やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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田沼翼は告りたい

「恋愛相談?」

 

「はい!恋愛において百戦錬磨との呼び名の高い会長なら、何か良いアドバイスが頂けるのではないかと思って…!」

 

 突如、名前も知らぬ男子が白銀を尋ねた。曰く、恋愛相談をしたい、と。

 

 名前も知らぬ男子Aくん。多分それは相談相手を間違えたな。恋愛において百戦錬磨?そんなわけがないだろ。恋愛だけで言うなら、まだあいつは毛が生えた程度の素人だぞ。告って振られてる俺の方がまだ百戦錬磨に近いぞ。

 とはいえ、白銀に恋愛相談するというなら、一旦席を外さなければな。

 

「そういう話なら、俺出て行くぞ」

 

「あ、待って。君にも聞いて欲しいんだ。やっぱり色んな意見が聞きたいからさ。頼むよ」

 

「…まぁ別にいいけど」

 

「仕方ない。生徒の悩みを解決するのも生徒会の者としての務めだ。どうにかしてやる」

 

 なんでお前はそんな自信満々なの?お前四宮関連で謎にチキンなところ見せるくせに。

 

「恋愛のことなら任せろ!俺は今まで、一度も振られたことがない!」

 

 そうだね。告白したことないからあながち間違いではないね。

 

「それで、相談というのは?」

 

「クラスメイトに柏木(かしわぎ)さんという子がいるんですが……彼女に、告白しようと思うんです!」

 

「…はぁ」

 

「でも、断られたらと思うと……。もう少し、関係を築いてからの方がいいんじゃないかと…。色々考えてしまって…」

 

 まぁ分からんでもない。告白して、振られてしまっては、今まで築いた関係が破壊する恐れがある。それに振られるだけならまだしも、それをクラス内で噂されたりしては、たまったもんじゃない。ソースは俺。

 

「ちなみに、その子と接点はあるのか?」

 

「バレンタインにチョコを貰いました!」

 

「ほーん…。どんなチョコだったんだ?」

 

「…チョコボール3粒です」

 

 えぇ……。

 それもう脈なしじゃねぇか。単純に普段からお菓子あげてる感じとあんま変わらんだろ。よくそれで告ろうと考えたな。

 

「これって義理ですかね?」

 

 義理ですら怪しいわそれ。よくてギリッギリの義理チョコだろうよ。

 

「おい白銀…。これは……」

 

 流石の白銀も、これが義理だってことが分からんくらいバカではないはずだ。腐っても学年一位の秀才だぞ。

 

「あぁ……これは……もう…」

 

「まぁあれだ。あんまり気を落とす……」

 

「間違いなく惚れてるな!」

 

「…なよ?」

 

 ごめんちょっと前言撤回してもいい?

 こいつバカだ。大バカだと言っても過言じゃない。チョコボールだぞ?義理ですら怪しいんだぞ?そんなのが本命なら、この世から童貞がもうちょい減るだろうよ。

 

「いいか?女ってのは素直じゃない生き物なんだ!常に真逆の行動を取るものと考えろ!つまり!一見、義理に見えるチョコも…!」

 

「逆に本命!?」

 

 逆に本命ってなんだよ。なんでお前もそんな「はっ!気づかなかった!」みたいなリアクションを取れるんだよ。屁理屈でももう少しまともな筋が通ると思うぞ。

 

 このまま白銀のペースに持っていけば、間違いなくこの男子は告白して振られる。したらこの男子は白銀を、ひいては生徒会を憎く思うだろう。「お前のせいで失敗したやんけ」みたいなことになりかねない。

 

「待て待て早まるな。いくらチョコを貰ったって言っても、その柏木?ってやつが、そんな気で渡したって限らないだろ」

 

「そう、そうなんです。実は僕、この間……」

 

 男子Aくんは思い出しながら、その時のやりとりを俺達に説明し始める。

 

『ねえ、君って彼女とかいるの?』

 

『え?いないけど…』

 

『フフッ、やっぱり。彼女いないって〜』

 

『いそうにないもんね〜』

 

『超ウケる〜』

 

『フフフ…』

 

 そこで、彼の説明が終わった。

 

「だから、揶揄われてるだけなのかなって思ってて…」

 

 お前もしかして嫌われるようなことした?何やったら女子四人に揶揄われるようなことになるんだよ。異性として見られる前に終わってる。

 これはもうあれだな。早々に事実を伝えて帰ってもらうしかないな。

 

「白銀。ちゃんと言った方がいいな、これ」

 

「あぁ……。…お前……」

 

「ゴクッ…」

 

「…モテ期、来てるな!」

 

 だから何故そうなる!

 今のどこにそんな要素があったの?単純に揶揄われているだけだぞ。それだけモテ期?

 そしたら俺はどうなる。小学校の頃から女子だけでなく、男子にも揶揄われていたぞ。お前の言い分だと、俺は小学校の頃から大人気だったことじゃねぇか。まさか、"比企谷菌"が褒め言葉だと言うのか。そんなわけないだろ。

 

「何故そんなに女を疑ってかかる!女だってお前と同じ人間だ!」

 

「じゃあ聞くけど、今のどこにモテてる要素があるんだよ」

 

「比企谷、お前は分かっていないようだな。ならば、分かりやすく説明してやろう!こういうことだ!」

 

 白銀は先程の彼の説明を借りて、新しく彼に伝わるように説明し始める。

 

『ねえ、君って彼女とかいるの?』

 

「いないなら付き合って欲しいなぁ〜」

 

『え?いないけど…』

 

『フフッ、やっぱり』

 

「私の運命の糸で繋がっているのね!」

 

『彼女いないって〜』

 

『いそうにないもんね〜』

 

「だって高貴過ぎるもの!」

 

『超ウケる〜』

 

「フリーなんだ!超嬉し〜!」

 

『フフフ…』

 

「彼に相応しいのはこの私」

 

 と、白銀は彼女達の真似をして、男子Aくんに分かりやすく説明したのだが。

 

 いやポジティブ!何故そんなポジティブに表現出来るんだよ!なんなのそのハーレムラブコメ!

 時々、白銀の想像力が怖く感じる。こんなんが生徒会長でいいのか。

 

「そんな、バカな…」

 

「その通りだよ。お前よく分かって…」

 

「彼女達の中から一人を選ばなきゃならないなんて!」

 

「…る?」

 

 もうこの男子も全くわっけ分かんねぇよ。何お前白銀の口車に乗せられてんだよ。

 

「僕が柏木さんと付き合うことで、彼女達の友情にヒビが入ったりしませんか?」

 

「最悪、イジメに発展するかもしれん。女同士の友情とはそんなものだ」

 

 だとしたらイジメの原因は白銀の愉快な考えになるだろうな。言っとくけど俺は何もしないぞ。

 

「だが大丈夫だ。彼女にはお前がいる。お前が彼女を守ってやればいい」

 

「僕だけが、彼女を……」

 

 あーあ俺知らね。

 石上がいてくれたら助かったんだけどな。

 

「…ん?」

 

 不意に、俺は生徒会室の扉を見る。すると、扉の隙間から四宮が覗いているのが確認出来た。何してるのあいつ。

 

「でも会長。僕、告白なんか初めてで…。どういう風にすればいいのか…」

 

「そんなもん、放課後に教室でも呼び出して、"好きです。付き合ってください"って言えばいいだろ」

 

「いや、それでは少しダメだ。もう一押し足りない」

 

 恋愛経験素人に否定されると、なんかイラッとするのはなんだろうか。

 

「…じゃあどうすんだよ」

 

「フッ、いいアイデアがある」

 

 すると、白銀は生徒会室のドアへと歩み寄る。同時に、覗き見していた四宮はドアの後ろへと隠れた。

 白銀は、丁度四宮が隠れたドアの裏側に立つ。男子Aに分かりやすく伝わるように、白銀の前に柏木という女がいると仮定して説明する。

 

「ここに、(くだん)の女がいるとするだろう?」

 

「は、はい」

 

「それを……こう!」

 

 白銀は勢いよく、ドアを叩く。そして。

 

「俺と付き合え」

 

 ……ドアの反対側にいる四宮は無事だろうか。しかも結構迫真の演技だったけど。四宮に壁ドンしてるのとなんら変わらない。

 

「こんな風に、突然壁に追い詰められ、女は不安になるだろう。しかし、そこで追撃するように耳元で愛を囁いた途端、不安はトキメキへと変わり、告白の成功率が上がる」

 

 とりあえず四宮のことは放っておこう。それより、こっちに問題がある。

 あまり仲良くないやつに壁ドンされて愛を囁かれても、不安は不安でしかないだろ。一種のホラーシーンだよ。

 

「この技を俺は、壁ダァンと名付けた!俺が考えた!」

 

 それもうあるやつだよ。何ちょっとカッコよさげに改名してるんだ。

 流石に男子Aも、壁ドンくらいは知って…。

 

「天…才?」

 

 バカばっか。本当バカばっかか、この学校の生徒は。

 

「頭が痛い…」

 

 何、このバカみたいな恋愛相談は。相談する側も乗る側も恋愛知識0かよ。恋愛小説か漫画読んでこい。

 

「ありがとうございます!会長のおかげで勇気出ました!」

 

 …とはいえ、失敗するかどうかはさておいて、告白する勇気を与えたのは白銀だ。そういう意味では、まぁ悪くない考えではあるな。

 

「流石、あの四宮さんを落としただけあります!」

 

「え」

 

 恋愛百戦錬磨だったり、四宮を落としたり、色々噂に尾鰭(おひれ)が付いてるよ。まぁ客観的に見れば、そう捉えることが出来るのかも知れない。

 しかし、現実は全く違うのだ。

 

「い、いや、俺と四宮は別に付き合っていないぞ」

 

「え、そうなんですか?結構いい感じに見えますけど…」

 

 多分どっちかが早く告白すればすぐにでも付き合える段階までいってる。あながち間違いじゃない。

 

「いや、むしろ逆だ。最近…嫌われているんじゃないかって思うんだ…。興味すらないのかと…」

 

「?そんな素振りどこかにあったか?」

 

 むしろ、白銀のことを時々雌の表情で見てるんだけど。

 

「この間、四宮めっちゃ俺の弁当見ててすっげえ軽蔑しててさ……その上憐れまれて、牡蠣まで譲られそうに…」

 

「あー…」

 

 あれか。あの藤原のKYが露呈されたあの昼休みか。あれ白銀の弁当にってより、藤原の全てを軽蔑してたから、大丈夫だよ。

 

「会長!大事なのは自分がどう思ってるかですよ!会長は四宮さんのことどう思ってるんですか!?」

 

「俺が四宮をどう思ってる、か……」

 

「この際だ。言ってみ」

 

 ここで白銀が四宮の想いを明ければ、隠れて聞いている四宮から告白する可能性もなくはない。俺個人としても、付き合うならとっとと付き合えって話だ。

 

「まぁ正直、金持ちで天才とかで癪な部分はあるな」

 

「ん?」

 

「案外抜けてるし、内面怖そうだし、あと胸も……」

 

 これヤバイな。このままだと四宮に嫌われるぞ。

 

「でもそこが良いっていうかな!可愛いよ実際!美人だし、お淑やかで気品もあるし!それでいて賢いとか完璧過ぎんだろ!いやぁ、四宮ってマジ最高の女!」

 

 急に掌を返しやがった。

 さてはこいつ、四宮の存在に気づいたか?

 

「(っぶねええ本人めっちゃいるし!!気付けて良かったああぁ!!)」

 

 あっこの顔気付いた顔だ。しかもめっちゃ焦った顔。

 分かりやすっ。

 

「(いつからいたのか分からないが、とにかくこの相談を(しめ)ねば…!)」

 

 白銀は男子Aくんの両肩を掴み、必死に説得する。

 

「とにかく、告白しなきゃ何も始まらん。変に策略を練って駆け引きなんてしても、話がこんがらがるだけで良いことないぞ」

 

 経験者は語るってやつか。焦りすぎて自分の言葉がブーメランだってことに気付けていない。いっそのこと笑えてくる。

 

「ぼ、僕頑張ってみます!本当に、ありがとうございました!」

 

 意を決したのか、男子Aくんはお礼を告げ、生徒会室から飛び出して行った。

 

「ど、どうだ比企谷。それっぽい感じで、恋愛相談に乗れたのではないか?」

 

「…とりあえず、アレだな。お前も頑張れ。恋愛百戦錬磨の白銀」

 

「その呼び名はやめてくれ……大体、誰だよそんな意味分かんねえ噂流したの……」

 

 その後、四宮の機嫌は終始良かったそうな。

 

 そして、後日。

 

「…ん?」

 

 放課後になり、生徒会室に向かおうと廊下を歩いていると、B組の教室の前にこの前の男子Aと女の子がいた。あの女の子が、柏木さんという子なんだろう。

 何をしているのだろうと、少し遠目から見ていると。

 

 壁ダァン!

 

「マジでやりやがった…」

 

 男子Aは、白銀が編み出した(仮)壁ダァンを柏木さんに繰り出し、そして何かを囁いている。柏木さんは真っ赤になるも、最後には小さく頷いた。流れを見る感じ、どうやら告白成功のようだ。

 

「…嘘やん」

 

 白銀。お前やっぱり恋愛百戦錬磨だったわ。今度から恋愛相談するってなったら、よろしく頼むわ。

 


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