し訳ないのですが…。私は家の方針で、不特定多数が目にするメディアに顔写真を掲載してはならない決まりでして…」

 

「オゥ!顔出しNGトイウやつデスか!ソレはトテモ残念デス!」

 

 なんでこの校長時々若者っぽいところあるんだろ。ポケモンGO然り、顔出しNG然り。

 すると校長は右手で目を隠して。

 

「コウイウのでも駄目デスか?」

 

「なんのパンフだ!」

 

 そんなエッチなパンフは秀知院に存在すべきじゃない。本当なんでこんなやつが校長なのか未だに疑問なんだが。秀知院大丈夫?

 

「私は気にせず、皆さんだけで。元々写真を撮られるのは得意ではないので」

 

「そうデスかー……。私の作りタイパンフレットはズバリ、この学園で青春したいト思わせるモノデス。ナノデみなサンのイキイキとシタ姿を見せテくだサイ」

 

 絶対お門違いだと思うんだけどな。この生徒会メンバー、いきいきとしてるやつなんて一人ぐらいしかいない。

 

「こ、こうですか?」

 

 藤原の場合、いきいきというかわんぱくだ。

 

「こ、こう?」

 

 白銀、それは初めて七五三に来た子どもの反応。

 カメラを意識しているからか、ナチュラルな振る舞いが出来ないでいる。まぁ仕方ないと言えば仕方ないけど。

 

「ハイ次!」

 

 校長は、次に伊井野にカメラを向ける。しかし、伊井野はバインダーで顔を隠してしまう。

 

「ドウして顔を隠すんデスか?」

 

「だ、だって、恥ずかしい…」

 

「ノー…それはトテモモッタイナイ。ソンナにカワイイお顔をシテいるのニ」

 

「可愛い…?」

 

「ソウです!お人形サンみたいデチャーミング!とてもプリティナノニ!ソノ可愛い顔を見せてクダさい!」

 

 校長の褒め言葉に伊井野は折れてしまい、恥ずかしがりながら撮影に協力し始めた。

 

「街中で変なスカウトとかされたら絶対付いて行きそうだよなあいつ」

 

「100パーあり得ますね」

 

 チョロインもいいところだ。危う過ぎるだろマジ。絶対大学のウェイ系が集まるサークルとか入ったらあかんやつだぞ。お持ち帰りまっしぐらだ。

 

「石上クン。彼女ノ横に立ってモラエますカ?」

 

「え、僕も…?比企谷先輩でいいんじゃ…」

 

「ツベコベ言わずニ!」

 

 石上は強制的に伊井野の横に立たされる。その瞬間、二人は目も合わせずに嫌悪感丸出しの表情と化す。

 

「オー…コレはイケマセーン…」

 

 石上と伊井野じゃ相性が悪いのは分かり切っていたこと。パンフのための撮影とはいえ、めっちゃ嫌な顔してる。それはもう素晴らしく清々しいぐらいに。

 

「四宮サン、石上クンの身嗜みを整エてもらえマスか?」

 

「は、はい…」

 

「伊井野サンも少しオ硬イ…チョット髪をオロせマスか?」

 

 身嗜みを整えた石上、髪を下ろした伊井野の姿はさながら模範となる生徒そのものである。というより、なんか昭和の生徒みたい。

 

「オオ、いいデスね!」

 

 と、校長は興奮しながら撮影を続ける。石上と伊井野の撮影を終えると。

 

「次ハ藤原サンと白銀クン!カモン!」

 

 指名が入った藤原と白銀は、まるでマリオネットのように奇怪な動きをしながらカメラの前に入る。

 

「ノー…モット自然ニ」

 

「…と言われても」

 

「そうデスね……何カ設定がアッタラやりヤスいデスカネ…。デハ二人ハ恋人トイウ設定で!」

 

 四宮の目の前でそれはタブーもいいところだ。

 

「ちょっとそれは…」

 

「アクマで設定!ソウ思ってポーズをトルだけ!」

 

 校長の勢いに押し負けてしまい、二人は仕方なくその設定で撮影を行うことにした。

 生徒会室を退室し、二人は廊下に並び立つ。

 

「廊下デ語らうフタリ……フとした瞬間手が触れ合っテ…」

 

 藤原と白銀の手が触れ合った途端、まるで初々しいカップルを思わせるような様子を見せる。

 しかし一方で、その状況に何一つ納得のいってない四宮が、二人を撮影する校長に対して殺意と敵意を込めた視線を向ける。

 

 この校長もう殺されるんじゃねぇかな。

 

「シカシ残念デス……。本当ハ白銀クンの恋人役に相応シイと思ってイタのは、四宮サンだったのデスが……」

 

「えっ」

 

「白銀クンと四宮サンのツーショットが撮りタイ…そう思っテ依頼をシタノデスガ…。…二人は互いを高メ合ウ理想ノ関係……私はソレが撮りタカッタ…。コノ悔しさが分かりマスか!?」

 

 俺には全く共感出来んけど、めっちゃ共感してるやつが一人いるぞ。それはもうあからさまに。

 

「デハ最後に、比企谷クンの撮影ニ移りタイと思いマス」

 

「え、俺まで…?」

 

「トハイエ、比企谷クンの目は少シ特徴的なのデ、後ろ姿を映すダケになってしまいマスが…」

 

 後ろ姿ってなんだ。そんなん俺じゃなくても良くない?

 後ろ姿だけ映すとか何そのインスタとかツイッターのプロフィール画像に載ってそうな写真。

 

「あ、それなら!」

 

 藤原が何か思い出したのか、生徒会室に戻っていく。そしてすぐに廊下へと戻って来た。

 

「何をしていたんだ?」

 

「比企谷くん、これを!」

 

 俺は藤原からメガネケースを渡される。

 

「これ、まさか…」

 

「はい!フランス校との交流会で比企谷くんが掛けていた伊達眼鏡です!」

 

「また懐かしいもん引っ張り出して来やがって…」

 

 藤原主催のNGワードゲームにおいて、藤原に負けた俺は何かしらのイメチェンを行う必要があった。その結果、掛けるだけでイメチェンとなる伊達眼鏡にしたのだが。

 確かに生徒会室に置きっぱなしにしていたが、まさか藤原が回収していたとは思わなんだ。俺同様、存在が薄過ぎて忘れていた。

 

「確かに、比企谷は眼鏡を掛けると憎たらしい程に顔付きが凛々しく見える」

 

「会長が言うほどですか……そう言われると、僕も少し見てみたいですね」

 

「比企谷先輩!早くっ、早く掛けてください!」

 

 この眼鏡掛けた時、フランス校の人に結構見られたんだよな。視線を集めるのはあまり好きじゃない俺には、あの眼鏡は罰ゲームだった。

 フランス校との交流会を懐かしみながら、俺は受け取った眼鏡を掛ける。

 

「…やはり、眼鏡姿の比企谷は見慣れんな」

 

「は?いや、は?誰ですかこれ。僕の知り合いにこんなイケメンはいないんですけど。なんすかこの不平等。今比企谷先輩に殺意が湧いたんですが」

 

「比企谷先輩……カッコいい……」

 

「オウ!この見た目ナラ、秀知院のパンフレットに載セル価値がありマス!」

 

 ねぇなんで俺の眼鏡姿で盛り上がれるの?馬鹿にしてるの?

 

 石上、そんな敵意バンバンに向けないで。

 伊井野、そんな熱が帯びた視線を向けないで。

 

「今度は図書室を使っテ、撮影を行いマショウ!」

 

 そう言って、図書室に向かった。放課後に図書室にいるのは図書委員しかいないのが多いため、校長の交渉により撮影許可を得た。

 

「デハ、比企谷クン。コレを」

 

 校長は本をこちらに渡す。

 

「図書室で本を読んデイル比企谷クンを、今から撮影しマス。特ニ何カする必要はナイので、普通に本を読んでてクダサイ」

 

「はぁ…」

 

 俺は言われるがままに、本を読み始める。そんな最中、横からシャッター音が連続して聞こえる。

 本読んどけって言うけど、そもそもシャッター音がうるさくて内容に集中出来ねぇって。

 

「…なんか比企谷先輩があんな風に読んでると、びっくりするぐらい絵になりますね」

 

「あれほど文学に適した人物はそういないのではないか」

 

 俺の撮影を終えると、校長は今度、屋上に集まろうと言い出した。指示に従い、俺達は屋上へと向かう。

 

「ソレでは、校庭を背に集合写真を撮りマショウ!」

 

「…集合写真…」

 

 個人的にあまり好きじゃない集合写真。俺も四宮同様、あまり写真を撮られるのは好きじゃない。

 

 しかし。

 

「……」

 

 校長が集合写真を撮ると言ってからの、四宮の様子が何かおかしい。まるで、それを羨むような。叶わない夢を見ているかのような。そんな表情であった。

 

「…四宮。お前も混ざればいいだろ。集合写真」

 

「え?しかし…」

 

「四宮サン、コッチに来テクダサイ。最後は皆で記念写真撮リマショウ」

 

「…でも、私のために…」

 

「チガイマスヨ。これは、貴女の仲間が望んでることなんです」

 

 プライベートであれば四宮家もクソもない。データだけの話になる。不特定多数に見られることはない。問題にはならない。

 

「じゃあ、これで…」

 

 四宮がガラケーを取り出すと、突風が吹き始めた。その強い風は四宮のガラケーを吹き飛ばし、屋上から一気に下まで落ちていき、大破してしまう。

 

「あ、あはは……」

 

「四宮…」

 

「…ちょっと、拾って来ますね」

 

 四宮はそう言って、屋上から姿を消した。結局、その日に集合写真を撮ることはなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから。

 

「かぐやさん、ついにスマホ買ったんですか!?」

 

「…まぁ、ガラケー壊してしまいましたので…」

 

「頑固一徹……なんと言っても"不要です"、"昔から使っているので"と買わないの一点張りだったかぐやさんが…」

 

 藤原は「ようこそ文明社会に…」と涙をポロリと流して四宮を受け入れる。

 

「あの、ラインというものをインストールしてみたのですが…」

 

「わ〜!じゃあ交換しましょう〜!」

 

 藤原は喜んで四宮とライン交換を行なった。

 その光景自体は何らおかしくない。ただ、四宮の様子がおかしいように見える。上っ面では平然としているが、どこか中身がないというか。

 平たく言うと、普段に比べて元気がないように見えるのは、俺の気のせいなんだろうか。

 

「あ、会長。ラインのID交換してもらってもいいですか?」

 

「あぁ、IDな。勿論交換して…」

 

 四宮は流れるように白銀とラインを交換する。四宮の表情は依然変わらないものの、白銀の表情は驚きに満ちていた。

 そんな四宮に違和感を感じたのか、白銀は藤原に尋ねる。

 

「な、なぁ…今日の四宮何か変じゃないか?」

 

「気づくの遅いですよ……さっきからみんなでその話してるところです」

 

「先輩が落ち込むことってなんですかね」

 

「身内の不幸?」

 

「お腹が痛いとか?」

 

 どれもピンと来ない。そもそも四宮本家を毛嫌いしてる四宮が、身内に何かあっても何も思わないだろう。早坂に何かあったのならそれは別だが、普通に学校に来ているからそれはない。

 体調不良……で元気が無いのは有り得なくはないが、だからって策を弄さないで白銀にライン交換を行う意味が分からない。

 

「ゲームのやり過ぎで寝不足とか」

 

「それはあんただけでしょ」

 

「昨日携帯壊したことと関係あるか?」

 

 確かガラケーに愛着を持っていたと以前、四宮が言っていた。落ち込む理由とすれば、それが有り得そうだが…。

 

「まぁあれだ。変に気ぃ遣うと余計に悪いだろうし、普段通りするのが良いんじゃねぇか。もしかしたら自分で何か言い出す可能性だってあるだろうし」

 

「そうですね……」

 

 結果、いつも通りに振る舞うことにした。

 何が理由で落ち込んでいるか分からない以上、必要以上に踏み込むのは却って四宮の気分を害する可能性がある。

 

 いつも通りに。そう決めたそんな時。

 一通の通知が俺のスマホに。

 

「今生徒会のグループ作ったから、入っといて」

 

「はーい!」

 

「了解です」

 

「あっ今までグループ無かったんですね。良かった。私だけ招待されてないのかと思ってました」

 

「同感だ。俺もハブられてると思ってた」

 

「んなことしねえよ…」

 

 いやだって俺とかグループにいれたらそれだけでそのグループの価値が下がるし。

 中学校の頃、「えぇー、ヒキタニもグループに入れんの?」「別にあいついなくても良くない?」みたいな会話を聞いてしまって、こっそり泣いたからな。

 

「あっ、ついでに共有のアルバムも作りましょう!みんな自由に写真をアップしてくださいね〜」

 

「じゃあ僕は体育祭の写真を」

 

「スノウの写真全部送っていいですか?」

 

 皆が写真を送る中、俺は送られた写真を見るだけであった。残念ながら、俺のアルバムにはマッカンと食い物と小町しかないからな。生徒会のグループに送っても仕方のないものばかりだ。

 

「会長ってば、グループ作るのはかぐやさんがスマホ持ってからって決めてたんですよ。四宮が仲間外れになってしまうーって」

 

「でも良いタイミングですね。四宮先輩の携帯、データ移せなかったでしょうし。空っぽの携帯ってなんだか寂しいですから」

 

 止まらない通知。皆がそれぞれ、生徒会で撮影したものをアップしていく。あるいは、生徒会に関係ないものまで。

 

「…すごい量ですね」

 

「いっぱい撮ってますから〜!」

 

「…前の携帯が壊れた時、全部無くなってしまったと思ったのに…」

 

 四宮は、今日一番の笑顔で。

 

「却って、前よりいっぱいになってしまいました」

 

 …どうやら、四宮の様子が戻ったようだ。

 

 結果的には、ガラケー云々よりも、ガラケーの中にあるデータがトんだことが四宮の中で一番のショックだったんだろう。ガラケーじゃスマホにデータを移せない。

 だから彼女は、思い出が消えてしまったのだと絶望したのだ。

 

 しかし、世はIT時代。四宮より写真好きな連中がいる生徒会。四宮から思い出が消えたとしても、彼ら彼女らの、生徒会で作った思い出は消えないのだ。

 

「四宮先輩のスマホ、こないだ出たばっかのやつじゃないですか?いいなぁ」

 

「あれだろ。笑顔検出で撮影出来るってやつだろ?俺が持っても仕方ないスマホだわ」

 

 なんせ、俺の笑顔はスマホじゃ検出出来ない程の醜さだからな。スマホの機能まで抗える俺ってばマジレジスタンス過ぎてヤバい。

 

「折角ですし、試してみましょうよ」

 

「えっ、どうやるの…?」

 

 石上が四宮のスマホを借りて、丁度いい置き物にスマホをもたれさせて立てる。画面には、四宮が映っている。

 

「これでOKす」

 

「じゃあほらかぐやさん、笑って笑って〜!」

 

「えっ」

 

「笑わないと撮影されないですよ!」

 

「伊井野さんまで…」

 

 女子達がわいわいとスマホに映る丁度いい位置に集まる。

 

「ほら、会長。比企谷先輩も」

 

「おう」

 

「…へいへい」

 

 四宮のスマホの前に集まり、俺達生徒会だけの集合写真を撮ることが出来た。

 

 勿論、四宮は満点の笑顔で。

 

「比企谷先輩っ。この眼鏡姿、保存していいですか?」

 

「いいわけないでしょやめて?保存やめて?」

 

 嬉々とした表情で保存しようとする伊井野怖い。

 

 


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