やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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藤原千花は付き合いたい

 どうも!比企谷八幡の妹、比企谷小町です!

 秀知院に通ってなんだかんだ日が経ち、それなりに友達も出来ました。勿論、生徒会の方々とも仲良くさせて頂いてます。

 

 今日も生徒会があり、小町は見学でお邪魔させて頂いてます。

 全員が生徒会室に……と思いきや、お兄ちゃんがまだ来てないのです。千花さん曰く、毎日自販機で缶コーヒーを買ってから来るそうなので。

 

「もーですね。私彼氏を作ろうかと思うんです」

 

 突然、千花さんの彼氏募集発言。この人、すっごい可愛いし優しい人ではあるんだけど、時々読めない人なんだよなぁ。お兄ちゃんが「生徒会に異物混入してるから気を付けろよ」みたいな事言ってたけど、あれ千花さんの事だったのかな。

 

「急にどうしたんですか」

 

「どうもこうもありませんよ!右見ても左見ても色恋ばっかり!私と小町ちゃんが取り残されて可哀想とか思わないんですか!?」

 

「小町は可哀想だと思いますけど、藤原先輩は特に何も思いません。というか、別に焦って恋人作る必要あるんですか?」

 

「あーそうやって彼女が居る人間はマウントを取って!私だって乙女なんです!彼氏の1人ぐらい作りたいんですよ!」

 

「でも千花さんってモテそうですし、簡単に作れそうな気がすると小町思うんですよ」

 

「ほら!小町ちゃんを見習って!こうやって私を上げてくれる小町ちゃんを見習って!」

 

 確かに変な所は否めないけど、それをひっくるめて千花さんを好きになる人は結構居そうな気がする。

 

「藤原さんはどういう男性が好みなんですか?」

 

「まぁ色々ありますけど……とりあえずはコレ()ですよね」

 

 と、OKマークを作ってお金を示す千花さん。初っ端から最悪なの出て来た。

 

「藤原先輩家太いし関係あります?」

 

「あるに越した事は無いでしょう!」

 

「いえ、一概にそうも言えないわ」

 

 そこに、かぐやさんが否定の意見を出す。

 

「年収が高い人ほど浮気をするものなんです。お金持ちと結婚すれば生活は楽でしょうけど、代わりに夫婦関係が破綻しやすい。自分で起業して年3千万くらい稼いで、年収が少なくても真面目な人と一緒になるのが最も人生の正解に近い……と早坂が言っていたわ」

 

「早坂さん中々芯食ってる感じの事言いますね…」

 

「そうまでして、一緒になりたい人があの子には居るんでしょう。近くにね」

 

 やはり、愛さんには好きな人が居る。そして、その好きな人はあの野郎しか居ない。とんだハーレム野郎だ、うちの愚兄は。

 

「まぁ私はビシビシ金を稼ぐつもりですし、この際条件から除外しましょう」

 

「他の条件と言うと……顔とかか?」

 

「私はあまり容姿関係無いんですよね。結局、好きになった人がタイプというか」

 

「あーそれ僕も分かります」

 

「結局、人は容姿じゃ無いんですよ」

 

「本当ですか?目の前に橋本○奈と平野○耀が居ても同じ事言えますか?」

 

「それとこれとは別」

 

 千花さんと石上さんが声を揃えてそう返す。

 目の前に美男美女が居たら、絶対そっちに食い付く。小町でもそうなると思う。

 

「結局、私のタイプってかぐやさんみたいな人なんですよ〜。私の彼氏になってくださ〜い」

 

 かぐやさんを後ろから抱きついて、頬擦りする千花さん。これは俗に言う、GLってジャンルか。

 

「藤原…一応言っておくが、四宮は渡さんぞ」

 

「会長…」

 

 あらら〜。今完全にときめいた顔しちゃいましたねかぐやさん。というか、会長も中々あざとい。バカップルだバカップル。

 

「ほら隙を見せたらすぐこれですよーっ!!」

 

 千花さん大爆発。いつぞやのように荒れ狂いながら会長に物申していた。

 

「確かにかぐやさんとの交際は認めましたけどね!私の分もちょっとは残して下さいよ!週2で良いからかぐやさん下さい!」

 

「ダメ」

 

 中々独占欲の強い事で。本当、息をするように惚気るよなぁこの2人。めちゃめちゃラブラブカップルじゃん。

 

「急に彼氏とか言い出したの四宮先輩に彼氏が出来たからかもね。藤原先輩って四宮先輩を彼氏役に立てていた節があるから」

 

「あー居るよなー。同性相手に彼女ムーブして周囲に女子力アピールする女」

 

「大抵の場合、彼氏役の女の子は良い気分がしないのでやめた方が良いですよ」

 

「人聞き悪い事言わないで下さい!」

 

 もうオーバーキルだよこれ。千花さんめっちゃリンチ食らってる。でも小町が入る前の生徒会知らないし、庇うに庇えないんだよなぁ。

 

「確かに私には男女交際はまだ早いと思うし……好きな人が居るわけでも無いのに彼氏欲しいなんて変な話ですよ。ただ私は、皆と話を共有したいだけなんです」

 

 自分だけ疎外されているようで嫌なのは、小町も分かる。別に恋愛話で疎外感は感じないけれど、自分だけ話に付いていけないのはなんだか悲しくなっちゃう。

 

「…まぁそういう話なら、真面目に聞きますか」

 

「そうだな」

 

「もしかしたら、僕らの周りに藤原先輩のタイプが居ると思いますし。…というか、実際はもう居たりするんじゃないですか?」

 

「?そんな人、特に居ませんけど」

 

「そうですか……。まぁそれは置いといて、どんな性格の人が好きなんですか?」

 

「そうですね……やっぱり、努力家な人ですかね〜。それでいて優しい人が好きです。頭が良い人も素敵だなって思いますし、私犬派なので犬っぽい人が好きなんです。後私、お兄ちゃんに憧れてたので兄っぽい人だと…」

 

「…およ?」

 

 努力家で、優しい。頭も良い上に犬っぽい。その上、兄ポジに居る人間。

 えっまさか。そんなわけ無いよね。千花さんのタイプがまさかまさかのあの野郎じゃ無いよね。

 

「まぁそれも必須では無いんですけどね。どっちかと言うと、大事なのは趣味とかフィーリングなので!」

 

「千花さんの趣味ってなんなんですか?」

 

「私、ゲームが好きなんです!ですのでゲーム好きな人と一緒だと嬉しいです!後、私ボケ担当なので、小気味良いツッコミを持ってる人だと尚良いです!」

 

「…え?」

 

 ゲーム好きで、普段ツッコミを入れる人?

 ちょっと待って。さっきの内面に趣味をプラスしたら、小町の中でとんでもねぇ人物が浮かんだんだけど。

 

 もしかして、千花さんのタイプって。

 

「私がこうなので、ダメって時はダメって言ってくれる人が良くて……後、あんまり陽キャ感ある人は好きじゃないですね〜。それに、私ラーメンが好きなので、付き合ったらラーメン巡りとかして…」

 

「ええええぇぇーっ!!」

 

「うおびっくりした。どうした」

 

 思わず叫んでしまった。どうしたもこうしたもあるかい。今ので気付かないのか?

 

「千花さんのタイプって……まんまお兄ちゃんじゃないですか!」

 

「………ふぁ!?」

 

 思考停止して身が固まる。と思えば、突然摩訶不思議な声が。

 

「な、何を言ってるんですか!誰があんな女誑しクソ野郎を好きになるんですか!」

 

「だって今の半分以上お兄ちゃんに当てはまってましたよ!」

 

「やっぱそうですよね。藤原先輩、実は比企谷先輩の事好きなんじゃないですか?」

 

「そんなわけ!石上くんの目は節穴ですか!?髪の毛で片目が隠れてるから状況の識別能力がバグりましたか!?」

 

「ならなんでそのヘッドリボン着けてるんですか?」

 

「ヘッドリボン?」

 

 石上さんが指摘したヘッドリボンに、小町は復唱する事で尋ねた。

 

「あれ、藤原先輩の誕生日に比企谷先輩が贈ったプレゼントなんだよ。あれ以降ずっと着けてますよね、それ」

 

 お、お兄ちゃんが千花さんにあんな洒落た贈り物を…!?一体どこでそんな美的センスを養ったんだろうか…!?

 

「別に着ける事は何もおかしくありません。ただ、貰ってから毎日着けてますよね。少なくとも、僕が藤原先輩と会う日は絶対そのヘッドリボンを見ます」

 

「確かに。前の黒のヘッドリボンを着ける事が無くなったな」

 

「ち、ちがっ…」

 

 慌てて否定する所が益々怪しい。千花さんの場合、のらりくらりと流しそうなものだと思っていたけど、実はそうでも無かったのかな。

 というか、さっきから一言も言葉を発して無いミコさんが怖い。これでもかって言うくらい濁った目をして千花さんを見つめている。

 

「でも、藤原さんと比企谷くんってなんだかんだで相性が良いように見えますよ。私も」

 

「かぐやさんまで!?」

 

 もしかして千花さんも、小町のお義姉さん候補だったりするのかな。ミコさんに愛さん、眞妃さんに龍珠さんに圭ちゃん。そして千花さん。

 なんじゃこのハーレム。一体いつからあのお兄ちゃんが女誑しになったのだろうか。

 

「そうですよ皆さん。藤原先輩の言う通りです」

 

「み、ミコちゃん…」

 

 千花さんを擁護したのは、ミコさんだった。唯一擁護してくれたミコさんに対して、涙を浮かべる千花さん。しかし、それはすぐに裏切られる。

 

「比企谷先輩と藤原先輩はただの同期です。それ以上、何もありませんよね、藤原先輩?」

 

「み、ミコちゃん…」

 

 先輩ですら恐怖する、ミコさんの無機質な表情。この場の誰もが戦慄させられた。

 

「そ、そういえば、小町はどういう男が好みなんだ?」

 

 石上さんが慌てて話を切り替え、千花さんから小町に視点を当てた。

 

「小町ですか?そうですね……浮気しそうじゃないと言うか、変に律儀で真面目な上に、面倒くさい捻デレな人ですかね」

 

 近くに居る人で例えるなら、お兄ちゃんみたいな人かな。

 

「…比企谷くんもですけど、小町さんも大概ブラコンだと思うんですよね」

 

 失敬な。

 

「兄妹で仲が良いのはなんとも良い事じゃないか」

 

 お兄ちゃんが一方的に小町の事を好きなだけ。小町がお兄ちゃんの隣に居るのは、ダメダメで碌でなしの人間を支える事が出来る人間は小町ぐらいだと思ってるから。

 

 妹じゃなかったら、あんなんに絶対話しかけないし、そもそも近づきすらしないと思うけど。

 

「そうですね。小町、比企谷先輩の事を話す時だけ1トーンくらい声が高くなりますし」

 

 ちょっと待って小町ブラコン扱いされてる?

 そんなにお兄ちゃん好きじゃないもん。面倒くさいし目死んでる人間として甲斐性なしのお兄ちゃんそんな好きじゃないもん。

 

 まぁ?それでも小町にすんごく甘くて優しくしてくれるから?ちょっと小町的にポイント高いけど?

 

「うっす」

 

 そうこう話していると、やっとお兄ちゃんが来た。もう、いつもお兄ちゃんは遅いんだよ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「全く…!」

 

 あんな話題出すんじゃなかった。今となってはそう後悔している。

 私が比企谷くんの事が好き?私のタイプがまんま比企谷くん?あはははは。

 

 なんかそんな気してきて怖い。

 

 彼は目さえ良ければそこそこイケメンです。つまり彼は目で外見を台無しにしているんです。

 しかし、先程言った通り、私は外見で判断しない。好きになる時は、やはり内面で選ぶ。

 

 努力家で優しい上に、お兄ちゃんっぽい人。ゲームの話が通じる人が良いし、ツッコミ担当だと本当に良い。

 

 比企谷くんじゃない?これ。

 

 確かに、彼は優しい。面倒だなんだ言いながらも、しっかりした人だ。小町ちゃんという妹がいるからか、時々お兄ちゃんっぽく見える時もある。

 彼の趣味はサブカルチャーで、ゲームだけじゃなく、アニメや漫画などの話も通じる。それに、どちらかというとツッコミ担当。

 

 あっこれ比企谷くんだ。

 

 私は比企谷くんがタイプだったのか。なんてこったい。自らあの泥沼の修羅場に飛び込まなきゃならないのか。私まだ死にたくない。

 

 …でも。

 

『こうやってみんなで花火をするだけでも、いい思い出を作るきっかけになるんじゃねぇの?知らんけど』

 

『ほれ、言ってみ。伊井野』

 

『前だよ石上!前なんだ!!』

 

 比企谷くんは誰かをずっと助けてきた。自分が苦労人になったとしても、他人のために惜しみなく。

 生徒会の皆だけじゃない。早坂さんも、四条さんも、きっと比企谷くんを好きになった人は、比企谷くんに助けられたからだろう。

 

 誰かを助けるそんな姿が、私にはカッコよく見えたんだ。

 

「…あ……」

 

 きっと今日の話で、はっきりしたのかも知れない。

 

 比企谷くんの事が、好きなんだって。

 

 ずっと誤魔化してきた。私が比企谷くんを好きじゃあ無いって。私の勘違いだって。

 ヘッドリボンだって、所詮生徒会の一員としての誕生日プレゼント。皆からのプレゼントは嬉しいに決まってる。

 

 …でも、どうしてもこのヘッドリボンを手放したくなかった。ずっと愛用していた黒色のヘッドリボンから変えてまで、私はこのヘッドリボンを付けていたかった。

 

 今になって分かる。比企谷くんからの……好きな人からのプレゼントが、とっても嬉しかったからに違いない。

 でも比企谷くんの事だ。私だけじゃなく、他の女性にも似たようなプレゼントを渡しているのだろう。何が欲しいのか分からないからと言って。

 

 そう思うと、胸が苦しくなる。

 

 ミコちゃん達に比べて、私はもう何十歩も出遅れてる。1年半一緒だったと言うのに、好きになって自覚したのが今頃なんだから。

 恋愛は早い者勝ち。つまり出遅れた人間は圧倒的に不利なんだ。出遅れた人間は運が悪い。どうしても、恋愛って運要素が強いから。

 ドラマみたいに運命が味方をする事は無い。綺麗事だけで成就する恋は無い。良い子ぶっても時間の無駄。

 

 恋愛は、戦略と駆け引きが必須になる頭脳戦。どれだけ卑怯な手段でも、最後に残った人間が勝ちなんだ。

 

 そうと決まったら急がなければならない。彼と過ごせるのはもう1年も残されていない。比企谷くんから私に来る事はあり得ない。だから待っててもどうしようも無い人は待たない。

 

 待たないで、こっちから行かないと。

 

 しかし、ぐいぐい行くと比企谷くんに勘付かれてしまう。

 だから今までのように接しながら、さりげなく近づく感じのスタンスで行ってみよう。

 

 ごめんね、ミコちゃん。先輩として、ミコちゃんの恋は応援してあげたいの。

 

 でも、乙女として譲れないものがある。

 

 きっとミコちゃんは比企谷くんの事が大好きなんだよね。傍から見ていたらミコちゃんの態度はすぐ分かるから。自分以外の女が好きな人に近づくのですら、本当は嫌なんだもんね。

 けど、私はそれを見て「先輩だから譲ってあげよう」だなんて考えてあげられる気がしない。ミコちゃんより好きになったのは後だし、過ごした時間はきっとミコちゃんの方が長い。

 

 でも残念だけど、この戦いは勝者が1人のバトルロワイヤルだから。ミコちゃんは恋敵。味方じゃないの。過ごした時間も、深めた絆も関係無い。

 

 最後に比企谷くんの隣に居た人間が、勝利なんだ。

 

「あ、千花さん!」

 

「お前正門で何ボーッとしてんだよ」

 

 背後から小町ちゃんと比企谷くんが声を掛けて来る。

 好きな人が近くに居るだけで、こんなにドキドキするんだ。比企谷くんが今、私を…私だけを見てくれているのが、こんなにも気持ち良いんだ。

 

「…どうした、藤原?」

 

 怪訝な顔で比企谷くんが尋ねる。

 

「なんでもないですよ〜。途中まで一緒に帰りませんか?」

 

「わっ、良いですね!帰りましょう!」

 

「別に構わんけど」

 

 こうして、私達は途中まで3人で帰る事に。

 さりげなく、私は比企谷くんの隣に並んで歩く。小町ちゃんの話を聞きながら、彼の横顔をチラリと覗く。

 

「ふふっ」

 

「…何笑ってんだよ」

 

「いーえっ。なんでもないですよ〜」

 

 貴女達の恋愛大乱闘(ラブバトルロワイヤル)、私も参戦します。そんでもって、最後まで勝ち残ってみせます。

 

 全て、比企谷くんの隣に居続ける為に。

 

 


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