やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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彼ら彼女らは救いたい

 四宮が学校を辞める。白銀に直接言わず、俺を通して間接的に伝えようとした。

 

 という事は、四宮が白銀に伝えたくない何かがあるという事だ。

 

 最初、白銀に伝えるか迷ったが、俺から言うべき事じゃない。四宮が直接言わなければ伝わらないし、四宮大好きっ子の白銀の事だ。どうせなんとかしようとするに決まってる。

 

 で、問題は何故辞めるのか、だ。

 四宮家が何かやらかしたからって、四宮が学校を辞めなければならない理由にはならない。というか、学校に戻って来なければそのまま白銀とさよならバイバイに…。

 

「…まさか」

 

 それを狙ってるのか?四宮と白銀の関係を断つ事が、四宮家の目的?

 だとしたら何故?あいつらを別れさせたところで、四宮家が得をするとは思えない。

 

 別れさせる事で、四宮家が得をする。

 

『かぐやの価値は、しばらく高まる。……良い意味でも、悪い意味でもね』

 

「…冗談だろ」

 

 早坂の言葉が頭の中で過って、俺はある仮定が浮かんだ。しかも、突拍子も無い前時代的な内容。この令和に、そんな事があり得るのだろうか。

 ただ、長い歴史を誇る四宮家だ。令和だろうが平成だろうが関係無いという可能性がある。

 

 話を戻そう。

 四宮と白銀を別れさせるのが四宮家の目的とするなら、その理由は何か。今の四宮は価値が高い。四条家にとって、その事は分かり切っているだろう。

 

 例えば、四宮を四条に差し出せば、双方それで落ち着くのではないか。関係修復の屋台骨のために、四宮を四条の人間と結婚させれば、それで互いに満足のいく結果になるのではないか。

 

 単なるグタグダな推測だし、正直あり得ないと今も思ってる。

 だが、四宮家と四条家の水面下での抗争の最中に転校して来た四条帝。あいつが居る事で、この推測に至った。

 

 四宮かぐやは、四条帝と結婚させられる。

 

 となれば、四宮が来れない事も、不自然な転校も頷ける。四条も、「何か考えがあって秀知院に来た」と言っていた。四条帝の考えが何かまでははっきり分からないが、少なくとも四宮絡みは確実だろう。

 

 本当、知らん所で知らん間に意味不明な事が起きてるのが1番厄介だわ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ごめんどういう状況?」

 

 白銀の家に戻り、俺は白銀と早坂に部屋に呼ばれた。会って見せられたのは数えるのが億劫になる札束。いや意味分からん。

 

「何この金」

 

「四宮家からぶん取った10億だ。この世は金が全てだ。金さえあればなんだって出来る…」

 

「…早坂、通訳」

 

「おけ」

 

 白銀に電話が掛かって来た。相手は四宮かぐや。

 電話に出たのは良いが、内容は喜べるものじゃなかった。推測通り、四宮は四条家の人間と結婚させられる。四宮は1度反抗したそうだが、白銀や白銀の家族を出されたら従うしかないと思ったのだ。

 

 結果、四宮家の言いなりになって、白銀と別れた。

 白銀が荒んでいる所に、次男の青龍が現れた。労いの金とか言って、1千万を白銀に差し出す。おそらく「金を渡すから四宮は諦めろ」って事なんだろう。

 しかし、その100倍を白銀は求めた。青龍もそれで納得し、10億が白銀の口座に振り込まれた。金に目が眩んだと早坂は思い込んだらしいが、青龍を欺いて見事10億を奪い取った。

 

「…ようやるわ」

 

 まぁ金が貰えるなら俺もそうしただろうけど。

 

「嫌なら断ってくれて構わない。だが、お前の、お前らの力をどうしても借りたいんだ。頼む」

 

 おそらく、明日にでも石上や伊井野には同じ事を言うだろう。あいつらは喜んで了解すると思うけど。

 

「…その口説き文句が断りづらいの分かってる?せめて協力しろぐらい言え」

 

「て事は…」

 

「俺はさっさとこの面倒な現状を打開したいだけだ。その為に動く」

 

「…やっぱり、八幡は優しいね」

 

「うるせぇ。…とりあえず、詳しい話は明日にするぞ。今細かい事決めても仕方ない」

 

 因みにこの話は、白銀家は勿論、小町にも伝えないらしい。

 危害が加わる可能性がある白銀家に全部言うのは論外だし、小町に至っては、キツい言い方をすればまだ生徒会では無いので、部外者に当たる。というか、個人的にあんま入り込まれて傷付かれるのが嫌なのだ。

 

 そんなわけで、四宮と長く接して来た俺達がなんとかするしか無い。

 

 そうして、翌日。

 同じ事を白銀は、石上と伊井野に伝えた。勿論、2人も協力するそうだ。

 

「まずは知恵だ。企画を練る時に大事なもの、それはプランの量だ。多くのアイデアを出して比較と検討を兼ねる」

 

「何でも良いから出せる分のアイデアを出せば良い。策1つで打開出来る状況はそうそう無い。不足の事態の為の予備の策、その予備が失敗した時の予備の策が必要になる」

 

「なるほど。じゃあとりあえず思い付きを話せば良いんですね」

 

 エントリーナンバー1、石上優の思い付きの策は。

 

「四宮先輩を攫っちゃいましょう」

 

 凄ぇの出た。

 

「先輩が四条と四宮の和解材料って事なら、四条か四宮のどちらかが潰れれば終わりですよね?それまでどこかに身を潜めれば良い」

 

「確かに…少々過激だが、なるほどな」

 

 そうなったら俺は遠慮無く白銀を生贄に出す。四宮を攫うのは白銀の役目だからな。俺は遠目でサポートするから。

 

「はいはい!それより平和的なプランがあります!」

 

 エントリーナンバー2。伊井野ミコが出す、平和的な策は。

 

「これは基本的人権を無視した非人道的な行いです!SNSやネット動画を介して、世の中に告発するんです!」

 

 石上よりは現実的だった。

 

「そうだな。社会的に殺せば四宮を使う気なんて起きないし、そのプランもありっちゃありだな」

 

「比企谷先輩のプランは?何か無いんですか?」

 

「…あるにはある」

 

 だが、まだこの策には穴がある。その穴をどう埋めるかがキモになるのだ。

 

「とりあえず言ってみてくれ」

 

「…四宮を、四宮家のトップに据えれば良い」

 

 俺の策を聞いた全員が、目を見開いた。

 

「今、四宮が雁字搦めになってるのは四宮黄光って奴がトップに居座ってるからだ。だから四宮が四宮家のトップになれば良い。それなら四宮に指図する奴は誰も居なくなる」

 

「そんな事、簡単に…」

 

「比企谷くんの案、私は良いと思いますよ〜」

 

「へ?」

 

 この場に居ない誰かの声。現れたのは、四宮が消えてからあまり姿を見せなかった藤原千花だ。

 

「多分、私と比企谷くんの案は同じだと思います。ただ今のかぐやさんでは、年齢的にすぐにトップになるのは厳しいでしょう。けれど、かぐやさんを守ってくれる人が総裁の座に就けば、比企谷くんの言っていた案はいずれ実現可能になる。…ですよね、比企谷くんっ」

 

「…だが、その四宮を守る人間が誰かって所がな…」

 

「いや、1人居る。三男の、四宮雲鷹か」

 

「うぇ!?」

 

 白銀のその言葉に、早坂は妙な声を出す。そんな声を出しはしなかったが、流石の俺も驚いた。

 

「し、正気ですか?あの男、本当にクズなんですよ?だよね、八幡」

 

「そうだな。正直、あんまり推奨はしない」

 

 俺なんて下っ端に殺されかけたし。

 

「確かに、四宮雲鷹は早坂家や四条家に対して強い恨みを持っています。しかしかぐやさんには、兄弟の中で唯一兄として愛情を注いでいます」

 

「そんな事…」

 

「無いって言い切れますか?かぐやさんを四宮家の支配が薄い東京に連れて来て、子どもの頃からパーティーに連れて行き、四宮としての戦い方をわざわざ教え込んだ」

 

 藤原の論理は強い説得力が見える。そう言われてみれば、捉え方としては確かに妹に愛情を注いでいると見えなくもない。

 だが、それが四宮家の為なら?兄としてじゃなく、四宮家として教え込んだのなら、奴のクズっぷりは否定出来ない。

 

 だが、否定するにも四宮雲鷹という人間を断片的にしか知らない。故に、藤原が言っている事も間違いでは無いと思われる。

 

「かぐやさんのお父様をなんか上手い事誑かして、遺書に総裁は雲鷹に譲るとか書かせれば万事解決!跡目争いのゴタゴタに付け込みましょう!」

 

「…どんだけ詳しいんだよ。どこでそんな情報を仕入れたんだよ」

 

 すると、藤原はとある冊子を机に次々に置き始める。

 

「これは四宮家の間取り図と警備配置。各派閥の資産状況。どことどこが仲が良いかの利害関係。こっちはちょっとした秘密情報」

 

 これを全部1人で調べたってのか…。なんて執念だ。

 

「かぐやさんを大好きなのは、会長だけじゃないんですよ?もし会長がやらないつもりなら、私1人でやるつもりでした」

 

「そういう話は最初に言えよ…」

 

「会長こそ。会長だって色々動いてたの秘密にしてたじゃないですか。私に護衛を付けていたのも知ってるんですから」

 

「いつまで経っても、お前のする事は予想出来ない」

 

「ふふん。こう見えて私は、おじいちゃんの1番弟子ですから」

 

 確か、藤原のおじいさんって…。

 

「私は将来、総理大臣になる女ですよ?これぐらい余裕のよっちゃんです!」

 

「冗談に聞こえないから怖い…」

 

「何も冗談じゃないですけど?」

 

 藤原が総理大臣とかもう終わるよ。日本終わる。こいつが総理大臣になる前に国外に移籍した方が良いのでは無いか。

 

「それじゃあ皆でかぐやさんを…」

 

「その話。私も1枚噛ませて貰って良いかしら?」

 

 四宮を救うプランを今から作成しようとした矢先に、生徒会室に来客が。生徒会役員でも無い上に、四宮家の相手である四条家の人間。

 

「それとも、四条の人間はお呼びじゃ無いかしら?」

 

「四条…」

 

 現れたのは、四条眞妃。敵対中の当事者が現れた。

 

「私は四条と四宮のゴタゴタの詳しい経緯を知ってるし、四条の幹部にも多少の口利きは出来る。貴方達がしたい事に使える人材だと思うけれど」

 

「そりゃ助かるけど、良いのか?四宮は四条の敵だろ」

 

「だからこそよ。四条家の長女として、四宮と四条の抗争に決着を付ける義務がある」

 

「…とかなんとか言っときながら、要は四宮を助けたいから力貸すって事だろ」

 

 分かりやすいやっちゃなこいつは。

 

「人の話聞いてなかったの八幡。今回の抗争は四条家としてもデメリットが多いの。四条家は皆、四宮家に良い感情は持っていないけれど、今回は特に強い恨みを持つ派閥の暴走。恨みでブレーキが壊れてるから、このままだと行く所まで行く。争いが続いたら双方共倒れ。それは避けなきゃならないの」

 

 凄い。長々と詳しい事話してくれたけど、要するに。

 

「ツンデレかよ」

 

「ツンデレって何よ!私は四条の娘として四条の行く先を案じてるだけ!かぐやがどうなろうと知った事じゃないの!」

 

「おばさまから呼び捨てになってるぞ。絶対好きだろ」

 

「好きじゃないわよ!」

 

「じゃあ嫌いなのか」

 

「嫌い……ではないけど!」

 

「じゃあ無関心なのか」

 

「そういうことじゃなくてっ…!」

 

 もうこれ答え出てるだろ。どう考えても四宮のこと好きなやつだろこれ。大体好きじゃない人間のことを名前で呼ばないし、わざわざここに来たりしない。

 

「好きなんだろ」

 

「…うん」

 

 ほらやっぱな。なんでそんな可愛くなるんだお前は。

 

「ほんとは好きよ、かぐやの事。でも私、何も出来なくて…。こんなのあんまりじゃない……やっとの事で好きな人と結ばれたのに、家の都合で引き剥がされて政略結婚だなんて…」

 

「四条…」

 

「どうにかしてあげたいって思うのが人間てもんでしょ!?」

 

 四条良い人だなぁ。なんでこんな不幸体質を背負ってしまったんだろう。

 

「四条さんは四宮先輩を助ける為にどうしたら良いと思いますか?」

 

「さっき八幡と藤原が言ってた方法で良いんじゃない?父親の口利きが1番早いでしょ。…私に出来る事なんてそう無い。ちゃんと何かをしようとしてたのは、()()()の方…」

 

「あいつ?」

 

「あんた達2人なら、おおよそ検討付いてるでしょ?かぐやが結婚させられる相手っての」

 

 俺と白銀は、その心当たりのある人物が誰なのかは分かっていた。

 

「四条の弟の四条帝だろ」

 

 白銀が答えた事で、推測が事実に変わった。

 

「そういう事。弟は弟なりにかぐやを四宮家の手から守る方法を考えていたのよ。あの2人に昔、何があったのかは知らないけれど、ずーっと下準備はしていた。それこそ10年前から」

 

 四条帝は、こうなる事を予期して準備していたという事か。わざわざ敵対する人間の為に、四条帝は四宮を救う方法を考えていたのか。

 

 もしかすれば、四条帝は四宮の事を……。

 

「勉強でもスポーツでも尋常じゃない実績を残して、しれっと幹部と仲良くなったり…。…次の四条は帝が背負う。父さんも親戚も会社の人も、四条の誰もがそう思ってる。昔からおっさんの懐に入るのが得意な奴なのよね。あれは一種の才能だわ。…だからこそ、四宮の懐にも潜り込めた」

 

 今の話から察するに、四条帝は四宮家の懐に潜り込む事で、四宮家から四宮を解き放とうとしている。四条帝の出来るやり方で、四宮かぐやを救おうとしているのだ。

 

「かぐやが帝と結婚して四条で引き取ったら、絶対にあの子を四宮家の手から守ると誓うわ。セーフティは保証する。でもこれは、最後のプラン。ここから先は、あんた達2人の恋愛の話よ」

 

「俺達、2人の…」

 

「…お前が諦めるのも別に1つの策だが、そうすれば今までが全て水の泡だ。努力を無駄にしたく無かったら、動く事だな」

 

 馬鹿げた策を互いに弄して、その度に周りも巻き込んでいい迷惑だった。

 だが、その上でお前ら2人は付き合ったんだろ。なのにこれで諦めるってなったら、俺は巻き込まれた分を全部取り立てるからな。どっかの鬼のお兄ちゃんみたいに。

 

「気合い、見せる事ね。男なら」

 

「…ああ」

 

 これで、方針は決まった。

 

「皆さん!位置情報共有アプリと、通話アプリはインストールしてますか?使い方分からなかったら大変ですからね!」

 

「ワイヤレスヘッドホン等のバッテリー残量には気を付けて下さいね。モバイルバッテリー2つは使いますから」

 

「救出プランはスプレッドシートに纏めておきました!私がここで情報を集約するので、こまめに報告をお願いします!」

 

「連中はどんな汚い手も使って来る可能性がある。情報共有するのも良いが、周囲の気配を気取る程度の余裕ぐらいは残しとけよ」

 

 今や生徒会は一丸となった。

 

「敵は財閥だ。秀知院生徒会過去最大の仕事になるだろう。心して動くように」

 

 本当、あのなんちゃって天才の為だけにここまでの労力を強いられるなんてふざけんなって話だ。

 

 どいつもこいつも、慈善事業が好きな事だ。

 

「…あいつに連絡しておくか」

 

「八幡?」

 

 俺は一足先に生徒会を出て行き、あいつに連絡を取る。

 この騒動には何の関係も無い部外者だが、加わってくれれば高確率で身の安全が保証される。特に伊井野は学校に残るわけなので、護衛の2人や3人くらいは必要になる。

 

 ただ1つ懸念があるとすれば、その人達は失禁するレベルで怖い事だけだ。その人達を統べるお嬢も含めてな。多分人によればトラウマにもなり得る。

 

『…もしもし。お前から電話なんて珍しいじゃねぇか。どうした』

 

 身近にこんな特大戦力を持つ知り合いが居て良かったと、今だけは思う。

 

 相手は財閥。黒服の連中もただの捨て駒じゃない。どれだけの数が居るか分からない。

 しかし、対抗出来ないわけじゃない。財閥相手でも、遠慮なく抗える攻撃的な精神と、それを裏付ける格闘の術。

 

 俺の身近にそんな戦力を持つ奴は、1人しか居ない。

 

「頼みがある。……龍珠」

 

 指定暴力団"龍珠組"。その組長の娘である龍珠桃。俺が最初にすべき事は、彼女と彼女の背後に居る人間達を頼る事だ。

 

 

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