やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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 またもやネタバレ注意です。


白銀御行を見送りたい

 

「そういえば前から気になってたんだけど。あんたなんで生徒会に居るの?」

 

 放課後になり、生徒会室に向かう準備をしていた最中、四条がそう尋ねて来た。

 

「確か、会長の推薦で入ったんだよね?」

 

 前の席に居る早坂が聞いていた為、代わりに答えた。

 

「そうだな。同じクラスで同じ外部の受験だっていう仲間意識があったんだろうが、1番の理由は伊井野を助けた功績だったらしい」

 

「交通事故に遭ったんでしょ?彼女を庇って」

 

「そうなるな。そっから普通にぼっち生活を静かに送ってたところに、白銀と四宮が勧誘しに来たんだよ」

 

「へぇ……。私、その時の八幡の事なんて全然知らなかったし。折角だから、1年の頃の話聞かせなさいよ」

 

「や、別に聞いて面白いもんじゃないぞ」

 

 目立たず普通に学校生活送っただけだし。

 

「良いから良いから」

 

 四条も早坂も興味津々といった様子だ。俺は諦めて溜め息を吐き、1年の頃を振り返る。

 

 交通事故の怪我が治って退院し、俺は改めて秀知院の門を潜った。

 秀知院に来て受験を受けたわけだが、この気品溢れる雰囲気がどうにも受け付けなかった。千葉の高校じゃ俺を認知している奴が面倒な噂を広げかねない。折本の告白以降、やたらと悪目立ちしていたから。だからわざわざ東京の高校にして、その上で俺の最大の学力で受けれる場所を選んだのに。

 

 受けた高校を間違えたとすら思う瞬間だった。

 

 その後、職員室に行って担任に教室を案内された。俺が行く頃には、グループも形成されていたし、何より外部受験の人間と話そうと思う奴なんて居なかっただろう。それ故に、入学ぼっちが確定した。

 休み時間は伏せて寝て、昼休みになれば1人で静かに過ごせるベストプレイスを探す。

 

「勧誘されるまでは、今と対して変わらんぞ」

 

「…八幡らしい過ごし方ね」

 

「というか、中学で悪目立ちしたから東京の高校に行こうって行動力が凄いよ。親になんて言って受験したの?」

 

「悪目立ちの事は伏せて、単純に東京に行きたいって言っただけだ。うちの親、そこまで厳しいわけじゃねぇし」

 

 親は良くも悪くも放任主義だし、そこまで何か言って来ては無かったな。1番引き止めて来たのは、小町だったっけ。

 

「それで?確か御行が会長になってから勧誘されたんでしょ?」

 

「そうだな…」

 

 生徒会選挙は毎年、秋頃に行われる。前生徒会長が退いて、1年生ながら生徒会長に立候補したのが、白銀だった。名前も顔も覚えてない奴だったが、自己紹介の時に同じクラスだという事が判明したので、少し驚いた。

 

 そして生徒会選挙が終わり、秋を過ぎて冬の真っ只中になった頃。

 昼休み、いつも通りベストプレイスにて昼食を摂ろうとすると。

 

『少し良いか?』

 

 白銀がタイミングを見計らっていたのか、声を掛けて来た。1番最初に思い浮かんだのは、俺がこいつに何かしたか?という疑問。しかし何も思い当たらない。少し警戒して、返事をした。

 

『…なんだ?』

 

『ここじゃなんだから、生徒会室に来てくれないか。比企谷に話したい事がある』

 

 周りに聞かれて困る事なのだろうか。どんな内容でも即座に断りを入れようとしたのだが、やたらと注目されていた為、断るに断れなかった。観念して、俺は白銀の話を聞く事に。

 

 で、その話の内容は。

 

『…冗談だろ。なんで俺が生徒会に入らなきゃならないんだよ』

 

『頼む。生徒会選挙が終わって、ガラリと変わった。今居るのは俺と四宮と、書記に藤原という人物が居るだけなんだ。しかし3人じゃ中々手が回らない。だから比企谷なんだ』

 

『いや意味が分からん。だから俺ってどういう事だ』

 

『部活にも入っていない、バイトもしていない。その上、四宮や藤原のように名家で生まれたわけじゃない。だからこそ、放課後に時間を充てる事が出来る人物を探していたんだ』

 

 要するに、お前暇だから生徒会に入れって事。というかなんで俺の放課後を知ってんだって思ったけど、今思えば四宮があの手この手で俺の近辺を調べていたんだろうな。

 

『断る。めんどい』

 

『確かに生徒会の業務は好き好んでやろうだなんて人間は居ない。普通に考えれば、お前のように面倒だと思う人間が大多数だろう。しかし、それでも俺はお前を推薦したい。この秀知院をより良い学舎にする為に、お前の力を貸して欲しいんだ』

 

『なら尚更ダメだろ。学校の為っつう気概は凄いけど、俺は別にこの学校は今のままで良いと思ってるんだよ。そりゃ良い方向に変わるならそれに越した事は無いが、少なくともチャリティー的活動みたいな仕事は俺に向いてない。人選ミスだな』

 

 ここまで言えば、白銀も勧誘する気は無くなっただろう。しかし、白銀は粘って諦めなかった。

 

『いや、人選ミスじゃない。お前は人の為に何か出来る人材だ』

 

『買いかぶりだな』

 

『違う。決して買いかぶりなんかじゃない。お前は他が為を思う心を持っている。だからこそ、中等部の人間を庇って交通事故に遭ったんだろう?』

 

 どうやら交通事故の件を知っていたようだ。おそらく、この件も四宮が調べたんだろう。交通事故で入学が遅れたとしか言ってないから、件の真相は俺と伊井野と、偶に見舞いに来た大仏ぐらいしか知らなかった筈だ。

 

 助けたくて助けたわけじゃない。運転手にも迷惑を掛けたんだ。伊井野が助かったのは良かった事だが、俺をヒーローかなんかと勘違いされるのも困ったものだった。

 

『…だがな、やっぱ生徒会は面倒……ひっ!』

 

 生徒会の勧誘を断る為の口実を必死に話していたから、四宮の表情に気付けなかった。白銀の後ろで、四宮が暗殺者のような目でこちらを見ていたのだ。本当に殺されるんじゃないかって錯覚したのだ。

 

「えっ入った理由ってそんな理由!?」

 

 そんな理由とはなんだ。命に関わる事案だったんだぞ。勧誘拒否ったら死ぬとか何そのRPG的展開。融通の効かないCPUかよ。

 

「交通事故の件で買われて入ったんじゃないの!?」

 

「なわけないだろ。買ってたのは本当らしいけど、そんな理由で入るわけないだろうよ。めんどいし」

 

「わっけ分かんない…」

 

 …とはいえ、今思えば入って悪くないと思うのだ。確かに仕事は面倒だし、生徒会に入ってからというものの妙な事件に関わったりするし。その上、俺の目の前で互いが互いに告白させようと愚策を練りながらイチャコラしてたし。

 でも、悪くない思い出ではある。面倒だが、いつの間にか居心地の良い場所になっていたんだ。あの部屋は。

 

 けれど、それももう終わる。

 

 白銀は、明後日にはアメリカに行く。

 それに後少しもすれば、生徒会自体も変わる。伊井野や小町は生徒会に残るだろうが、石上はどうなのだろうか。

 

 とにかく、あの空間は変わってしまうという事。

 

 本当に、振り返れば濃い時間だった。

 生徒会に入って以降、白銀と四宮の謎の恋愛頭脳戦を見せつけられるし。石上と大友の事件にも関わり、2年になれば石上が入って来て。

 フランス校との交流会、花火大会、生徒会選挙、奉心祭、修学旅行。新学期になって小町が入学したと同時に四条帝が転校して来た。そして、記憶に新しい四宮家の騒動。

 

 濃すぎるほどの時間だった。

 

「かぐやはどうするんだろうね。そりゃ会長がスタンフォード行きたいって言ってる事を無理矢理に止めは……しないと思うけど」

 

 今の間はなんだ。

 

「やっぱり好きな人が遠くに行くのって辛い事だと思う」

 

「…そうね。あの2人の事だから遠距離恋愛になっても別れたりしないだろうけれど…」

 

 遠くに離れていても、互いが互いを想い合える関係があの2人。だが、想い合えるからと言って孤独感は拭えない。

 四宮だけじゃない。白銀を慕う石上や伊井野、なんだかんだで世話を焼く藤原。ブラコン気質のある圭、友人の四条弟や翼くん。白銀が日本から去る事で、寂しく思う人間は何人も居るだろう。

 

「…そういえば、八幡は行かないの?」

 

「何を?」

 

「会長の送別会したいんだって。風祭くんとか柏木さんの彼氏が話してたの聞いたけど。カラオケに行くって言ってたような…」

 

「無理。嫌。行かない」

 

 送別会で死にたくない。ある意味、本当にお別れになる。日本とアメリカとか生易しいもんじゃない。下界と天界とかそんなレベルの距離のお別れになる。

 

「でも、別れの挨拶ぐらいはしたら良いんじゃないの?あんた達、生徒会でずっと一緒だったんだし」

 

「…お前、めちゃまともな事言うな」

 

「何よ!?」

 

「けど大丈夫だ。そういう時の為に、俺はこれを用意した。後は、お前らの分だけだ」

 

 俺は彼女達にとある物を差し出す。別れの言葉は何も、口に出すだけが全てじゃない。白銀を見送り出来ない人間も別れの言葉を告げる事が出来る、最適解だ。

 

「これ……」

 

「明後日にはこれをあいつに渡す。残る物の方が後々になって見返せるし良いだろ。知らんけど」

 

「…八幡らしいね」

 

 早坂、そして四条で完成する。これを別れの挨拶と共に、奴にくれてやる。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 白銀、旅立ち当日。俺達は空港にて、白銀を見送る事に。生徒会の面々は勿論、早坂と四条姉弟、そして柏木さんの彼氏だ。

 

 しかし、トラブルが発生。

 

 発生と言っても、飛行機に不具合が生じたとかそんなんじゃない。もっと恐ろしいトラブルだ。

 

 四宮かぐや、遅刻しました。

 

 そのトラブルに、誰1人何1つ言葉が出なかった。理由は簡単だ。

 あれだけ会長会長言ってた奴が遅刻なのだ。俺達全員、「何やってんだ」という心情である。

 

「あのアホ…!なんでこんな日に大遅刻かますのよ…!ちょっと私迎えに行って…」

 

「間に合わないよ」

 

 四条が迎えに行こうとするも、帝がきっぱりと断言する。

 

「飛行機の搭乗締め切りまで後30分。どうやったって入れ違いになる」

 

 本当、流石四宮だ。やってくれる。

 

「恋人が海外に発つ日に大遅刻とか、やる事がド定番過ぎる!」

 

展開がベタ過ぎて驚きました!」

 

 後輩2人からすごい言われよう。しかし、確かにラブコメならば典型的な展開だ。なんならスポーツ漫画とかでもよくある。

 

「とにかく、かぐやさんに連絡しないと…」

 

「無駄だと思うぞ」

 

 藤原が四宮に電話を掛けようとするが、掛けた所で出るわけが無い。もしベタな展開が続くならば、四宮は電話に出る事が出来ない。

 

「あいつが遅刻した原因は寝坊だろう。もし普通に起きてたんなら、今頃すぐ来てるからな。で、寝坊だったんならあいつはスマホを使えない」

 

「なんでですか?」

 

「寝坊って事は、夜更かししてたって事だ。大方、白銀の事を考え過ぎて寝れない所。でも中々眠る事が出来ないし、時間はすぐに経つわけじゃない。つまり、夜更かしした原因は時間が過ぎるのを待つ為にスマホを操作していた事になる。そんで使い過ぎた結果、スマホが息を引き取った」

 

「あー……確かにそれあり得そう」

 

 まさに踏んだり蹴ったりである。このベタな展開が続くのならば、四宮は電話に出る事が出来ない。仮に今起きたとしても、連絡の1つも来ないのがその証拠だ。

 

「…よく分かってるな、かぐやの事」

 

「お前ほどじゃない。というか分かりやす過ぎるんだよ。あいつもお前も」

 

 そんな軽口を交わして、時間は過ぎる。そして、白銀の発つ時間となる。

 

「…そろそろ時間か。皆、見送りありがとうな。早坂、かぐやの事は頼んだ」

 

「うん。また後で、ラインするから」

 

「あぁ」

 

「お前が居ない間、俺達に任せておけ」

 

「寂しくなるなぁ」

 

 なんだかんだで四宮経由で繋がりを持った早坂、白銀のライバルとも言える四条帝、そして翼くんが思い思いに言葉にした。

 

「…なんだかんだで、お前も関わりあったんだろ?寂しくなるとかあるんじゃねぇの?」

 

「別に寂しくは無いわよ。人は誰しも離れ離れになるんだから。こんな事で寂しがってたらキリが無いわ」

 

「そうか。で本音は?」

 

「ふっつうに寂しいわよぉ……」

 

「だろうな」

 

 最後までツンデレキャラの四条。2年続けて同じクラスだったからか、やはり思う所はあるんだろう。

 

「ありがとうな。また連絡するから、皆元気でな」

 

「……会長はどうしてそんなに冷静なんですか?しばらくかぐやさんとはお別れなのに……最後に一目会っておきたいとは思わないんですか?」

 

「…藤原もまだまだ、かぐやの事が分かってないな」

 

「え?」

 

「あいつは大丈夫だよ。心配要らない。俺が保証する」

 

 …流石は四宮の恋人だ。多分、家族以上に四宮を理解している人間だ。断言しても良いレベル。

 

「…そうですか。会長がそう言うんならそうなんでしょうね」

 

 藤原は白銀の言葉に納得する。そして、大声で白銀の名前を呼ぶ。

 

「会長!会長と過ごした2年間!すっごく楽しかったですよ!ダメな息子を持った気分で、意外と悪くなかったです!」

 

 白銀のポンコツぶりを目の当たりにした藤原は、鬼になって矯正した。ポンコツに苛立つ事はあるけれど、別れともなるとそれは良き思い出に変わるのだろう。

 

「私は変な先輩を持った気分でした!でも色々教わって、沢山支えていただきました!私にとって、尊敬出来る生徒会長でした!お達者で!」

 

 当初は白銀を誤解していた伊井野だが、時間が経つにつれて白銀という人間を理解したのだろう。変なお兄ちゃんって言うのはよく分からんが、世話になった事に変わりはない。

 

「…会長……なんかあったら頼ってくださいよ。海外だろうと…すぐ飛んで行きますから」

 

 白銀が手を差し伸ばしたからこそ、石上は生徒会という居場所を作る事が出来た。生徒会があったからこそ、石上は前向きになれている。石上にとって、白銀は恩人なのだ。

 

「…ほれ」

 

 俺は白銀に紙袋を渡す。

 

「中にはマッカンと、色紙が入ってる」

 

 正確には缶じゃなくてペットボトルだから、マッカンでは無いが。

 

「その色紙、八幡が1人1人に尋ねて作ったんだよ」

 

「比企谷が…?」

 

「お前は秀知院生徒会長だ。お前を少なからず思っているのは、ここに居るこいつらだけじゃない。柏木さんや龍珠とか、なんなら龍珠に頼んで前生徒会の面々にも寄せ書きを書いてもらった」

 

 ほとんど関わりの無い人間に寄せ書きを書かせた俺は、もう無敵状態だである。俺のコミュ力が爆上がりした事だろうな。

 

「…長々と話すと飛行機に間に合わんし、性にも合わん。そんなわけで」

 

 これがこいつと、白銀御行との別れである。

 

「じゃあな、白銀。…またな」

 

「…ああ。また」

 

 白銀は背を向けて、搭乗口に向かった。俺達はそんな白銀の後ろ姿が消えるまで、片時も目を離さずに見送った。

 白銀の乗った飛行機が発った所で、四宮が走って来てようやく合流した。

 

「か、会長は…!?」

 

「……もう行っちゃいましたよ」

 

 白銀を見送りたかったのは勿論、皆であるが、中でも誰より見送りたかったのは四宮だろう。見送りすら出来ずにしばらくの別れ。自業自得……とは言え、やるせない気持ちにならないわけじゃ無い。

 

「わっぁぁぁあん!」

 

 突然、四宮は号泣し出した。こればっかりは、もうどうしようも無い。

 

「わっぁぁぁあん!」

 

 すると四宮は泣きながらスマホでどこかに連絡し始め。

 

「わっぁぁぁあん!」

 

 何故か搭乗手続きまで行って。

 

「わっぁぁぁあん!」

 

 呼び出したであろう自家用ジェットに泣きながら乗り込んで、そのまま空に飛び立った。

 

「……え?」

 

 あいつ何してんの?ねぇ何してんの?

 突然現れて、突然泣き出して、突然搭乗手続きをして、突然自家用ジェットで飛び立って。

 

 えっまさかあいつ白銀のとこに行ったとかじゃないよな。そんな友人の家に行く感覚でアメリカに行ったわけじゃないよな。国跨いでるんだぞ。金の使い方荒過ぎだろ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 白銀が発って日が少し経ち。俺達はいつも通り生徒会室に集まっていた。具体的に言うなら、生徒会室のスクリーンの前に。その理由は簡単。

 

 白銀が映っているから。

 

「あれだけ感動的なお別れしたのに、全然会長が遠くに行った感じがしないんですが……」

 

『俺もだよ』

 

 これぞ文明の力。流石は令和。これで白銀とまた一緒。……アホか。

 

「四宮先輩のアイデアです。これなら距離は関係ありませんね」

 

「全てはココ(頭脳)!どんな難問も思考停止せず考え続ければ、解は出るんです!恋愛は頭脳でするものなんですよ!ねっ、会長!」

 

 何が「ねっ」だ。そんな解決方法ありかよ。いや少し考えれば確かに出るけどさ。俺の頑張りどうなったん?わざわざ知らん人にまで頼んで書いてもらった俺の頑張りどうなるん?

 

 この白銀大好きっ子が。

 

 


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