やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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 ここから先は、本誌を読んだ人のみ分かる展開内容です。コミックやアニメの方々にはネタバレになりますので、それでも良いと言う場合はどうぞお楽しみくださいな。
 後、龍珠桃のCVがあの人とは思わなかったですね。この作品で八幡と繋がったら、それはもう単なる俺ガイルに。


かぐや様を救いたい

 

「四宮を救いに行くぞ!」

 

 四宮奪還作戦が今、開始した。

 

「チャリで!」

 

『…えーこちら作戦本部。遠いのでタクシー使って下さい』

 

 なんで自転車で行けると思ったんだこの男。10億あるんだろうが。タクシー代に使っても良いだろ。貧乏癖がこびり付いてんのか。

 

「私達はスリーマンセルで動くから」

 

 早坂、藤原、俺の3人は白銀からの情報が来るまで待機。白銀の情報が伝わり次第、俺達が先に目的地に行く事に。

 伊井野は生徒会室からバックアップ。石上は後から目的地に行くための足を確保する役割だ。

 

 それぞれ、出来る事を果たす。

 

『会長はまず、四宮先輩のお父さんと話をして下さい。四宮先輩のお兄さんには話を通していますから、受付は通さずどうぞ」

 

『分かった』

 

『…1つ質問なのですが。どうやってお父さんを説得するつもりですか?』

 

 インカム越しから聞こえる、伊井野の白銀への質問。

 

『…四宮と父親の確執は、一言で言えばコミュニケーション不足だ。育児も教育も使用人任せで、父親らしい事をしてこなかった自責の念。…まぁその辺を突く』

 

『…なるほど……。後、比企谷先輩にも質問よろしいでしょうか?』

 

 今度は俺に話を振られた。

 

「どうした?」

 

『私の両隣に居る屈強なお兄さんはどなたでしょう…?』

 

 と、伊井野は震えながら尋ねる。

 まぁ伊井野の反応が正しい。急に生徒会室にヤクザが2人も現れたらビビるわ。

 

「あれだ。その手のプロだ」

 

『どの手のプロ…?』

 

 ヤクザがいきなり生徒会室に来るわけが無い。

 先を見据えて、俺は根回しをしておいた。四宮財閥にも臆せず立ち向かう事が出来て、かつ戦闘力に長けた人材が集まっている集団に。

 

 指定暴力団"龍珠組"。

 

 四宮奪還作戦のプランを練り上げた後、俺は密かに龍珠に電話したのだ。

 

『お前から電話なんて珍しいじゃねぇか。どうした』

 

『頼みがある。…龍珠』

 

『…頼み?なんだ、言ってみろ』

 

 俺は四宮家や四宮の事情を話した。彼女は驚く事無く、その状況をすんなり受け入れた。

 

『…なるほどな。四宮のお嬢様は今そんな事になってんのか。ま、あり得ねぇ話では無ぇわな』

 

『で、だ。今の俺達に足りないのは、四宮家を相手取る戦闘力。数が多い上、早坂だけじゃ荷が重いし、いくら秀知院のセキュリティが高いって言っても、伊井野1人を残すわけには行かない。…だから、頼む』

 

『……分かったよ。お前が誰かに頼るなんて珍しいからな。それに、お前の中では私が頼りになるって思ったんだろ?比企谷になら、力を貸してやっても良い』

 

 その答えを聞いた時、安堵の声が出た。今の作戦に足りなかった戦闘力と人数。それら2つを補える龍珠組に協力して貰えるんだから。

 

『でもただで貸すわけには行かねぇな。世の中ギブアンドテイクだ。いくら力を貸すっつっても、ただでやるわけには行かねぇ』

 

『…何を差し出せば釣り合う?』

 

『そうだな……私と1泊2日の旅行が最低限釣り合うな』

 

 それ前にやった。しかも早坂に。

 しかし、それを差し出せば龍珠組の戦闘力を借りられるわけだ。なら迷う事は無い。

 

『…分かった。その話はこの騒動が終わったら、また改めて』

 

『契約成立だな』

 

 俺の時間を引き換えに、文字通り数の暴力を手に入れる事が出来たんだ。安い買い物だろ。

 

 そんなわけで、伊井野の両横に居るお兄さんはヤクザである。

 

「見かけは悪いが多分いざとなったら仕事をこなしてくれると思うから」

 

『今生徒会室の羊羹を食べ漁ろうとするプロ意識に著しく欠けた行為をしていらっしゃるのですが…』

 

 伊井野が怯える中、電話の向こう側で何やら騒がしくなるのが聞こえて来る。

 

『くぉらテツ!お嬢のシノギの紹介だぞ!客がガキだからってナメた仕事してたらアニキに殺されんぞ!』

 

『ぐっ…サッセン…』

 

『…とにかく、一刻も早く終わらせて帰って来てください……この際会長でも良いので…』

 

 これアレかな。俺も生徒会室でバックアップとして残っておいた方が良かったか。

 

 頑張れ伊井野。終わったらマッカンをダースであげるから。

 

「それにしても、会長どうやって説得するんでしょうね」

 

「…さぁな」

 

 白銀が病院に向かったのは、入院している四宮雁庵に、四宮かぐやを自由にする説得の為。

 

 今の四宮を解き放つ方法は、四宮雁庵の遺書。それを手に入れる事。

 

 その遺書を手に入れる事が出来れば、四宮本家は圧倒的アドバンテージを得る事が出来るし、俺達が先に手に入れれば、この戦況をひっくり返す事が出来る。

 

 藤原の情報によると、四宮雁庵は脳血管性認知症。まだら認知症とも言う。そんな人間に"四宮かぐやを優遇する"という内容に書き換えろと言っても、認知症の遺書は法的効力が弱い。だから採用されるのは倒れる前の遺書。

 

 だがそれは、()()()()()()の話だ。

 遺書が無い場合、法定相続分は等分か話し合いによる遺産分割だそうだ。

 つまり俺達が遺書を手に入れる目的は、その遺書を先に手に入れて消してしまおうって事だ。話し合いに持ち込めさえすれば、俺達にも勝機があるからな。

 

 しかし最初の段階から躓けば、その時点で俺達のゲームセット。あまりこういう事を言いたくはないが、今は白銀を信じるしかない。

 

「……はぁ」

 

「どうしたんですか?溜め息なんて吐いて」

 

「溜め息っつうか、単に不安ってだけだ。2年前まで普通の中学生だったってのに、今じゃ四宮家のご令嬢を助けるっていうRPGみたいな事してるんだから。普通に学校行ってりゃ、こんなわけ分からん事に巻き込まれる事は無かったろうな」

 

 そう。この作戦はミス一つ許されない。相手は財閥だ。ちょっとしたミスが命取り。そんなギリギリのやり取りを今からするなんて、不安にならないわけが無い。

 

「大丈夫ですよ。皆で協力すれば、怖いもの無しです」

 

 赤信号、皆で渡れば怖くないってか。皆だろうが1人だろうが、赤信号である以上怖い事に違いはない。

 

「八幡も秀知院に2年も通ってたら分かるでしょ?自分の周りには、何かに秀でた才の持ち主が居るって事を。四宮家は確かに手強いけど、こっちだって名家の息子や娘が集まる学校に居る。…心配要らないよ」

 

「…まぁ、そうなんかな」

 

 頭の回転が早い人間、人脈がバカのようにある人間、力を束ねる人間。秀知院に突出した人間が居る事は、分かってる。

 けど、なんだろう。優秀な人間に限ってどこかしらポンコツなんだよな。だから一概に凄いって言い切る事が出来ない。

 

 しばらくして。

 

「…分かった。ありがと」

 

 早坂の様子を見るに、どうやら伊井野から情報が来たようだ。

 

「書記ちゃん、今すぐタクシー呼んで。行き先は京都にある四宮家本邸」

 

「分かりました!」

 

 早坂がそう言って、藤原がタクシー会社に電話し始める。

 それにしても、また京都に行くとはな。修学旅行の一件であまり良い思い出が無いのだが、また行くとなるとなんだか笑えてくる。

 

「タクシー呼びました〜」

 

 ここからしばらくタクシーに乗って京都に向かう。京都に到着すれば、四宮の手が追って来れないように、タクシーから降りて自分の足で本邸に向かう。タクシーで本邸まで行くわけにはいかないからなあ。

 

 後の事は……本邸付近に着いてから。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 京都に着いた。着いたのは良いが、絶賛大ピンチ中でございます。

 路地裏にて、スーツを着た男達に追い詰められている。状況的に考えて、四宮家の手の者だろう。

 早坂は素早くナイフを取り出して戦闘態勢に。何か護身用があるわけでも無いが、俺は早坂の隣に立つ。藤原は後ろで、庇われる形に。

 

「…八幡も下がってて」

 

「お前だけに負担掛けさせるわけにはいかんだろ。お前らの盾になれるぐらいの使い道程度ならあるぞ」

 

 とはいえ、本当にそれぐらいの価値しか無い。今ここで醜く暴れ回っても一蹴される。しかし、早坂や藤原に危害が加わらないようにする程度なら、なんとか出来る。

 

 そう意気込んだその時。

 

「プロ相手の時はすぐに刃物を出しちゃダメって教えたでしょ?」

 

 四宮家の手先の背後から、覚えのある声が。

 

「ママが銃とか持ってたらどうするの。撃っちゃうかもよ?ばぁんって」

 

「ま、ママ…」

 

 現れたのは、早坂母である。その人物が意外な場面で登場したからか、早坂が1番困惑している。

 

「相手が素手ならこっちも危ない武器出さないんだから。こういう時はまず鈍器を敵に見せて、本当に殺す時だけ刃物を出しなさい」

 

 いや怖い。およそ親子の話じゃねぇ。後ろに居る藤原なんて今にも泣きそうだぞ。

 

「これはどういうつもりなの…?」

 

「なんだかね、黄光様が大層お怒りなのよねぇ。どうやら、雁庵様の病室には盗聴器が仕込まれてたみたいね」

 

「って事は、遺書の事も…」

 

「そう。だから今、黄光様達はお慌てで金庫を探してるわ。雁庵様の秘書として務めていた私の夫なら金庫の在処ぐらい知っているだろうし、黄光様もそれを知った上で今頃詰めてる事でしょうね。…だけど」

 

 すると突然、近くに居た男1人を地面に投げて叩きつけた。それをきっかけに、周りにいた男2人も早坂母に続くように残りの男達を拘束し始めた。

 

「私達早坂家が黄光様に従っているのは雁庵様のご意向だから。早坂家は雁庵様に忠誠を誓う身。だから私達の主人は、間違ってもあの男(黄光様)じゃない」

 

「早坂ァ…!」

 

 伏せられている男達は、憎しげに早坂母の名前を溢す。

 

「四宮家も一枚岩じゃないから、遺言がチャラになるかもってなればこうやって内輪揉めもする。黄光様が跡を継ぐと都合が悪いって人も多いのよ。貴女達は雁庵様に好きにしろって言われたのだから、早坂家は貴女達の好きにさせる為に動く」

 

 伏せた男を踏みつけながら頼り甲斐のある言葉を述べる。そして、続く言葉の声色は冷たくなって。

 

「主人の盗聴なんて舐めた真似されたのだから、これぐらいしないと早坂家の面子が立たないのよねぇ…」

 

 親も娘も怖ぇよ。どうしたらそんな冷たい声が出るんだよ。

 しかし、この窮地を脱する事が出来たのは早坂母のお陰。親という存在には頭が上がらないものだ。

 

「ママありがと!」

 

「車には気をつけるのよー」

 

 後の事は早坂母達に任せて、俺達は路地裏から出て行こうとする。しかし。

 

「待てっ!」

 

 拘束されていた筈の1人の男が抜け出し、藤原を捕まえようとした。

 

「らぁっ!」

 

 俺は一か八か、その男の脛に向けて思い切り右足を振り抜いた。硬い革で作られたローファーのつま先が、男の脛にクリティカルヒット。想像もしたく無い痛さにより、男はその場で脛を押さえる。

 

「ローファーの攻撃力舐めんなよ」

 

 隙を見て俺達3人は、その場から逃げ去った。

 

「なんでこうバトルイベントが起きんのかね…」

 

 俺は走りながらそう呟いた。

 修学旅行の時もそうだが、夜の京都は誰かに絶対襲われるイベントでもあるのだろうか。鬼が動く時間なのだろうか。

 

「比企谷くん、凄いですね…」

 

「言ったろ、盾になるぐらいの使い道はあるって。今の俺の存在価値なんて、お前らが極力傷付かないようにする為の捨て駒程度だ」

 

「捨て駒だなんて…」

 

 俺が本気を出せば、靴舐めも土下座も余裕で出来る。だからこそ、俺がこいつらにしてやれる事は。

 

「俺の手が届く範囲では、お前らに傷一つ付けさせない」

 

 俺の嫌いな、文字通りの自己犠牲。誰かの為に犠牲なんてなってたまるかと、ずっとそういう考えで生きていた。

 しかし、今は違う。俺1人差し出してこいつらが助かるのなら安いものなのだ。名家の人間の為に身体張れば、小町だって自慢の兄だと自慢出来るだろう。

 

「八幡……」

 

「比企谷くん……」

 

 とはいえ、ちょっと死にたくなってきた。夜のテンション+非日常イベントが起きたせいで痛い事言っていたのだから。この騒動終わったらしばらく引き篭ろうかしら。小町に慰めてもらおっと。

 

「これ全部終わったら、濃いめのキスして良い?」

 

「わ、私も!1回、2回、3回くらいなら、ちゅーしてあげても…」

 

「……へぁ!?」

 

 何を言ってるんだろうこいつらは。俺以上に頭がおかしくなっちゃったか。いや、早坂に関しては好意がある事は分かってるからただただ恥ずかしいだけなのだが、まさか藤原までもがそんな事を言うとは思わなかった。

 

 まさか、藤原までもが俺の事を?

 

 そうなると五等分じゃ無くなったよ。六等分じゃねぇか。偶数だからキリが良いとか言ってる場合じゃねぇ。

 ていうかいつだ。いつこのダークマターから好意を持たれた。俺こいつに憎まれ口を叩いた記憶しか無いぞ。

 全然気付かなかった。人の好意や悪意はすぐ分かる洞察力を持ち合わせてると自負していたのに、藤原からの好意は一切気付かなかった。

 

 いや、深く考えるのはこの騒動が終わってからだ。今はとりあえず、四宮家本邸に向かう事に集中だ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 またピンチです、ハイ。四宮家本邸に向かう為に、早坂と藤原は二人乗りでスケボーに乗り、俺は電動キックボードに乗っている。

 

 それだけなら良かったのだが。

 

「待て!」

 

「くそっ、速い!」

 

 只今、四宮家の手先に追われています。

 

「めちゃくちゃ追われてます!」

 

「そりゃそうでしょ!事あるごとに催涙スプレー吹いたり局部蹴ったりしたら怒るって!」

 

「私も何か役に立ちたくて〜!」

 

 こんな時でも藤原はブレない。催涙スプレーに関しては、間違って俺にも掛けられそうになったというのは余談である。

 

 そんなこんなでリアル鬼ごっこ2を行っていると。

 

「本邸が見えて来たぞ!」

 

「本邸のWi-Fiに繋がった…これで…!」

 

「一体どうやって攪乱するんです?」

 

「私とて意味も無く四宮家に居たわけじゃない。こういう時に備えて色々準備してたんです」

 

 抜かりが無い早坂、流石だ。

 

「Wi-Fi経由のバックドアから管理プログラムのセキュリティホールを突いてACを偽装してあれこれします」

 

「ごめんちょっと何言ってるか分からない」

 

 専門用語多過ぎだろ。最後に至ってはあれこれするとか分かるわけ無いだろうよ。

 

「これで警報鳴らしたり、裏口のセキュリティをオフにします。チャンスは1回きり。対策されたらそれまで。裏口のロックとセキュリティを外してる内に、かぐやが上手い事逃げてくれたら良いんですけど」

 

「帝くん、23時丁度決行って伝えてくれましたかね」

 

 本邸の方では、四条帝が四宮を本邸から逃す為に動いて貰っている。

 このタイミングで自由に動けるのは、奴だけだから。この策にも1枚噛んでいるのだ。

 

「大丈夫ですよ。あの人がミスした所見た事ありませんし。それまでの15分、どこかで身を潜め…」

 

「る事が出来なそうだぞ」

 

「はーい止まって」

 

 俺達が逃げた先には、何台も車が停まっており、そして何人ものスーツを着た男達が待ち伏せている。先頭に立っている男が、おそらく周りの男達を統率している人間だ。

 

 黄光でも雲鷹でも無ければ、あれが青龍って奴か。

 

「公道でのスケボーは道交法違反だよー。そういうのは宮下公園でやろうか」

 

 力ずくで逃げ切れるわけが無い。が、ここから逃げられる奴が居るとすれば。

 

「…早坂。お前先に行け」

 

「ここは私達に任せて下さい」

 

「で、でも…」

 

「この状況、逃げ切れるのはお前だけだ。それにセキュリティをあれこれ出来んのもお前だけ。…適材適所だ。早よ行け」

 

「…!」

 

 早坂はスケボーでガードレールを飛び越えて、暗闇の雑木林の中に入って行った。

 

「くっ、なんて身軽さ…!」

 

「早坂家はどいつもこいつも忍者の末裔なのか…!?」

 

 忍者の末裔とは面白い事を言う。座布団1枚くれてやろう。

 

「…というか、お前も早坂と一緒に行って良かったんだぞ」

 

「比企谷くんを1人になんてさせません。比企谷くんの隣に立っていたいんです」

 

「…あっそう」

 

 やだこの子普通に良い子。泣けるわ。

 

「藤原家の人間と、何も無いただの平民が何の用だ?」

 

「友達を助けに」

 

「他所のゴタゴタに首突っ込んで来るんじゃねぇガキが。どうせお前らも四宮家の名前に集る虫みてぇなもんだろ。恩の1つでも売ってゆくゆくは利用しようってか。透けて見えるんだよ」

 

 と、そう吐き捨てる青龍。

 

「…何言ってんだおっさん。あんたのその言葉、全部間違ってる」

 

「…なんだと?」

 

「藤原は友達とか言っていたが俺はあいつと友達じゃない。だから四宮を助ける義理も無い。…が、知り合いが望みもしない結婚をさせられるって聞いて、何もしない程こちとら鬼じゃないんでな」

 

「妹が深く傷付いてるのに、兄として助けてあげようって気持ちは無いんですか!」

 

 兄という立場を利用した良い言葉だ。しかし、四宮家の兄ってのは。

 

「知らねぇよ!大人は一々ガキの癇癪に付き合ってられねぇの!下んねぇ事でギャーギャーピーピー言われてもよぉ。折角良い縁談持って来てやってんのに、選り好みしやがって。親父の躾が悪かったみてぇだな」

 

 …ほらな。妹を妹とすら見ていないような兄なんだよ。四宮の兄は。同じ兄として、恥ずかしいったらありゃしない。

 

「結婚してガキ作って家族の為に飯作るのが女の幸せだろ。男に養われてる分際で能書き垂れてんじゃねぇ」

 

 …専業主夫志望とか言ってる俺が強い事を言える立場じゃないのは分かってる。だが、この青龍という男は。

 

 とんだクズ野郎だ。

 

「…古い考えに女性蔑視。そんなんだからモテないんですよ」

 

「あ?俺は1度も女に困った事が…」

 

「無いだろうなそりゃ。家の金に頼ればうじゃうじゃ湧いて来るんだから。あんた目当てじゃなく、金目当てにな。夜の街じゃVIP扱い間違いなしだ」

 

「毎夜家の金で遊び惚けて、兄にも弟にも妹にすら無能扱い。女と酒に逃げなきゃやってられない気持ちは分かります。…でもね」

 

「っ!」

 

 隣に居る俺ですら肩を震わせた。普段発さない冷ややかな声、光すら見せない瞳。

 

「貴方が馬鹿にした女ってのは、怖い生き物なんですよ」

 

 ここまでキレている藤原は、初めて見た。

 

「色々調べたら、貴方に酷い捨てられ方されたって人がわんさか証言をくれました。変態的プレイを要求されたり、子供出来たのに逃げられたりとか。アフターケアが出来ないなら女遊びなんてするべきじゃないんですよ」

 

「…こんなのが公になったら少なくとも夜の街にはあんたの居場所が無くなるかもな。全部自業自得だけどな」

 

「週刊誌にでも売ろうってか?そんなんいくらでも止めれるんだよ。出版も利権としがらみだ。四宮のプライベートが表に出た事今まであったか?」

 

 すると青龍は呆れたのか。

 

「もう良いや。ムカつくガキはちょっと痛い目見た方が良いわ。そいつら抑えろ。特に藤原家の方」

 

「きゃあ!やめてー!」

 

 俺はこいつの前に立って庇う。……が。

 

「なーんて。ミコちゃん、今の聞いてました?」

 

『はい!ばっちり録音もしています!』

 

 俺達のやり取りを見て、青龍は怪訝な顔になる。

 

「あっ知ってます?今こういう感じで電話出来るんですよ」

 

 藤原は右の長い髪の毛を耳に掛けて、着けているワイヤレスイヤホンを見せつける。

 

「今の時代、何も出版だけスキャンダルを取り扱ってるわけじゃない。古い考えのあんたは知らないだろうから教えてやる。今は暴露系ユーチューバーが猛威を振るう時代なんだよ」

 

 俺はその暴露系ユーチューバーの動画を青龍に見せつける。

 

『というわけで、最近ニュースでゴタゴタになっている四宮グループ…四宮一族のでっかいリークがあるんで後で紹介しますね!僕もしかしたら圧力で消されるかもだけど…まぁ関係ねぇやって事で!』

 

「…まぁ、そういう事だ」

 

『配信者の方には私から交渉済みして、既に話は通してあります。私達にご協力いただけなかった場合、これまで調べ上げた被害女性の声や今の恫喝の音声などなど、1つ残らず数十万人の視聴者に晒し上げます』

 

「そういう連中は大体SNSに書き込むってのが相場が決まってる。だから実質、視聴者数十万以上の人間が知る事になるだろう。…あんた、人生終わったな」

 

 暴露系ユーチューバーという存在を知り、自分が犯した罪を拡散される可能性があると踏んだ。そんな青龍の顔色は、名前の様に真っ青になっている。

 

「…リークを基にした交渉は立派な恐喝罪だぞ。犯罪なんだぞ。分かってんのか」

 

『勿論分かってますよ。でも、正しいだけじゃ守れないものもあるので。私達が罪に問われて犯罪者になると言うのであれば、その時は貴方も道連れです

 

 伊井野のその言葉が効いたのか、青龍の顔色は更に悪くなる。その結果。

 

「分かった分かった!平和的に示談しよう!いくら必要だ!?」

 

「そうやって金で周囲を黙らせて、スキャンダルを無いものとして来たんだろうが……いつまでも自分が安全圏に居るだなんて思うなよ」

 

「っ…!」

 

 青龍は膝をつき、項垂れた。

 

 世の中が金が全てという意見が間違っているわけじゃない。が、使い所を間違える奴は金に溺れて金に死ぬ。青龍は家の金で自慢する小さな人間。金が全てだと思い込み、使い方を誤った。

 

 今のこいつには、もう何も無い。

 

「…俺らもそろそろ早坂の後を追うぞ」

 

「はい!」

 

「ま、待て!」

 

 周りの男達が追って来ようとするが、その瞬間、背後から複数のエンジン音が響き始める。現れたのは、巨大なトラックやワゴンの数々。こっちにも予め手配しておいて良かった。

 

「行くならさっさと行け」

 

 1台の車からカッコいいセリフと一緒に登場したのは、暴力団を束ねる組長の娘。腕を組みながら、後ろに屈強なお兄さん達を引き連れている。

 

「…カッコ良過ぎだろ。龍珠」

 

 セリフといい登場の仕方といい、どこで学ぶんだよそんなカッケェの。

 

 後の事は龍珠と龍珠組のお兄さん方に任せて、俺と藤原も四宮家本邸に向かった。

 

 決着は、もうすぐだ。

 




 最後の方は、原作では細かい描写が無かったので、作者の想像で龍珠と屈強なお兄さん達を道路に引き連れて「後は任せろ」的な展開を作りました。原作では、もしかしたら違うのかも知れないですが。

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