やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

77 / 114
 かぐや様第3期いよいよですね。おそらく奉心祭編に突入しそうですし、一体龍珠のCVは誰になるんでしょうか。


龍珠桃は招きたい

 

「また1日中引きこもるつもりなの?」

 

「あったり前だろ。外は危険なんだよ。自粛だ自粛」

 

 春休みももうすぐ終わる。

 しかし相変わらず俺は家に引きこもっている。学生諸君、無理に外に出る必要は無いのだ。家に居ても退屈なのでは無く、退屈させてるから家に居ても暇なのだ。やる事さえ見つければ、家でも充実した時間を過ごせる。

 

「この人凄いよね。小町より1つ年上なのにアイドルなんてさ」

 

 小町が指差したのは、テレビに映っている1人の少女。確か名前は不知火(しらぬい)ころもだったか。確か同じ名前の不知火フリルとか言うアイドルも居た気がするが、姉妹か何かだろうか。ていうか名前すご。

 

「…まぁ出演する分、ストレスも凄そうだけどな」

 

「そういう夢を壊す事言わないでよ」

 

 アイドルという職業は、常にファンの理想で居なければならない。素の自分を出して人気になる者も中には居るだろうが、大半はキャラ作りの賜物だろう。

 そう思いながら不知火ころもが出演しているテレビを眺めていると、インターホンが高らかに鳴る。

 

「はーい」

 

 小町がとてとてと駆け足で玄関に向かった。なんだかこの流れ、つい最近あった気がするんだけど。

 

「えーと、どちら様ですか?」

 

「私は龍珠桃ってもんだ。お前、確か比企谷の妹だな」

 

「は、はい。兄の知り合いの方ですか?」

 

「おう。居るなら呼んで来てくれ」

 

 今度は龍珠かよふざけんな。四条といい、なんで家庭訪問するんだよ。というか龍珠に家を教えた記憶無いんだけど。

 

「お兄ちゃーん?」

 

 もう1回寝たふりをしよう。それかいっその事死んだふりだ。

 

「おい比企谷ァ、中に居るのは分かってんだよ。さっさと出て来ねぇとぶっ殺すぞコラ」

 

 待って待って。普通に借金取りみたいなセリフ言うのやめて?怖いからやめて?

 この間は四条に踏み付けられたが、龍珠の場合は殴って来そうで怖い。そんな恐怖を予感し、俺は起き上がって玄関に向かった。

 

「…何の用だよ」

 

「出掛けるぞ。着替えて来い」

 

「え、普通に嫌…」

 

「あん?」

 

「同行させていただきます」

 

 今日は一体どこに連れて行くのやら。俺は部屋に戻って外出用の服に着替えて、玄関に戻る。

 

「それじゃあ行くぞ」

 

「へいへい…」

 

「行ってらっしゃーい」

 

 家から出て行き、どこに向かうかも教えて貰えないまま住宅街を歩いて行く。

 

「で、本当に何の用だよ」

 

「ホワイトデーの時に言ったろ。付き合えってよ」

 

「…そういえば言ってたかもね」

 

 ホワイトデーでの俺のお返しは一体なんだったのだろうか。手作りを渡したとはいえ、それ以上の事を要求してくるなんて。こいつ意外に強欲だったりするのかな。

 

「春休みはずっと家に居たのか?」

 

「まぁな。部屋に引きこもってやりたい事やってる」

 

 ラノベ呼んだりアニメ観たり受験勉強したり。最後のは見栄張ってるわけじゃないよ?これでも俺真面目な方なんだよ?

 

「私も言うてそこまで忙しいわけじゃなかったな。時々ゲームとかしてたし」

 

「ほーん」

 

「最近じゃFPSっつうオンラインゲームが流行ってんだよ。知らねぇか?」

 

「あぁ…。CoDとかエペとかだろ」

 

 オンラインゲームは様々なジャンルがあるが、高校生から大学生まで、あるいは大人ものめり込むのがファーストパーソン・シューティングゲーム。通称"FPS"。

 チャットや通話を交わしながら銃を持って戦う事が出来るので、見知らぬ誰かと繋がる事も出来るし、また男女の関係にまで至る事も多々あるらしい。

 

 まぁ俺の場合は大体ソロなんですけどね。

 

「やっぱ知ってたのか」

 

「最近はなんやかんや忙しかったからしてないけど、前までは普通にプレイしてたな」

 

「秀知院の中でもやってる奴は多いぞ。FPSでプロ入りした先輩も居たしよ」

 

 そういやなんか居たな、卒業式に。藤原に留年してくれって言われてた先輩だ。なんか単位みたいな名前だった気するけど。

 

「比企谷はどうせソロなんだろ?」

 

「どうせって言うのやめない?まるでネットの中でも友達居ないだろって聞こえるんだけど」

 

「そう言ってんだが?」

 

 言ってるんですかそうですか。

 というか、別に友達を作れないとかそんなんじゃないし?敢えて作らないんだし?…この言い訳一体何回言ってんだろう。

 

「ま、お前に連携プレイとか出来ねぇか」

 

「さっきからなんなの?酷い言いようだけどなんなの?」

 

 出来ないとしないじゃだいぶ違うんだよ?俺は出来ないんじゃなく、しないだけだよ?

 

「…あ」

 

 住宅街を出て行き、いつの間にか都心部に移動していたその時。龍珠が何かに気付いて声を上げた。

 

「あれ、お前の後輩じゃねぇのか?」

 

 指を差した先には、お洒落している石上が居た。その隣には、満面の笑みを浮かべている子安先輩も。

 

「ラブラブだな」

 

 遠目から見て分かる、彼らの仲睦まじい光景。あの光景は、石上が努力して掴み取った物だ。

 

「先輩、恋愛にちょっとしたトラウマがあったんだよ。だからあのロン毛の後輩と付き合わねぇと思ってたんだが……先輩にとって、それほど大事な奴って事なんだろうな」

 

 石上も過去に苦い経験をしている。恋愛絡みでは無いが、あの1件で人間に対する考え方が捻れてしまったのは確かだ。

 そんな石上が、恐れる事無くアタックしていたのだ。石上にとっても、子安先輩は大事という事なんだろう。

 

 ある意味、似た者同士でお似合いな気がするけどな。

 

「…良いな」

 

 龍珠がそう羨むように呟いた。

 「何が?」と聞く程、俺は野暮では無い。故に彼女が呟いた言葉に対して、ただ黙っているだけだった。

 

「出会すわけにもいかんだろうし、俺らもさっさと行こう」

 

「…そうだな」

 

 俺達は人混みに紛れて、石上達に出会さないように街中を再び歩き始めた。

 

「そう言えば、どこに行くつもりなんだ?」

 

「私の家」

 

「は?」

 

「私の家」

 

 ねぇこれついこの間あったイベントとめっちゃ酷似してるんだけど。またいきなり家に連れて行かれるのなんなの?

 

「住宅街で私の家の車を出すと騒がしくなるからな。都心部で合流する事になってる。…と、言ってたらほら」

 

 龍珠が指差した先には、黒い車が停車している。運転席と助手席からは、やたらと屈強なお兄さん方が降りて来た。

 着崩した服装。どこで斬られたのか分からない顔の傷。サングラス。

 

 怖い。普通に怖いって。

 

「待たせて悪ぃな」

 

「いえ、お気になさらずに。それより、お嬢の隣に居るのが…」

 

「私の連れだ。客として屋敷に連れて行くから、変な粗相したらぶち殺すからな」

 

 ヤバいって。震えが止まんねぇよ。拉致じゃんこれ。傍から見たらヤクザに拉致される一般人じゃん。

 

「どうした比企谷。寒いのか?」

 

「…俺これからどうなんの?リンチとかされない?生きて帰れる?」

 

「何言ってんだお前。連れを家に招くなんざ高校生の間じゃ普通だろ」

 

 招き方が普通じゃないから疑ってんのよ。お迎えにヤクザ2人連れて来るってなんだよ。思わずお漏らししそうだったじゃねぇか。

 

「良いから早く乗れ」

 

「お、おう…」

 

 龍珠にそう促され、俺は黒い車に乗り込んだ。隣には勿論、龍珠が。運転席と助手席には、先程の屈強なお兄さん方が乗り込んで運転を始めた。

 

 やっべぇ。落ち着かねぇや。

 

「…やっぱ怖いか?」

 

「え?」

 

 龍珠は窓の外を眺めながらそう尋ねた。

 

「名家で育ってない人間なら尚更、極道っつう肩書きだけで嫌厭するのが本能だ。娘だからって、極道じゃないってわけじゃねぇ。だから恐れる人間が居ても何も不思議じゃない」

 

「龍珠…」

 

 龍珠がヤクザの組長の娘である事に変わりは無い。

 しかしヤクザである事と、龍珠桃という人間性がイコールとは限らない。

 

「正直に言えば、ヤクザは確かに怖い。俺の人生、そこまで修羅場を潜ったわけじゃないからな」

 

「…そうか」

 

「だが、それを理由に龍珠を嫌う事は無い」

 

 俺が嫌いなのは八方美人や美人局、後はリア充と小町に近づく男だけだ。なんだか嫌いな人間がえらく限定的だが、まぁいい。

 

「前も言ったが、お前はお前だ。俺が今話してんのはヤクザの龍珠桃じゃなくて、秀知院の龍珠桃だ。ヤクザの愛娘だからって嫌うんなら、既にガン無視してる」

 

 家の肩書きで人を好いたり嫌ったりする連中は、単に上辺しか見ていないって事だ。そんな理由で好き嫌いする人間が、俺は嫌いだ。

 

 あ、嫌いな人間がもう1つ出来ちゃった。

 

「比企谷…」

 

「ヒュウ〜!お嬢、良い男を見つけやしたね!」

 

「バッ、バカやめろや!ぶっ殺すぞ!」

 

 助手席でそう揶揄うお兄さんに、龍珠が怒鳴る。ヤクザさんは大変仲がよろしいようで。

 そんな慣れない光景を見た俺は、顔を引き攣らせた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なんだここは」

 

 龍珠の家に到着した。したのは良いのだが。

 何この日本家屋は。しかも普通にデカいし。庭の中に池あるし。四宮家や四条家とはまた違った屋敷だ。これがヤクザの家なのか?

 

「さっさと入るぞ」

 

「お、おう…」

 

 粗相したら俺が消されたりしそうだ。なるべく大人しくしておく方が良い。勿論、周りに沢山居る屈強なお兄さん達に喧嘩を売らずに。

 そう決めた俺は龍珠の後に付いて行き、屋敷の中へと入って行く。

 

「そうソワソワすんなよ。こういう屋敷は初めてか?」

 

「四宮家や四条家に一回ずつ入った事はあるが…やっぱまだ慣れねぇな」

 

「四宮家と四条家に?何しに行ったんだよ」

 

「1つは見舞い。もう1つは単純に招かれた」

 

「…そうか」

 

 どっちも甲乙付け難いような豪邸だった。秀知院じゃ無けりゃ、多分一生入る事が無かっただろうな。

 

 そんな雑談を交わしながら、屋敷の中を歩き周り。

 

「ここが私の部屋だ」

 

 案内されたのは龍珠の部屋だった。

 日本家屋どころか、ヤクザに似合わぬファンシーな光景だ。羊の柄のカーテンに、いつぞや俺が取ったパンさんのぬいぐるみやテディベアのぬいぐるみが置かれている。

 

 平たく言うと可愛らしい部屋です。ギャップ萌えでも狙ってるんだろうか。

 

「適当に座ってろ。茶を出して来るからよ」

 

 そう言って、龍珠は部屋を出て行った。残された俺はその場に座り込んで、部屋を眺める。

 なんだろう。こう、女子の部屋をまじまじと眺めるのって、なんだかヤバい事してるみたいだ。

 

「お茶持って来たぞ。ほれ」

 

 すぐに戻って来た龍珠は、ガラスのコップに入ったお茶を差し出す。それを受け取って、「サンキュ」と短く感謝を述べた。龍珠は龍珠で、自分のベッドに座り込んでお茶を飲む。

 

「…こうして男を部屋に連れ込んだのは初めてだな」

 

 連れ込んだって言い方やめようか。せめて招いたにして?捉え方次第じゃやらしいから。って、そう浮かべる俺が1番やらしいじゃねぇか。

 

「男どころか、女1人も入れた事が無い。誰かを部屋に入れたのは、比企谷が初めてだと思う。…私に、連れて来るようなダチなんて居ねぇからな」

 

 あのアパートを除けば、俺も実家の自分の部屋に家族以外を入れた事が無い。龍珠と同じく、友人なんて存在が1人も居なかったから。

 

「今の生活に不満はねぇ。つか、あれこれ言っても無駄な事だ。…でも、普通のJKみたいに生活出来たらって…思う時もあるんだよ。気持ち悪ぃ想像をしちまって」

 

 人間、誰しも想像の1つや2つぐらいする。俺だって妄想していた。

 自分に好意があるんじゃないかって勘違いして、告白して付き合った後の事まで考えて。今となれば、中学の頃は反吐が出そうな事ばかり考えてた。

 

「今日の2人見て、私は羨ましく思ったよ。1人は恋愛にトラウマを持つ先輩で、もう1人は人間にトラウマを持つ後輩。トラウマなんてそうそう拭い去れるもんじゃねぇ。告白も失敗に終わると思ってた」

 

 石上と子安先輩の話だろうか。

 確かに街で見かけた時、少し羨むような声を出していた。難聴系主人公なら聞き逃していただろう小さな呟き。

 

「でも結果は付き合って、互いに幸せそうだった。これ以上無いってぐらいに。……私も、あんな風になれたらって思うくらいに」

 

 人の幸せは人それぞれ。龍珠の幸せが一体どういうものなのかは俺には分からない。

 

 ただ分かるのは、本当は誰かと一緒に居たいという事。

 

 龍珠桃は強い女の子じゃない。本当は誰かと一緒に居たくて、でも自分が近づく事で相手に拒絶されるのが怖い、そこら辺に居る普通の寂しがりな女の子なんだ。

 周りが龍珠を嫌厭してるのは、龍珠に手を出せば龍珠が、あるいは龍珠の背後が何かするかも知れないという危険性を予期していたから。だから周りは誰も関わりたく無かった。

 

 自分が傷付きたく無いのは、人間の本能だから。

 

「比企谷」

 

「…なんだ?」

 

「私、前に言ったよな。もしお前が良いなら、龍珠組に来てくれって」

 

「あ…」

 

 修学旅行1日目。龍珠は確かにそんな事を言っていた。

 進路の話を交わしていて、俺が良いなら龍珠組の補佐になってくれないかという願い。

 

 ただ、この流れはつい最近あった気が。なんかめっちゃデジャヴるんだけど。

 

「組の長を継ごうが継がまいが、お前には私の隣にずっと居て欲しい」

 

 …ほら、こうなる事は分かってた。勘違いじゃ無けりゃ、彼女は俺の事を好いている。好きだって言われて、嘘でも無い限り悪い気分はしない。

 

 でも、たった1人しか選べない。

 

「お前の隣が、私の居場所なんだ」

 

 伊井野、四条、早坂、龍珠、圭。これだけ好かれても、1人しか決める事が出来ない。残った4人を傷付ける事になる。

 

 好きと言われて嬉しくなる反面、傷付ける事になるという事実に苛まれる。

 

「お前の隣に居る事が、私の幸せなんだ。…私以外の女に渡したくねぇ。私だけが、その場所を独占したい。比企谷を」

 

「龍珠…」

 

「早坂愛、四条眞妃、伊井野ミコ…他にもお前を好きになってる女は居る。それでも、私はずっと比企谷の隣に居たい。…比企谷の特別になりてぇんだ」

 

 龍珠はそう言い切って、俺の目の前に迫る。頬を赤く染め、少し唇を震わせながら。

 

「好きなんだ。比企谷の事が」

 

 それは簡潔に、そして誰にでも伝わる言葉。

 本当なら、今すぐ答えを出さなければならない。でもすぐに出す事が出来ない。そんな言葉を持ち合わせていないから。

 

 …いや。

 

 ただ怖いだけなのかも知れない。告白を断る事が。自分が精神的に楽になりたいから、先延ばしにしたがっているだけなのかも知れない。

 

「…龍珠、俺は…」

 

「分かってる。今のお前の現状じゃ、多分すぐには答えを出せねぇって事ぐらい。無理に迫って答えを出させても、きっとそれはお前が考えた答えじゃないからな。…だからお前が答えを出すまで、私は待ってやる」

 

 …なんでだよ。普通なら、さっさと答えを出せってなる所だろうに。なんでそう待てるんだよ。

 

 …とはいえ、結局それに甘えている俺が1番クズなんだよな。

 

 告白されたのに保留にして、その結果振る事になるかも知れないってのに。変なとこでメンタルが強い奴らだよな、こいつら。

 

「ちゃんと考えて欲しい。ちゃんと考えて、その答えを出して欲しい。どんな答えになっても、比企谷がそれだけ私の事を考えてくれるって事が、嬉しいから」

 

「……卒業までには、必ず出す」

 

 振り絞った言葉がこれだけだった。

 卒業すれば、今のように彼女達と会う事が無くなるだろう。だからこそ、卒業までに答えを出したいのだ。

 

「…なら良いんだ」

 

 龍珠はそう優しく微笑み、残ったお茶を飲み切る。それに釣られて、俺もお茶を再び飲み始めた。

 

「一応言うが、答え出さなかったまま私の前から消えたら、お前をボロ雑巾にした後、そのままガチで殺すからな」

 

 えっ待って怖い。ボロ雑巾って何?殺すって何?というか、それ早坂のセリフじゃね?何、お前の中に早坂が乗り移ったの?

 

「ぼ、ボロ雑巾というのは…?」

 

 俺は恐る恐る龍珠に尋ねるのだが。

 

「さあな」

 

 と、今度は獰猛な笑みで短くそう返した。

 早坂といい龍珠といい、マジで怖い。誰だ龍珠ツンデレとか言ったの。普通にヤベェよ。

 

 少なくとも2人から殺害予告を受けてるんだ。ちゃんと考えないと。いや本当。

 

 このままじゃいつかR-18Gになっちゃうよこの作品。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。