今日も今日とて生徒会。普段通りに、生徒会の面倒な仕事を片していると、白銀が謎の雑誌を机に置いた。
「あら?なんですこれ」
「あぁ、さっき校長が生徒から没収したんだと。教育上良くない本だから処分しとけってさ。全く、自分でやれって話だ」
それにしても、雑誌の表紙だけで偏差値25くらいにしか見えないんだけど。
「教育上良くない本?」
藤原はその雑誌を軽く開いた。刹那。
「ひゃ、ひゃああぁー!!」
藤原は変な声をあげて雑誌を落とす。それを四宮がナイスキャッチするのだが。
「え、何?どうしたの?」
「乱れ…いや、淫れてます!この国は淫れてますーっ!!」
藤原が顔を赤くして慌てている。教育上良くない本って言っていたが、まさかエロ本?
「…どれどれ。…初体験はいつだったアンケート。"高校生までに"が、34パーセント」
そういうやつだったかー。エッチな写真集が掲載されていたわけではなくて、初体験のアンケート記録が掲載されていたのか。
「嘘です!みんなそんなにしてるはずありません!」
34パーセントってことは、およそ3分の1強。30人のクラスで大体10人程度がヤっていて、この4人のうちの1人が既にヤった後だということ。そう考えると、結構多いなおい。
発情期ですかコノヤローってやつか。
「ま、まぁあれだろ。こういった本を読んでるやつがアンケートに答えているから高いだけだろ。サンプルセレクションバイアスってやつだ。そんなに多かったら、多分俺か石上辺りが片っ端から呪ってると思う」
「呪うなよ」
「そ、そうですよね。そんなに多くないですよね」
結果、アンケートほど多くない。これでこの話は終わり。…なのに、藤原でもないのにこの場を掻き乱すやつが一人。
「そうですか?私は適切な割合だと思いますけど」
「ん?」
「むしろ少ないんじゃ…」
え、何?どうなってるの?
「あの、まさかとは思うのですが……かぐやさんはその……経験あるんですか…?」
藤原が四宮に恐る恐る尋ねた。しかし四宮は顔色一つ変えずに。
「はい。だいぶ前に」
「ええええぇぇぇッ!!?」
「はあああぁぁ!?」
「へえ…青森の市外局番って017なのか…いがーい…」
おい白銀が何かぶっ壊れたぞ!えっ待ってこいつ既にヤってんの?ヤってんの?
「高校生にもなれば普通経験済みなのでは?皆さん、随分愛のない環境で育ったんですね」
「ごめん俺今からお前への認識変わるわ」
「わ、私も彼氏とか作った方がいいのかな…?でもお父様許してくれないでしょうし…」
「長万部の市外局番は…」
白銀そのよその市外局番調べるのやめろ。ぶっ壊れたくなるのは分かるけど!
こいつまさか清楚系に見えて実はすんごいビッチなの?おかしくない?こいつ一体何者だよ。石上が来てたら既に失神してるよ本当。
「…ったく、バカバカしい話だ」
「あら会長。大層おモテになると伺っていたのですが」
えっ急に白銀に煽り出したんだけどこいつ。
「彼女いないんですか?」
めっちゃ煽るやんこいつ。まさか白銀にマウント取れて嬉しがっているのか?だとしたらだいぶ性格に難ありだぞ。いや前からそんな気はしてたけど。
「あー……そうだな…。特定の相手とそういう関係ってのはないな……今は」
おいなんだその昔に彼女いたみたいなアピールは。お前四宮が初恋だっつってたろ。
しかしこの言葉は、今まで誰とも付き合ったことがなくても嘘にはならない。こいつ本当変なところで知恵が働くよな。
しかし、こいつが結構モテるのは事実。ただ、類は友を呼ぶという言葉通りになって、変人には変人が近づいてしまうのだ。つまり白銀は、イロモノばかりに好かれる傾向があるということだ。
結果、経験がないにも関わらず、自分はモテるという、うざったい自信だけを得てしまったのだ。変な自信を得た童貞の白銀は、普通の童貞より面倒な存在なのだ。
「へぇ…ということは、当然会長も経験済みなんですよね?」
「うっ…」
ただ自信があっても童貞という事実に変わりはない。既にヤった四宮相手に嘘をつくのは不可能だ。
「ま、まあその気になればいつだって…」
「お前今強がったな」
「比企谷ちょっと黙れ」
にしても、四宮のこの平然とした様子はなんなんだ。ご令嬢だっていうし、もう少し恥じらいながら言うもんだと思ってたんだが。
「…そうなのですか。会長には妹がいるんですから、妹とガンガンしていると思ってました」
「ハハっ、それな」
……え?
「ってしねぇよ!何言ってんのお前!?」
「お前シスコンだからって手出したの?引くわ…」
「だからしてないって!徐々に引いていくな!」
「あら、比企谷くんだって妹がいると聞きましたけど。妹とバチバチにしてるんじゃないですか?」
「お前本当何言ってんのさっきから!お前自分がバカみたいなことを言ってるって自覚してる!?」
小町とヤるわけないだろ普通に考えて!そんなことしたら一生口聞いてもらえないどころか蔑んだ目で見られるだろうが!
「バカとはなんですか。現に私は、生まれたばかりの甥っ子としましたよ。ビデオで撮られながら。…懐かしいです」
「狂気!!」
「お前なんでそんな懐かしんでるの?四宮家マジでどうなってんの?」
早坂にヘルプ呼ぼうかな。今の四宮を止めることが出来そうなの、早坂ぐらいだろうしさ。助けて早坂。
「いけませんね。人との接触を過度に恐れる。…これも現代社会の闇ですかね」
「いやお前だろ!お前が貴族階級の闇だよ!」
「何が変なんですか?藤原さんだって、飼い犬のペスとしょっちゅうしているでしょう?」
「シてんの!?」
「俺そろそろ生徒会やめようかな…」
「シてませんよ!?巻き込まないでください!」
それにしても、今日のこいつ本当におかしい。
生まれたばかりの甥っ子とビデオに撮られながらヤって。俺と白銀には妹とヤってるって言って。藤原には飼い犬とヤってるって言って。藤原以上の非常識っぷりだぞこれ。世間知らずにも程が…あ……る……。
「…まさか」
…俺は嫌な予感が
「…四宮。お前生まれたばかりの甥っ子とヤったって言ったな。それ、具体的に何をしたか聞いていいか?」
「えぇ、いいですよ。生まれたばかりの甥っ子の頬にキッスをしました。皆さんだってキッスくらいしたことあるでしょう?」
「あ……」
「……」
その四宮の言葉で、俺達は固まった。
「…四宮」
「待ってください。ここは私から…」
藤原は死んだような瞳で四宮に近づく。
「かぐやさん…ここでいう初体験というのは……」
藤原が四宮に耳打ちしながら説明していく。その初体験の説明を話すこと16分。
「あ……あ…あ…」
四宮は顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり目から涙が溢れてしまう。
「だ、だって……そういうことは結婚してからって法律で……」
本日、四宮の性知識の欠落が露呈した瞬間であった。
あぁ怖かった。