やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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 やっぱアニメの眞妃ちゃん可愛かった。


伊井野ミコは送られたい

 フランス校との交流会の翌日から、四宮は学校に来なくなった。

 四宮がどう関わっているのかは分からないが、四宮グループの幹部が21人逮捕された事、また株価が落ちたタイミングで四条グループがTOP。

 

 十中八九、四宮家と四条家の争いに巻き込まれた。

 

 パーティーが終わってすぐ、四宮家に雇われた黒服達が四宮を迎えに来た。ビジネスジェットで大阪に飛び、おそらく本邸がある京都に戻ったのだろう。

 

「八幡」

 

「…早坂か」

 

「ちょっと良い?」

 

 今は昼休み。いつも通りベストプレイスにて、昼飯を食べて済ます所だが、早坂のこの神妙な面持ちに俺は何かを察した。

 

「…分かった」

 

 人に聞かれたく無い、というか安易に盗み聞きされてはならない話。であるなら、ベストプレイスが1番お誂え向きだ。

 早坂と一緒にベストプレイスに向かい、腰を掛けて話を尋ねた。

 

「…四宮の事か?」

 

「…いや、どちらかというと会長の事かな」

 

「白銀?」

 

「その前に、八幡には四宮家の話をしなきゃならない。かぐやにも、会長にも関わる話だから」

 

 早坂はそう言って一区切り置いて、そして本題に入り始めた。

 

「四宮家総帥の四宮雁庵。かぐやのお父様が、数週間で亡くなるの」

 

 四宮雁庵…四宮の父親の余命宣告から話は始まった。

 

「四宮グループは、四宮雁庵の帝国だった。あの人1人のカリスマで、四宮グループが纏まっていた。歯向かう者は徹底的に叩きのめし、従う者には十分な蜜を吸わせる。そんなカリスマを持った人間が、数週間の命。昭和、平成…今や令和になって、長く続いた四宮の時代ももう終わる。…けど」

 

「そこを四条グループに突かれた…って事か」

 

 予め、四条から四宮家と四条家の争いの話を聞いていたからなんとなく流れが分かっていた。

 

「四宮の独裁主義に反発してた派閥を取り入れて、クリーンな財界を目指す官僚と組んで告発。離反組の株放出からの敵対的買収にヘッドハンティング。四宮内部は今、荒れまくってる」

 

 四宮が今どうなっているかは分からないが、およそ大丈夫という所から程遠い所に居る事は間違い無い。

 

「四宮と四条の対立は、謂わば血統の対立。幹部の一斉逮捕も相まって、血統主義を支持する機運は高まっている。かぐやの価値は、しばらく高まる。……良い意味でも、悪い意味でもね」

 

 今回の場合、悪い意味に傾きそうで怖いな。

 四宮かぐやという存在は、四宮家と四条家にとって非常に価値のある存在なのだろ。四宮かぐやを手に入れる者は、この争いを制する者と言っても過言じゃないだろうな。

 

「それで、その…雁庵?って人間が王座から降りたんなら、次を継ぐ人間が居る筈だろ」

 

「そう。次に四宮家を継ぐのは、長男の四宮黄光(しのみや おうこう)。…私はあの男の命令で、かぐやのスパイを続けてきた」

 

 よく分からんけど、おそらく雁庵の次に立場のある人間って事なんだろう。まぁ順当に行けば、年功序列だろうな。

 

「次男の青龍(せいりゅう)は長男の腰巾着だし、器としてトップにはなれない」

 

「…あいつは?修学旅行の時の…」

 

「あぁ、雲鷹の事?あの男は継母の子だから。今の四宮の体制じゃあトップには立てない。それに……」

 

「…それに?」

 

「…まぁ、後になれば分かるから。とにかく、次のトップは四宮黄光なのは間違いない。かぐやのお父様が動けない今、四宮を動かしているのはあの男。つまり、かぐやの処遇をどうするかも、実質あの男が握っているも同然」

 

「…その言い方だと、四宮が黄光って奴に何かされるっつう解釈をしてしまうけど?」

 

「そう。八幡の解釈は、きっと合ってる」

 

 早坂の肯定に、俺は目を見開く。

 当たって欲しくない解釈だったが、世の中そう嫌な事は避けられない。

 

「今のかぐやには使い道がある。かぐやを上手い事操って、どうにかしたがると思う。そこで、会長なんだ」

 

「なんで白銀が出て…………まさか」

 

「うん。今のかぐやの弱点は、白銀御行の存在

 

 四宮の性格は分かってる。あいつ個人なら、黄光だろうが青龍だろうが歯向かう事必至。しかし、奉心祭で四宮は白銀と付き合った。その情報は間違いなく四宮家に流れている。

 

 例えば、白銀を人質にすれば。四宮は白銀を守る為に、黄光の言いなりになって、白銀を守るだろう。あいつは義理堅い人間だから。

 

「だから会長を守る為に、私が護衛に付くの」

 

「…確かに早坂が護衛に付くのは心強いが、また前みたいな事になったらな…」

 

 雲鷹の事があるし、早坂は四宮の機密情報を握ってる。いくら手を出さないとはいえ、あの場の口約束だ。また狙われたらたまったもんじゃない。

 

「その心配は要らないよ」

 

 そう微笑む早坂。俺の不安は、後にすぐ消え去る事だろう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「心配要らないってこういう…」

 

「久しぶりだな。クソ鼠」

 

 放課後の夜。屋上にて、まさかこの男と出会うとは思わなかった。

 

「四宮雲鷹…」

 

 四宮の情報を聞いた後、俺は早坂に屋上に連れて行かれた。その屋上に居たのは、白銀と、修学旅行で俺達を襲った四宮雲鷹だった。

 

 なんだこのメンツは。後雲鷹さん、鼠呼ばわり好きね。

 

「先に言っておくが、俺はお前らに許して欲しいなんざこれっぽっちも思ってねぇ。早坂の人間と、そこらの庶民のクソ鼠と馴れ合う道理は無いからな」

 

「私だって貴方の事を許すつもりは毛頭無い。ただ利害が一致しただけの間柄なだけ。…それより、ちゃんとバイト代は払ってよ」

 

「おう」

 

「後、何人か信用出来て戦える男性を用意して。それと、京都に土地勘のある運転手も…」

 

「ちょっと待てちょっと待て」

 

 話の流れに付いていけない白銀が割り込む。

 

「護衛って、まさか四六時中一緒に居るのか?」

 

「学校の中は大丈夫。秀知院のセキュリティは思ってるより高いから。けど登下校中は家に居る時が危ない。しばらく一緒に住むから。もう会長のお父さんにも話が通ってる」

 

 どうやら、白銀と早坂の同居が決まったようだ。

 しかし、白銀は何故自分の親に話が通っているのかを疑問に思った。というか、それは俺も。

 

「え、なんで親父に…?」

 

「三者面談の時に私のママがライン交換したって言ってたから」

 

 親の交流凄ぇな。

 

「で、会長の家には八幡と小町ちゃんも連れて行く」

 

「俺らまで白銀の家に?」

 

「実家が東京にある会長達とは違って、君達兄妹は下宿だから。親が居ないと万が一がある。それにあのアパートはセキュリティもクソも無いし。いつ君達が四宮家の手先に襲われても遅くない。今日だって、会長のお父さんに小町ちゃんを迎えに行って貰ったから」

 

 待ってそれ絵面大丈夫?いい歳したおっさんとJKに成り立ての女の子が並んで歩く絵面とかヤバすぎるだろ。傍から見たらパパ活のように見えるぞ。

 

「…ってちょっと待て。早坂が白銀の家に泊まるのは、早坂の親から白銀の親に伝えたからだろう。お前まさか、俺と小町を泊めて貰うように頼み込んだのか?」

 

 いくら護衛とは言え、いささか厚かまし過ぎやしないだろうか。ましてや、俺守られる方だし。

 

「違うよ。ママと会長のお父さんと八幡のお母さんのグループラインでそういう話になって」

 

「グループライン!?」

 

 母ちゃんがグループライン?しかも何そのメンツ。

 というかいつの間にそんな交流あったんだよ。マジで親の交流凄ぇな。少なくとも繋がって欲しくない交流なんだけど。

 

「ま、まぁ大体の話は分かった。…けど、お前だけに一方的に守られるわけにはいかない。自分の身は自分で守るし、小町も俺がなんとしてでも守る。お前だけに、負担は掛けさせない」

 

「…本当、お兄ちゃんしてるね」

 

「お兄ちゃんだからな」

 

 しばらくの方針は決まった。

 俺達は秀知院を離れて、まず俺のアパートに向かう。着替えとか生活に必要な物を諸々揃える為だ。

 自分の歯ブラシを持って行く時、小町の分が無かった。おそらく白銀父の付き添いで1度戻って来たのだろう。小町の服とか生活に必要な物は、持って行く必要は無いと思われる。

 

「…これで良し」

 

 準備を終えた俺は部屋の鍵を閉めて、再び道中に戻った。

 

「あ、私の歯ブラシ買って良いですか?後コンタクトの洗浄液も。ポテチは何味が好きですか?」

 

 お泊まり会かよ。何呑気にポテチ何味にしよう?みたいな会話してんだよ。

 内心そんなツッコミを入れながら、早坂の生活必需品を購入。そして遂に、白銀の新たな家に到着。

 

「そういえば、圭ちゃんにも言ってるのか?」

 

「ううん。圭ちゃんや小町ちゃんには、ある程度ぼかして伝えて貰ってる。かぐやとは親交があるけど、正直に話すと色々パニックになると思うから」

 

 小町は時々勘が鋭いからな。今日のニュースと白銀父が迎えに来たタイミングで、なんとなく察しそうな気がする。というか、この間バチバチにやり合った相手にそういう気遣いする辺り、早坂の人の良さが垣間見える。

 

 そんな早坂に感心している傍ら、白銀は家の扉を開ける。

 

「ただいマッスル」

 

「お邪魔しまーす」

 

「お邪魔します」

 

 白銀のお家にお邪魔する俺と早坂。そこに意外な出迎えが。

 

「あ、お兄ちゃん。やっほー」

 

「…普通に寛いでんな、小町ちゃんよ」

 

 ひょこっと家のノリで、小町が出迎えてきた。その後ろには、白銀父と圭が。

 

「八にぃっ」

 

 前から勢いよく抱きついて来たのは、圭だ。俺自体はそんな久しぶりじゃないけど、この作品だと久しぶりに登場したんじゃないだろうか。

 

「今日からしばらく泊まるんでしょ?」

 

「まぁ、そうだな。色々あって」

 

「後で私の部屋に来てよ、八にぃっ。前の家よりめちゃ綺麗なんだよ」

 

「だろうな。玄関見たら分かる」

 

 後さ、こちらを見て各々の想いを込めた視線向けるのやめて?早坂に至っては敵意か殺意の類だよね、それ。

 

「娘がJCながら高校生を誘惑する瞬間を目撃してしまうとは……」

 

「お兄ちゃん、中学生まで誑かしてたんだ…ロリコン」

 

 違う。ロリコンじゃない。シスコンだから。いつだって小町一筋だから。だからそんな冷たい目で見ないで?

 

「それはさておき、早く上がると良い。夕飯もまだだろう?」

 

 白銀父にそう促され、俺達はローファーを脱いでお邪魔する。白銀父が家の中を案内する傍らで、いつの間にか早坂と圭の睨み合いが始まっていた。

 

「愛くんは小町くんと同じ部屋で、比企谷くんは御行の部屋で寝ると良い」

 

「八幡、後で部屋においでよ。小町ちゃんも居るし、ね?」

 

「八にぃ、私ちょっと国語で躓いた所があってさ。後で部屋に来て教えて?」

 

「は?」

 

「なんですか?」

 

 どっちの部屋にも行かねぇ。怖いもん。今日はずっと白銀の部屋に引き篭もる。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 白銀の家に住んでから1週間以上が経ったが、依然四宮は学校に来ない。今、四宮がどうなっているのかは分からないが、多分良くない事がこれから起きるだろう。

 単なる勘だし、無いなら無いでそれが1番良い。だが、この手の問題は必ず何かが起きる。それがお決まりの展開ってやつだからだ。

 

 そのお決まり展開は、もう既に始まっている。

 

 白銀だけじゃなく、生徒会の面々を調べている人間が陰に居る。

 その正体は、四宮本家の人間ではなく、外部の調査会社の人間。危害が加わる可能性は無いが、四宮本家からの牽制とも取れる。

 表立って不用意な事をすれば、間違いなくその情報は四宮本家に伝わる。伝われば、四宮を人質にする事も可能だろうし、最悪俺達に危害を加える事だって可能だ。

 

 現状、何もしない事が奴らを抑える手立てだと思われる。…のだが。

 

「ストーカー?」

 

 放課後、生徒会室に向かおうとした時、奉心祭以来全く話さなかった小野寺に声を掛けられた。後ろには大仏と不知火、そして顔色を悪くしている伊井野が。

 

「そうなんすよ。だから、比企谷先輩には伊井野の送り迎えをお願いしたくて」

 

 話を纏めると、「伊井野をストーキングしてる奴が居るから男手のお前がなんとかしろ」って事だ。

 タイミングから察するに、おそらく調査会社の人間だろう。実害を出すわけじゃ無さそうだから、伊井野に危険が及ぶ事は無い。

 

 ただ、万が一の事がある。ガチのストーカーならそれはそれでヤバいし、今の伊井野の精神面を考えれば、調査会社の人間と言ったとしても、不安を拭い去る事が出来ない。となるなら、しばらくの間は送り迎えした方が良いか。

 

「…分かった」

 

 早坂が護衛しているのはあくまで白銀。俺や小町は白銀や藤原のように、親の居る家に帰ってるわけじゃないから、万が一の事を考えて白銀の家に住まわせてもらってる。謂わばおまけ扱いのようなものだ。

 だから白銀のように、終始護衛される必要も無い。白銀に比べれば、まだ自由に動く事は出来る。四宮本家にとって、俺は人質として価値の無いものだろうからな。

 

 早坂と白銀に前もって連絡し、伊井野を送る事にした。その内容を告げた時の早坂の表情は、言わなくても分かるだろう。おそらく、それを聞いた圭も癇癪を起こしそうで怖い。

 

 そして迎えた放課後。

 

「今のとこは何も無さそうだな」

 

「…でも、まだ警戒しないと…」

 

 ストーカー、あるいは調査会社の人間の気配がしない。

 正直、拍子抜けではある。しかし、今の伊井野に「ストーカーなんて居ない」って言った所で納得なんてしないだろう。

 

「私小さいですし、昔から変な人に狙われやすいですし…。誰も守ってくれる人なんて居ませんでしたし……。私には、比企谷先輩しか居ないんです…」

 

 そう言って、伊井野は俺の腕を握ってくる。

 今こんな状態の奴に、正論ぶちかましても聞く訳が無い。だから伊井野の精神が安定するまでは、一緒に帰るしか無い。勿論、ストーカーやら調査会社の人間やらを警戒しつつ。

 

 そんなこんなで、伊井野の家に辿り着いたわけだが。

 

「とりあえず今日はもうゆっくり休め。さっさと寝るなりASMR聴くなりしてな」

 

 それだけ言って俺は帰ろうとするが、伊井野は依然手を離してくれなかった。

 

「言ってたんです。家の中で鉢合わせる事があるって…」

 

 ここで強引に伊井野の手を振り切れば、間違いなく崩れ落ちてしまうだろう。高確率でストーカーが居ないのは分かってるのに、それすら言えず伊井野に言うままに従っている。

 

 これが共依存、なのだろうか。

 

 伊井野を強く拒めずに、俺は伊井野の家に上がった。

 上がったものの、俺達以外の人影は無さそうだ。もし本当に居たらどうしようかと思ったが、居なくて良かったわ。

 

「じゃ、俺は…」

 

「帰っちゃやだ…」

 

 敬語すら忘れ、伊井野は再び俺を引き止める。

 

 ストーカーなんか居ない。伊井野の勘違い。お前に危害を加える奴は居ない。そう言ってしまえば良いだけなのに、その一言がどうしても出せない。

 

 伊井野が俺に依存しているように、俺も伊井野に依存しているのかも知れない。「俺が居ないと、伊井野は危うい」「俺が断れば、伊井野はきっと辛い思いをする」といった思考を拭う事が出来ないのが、その証拠だ。

 

「…泊まりは無しだからな」

 

 結局、妥協案まで出してしまう始末。伊井野はそれでも嬉しかったのか、少し元気を取り戻した。

 掴んだままの俺の手を、彼女は強引に自分の頬へ誘導する。触れた途端、彼女の柔らかい頬の感触が伝わり、伊井野は恍惚な表情を浮かべる。

 

「部屋、来て下さい」

 

 振り解く事無く、伊井野に引っ張られるがままに連れて行かれる。連れて行かれた先は伊井野の部屋では無く、リビングだ。そこにあるソファに隣合って腰を掛ける。

 

 なんなんだこの状況は。

 

「…生徒会、どうなっちゃうんですかね」

 

 ポツリと、伊井野がそう呟いた。

 

「四宮先輩はこういう事態を想定して、私達だけでも生徒会が回るように厳しく指導してくれました。会長が日本に残るのは今学期まで。アメリカに渡るまで一月も残ってない」

 

 白銀の行く大学は既に決まっていた。

 アメリカのカリフォルニア州にあるスタンフォード大学。偏差値80越えの、超絶エリートしか行けない異国の大学。

 圭曰く、奉心祭の前辺りから決まっていたそうだ。おそらく奉心祭で告白したのも、四宮と過ごす時間があまり無かった事も相まった筈だ。

 

「四宮先輩にべったりだった藤原先輩も、もう来なくなるかも知れない。比企谷先輩だって、自主的に生徒会に入ったわけじゃない。仕事さえ無いなら、来る必要性が無くなる」

 

「…かもな」

 

「夏が終われば生徒会は解散。もしこまちゃんが入るとしても、3人しか居ない」

 

 内容が大事なのは分かる事。素人目からしても、重い空気だとすぐ分かるだろう。

 

 だがしかし。

 

 俺の手ぇ握りながら話されても。何故手を握りながらそんな真剣な話が出来る。

 

「石上は会長にくっ付いて生徒会に入って来ました。…でも、昔の石上と違って今の石上は生徒会以外に居場所がある。来期も生徒会を続けるのか分かりません」

 

「伊井野はあれか。白銀が抜けた後、生徒会長になるのか?」

 

「そう考えてます。…でも、時々思うんです。どうして私は、生徒会長になりたいのだろうって」

 

 伊井野が生徒会長になりたかったのは、要約すると悪が許せないから。

 彼女の行動の原理は正義だ。やたら古臭く、厳しい校則を提示したのは、秀知院の風紀が乱れていたからだ。

 

「生徒会や文化祭実行委員に関わって、キャンプファイヤーも実現して。色々見てきました。…でも、それじゃあ私が掲げてきたルールに正しい学園生活って、本当に……」

 

 しかし今、伊井野は自分の正義が分からなくなっていた。

 

 確かにルールは必要だ。無ければただの無法地帯になる。だから安易にルールなんて不必要とは言えない。

 だが厳しくし過ぎると、それはそれで反感を買う人間も居る。誰もが納得するルールなんて、正直存在しない。どこかで妥協して受け入れざるを得ないから。

 

 案外、こういうのは藤原とかに向いていたりしてそうだ。

 

「そう思いませんか?」

 

「へ?あ、それな」

 

 全然聞いてなかったわごめん。自分の正義が正しいのか否かの葛藤で悩んでるところまでしか聞いてなかった。

 

「石上が来なければ、来期は私1人になるんですかね…」

 

「いや、多分小町も入ると思うぞ。部活には入らんと思うし、今生徒会に来てるのはどういう雰囲気かを見たかったからだろう」

 

「…こまちゃんが居たら、先輩は来てくれますか?」

 

 すると、伊井野は身体をこちらに預けて来る。それはまるで、彼氏からの抱擁を待つ彼女かの様。

 

「…まぁ、偶には行くと思う、けど…」

 

「偶に、じゃ嫌だ……毎日来て欲しい……毎日来て、毎日私を甘やかして欲しいです…」

 

「いや、今まで十分甘やかして…」

 

「足りないんです。私は、比企谷先輩と離れたくない。比企谷先輩が居ないと、寂しい女なんです。ずっと甘やかして、ずっと優しくして欲しい。比企谷先輩が居ない日なんて、死んだ方がマシなんです」

 

「伊井野…」

 

 この時、俺は一体どうすれば良いのか。

 安易に伊井野を抱きしめて良いのだろうか。そうすれば、余計に依存するだけじゃないか。しかし、今更それを気にするのか。

 

 どうしようと考えていた時、俺のスマホから振動が。ポケットから取り出すと、着信先はなんと。

 

「…四宮?」

 

 四宮とは連絡先を交換したものの、一切やり取りをしていなかった。というか、互いに取る必要が無かったからだ。

 そんな四宮から電話。絶対に何かあると踏んだ俺は、着信に出る。

 

「…もしもし」

 

 俺は四宮に返事をする。すると、四宮から重大な内容を告げられた。

 

「は?いや、ちょっと待て。お前何言って…」

 

 困惑する俺を気にせず、用件だけを伝える四宮。

 

「待て待て。何言ってんだお前。そんな事何サラッと…」

 

 しかし、無情にも通話は終了してしまった。

 

「切りやがった…」

 

「ど、どうしたんですか…?」

 

 話に付いていけてない伊井野は、何があったのかと恐る恐る尋ねた。

 

「四宮の奴、学校辞めるってよ」

 

 やはり、事態は悪化した。それも、下手すりゃ手遅れになる所まで。

 

 

 


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