年末年始も終わり、3学期が始まった。また社畜のように働かなければならないのだと思うと、憂鬱になる。そんな思いで生徒会室に向かった私、比企谷八幡。
しかし、そこに居たのは。
「ついに物理的に頭イッたか」
「ついにってなんです?」
俺が生徒会室に入ると、白銀とスキンヘッドの女が居た。その正体は誰であろう、藤原千花だった。
「ていうか何?その頭。ヅラ?」
「はい!かぐやさんの誕生日にサプライズをしたくて!」
「…ドッキリってやつか」
「そゆことです!」
いやまぁある意味ドッキリになるよ。けど代わりに好感度が下がる可能性あるけど大丈夫?
「ドッキリするにしてもハゲヅラは無しだろ…」
「そこに関しては悩みどころなんですよね…。もっと凝った方が良いのかな…」
「というか、四宮の誕生日先週だろう。タイミング逃してないか?」
「いいえ!こういうのは気持ちが大事なんです!」
藤原にしてはまともな事言った。
まぁ藤原は四宮の事が好きだし、ちゃんと祝ってあげたいっていう気持ちがあるんだろう。偶には良いとこあるんだよなぁこいつ。
「こういう所でちゃんとしないと私の誕生日を祝ってくれないかも知れないじゃないですか」
前言撤回。こいつは私欲に塗れた女。
献身?慈愛?そんな奴どこに居る。やっぱこいつの象徴は強欲と自己愛だな。
「つーかお前、白銀の誕生日忘れてたろ」
「私その後ちゃんと消しゴムとその辺に咲いてた花あげたじゃないですか」
「その辺つった?」
俺の誕生日プレゼントは確か、とっとり鳥の助のぬいぐるみだったな。未だに飾ってはいるが、小町が家に来た時「えっ何このTwitterのロゴを似せたぬいぐるみ」って言ってた。
それはさておき、俺も四宮に誕生日を祝って貰ったからな。藤原のサプライズに一枚噛んでやるとするか。
「…分かった。協力してやる」
「つっても、どういう系統のドッキリにするんだよ」
「苦いセンブリ茶を出すとかブーブークッションを仕掛けるとかか?」
それやった瞬間お前の好感度も下がるけど大丈夫?
「そんなド定番な仕掛けして何が楽しいんですか?もっと人の心を動かすような物を考えましょうよ!かぐやさんの慌てふためいた顔、見たくないですか?」
にこやかにそう言い放つ藤原。清々しいほどのゲスだ。
「例えばほら、私達が突然喧嘩始めて。ギスギスした空気からのドッキリでしたーみたいなのとか」
「よくテレビでそういうドッキリ見るな」
「俺ああいうの苦手なんだよな。なんか誰も幸せにならないから見ていて辛い」
そうか?ドッキリとはいえ、内輪揉めをしてる場面を眺めるのは嫌いじゃないぞ。だって内輪に入って無いからな。
「じゃあ逆にイチャイチャしてみます?」
「イチャイチャ?」
「冬休みの間に私達が付き合ったっていう設定でイチャつき始めて」
「いやいやいや!!」
白銀と四宮が付き合っている事を知らないとはいえ、こいつ度胸凄ぇよな。ナチュラルに地雷踏んで行くんだから。
付き合う前から藤原をゴミのような目で見たり、殺意を向けたりしてたのに。付き合った今でそんなドッキリ仕掛けたら。
生徒会室が殺人現場になるに違いない。
『会長は私だけの彼氏なんだから……私の会長に触れるなんて、許されると思いますか…?』
あかん。藤原が包丁で刺される未来が容易に見えてしまった。
そんな未来が見えたその時、生徒会の扉が開く音がした。四宮かも知れないと思い、藤原は白銀の腕にしがみついた。
しかし現れたのは。
「お、石上」
「なんだ石上くんか」
このカオスな状況を見た石上は一言。
「…なんすかこれ」
「えっとね……私と会長…冬休みから付き合い始めたの…」
頬を赤らめて、恥ずかしがりながらそうカミングアウトする藤原。一方、石上の反応は。
「そんなハゲヅラ女と付き合う男が居てたまるか」
「ぶっ!」
石上のツッコミに思わず吹き出してしまった。
「ドッキリ仕掛けるにもごちゃ付き過ぎです。ハゲか交際か要素どっちかに絞ってください。登録者数1000人のYouTuberでももうちょいまともに出来ますよ?」
藤原がボケ担当で石上がツッコミ担当にすれば、良いお笑いコンビになるのではないだろうか。
「こんなんじゃ四宮先輩を騙せませんよ。ていうか会長が藤原先輩を選ぶって時点でリアリティゼロじゃないですか。もう少し現実味のある設定用意しないと」
「く、くく…」
ボロカスに言われる藤原可哀想だけど面白ぇわ。腹を押さえて笑いを堪えていると、藤原が視線を俺に向ける。
「…え?」
「そうですね。石上くんの言う通り、リアリティが高い設定の方が良いですもんね〜。ねぇ?比企谷くん?」
すると藤原は俺の腕を強引に掴んで引っ張る。
「今から私と比企谷くんは彼氏と彼女という設定で行きましょう」
「は?」
「陰でゲラゲラ笑ってた罰です!いいですよねぇ〜?」
「嫌だ。絶対嫌だ」
「なんでそこまで嫌がるんですか!ていうか罰ってどういう事ですか!普通の男子なら結構喜ぶと思うんですけど!」
お前が普通じゃないから喜べないんだよ。
藤原がハゲヅラを取り外すと、同じタイミングで生徒会室の扉が開く。今度こそ、四宮だと思ったのだが。
「あ、ミコちゃん!」
現れたのは伊井野だ。すると藤原は、ニマニマしながら伊井野に近づく。
「ミコちゃんミコちゃん。実はね、私と比企谷くん…」
「!ちょっと待ってください!藤原せんぱっ…」
「付き合い始めたの〜!」
石上の静止を聞かず、藤原はとんでもない核弾頭を生徒会室に投下した。
藤原のその言葉を聞いた伊井野は。
「藤原先輩」
「へ?」
「ま、まずい…」
伊井野の高い声が嘘のような、氷のような冷たく低い声。事情を知っている石上、伊井野の豹変ぶりに気付いた白銀と藤原は冷や汗を流す。
「そんな冗談、面白くないですよ」
俺に見せる濁った目。それを今や、藤原に向けている。仕掛けた側の藤原は目線で「助けて〜!」とSOSを送ってくる。
「い、伊井野。冗談だから。な?ドッキリだから。大体、こいつと付き合うとかあり得んから」
俺は「ドッキリ大成功〜!」のプラカードを持った白銀を指差す。それを確認した伊井野は。
「…ですよねっ。本当、藤原先輩は人を揶揄いたがるんですから」
と、普段の伊井野に戻った。
あー怖かった。あのまま芝居を続けていたら、四宮より先に伊井野が藤原を殺していたかも。
「い、伊井野は何をすれば四宮が驚くと思う?」
「そうですね……あ、例えばこういうのはどうでしょう。私が何かミスするとします。その度に、比企谷先輩が私をぶん殴るんです」
「なんで!?」
「比企谷先輩ってあまり怒ったり、暴力を振るったりしないじゃないですか。もしその場面を四宮先輩が見たら相当驚くと思うんです」
「そりゃ驚くだろうけど!」
「あ、比企谷先輩さえ良ければ首を絞めてもらって…」
「やらねぇから。怖いから」
なんでお前は俺から何か物理攻撃を受けたいの?マゾなの?
「別に私は構わないのですが」
「やめて?その前からちょくちょく謎のDV耐性見せつけてくるのやめて?」
というか、サプライズと言いつつ少しだけ願望が入ってない?それ。
「やっぱりここは最初に立ち戻って…」
三度、生徒会室の扉が開いた。入って来たのは、今度こそ四宮だった。
「遅くなって申し訳ありません」
「あっ、かぐやさん!」
すると、藤原はドッキリを仕掛けるために四宮に近づく。
「ねぇねぇかぐやさん!会長に彼女出来たの知ってます?」
「ちょっ!?」
「……あら」
「相手誰だか分かりますか〜?」
藤原って自分から地雷踏みまくるのどうにかしろよ。自殺志願者かよ。
「えぇ、勿論知ってますよ」
しかし、四宮の様子がおかしい。藤原をゴミみたいな目で見る事はなく、ただ笑むだけだった。
「私がこの人の彼女です。私と会長は、冬休みからお付き合いしています」
「え」
四宮自ら白銀と交際している事を暴露した。その内容に、藤原、石上、伊井野は目を見開いた。
付き合っている事を知っていた俺も、驚いたのだ。まさかこんなあっさり暴露するとは思わなかった。
「そ、それって本当に…?」
「えぇ。キッスだって、もう何度もしてますよ」
それも暴露しやがった。四宮のカミングアウトに周りは顔を赤くする。事情を知っている俺ですら、少し顔が熱い。
何故キスをしている事を知っているか。それは、早坂が愚痴っていたからだ。
『隙あらばあのキスは良かったとかこのキスは気持ち良かったとかマウント取ってくるかぐや様にそろそろキレそうなんだけど』
俺同様、彼女の目が腐っていたのを忘れはしない。
「ふふふ、驚きましたか?」
「それは、もう」
「そうですか」
すると四宮はソファに置いてある「ドッキリ大成功〜!」のプラカードを持って、にこやかにこちらに向ける。
「それは何よりです」
「え」
「最初から見えてましたよ。こういうのはちゃんと隠さないと…」
どうやら、全て筒抜けだったらしい。逆にドッキリを仕返された藤原達は。
「なーんだ!びっくりしましたー!」
と、安堵していたようだが。
俺だけは知っている。あれはドッキリなんかじゃない。ガチだ。付き合ってる事も、キスをしてる事もガチなのだ。
四宮家のお嬢様は、どうやらお転婆のようだ。しかし、それはこの日だけじゃなかった。
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翌日。
「皆さんの私に対する扱い態度が最近本当に酷い」
今更気付いたのね。もっと気付く場面あったよね。なんなら結構序盤から。
「そんな事……んー……まぁそうだな……んー……そうだなぁ」
濁った結果擁護出来ないのかよ。
「まぁハゲヅラ被る女をどう擁護すりゃ良いんだって話だよな」
「ほーらすぐディスる!会長も会長で結局擁護してくれないし!」
仕方ない。お前はもうそういう立ち位置になってしまったんだ。
「もうみんな酷いです!人の事ハゲヅラって言ったり!恥知らずとか言いがかりばっかり!」
「全部本当の事じゃないですか」
「わ、私は藤原先輩をまだ尊敬しています!」
「まだ?」
伊井野ですらちょっと怪しいじゃねぇか。
「比企谷くんや石上くんが入って来てからですよ!私がこんなポジションになったのは!」
そんな事ないだろ。
「かぐやさんだけですよ私に優しくしてくれるのは!」
そんな事ないだろ。
「私これでも生徒会室の外では人気者の藤原さんなんです。ここの皆さんだけですよ?私をこんなにコケにしてくれるのは。一度認識を改めて貰う必要があると思いました。そこで今日のゲームなんですけど〜」
今のゲームの前振りだったのかよ。長ぇよ。YouTuberかよ。
「私と皆さんで"愛してるゲーム"をしましょう!」
「あっ悪い。俺今日撮り溜めしてたプリキュア見たいから先帰るわ」
俺は帰宅準備をしてそそくさと帰ろうとするが、そうは問屋が卸さない。藤原が俺の肩を掴んで引き止める。
「プリキュア見てる事にドン引きですがとりあえずやりましょうか」
「愛してるゲームってなんだ?」
愛してるゲーム。内容はシンプル。相手に「愛してる」と伝えて照れさせた方が勝ち。
というか、なんでこのゲーム持って来たん?俺以前に藤原にリアル人生ゲームでやったんだけど。
「とりあえずやってみましょう。比企谷くん」
「え、ちょ…!」
「愛してます」
「っ!」
藤原が頬を赤らめながら、面と向かって俺にそう伝えた。
クソっ。これは何かの間違いだ。藤原ごときの言葉で俺の心が揺るがさられるなど。
顔あっつ。
「あれあれ〜!?散々私を
この女、ここぞとマウント取って来やがる。だから酷い扱いを受けるんだろ。
「とまぁ、照れちゃったら負けという簡単なゲームです。普段散々私をバカにしてる皆さんです。雑魚谷くんみたいに、まさか簡単に照れたりしませんよね〜?」
俺の名前が雑魚扱いになってしまった。ちょっと語呂が良いのがムカつく。
「するわけないでしょう」
藤原の煽りに、石上が受けて立つ。
もしかすれば、石上なら照れないのかも知れない。
「自信の方は?」
「藤原先輩相手に今更……これまでの事考えてくださいよ…」
「まぁね…この1年間、石上くんとは散々やり合ってますから。でも石上くんのディスってちゃんと一線引いてくれてるっていうか、本当の所は傷付かないように弁えてるんでしょ?そういう所は安心出来るっていうか…」
段々と、藤原の頬が赤くなる。恥ずかしがりながら、石上に好意を伝えていく。
「腹は立つけど、嫌な気持ちになった事は1度もない。だから私ね、石上くんとやり合ってる時、イライラより楽しさが先に来ちゃうんだ」
その言葉一つ一つに、石上は目を見開く。
「えへへ。石上くん、好きだよ」
藤原ははにかみながら石上に好意を伝えた。そんな石上の反応は。
「っ……」
「はいドーン!クソザコ極まれり〜!」
思い切り赤面していました。藤原はすかさず石上をおちょくる。
「そういうすぐに調子に乗るとこ改めた方が良いですよ。僕そういう人を弄ぶ嘘好きじゃないです」
「んー…でも、今言った事は本音ですよ」
「え……藤原先輩…」
石上は再び照れる。しかし。
「はいドーン。学習しないですね〜」
あいつに煽られた奴って多分トラウマが出来そうだと思うのって、俺の気のせい?
「…つか、言われ慣れてない奴がいきなり言われたら照れるのも仕方ないだろ。嘘でも」
「そういうもんですか〜?あ、じゃあ比企谷くん。ミコちゃんとやってみましょうか」
「は?」
こいつなんで前回ので学習しないんだよ。俺がそんなんやってみろ。伊井野どうなると思う。
『愛してるって……えへへ……比企谷先輩に愛してるって言われたぁ……』
絶対ダメだろ。目に浮かぶわこんなん。
「藤原先輩、それは流石に…」
「石上」
石上が藤原先輩を静止しようとすると、それを遮るように伊井野は石上の名を呼ぶ。石上は伊井野の方に振り向くが、伊井野は石上に対して「黙れ。それ以上喋ったら殺す」と言わんばかりの殺気を出している。
「…仕方ないですし、藤原先輩のゲームに付き合いましょう。ね、比企谷先輩」
「…お、おう…」
伊井野の圧に負けてしまい、俺は仕方なく付き合う事にした。
「伊井野。…あ、愛してる…」
言われ慣れてないのは事実だが、同様に言え慣れてないのも事実。そもそもこんな合コンみたいなノリ知らねぇから。
「…はい。私も愛してますよ、比企谷先輩」
…あれ、意外と普通だな。もっと呪文みたいな息継ぎ無しの言葉の連続が来ると思ってた。
もしかしたら自意識過剰だったか?なら俺恥ずいんだけど。
「会長達もやりましょうよ〜!」
「お、俺達も!?」
藤原は、まず白銀を標的にした。彼女持ちの白銀を標的にするとは、本当にあいつ地雷踏み抜くよな。俺より悪質なんじゃねぇのか。
「行きますよ会長…」
ここで耐えたら漢だが、ここで耐えなかったら死者が出る可能性がある。
「会長…愛してるっ」
藤原の口撃。対する白銀は。
「え、なんで泣いてんの?」
何故か白銀の目からは涙が溢れていた。どういう感情なんそれ。藤原に「愛してる」って言われたのがそんな嫌だったのん?
「藤原さん、私もやってみて良いですか?」
「勿論です!」
「では…」
四宮は咳払いし、白銀に視線を向ける。
「会長、だぁいすき」
「っ!?」
白銀は思わず四宮から目を逸らした。過去の四宮では、人目を憚らず白銀に好意を伝えたりしなかった。最近変なスイッチ入ってるだろ。
恋は人を変える、って事か。にしても変わり過ぎだけど。
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愛してるゲームを行なったその夜。とある人物は、イヤホンを耳に付けて悦に浸っていた。それも、今まで以上に。
『伊井野。…あ、愛してる…』
「…せんぱぁい……」
その蕩けた表情は誰かに見せれるような物ではない。誰も知らない、伊井野ミコの堕落したその表情は、まるで雌の顔と言っても過言ではない。
「私の…私の王子様に…愛してるって……えへへ……」
伊井野はあの時、誰にも知られずに録音をしていたのだ。もしかすれば、比企谷が自分に「愛してる」と言う可能性を踏んで。
結果は成功。伊井野の予想が的中。
その録音した音声をイヤホンで聴いて、伊井野は雌の表情になっているという事だ。
ゲームとはいえ、伊井野は心の底から恋焦がれている相手に「愛してる」と言われたのだ。どんな意味であれ、伊井野が堕ちてしまうのも無理は無い。
「…先輩のキリッとした目付きは、私をドキドキさせてくれる。先輩の声は、私の身体を熱くしてくれる。先輩の優しさは、私を温かくしてくれる」
伊井野は誰も居ない部屋の中で、比企谷の事を呟いていく。一言一言、彼に対する想いが溢れる。とても深く、とても重く。
「…比企谷ミコ……結婚したら私も比企谷先輩の苗字を……あ、伊井野八幡も良いかも……」
付き合っているわけでもないのに、もう結婚の事まで考えていた。
「子どもは2人が良いかな…。男の子と女の子1人ずつが理想だけれど……なんて名前にしようかな……」
結婚を見据えて付き合っているわけでもないのに、既に子どもの名前を考え始めている。
伊井野は所謂、夢女子。フィクションの世界に自分が考案した人物、または自分自身をぶち込む事で、作中のキャラと恋愛関係を築いたりして、展開を楽しむ女子。故に、その手の妄想が得意である。
比企谷と付き合う妄想。比企谷とデートをする妄想。比企谷とセックスする妄想。比企谷と結婚する妄想。比企谷と一緒に家庭を築く妄想。
まぁ愛が重い女であれば、そういう妄想をする事はおかしい事では無い。あり得る話だ。
しかし、彼女はそれだけでは飽き足りない。
比企谷と幼馴染という妄想。比企谷が後輩という妄想。比企谷が兄だという妄想。比企谷が父という妄想。比企谷が奴隷という妄想。比企谷の奴隷という妄想。
妄想、妄想、妄想。
今の彼女の頭の中は全て、比企谷八幡で構成されている。IFの妄想まで至るまでに、伊井野は比企谷という毒に侵されている。
「…私も…愛してますよ…比企谷先輩…。世界で1番…貴方の事を…」
深い闇を携えた目で、伊井野はいつしか撮った生徒会の集合写真に映る比企谷の姿を見つめた。