やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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藤原千花は祝われたい

 時は流れて、既に弥生となっていた。

 

 学期末試験が終わり、そして小町の試験も終わった。なんと、外部受験で本当に秀知院に受かったのだ。

 小町は泣いて泣いて泣きまくっていたが、きっと泣くほどの努力をしていたのだろう。なんなら俺も普通に貰い泣きしかけた。

 

 そんな驚きも今や既に過去の話だ。

 俺達生徒会全員は生徒会室にて、ホールケーキを囲んで2人の誕生日を祝っている。

 

 3月3日。

 藤原、そして石上の誕生日なのだ。加えると、小町の誕生日でもある。本当なら小町の誕生日も祝ってあげたかったが、「お兄ちゃんに"誕生日おめでとう"って言ってもらえるだけで嬉しいんだよ」と、兄を泣かせる台詞を言った。

 

 本当、小町はよく出来た妹だよな。語尾に「小町的にポイント高い」って聞こえたのは気のせいだな。

 

「やっぱりこうなった!!」

 

 騒がしいな藤原。今小町の事を考えてんだ。静かにしろよ。

 

「やっぱり石上くんと一緒くた!ケーキもまとめて一緒!」

 

 1台のホールケーキの上に、藤原と石上が小さくなった砂糖菓子が置かれている。

 

「石上くんと私が仲良く並んでウェディングケーキみたいになってるじゃないですか!石上くんなんでこの日に生まれたんですか!せめて1日ズラしてください!」

 

「その手の不満は僕の親に言ってください」

 

 奇しくも、藤原と石上は同じ日に生まれた。

 当初は同時開催にするつもりだったが、藤原は抗議していた。だからどちらかの誕生日を1日ズラそうかと考えたが、それでは角が立ってしまう。

 

 結果、同時開催は避けられないという事に。

 

「どうせ誕生日プレゼントの予算も情熱も半分こなんでしょう!こうなるの分かってましたよ!」

 

「そんな事はないですよ」

 

「本当ですか?皆のプレゼントは100%の情熱と熱意が入ってるんですね!?ちゃんと審査しますから!」

 

「なんだこいつ」

 

 妙な事を言って騒ぎ散らかしている。

 藤原には鳥の助のぬいぐるみを貰ったから、誕生日プレゼントを買ったには買ったが、この分じゃ不満を言われそうだ。

 

「じゃあ会長から」

 

「いやまぁ…やっぱどっちのが高価でもめて欲しくないしな。似た系統のを2人には用意した」

 

 白銀が2人に贈る、そのプレゼントとは。

 

「藤原には赤いマグカップを。石上には青いマグカップだ。これなら不公平とかないだろ?」

 

「だからこういうの!!」

 

 だから唐突に叫ぶな。俺お前の隣に居るんだから鼓膜破れそうなんだよ。

 

「こういうのは双方が気を遣う事で双方から不評なプレゼントになるものなんですよ!ほら見てくださいよ!並べたら同居始めたてのカップルが浮かれて買ったお揃いのマグカップみたいになってるじゃないですか!」

 

「藤原ストップ。それ以上白銀の心を削ったるな。しょんぼりしてる」

 

「いいえ!これは教育なんです!来年また同じ過ちを犯さないためにキッチリ削ります!」

 

「鬼かよ」

 

 とんだスパルタ教育だ。俺ならこの場から逃げ出すわ。

 

「ミコちゃん!ミコちゃんなら私がどういうのを求めてるか分かるよね!?」

 

「は、はい!私からの藤原先輩へのプレゼントは…」

 

 2番手は伊井野。藤原に贈るプレゼントは一体。

 

1万円するティッシュです!」

 

「え?」

 

「伝統の技術を使って12色の紙が贅沢に使われた1品なんですよ!」

 

「へ、へぇ〜」

 

 藤原、顔を引き攣らせる。

 分からんでもないけど。プレゼントに1万円するティッシュを贈られて、どう反応すれば良いか分からん。

 

「…伊井野。一応聞くけど、このティッシュを選んだのはなんでだ?」

 

「色々悩んだのですけど……高価な物ならとりあえずハズレは無いかなって」

 

「だと思った」

 

「え、ブランドバッグの方が良かったですか!?」

 

 考え方がホストに貢ぐ女なんだよ。

 俺の誕生日、バレンタインの時もそうなんだが、伊井野って高価な物買っとけばその分の何かしらが返ってくるって思考なんだよな。貰ってる側としては普通にありがたいんだけど。

 

「ま、まぁ合格です。私の事を考えてくれていたようですし。ありがとミコちゃん」

 

「…で、石上のプレゼントは?」

 

「石上にはこれ」

 

 ぶっきらぼうに石上に渡したのは、コンバースの限定色の靴だ。

 

「たまたま買えたから」

 

「普通に良いじゃん!ありがとな伊井野!」

 

「別に。誕生日の日に要らない物を渡すのは違うと思っただけよ」

 

 なんだろう。1万円のティッシュより靴の方が情熱があるんじゃないかと思ってしまう。

 

「次は私ですね。石上くんにはこれを…」

 

 続くのは四宮。四宮って、人の趣味嗜好を考えたプレゼントを贈ってくれるんだよな。俺の時も普通に嬉しかったし。

 そんな四宮が石上に贈るのは。

 

「えっ!スーパーファミコン!?」

 

 四宮は石上に、スーファミを贈った。ゲーム好きの石上は喜んでいる。

 

「ちゃんと調べたのよ。石上くんが好きそうで持っていない物を。試験も頑張ったからご褒美よ。頑張った後は適度に息抜きなさい」

 

 石上は今回の学期末、かなりの好成績をもぎ取ったそうだ。

 底辺から一気に36位まで上げたその努力。文系に関しては、俺も時々教えていたが、予想以上の結果を出したのだ。

 

 やれば出来る子なんて信用出来ない言葉だったが、石上を見ているとそうでもないのかもと思ってしまう。

 

「藤原さんにはこれ」

 

 四宮が藤原に贈ったのは、何かのチケットだ。

 

「クルーズレストランの招待券!?」

 

「最近2人で何かする事も無かったですしね。美味しいフレンチでもいただきながら、ゆっくりお話しましょう」

 

 四宮のプレゼントを贈られた藤原は大号泣。

 

「こういう事!私を大事に思ってくれてるっていう気持ち!」

 

 ゴミみたいな目で見る事が多々あるが、やはり根の所では藤原を大切にしているんだろう。

 

 これが友達って事なんだろうな。俺には居ないから分からんけど。

 

「…で、俺か。とりあえず石上にはこれだ」

 

 俺が石上に渡したプレゼント、それは。

 

「こっこれ、ポールスミスの財布!?」

 

「お前にはイヤホン貰ったからな。実用性あるやつの方が良いだろ。知らんけど」

 

「ひ、比企谷先輩…」

 

「泣くなよ」

 

 まぁ喜んでくれたのであれば良かった。

 しかし、今回の誕生日プレゼントで結構金が飛んだ。無駄遣いはしないようにしよう。

 

「で、お前のこれ」

 

 藤原に贈る物が1番悩んだ。安っちい物じゃさっきみたいに怒られるし、だからって高価な物を異性に贈るのは何か特殊な意味が出そうで怖かった。

 

 で、悩んだ末が。

 

「ヘッドリボン…?」

 

 俺が藤原に贈ったのは、やや小さめのベージュのヘッドリボン。

 種類が様々あったが、あまりゴテゴテした物は却って邪魔になると思い、小さめのリボンにした。

 

「俺はお前が何を欲してるのかも、好きな物も知らん。で考えた結果、お前のトレードマークであろうヘッドリボンにした」

 

 女子に対する贈り物は毎度毎度分からんから困ったもんだ。白銀に尋ねるとマグカップと言うものだから、被らせるわけにはいかないし。

 

「要らねぇなら捨てて構わないぞ。気に入らんのなら他の物を…」

 

「比企谷くん」

 

「ん?」

 

 藤原に名を呼ばれ、反応した俺は藤原に視線を向ける。視線の先には、普段の極黒のリボンを取り外し、俺が贈ったヘッドリボンを着けている藤原が満面の笑みで。

 

「どうですかっ?」

 

「…悪くない、と思う…」

 

 リボンよりも、藤原の笑みに直視出来ない。目を逸らして、素朴な感想を述べた。

 

「ありがとうございますっ、比企谷くん!」

 

「…おう」

 

 とりあえず、文句は言われずに済んだ。

 

「僕から藤原先輩にはこれを」

 

 次に石上が藤原に贈ったのは、テーブルで遊べるゲームだ。

 確かに藤原はテーブルゲーム部だし、そういう系統の方が良かったか。悩み過ぎて気付けなかった。

 

「皆ありがとう。ごめんね、変な茶々入れて…」

 

 「本当は全部嬉しいよ〜」と言いながら貰った物を抱きしめて泣き出す。

 

「で、藤原から石上には?まさか、何も用意してないなんて事は…」

 

「そんなわけないじゃないですか!石上くんにはこれあげます!」

 

 藤原が石上に贈ったのは、ブタさん貯金箱であった。

 流石は藤原。人の誕生日になると奇々怪々なプレゼントを贈りやがる。そこに痺れたり憧れたりはしない。強いて言うなら、戸惑うだけだ。

 

 前から思ってたけど、センスどうなってんの。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふんふふ〜ん」

 

 今日はとっても気分が良い。

 皆さんご存知の通り、私藤原千花の誕生日なんですよ。読者の皆さんも、私に清きプレゼントを贈ってください。ちゃんと情熱が込められているか審査しますから。

 

 なーんて。

 

 本当は嬉しかった。会長のマグカップも、ミコちゃんのティッシュも、石上くんのテーブルゲームも。

 プレゼントを貰えるだけで、私はすごく嬉しい。会長にボロカス言いましたが、嬉しかった。ただ会長もミコちゃんもチョイスさえおかしくなければもっと喜んでた。

 

 ただ、私的にもっと嬉しかったのは、かぐやさんのクルーズレストランの招待券、比企谷くんのヘッドリボンだ。

 

 かぐやさんがクルーズレストランに誘ってくれた事が、とても嬉しかった。大好きなかぐやさんから誘われたのだ。嬉しいに決まっている。

 

 そして比企谷くんのヘッドリボン。

 正直びっくりした。女の人に髪飾りを贈る理由を知らないのか、私にヘッドリボンを贈ったのだ。

 

 知ってますか、比企谷くん。乙女に髪飾りを贈るという事は、「これからも長く一緒に居たい」という深層心理の表れなんですよ。つまり比企谷くんは、無意識に私と一緒に居たいと告白したようなものなんですよ?

 加えて、リボンにはこのような意味がある。結ぶという意味からきて、「絆」や「良縁」などを差します。2人の愛をより深めたいという意味もあるそうですよ。

 

 これを贈られた時、不覚にも比企谷くんにときめいた。

 しかし比企谷くんにそんな意図は無かった。彼なりに考えてくれたのはすぐに分かった。でなければ、ヘッドリボンなんて用意するわけがない。

 

「比企谷くん…」

 

 こんな事をするから、比企谷くんの周りに居る女の子は病んじゃうんですよ。きっと比企谷くんに彼女が出来ていても、こんな品を贈ってきそうだ。

 

 比企谷くんは女の子をダメにする男の子。

 ミコちゃんが良い例だ。ミコちゃんの比企谷くんへの想いは、恋とかそういう綺麗なものじゃない。もっと酷く、歪んだ何かだ。好意的な事に変わりはないけど。

 圭ちゃんもそう。最近、比企谷くんと圭ちゃんが一緒に帰る姿を目撃するけど、圭ちゃんの表情は明らかに雌の顔だ。ミコちゃんと違うのが、きっと恋をしてる顔。

 

 とんだ女誑しクズハーレム野郎だ。きっと他にも女の子に手を出してるに違いない。けれどそれは意図してでなく、彼の捻くれた優しさが溢れた結果そうなったのだ。そっちの方がタチ悪い。

 

 前の月見の時もそう。いきなり腕を引っ張って、抱き締めて来た。抱き締めたというより、体勢が悪くなった私を支えたと言った方が正しい。あの時も恥ずかしかった。

 家に招いた時も、比企谷くんに罰ゲームとはいえ「愛してる」って囁かれて、顔が熱くなった。

 

「…ん?」

 

 ちょっと待って。さっきからなんで比企谷くんの事ばっか考えてるの?「ヘッドリボン良かった」って終わらせれば良いのに、いつしか比企谷くんとの思い出を振り返ってる。

 

 なんかまるで比企谷くんに恋してるみたいな。

 

 あはははは。無い無い。そんなのあり得ない。

 確かに比企谷くんは良い人ではあるけど、それだけ。良い仲間でしかない。バレンタインじゃきのこの山の小袋を渡しただけだし。

 

 …なのに。

 

「なんでこんな比企谷くんの事を考えてるの?」

 

 性格は石上くんとどっこいどっこいで悪いし、目付きも悪い。外見だけで見ればモテる要素はあまり無い。眼鏡さえしていなければ、だけど。

 

 けれど、それなりに良い所もある。

 

 花火大会の時、かぐやさんが来られないと知って、皆で花火を見る事が出来ないと思いきや、比企谷くんが花火セットを買ったお陰で皆で楽しく花火が出来た。

 

 生徒会選挙では、あがり症で演説出来ないミコちゃんを助けた上に、ミコちゃんへの悪意を全て比企谷くんが代わりに負った。

 

 修学旅行では、早坂さんの身に何かあるかも知れないからと言って、私を頼る事で早坂さんを守った。

 

 誰かを守るために、大変な役割を自ら買って出る。比企谷くん本人は「優しくしたつもりはない」とか言うけど、見てる側からすれば十分優しいのだ。

 

 だから、ミコちゃんや圭ちゃんは彼に惹かれたんだろう。きっともしかすれば、ミコちゃんや圭ちゃん以外の子も好きになった子が居るのかも知れない。

 

「…でも、ちょっとありかな」

 

 人として、男として。比企谷くんはちょっとありかなと、そう思った。私への扱いに関しては要審議だけど。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「卒業式、か…」

 

 家に帰った俺は、スマホのカレンダーを見ながらそう呟いた。

 

 近々、秀知院でも卒業式が行われる。世話になった先輩がそこまで多いわけじゃないが、居るとするなら文実で知り合った子安先輩ぐらいだろう。

 

 出会いがあれば別れがあるという言葉がある。3年と関わる事なんて無かったし、特に思い入れがあるわけじゃ無い。思い入れがあるわけじゃないが、あるとするなら気掛かりな事が1つ。

 

 石上は、子安先輩に再び告白するとの事。

 

 白銀や俺にそう言っていた。

 子安先輩は東京を離れてしまう。だからその前に、石上は卒業式で告白する気だ。

 クリスマスでは子安先輩は石上を振っている。その後も交流があり、2人で出掛けたという話も聞いた。

 

 クリスマスから卒業式。3ヶ月も無いこの期間で、石上は子安先輩に意識させる事が出来たのか。この告白は、本当に成功するのか。

 

 それだけが気掛かりなのだ。

 

 同情するわけじゃないが、石上の今までの人生はハードモードだ。

 大友を守るために、学年中から嫌われ者になって。ようやく心を開き、好きな先輩が出来たと思ったら振られてしまい。挙げ句の果てには伊井野の腕を折ってしまう。

 

 彼には様々な苦難が降り注いだ事だろう。

 しかし、報われても良いのではないかとも思う。どんな形でも良い。彼が心から幸せだったと思える何かを与えても良いのではないか。

 

「…どうなるんかな」

 

 願わくば、彼に幸多からん事を。しかし、その前に個人的な仕事が存在している。

 

 それは何か。

 

「ホワイトデー何返そう…」

 

 1週間ちょっとすれば、3月14日。つまり、ホワイトバレンタインだという事。

 

 圭、四条、龍珠、早坂、市販の菓子とはいえ大仏と藤原、そして伊井野。

 

 大仏と藤原、伊井野以外は全員手作りだ。伊井野に関しては、GODIVAを贈ってきた。なら、俺も手作りやそれ相応の贈り物で返さなきゃならないのではないか。

 

「何あげたら正解なんだ…」

 

 ホワイトデーなんて毎年小町にしか返さねぇから何返せば良いか分からんぞ。やはり、チョコやクッキーと言った無難な物を返す方が良いのか。

 そうと決まれば、とりあえず14日までにお返しを作らなければ。専業主夫の家事スキルを見せてやろうではないか。

 

 あははは。モテる男は大変だなぁ。…はぁ。

 

 

 


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