やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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彼ら彼女らは連絡先を交換したい

「ひ、ひゃあぁ!会長、ついにスマホ買ったんですか!?」

 

「ラインも入ってるぞ」

 

「わぁ〜。じゃあID交換しましょう」

 

 このご時世にスマホを持っていない者なんてそういない。昭和生まれの爺さん婆さんなら、まだガラケーなんだろうけど、現役高校生がスマホを持っていないのは稀だ。

 

「というか、やっと買う気になったんだな。あれだけスマホは"不要"だの"周りに合わせるつもりはない"だの言ってたのに」

 

「まあな。だが使ってみると、なんか色々出来て素晴らしかったんだ」

 

「ほーん…」

 

「あぁそうだ。比企谷も連絡先を交換しよう。生徒会の連絡なども含めて、お前の連絡先は必要だ」

 

「別にいいけど……どうやってやんの?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 なんか変なこと言ってしまったか俺は。別におかしなことを言っていないような気がするが。

 

「まさか、連絡先の交換のやり方分からないのか?」

 

「え、おう。だって連絡先交換する相手いないし。家族の連絡先しか知らねぇよ」

 

「…なんか、すまん」

 

「おい謝るなよ」

 

 謝ることでなんか惨めになっちゃうだろ。いいもんいいもん。小町の連絡先があればそれだけでいいもんっ。

 …気色悪っ。

 

「ではこのスマホマスターと呼ばれる私が、連絡先の交換をして差し上げますよ」

 

「いつからそんな呼び名付いたんか知らんけど、頼むわ」

 

 藤原は素早い指捌きスマホを操作する。最近のJKってこんなスマホ慣れしてんのかよ。

 

「はい、これで完了です!ついでに私の連絡先も追加しておきました」

 

「えっ、いらね」

 

「今から比企谷くんにスタ爆してもいいですかしていいですよねしちゃいますね」

 

「いややめて?」

 

 するとラインにどんどん藤原からの通知が流れ出してくる。やめろやめろ俺のスマホ重くなるだろ。

 

「比企谷くんのプロフィール画像ってなーんにも設定してないんですね」

 

「最初は妹の画像にしようと思ったんだが、キモいって言われてな…」

 

「そこまでのシスコンっぷりは流石にドン引きですよ…」

 

 うるせぇ。千葉県にはシスコンの兄がいればブラコンの妹もいるし、この白銀もシスコンなんだぞ。

 

「…ん?」

 

 突然、白銀のプロフィール画像が設定されたという通知が来る。小さく、そして目付きの悪い子どもが蛇に巻き付かれている画像だった。

 

「会長、このプロフィール画像って…」

 

「あぁ。俺が子どもの頃の写真だ」

 

「可愛いっ!この頃から目付きわるーい!」

 

「ハハハっ、目付きに関しては結構なコンプレックスだから触れてくれるな」

 

「にしてもこれどういう状況だよ…」

 

 動物園に行って蛇を巻く体験でもしたのか。しかしまぁ、よくよく見てみると白銀の面影はあるな。目付きが一番印象深いんだろうけど。

 

「だがこれはちょっと恥ずかしいな。やっぱり別の写真に変えておこう。…そうだな、3分後に変えるとしよう」

 

 その時、俺は妙に思った。恥ずかしいのなら即変えればいい話なのに、わざわざ時間制限を設けたように言った。

 俺はまさかと思い、今まで黙っていた四宮の方を見る。

 

「(そんな!時間制限をかけるなんて卑怯な…!)」

 

 何やら焦ったような表情をしている。それに対して白銀は、何やら勝ち誇ったような表情をしている。この状況を察するに、答えは一つ。

 

 いつものやつだわこれ。

 何かよく分からんけど、いつもみたいな駆け引きしてるんだろうなきっと。

 

 これは想像だが、こいつらは互いの連絡先を欲しがってる。しかし、変なプライドが邪魔して連絡先を尋ねづらくしている。だからこいつらは自分から聞かず、あえて相手側から尋ねさせようと考えているのだ。

 白銀が突然子どもの頃の写真にして、3分の制限時間を設けたのは、四宮から連絡先を尋ねさせる策に違いない。

 

 ていうか、生徒会として連絡先を聞けば一発解決じゃねぇかこれ。でもこいつらの茶番、見てて退屈しないし、もう少し様子見よ。

 

「ぐすっ…」

 

「へ?」

 

「かぐやさん?」

 

 突然、四宮からすすり泣くのが聞こえた。彼女を見ると、ガチで涙を流している。えっ、急に何?どうしたお前。

 

「ぐすっ……うっ……会長は、酷い人です…」

 

「あっ!」

 

「えッ!?」

 

「マ?」

 

 白銀、藤原は四宮の突然の涙に困惑する。それは俺とて同じであった。どういった策を講じるのかと思えば、急に涙を流し始めたんだから。

 

「ど、どうしてそんな酷いことするんですか……?酷い……酷いです……ぐすっ…」

 

 四宮は涙を流し、ただただ白銀に向けて"酷い"と連呼している。そんな四宮の様子を見た白銀は、困惑の表情から焦りの表情へ変化する。

 

「ご、ごめん!仲間外れにするつもりはなかったんだ!ほら、四宮にも見せるからッ…!」

 

 白銀は自身のプロフィール画像を四宮へと見せる。四宮はその瞬間、白銀のスマホの画面を捉える。

 

「(はっ!これは罠ッ!?)」

 

 白銀は自身のプロフィール画像見せた瞬間、何かを悟ってスマホを急いで引っ込める。引っ込めたと同時に、四宮の涙は嘘のように消えて、先程の白銀のように勝ち誇った表情を見せる。

 

「…これ、本当に何してんの」

 

「あわっ、あわわっ」

 

 毎度毎度、こいつら脳内でなんかバトってるの?後、君まだあわあわしてるの?

 

「そうですよね!ガラケーだから、ライン出来ないかぐやさんの前でこんな話……酷いですよね!ごめんなさい!」

 

「「出来ないの!?」」

 

 …そういうオチだったんかい。

 ていうか、まだ貴女ガラケーだったのね。

 

「金持ちだろ買い換えろ!」

 

「幼稚園から使ってる携帯で愛着があるんです!今更変えられません!」

 

 結局その後、二人はアドレス交換は済ませたようだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「疲れた…」

 

 そう溜め息混じりに呟く。

 今日も今日とて疲れたよ、パトラッシュ。肉体的にというより、なんだか精神的に疲れた気がする。

 頭が良いのにどこか抜けてる会長と副会長。よくもまぁ飽きずにイチャイチャ出来るよな、本当。

 

「今日の夜飯は何しようかな…」

 

 俺は歩きながらスマホをいじっていると。

 

「ながらスマホは危険です!歩く時は、ちゃんと前を見て歩いてください!」

 

「…またお前か、伊井野。それに大仏」

 

 既に空は夕焼け色も失せて暗くなるというのに、風紀委員ズはまだ学園に残っていた。

 

「なんでいつもの場所にいなかったんですか!今日も昨日も一昨日も!」

 

「お前、まさかずっとベストプレイスに行ってたの?」

 

 だとしたらなんかごめん。

 

「えぇそうですよ。そうじゃないと、比企谷先輩を取り締まれないじゃないですか」

 

 俺を取り締まる前提はおかしいだろ。俺そんなに不真面目じゃないんだけど。…不真面目じゃないよね?

 

「全く、いきなり消えた時はびっくりしましたよ」

 

「そら言う必要もないしな」

 

 言ったら言ったでこいつらまた来そうだし。

 

「私には比企谷先輩を監視する必要があるんです。比企谷先輩が秀知院の生徒として、秩序を持って過ごしているかを」

 

「別に監視する必要ないんじゃない?見た目はこんなだけど、比企谷先輩ってそういうとこしっかりしてそうだし」

 

 見た目を指摘したことにちょっと疑問があったが、ナイスフォロー。俺からじゃなく、大仏の主張であれば、伊井野は強く言えないだろう。

 

「…でも、風紀委員としてちゃんと取り締まらなきゃ。この間だって、比企谷先輩が授業や学校に遅刻したのはこばちゃんも知ってるでしょ?」

 

「あれはもう遅刻。言い逃れは出来ないね」

 

 あれれ掌返されちゃった。

 

「だからって、別に毎回来る必要ないだろ。そんな毎回毎回遅刻してたら普通に留年するっつの」

 

「でも……」

 

 伊井野が言い淀むと、大仏が変わって意見し始める。

 

「風紀委員としては、先輩も粛清対象です。変にうろちょろされては、正すものも正せません」

 

「粛清って言うなよ。なんか仰々しいだろ」

 

「そんなわけで、これからどこにいるかをミコちゃんに知らせてください。定期報告みたいなものです」

 

 俺もしかして風紀委員サイドでは指名手配されてたりすんの?俺そんな悪いことしてないんだけど。遅刻ぐらいしか思い付かねぇ。

 

「比企谷先輩の言っていることが本当なら、別にミコちゃんと連絡先交換してもいいですよね?」

 

「…いや、別に連絡先交換するのはいいけど……昼飯くらい静かに食べたいんだよ」

 

「そこは大丈夫です。私も着いていますし、何もなければすぐに去ります。それでいいよね、ミコちゃん」

 

「え!?あ、う、うん!そういうことなので、比企谷先輩に断る権利はありません!」

 

「…分かったよ。ほれ」

 

 俺は渋々、伊井野にスマホを渡す。

 

「え、えっと…」

 

「連絡先交換のやり方を知らねぇ。伊井野知ってそうだし、頼むわ」

 

「は、はい!」

 

 伊井野はおぼつかない操作で、連絡先交換を行なっていく。そして完了し、スマホを返してくる。

 

「ちゃんと返事してくださいね!既読スルーなんてダメなんですから!」

 

「お、おう…」

 

「後、電話にも出てくださいね!」

 

「かける前提かよ」

 

 伊井野の強引ぶりには参る。毎度毎度ベストプレイスに来るし、来なくていいって言ってんのに言うこと聞かないし。これもう俺のこと好きなんじゃないかって勘違いしてしまうまである。

 

「もうこんな時間……そろそろ帰る時間だよ」

 

「本当だ。もうこんなに暗いや…」

 

「…あ、そうだ。比企谷先輩、ミコちゃんを家まで送ってあげてください」

 

「は?」

 

「えぇッ!?」

 

「私、少しこれから寄るところがあるので。じゃあそういうことで。さようなら」

 

 そう言って、突然、大仏はおさらばしたのである。

 えっ何この急展開。今回の話って連絡先交換するかどうかじゃなかったのか?なんでおまけで伊井野と帰る物語が始まってんだよ。

 

「こばちゃん…」

 

「…よく分からんけど、とりあえず帰った方が良さそうだな」

 

「は、はい…」

 

 俺達の間には、謎の気まずさが存在していた。伊井野からすれば、俺は知り合いで不真面目程度だろうし、俺からすれば鬼風紀委員という感じだ。したがって、仲がいいかと聞かれたら、良くはないけど別に悪くもないと答える。

 だから、俺達の間に会話が生まれないのだ。

 

「…比企谷先輩って確か生徒会の庶務なんですよね」

 

「ん?あぁ、まぁそうだな」

 

「今年の秋の生徒会選挙、生徒会長に立候補しようと考えているんです」

 

「…そうなのか」

 

 特に驚きはしなかった。

 こいつが風紀委員をしているのは、校則を破るやつや不真面目な生徒を正すためだ。それでも、風紀委員にも動きに限度がある。秀知院の生徒全員を正すの不可能。

 であれば生徒会長になるのが合理的。生徒会長の匙加減一つで、校則を変えることが出来るからな。

 

「それで、よろしければなんですけど……もし、私が生徒会長になった暁には……比企谷先輩にも手伝って欲しいんです!庶務係として!」

 

 白銀といい伊井野といい、俺を生徒会に誘うなよ。生徒会は次の生徒会選挙までって決めてるのに。

 

「…いや、普通にめんどい。嫌だ」

 

「め、めんどい!?」

 

「別に伊井野が生徒会長になるのはいいけど、俺別にやりたくて生徒会入ってるわけじゃねぇんだよ。だから他当たれ」

 

「そう、ですか……」

 

 別に俺が断るのは自由だし、こいつに文句を言われても筋違いだ。仕事をするのなんてごめんだ。手伝う道理はない。

 だから、そんな悲しげな表情を見せるのは少し卑怯だと思う。

 

「…たまになら」

 

「…え?」

 

「…お前らの新しい生徒会に手が余る仕事があるなら、たまには手伝ってやらんくもない」

 

 その言葉を聞いた瞬間、彼女はパァッと明るさを取り戻す。本当、女子ってすぐ機嫌良くしたり悪くしたりするよね。

 

「言質取りましたから!今更やっぱり嘘でしたはダメですからね!」

 

「分かったからそうぐいぐい来るな」

 

 なんとか、彼女の機嫌は戻ったようだ。別にこれは彼女のためではない。伊井野に恩を売るだけ売っとけば、かなり融通が効きやすくなるかも知れない。

 

「ここまでで大丈夫です。もう家はすぐそこなので」

 

「そうか。じゃあな」

 

 俺は来た道を戻り、最寄りの駅まで歩き始めようとしたが。

 

「帰ったらライン送りますので!ちゃんと返事しないと、電話しますから!」

 

「…へいへい」

 

 今度こそ伊井野と別れて、最寄りの駅まで歩き始めた。その後少しして、本当に伊井野からラインが来た。

 

「別にラインなんて送ってこんでいいのに…」

 

 俺はラインを開き、伊井野からの通知を確認する。

 

『伊井野です❗️

 \\٩(๑❛ᴗ❛๑)۶//

 やっと比企谷先輩とライン交換出来ました♪───O(≧∇≦)O────♪

 何かあったら先輩にライン送るので❣️

 先輩も何かあったら送ってくれて構いませんよ⭕️

 

 あっ❗️

 さっきも言いましたけど、既読スルーはダメですよ(怒)

 電話にもちゃんと出てくださいね‼️

 分かったら、返事ください(>人<;)』

 

 俺はラインを一旦閉じ、制服のポケットにスマホをしまった。さて、今の状況を整理して、確認しよう。

 伊井野とライン交換し、つい先程ラインが届いた。で、俺が見たのは、スパムメールとしか思えない文面だった。これが、今の状況だ。

 

「…ふっ」

 

 いやいや待って待って誰だこれ知らねぇやつだ俺が知ってる伊井野はこんなんじゃねぇよ怖い怖い怖いどうしよう。学校と全然違うじゃねぇか。どう反応すりゃいいんだこれ。軽いホラーを垣間見てしまったよ。

 

 そんな困惑の渦中にいた俺に、もう一度ラインが届く。スマホを出して、ラインを開くと、伊井野からまた一件。

 

 きっとさっきのは見間違いだ。スパムと間違えて開いちゃったのかも知れない。俺の知ってる伊井野はこんな偏差値低そうなラインは送ってこないはずだ。

 

『既読スルーしないでって言ったじゃないですかぁー‼️  

 。・°°・(>_<)・°°・。』

 

「…助けて、大仏」

 

 学校とは全くの別キャラの伊井野に、少しの恐怖と困惑を抱いた瞬間であった。

 


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