皆の圭ちゃん久々登場、そして暴走。
白銀がアメリカに旅立ったのにも関わらず、モニター越しで顔を合わせるという別れの挨拶が無駄になった方法を生み出した四宮。そんなわけで、生徒会室に居なくとも俺達はいつものように残された学校生活を送っていると。
「圭が風邪引いた?」
放課後、白銀パパからそう伝えられた。隣人付き合いもあったから、白銀の家の電話番号も教えられた。逆もまた然りで、俺のスマホの電話番号、そしてアパートの電話番号も教えていた。
電話の内容は、どうやら圭が風邪を引いたらしく、今家では白銀パパが面倒を見ている。それは分かったのだが。
「…なんでそれ俺に言うんですか?」
「…恥ずかしい話だが、圭は俺や御行より君に懐いている。勿論看病はするつもりだが、圭にとっては君が来てくれた方が良いんじゃないかと思ってな。もし君さえ良いのであれば、圭の見舞いに来てやって欲しい」
俺が来たからといって、圭の具合が良くなるとはならないだろうに。
とはいえ、聞いてしまった以上「面倒だし断る」とも言いにくい。懐かれてると言われたら尚の事。それを分かった上でこの話を持ちかけて来たのかこいつは。
「…分かりました。じゃあもう今から向かいます」
「すまないな、比企谷くん」
そんなわけで、俺は生徒会を欠席。スポーツドリンクやら果物やらと、とりあえず買ってきて不必要になら無さそうな物を購入。そして白銀二代目のお家へと向かった。インターホンを鳴らすと、中から現れたのは。
「いらっしゃいにんぐ」
「…ども」
癖のある挨拶で出てきたのは、ご存じ白銀パパである。のっけから変化のある球を投げて来やがる。
「どうぞ、入りたまえ」
「お邪魔します」
俺は革靴を脱いで、家に上がる。白銀パパの後に着いていく先にあるのは、圭の部屋であった。
「あ、そういえばこれ。果物とスポーツドリンクです」
「すまないな。来てくれた上に、わざわざ買って来てもらって」
白銀パパに見舞いの品を渡す。貰ってそのまま、白銀パパは圭の部屋の扉ノックする。
「圭、比企谷くんが来たぞ」
「は、八にぃっ…ごほっごほっ!」
白銀パパが扉を開けると、ベッドで寝込んでいる圭の姿が。こちらを見るなり、彼女は起き上がろうとする。
「待て待て、起き上がるなって。寝てろ」
「でも八にぃが…」
「俺が来たからって無理に起き上がるなっつの。そんなすぐには帰らんから、大人しく寝とけ」
「…うん…」
圭になんとか納得してもらい、再び枕に頭を乗せる。見た様子じゃ、まだ治りかけとかでも無いみたいだ。
「では俺は戻るからな。何かあればすぐ呼んでくれ」
「分かりました」
そう言って、白銀パパは部屋から出て行く。残ったのは、立ったままの俺と寝込んでいる圭。
「私の椅子、座ったら…?」
「あ、おう。悪ぃな」
圭の椅子に座り、彼女の様子を見る。
しかし、何を話したものか。小町が熱を出した時も、会話なんて極力しなかった。小町が何か欲しがるまでは、本でも読んでいたのだ。
「…なんで、来てくれたの…?」
「お前のパパから電話来てな。事情知って放置するのは気が引ける。それだけだ」
「そっか…ありがと…」
はい会話終わり。風邪だから仕方無いが、こう何もやる事が無いと一体俺の視線はどこに向ければ良いものか。すると圭が俺の手を掴んで、指と指が絡み合うような握り方をし始めた。
「しばらく、このままが良い……」
「…別に、手を握るくらい普通で…」
「これが良いの……この方が安心するから…」
今の圭の感情があまり読めないが、彼女がそう言うのであればそうなのだろう。少し小っ恥ずかしいが、しばらくの間我慢しなければ。
「八にぃの手…温かい…」
「…そうか」
ちょっとにぎにぎしないで?手ぇ柔らかすぎて尚の事ドギマギしちゃうから。
「私ね…最初は八にぃの事そんなに好きじゃなかったんだ…」
「…そりゃ、出会って間もない人間を好きになる方が珍しいだろ」
「お兄が暗い友達連れて来たって…最初はそんな印象だった…」
暗い友達とは的確だな。なんなら今も変わらないまである。
「でも…八にぃが何度も家に来て…関わり続けるようになって……それで…八にぃの優しさに触れて……私は…」
…分かってる、お前の気持ちは。痛いほどに。
「…こうやって、八にぃに面倒を見てくれるのが嬉しい……八にぃに優しくされてるって…愛されてるって思えるから…」
「風邪の見舞いだけで大袈裟だろ」
「私にとっては大袈裟じゃない……。そういう小さな事でも気に掛けてくれる事が…私にとって嬉しいの……」
風邪でやや辛そうにしながらも、そう微笑む圭。
「ずっとこうしていたい……この時間がずっと続けば良い……」
「風邪なのにか?」
「そうじゃないよ……。今の八にぃは…私だけを気に掛けてくれる…他の女の人じゃない、私だけを…見てくれてるから……」
彼女は更に握る力を強くする。
「私も…今は八にぃしか見えない……」
「…俺以外居ないからな」
「ううん…きっとこの場にお兄が居ても…パパが居ても……私は八にぃだけを見てると思う……。そのぐらい…私は……」
上気する頬、潤む瞳。熱が原因か、そんな表情で俺を見上げる圭は。
「八にぃの事が好き」
そう伝える圭に、俺は視線を逸らせずにいた。
「…歳の差なんて関係無い…中学生と高校生だからとか関係無い…非常識でも、世間体が悪くなっても良い……。…それでも私は、ずっと八にぃと一緒に居たい…」
「圭…」
「今の八にぃは…私以外にも好かれてる人が居る……私が何かを言う権利なんて無いのは分かってる…。でも……八にぃには…八にぃには私を…私だけを見て欲しい…私だけに優しくして…私だけを求めて欲しいの……」
圭は握っていた手を引っ張り、それを自身の胸元に当てる。彼女の鼓動が伝わって来る。
「すっごくドキドキしてる……風邪じゃない…八にぃが私だけに意識を向けてくれる事が…」
「……こういうの、あまりしないで欲しいんだけど。中学生に手を出した犯罪者とかになったら小町に見捨てられちゃうから」
「私は見捨てない……ずっと…ずっと八にぃの側に居る…」
「…実行犯が何言ってんだか」
俺は少し強引に、圭の胸元から手を離す。「あっ…」と寂しげな表情を見せるも、すぐにまた指を絡めて手を握る。
「手を離さないで…。私が元気になるまで……ううん…このまま一生……死ぬまで…」
「…本当、強欲な所は兄と似てるよな」
「それ最悪……」
もうここまで扱いが酷いと可哀想に思える。兄妹で仲が良いなんてのは所詮、アニメやラノベを見過ぎた者の妄想だ。兄妹でベタベタする方が珍しい。
「…でも、そうだね。…私やお兄は欲しいものがあっても我慢しなきゃいけなかったから……人より欲が強くなったのかも知れないね…」
白銀家は貧しい境遇にあった。今では白銀パパがユーチューバーとして活躍しているから、金銭面的な話で欲しいものを手に入れる範囲が広くなった。が、欲しいものが手に入る今だからこそ、欲するものが増えてもおかしくない。
彼女の欲が肥大化したのは、その事もあるのだろう。
「私は全部欲しい……前よりもっと裕福になったから、その欲が強くなったの…。…でも、私が欲しいのはお金でも服でもアクセサリーでもない……。…八にぃの……八にぃの全部が欲しいの……」
本当に強欲だ。…まぁ、圭に限った事じゃ無いんだけど。
「その代わり、私の全部を八にぃにあげる……だから…」
圭はウトウトし始める。
「眠いなら寝てろ」
「…でも、その間に八にぃが帰っちゃったら……」
「しばらくは様子見てるから。すぐには帰らねぇよ」
「本当…?嘘吐いたら、私絶対に許さないよ……」
「嘘吐くメリットがあるかよ。ほれ、早よ寝ろ」
「約束…だから…」
結局、彼女は睡魔に負けて眠った。おそらく風邪薬の副作用か何かだろう。無理して起きていたところで、得する事なんて無いだろうに。
「…はぁ…」
圭が抱く俺への気持ちは、近所のお兄さんに慕うような気持ちじゃない。彼女達と同じ、俺への好意。
卒業まで1年を切っている。生徒会が解散して受験に集中すれば、卒業なんてあっという間である。タイムリミットは残されていない。
伊井野ミコ。早坂愛。四条眞妃。龍珠桃。藤原千花。そして、白銀圭。
彼女達の好意に応えねばならない。彼女達はその好意に応えてもらおうと、自分なりのアピールを仕掛けているのは分かっている。それを見抜けないほど鈍感では無い。
けれど、怖い。
俺に何かが降りかかる事がじゃない。彼女達との関係が崩れるのが、怖い。なんだかんだで、俺は彼女達との今の関係に安らぎを得ている。時折、ちびりそうな怖い面を垣間見る事もあるが、それでも俺は今の関係に安寧を感じていた。
人間関係はいつか崩れるものだと割り切っていたのに、俺は女々しく彼女達との関係を繋ぎ止める事が出来ないものかと考える時もある。そんな方法があるわけが無いのに、無い物ねだりをして考えてしまう。
世代最悪のクソ野郎って異名が付いても良いくらい、今の俺は腐りきっている。彼女達の純粋な好意を向けられる度、自身の不甲斐なさを苛む。逃げて、誤魔化して、道化を気取る今の俺に。
俺はずっと、間違い続ける。きっと、俺の前に正しい答えなんて存在しないんだろう。
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「んぅ……今、何時…?」
枕元に置いているスマホを見ると、夕方の6時半を過ぎていた。
そんなに深く眠ってしまっていたのかと思う。その時、スマホを持つ反対側の手には確かな温もりが伝わっているのが理解した。
「…まだ握っててくれたんだ…」
私が勝手に握った八にぃの手。寝てる間に振り払っていても良かったのに、八にぃはずっと握ってくれていた。それも、自分が寝ていても尚だ。
「八にぃ…」
私は八にぃが好き。出来るならば、八にぃの将来にもずっと隣に居たい。
特別なイベントがあったわけじゃない。隣に住んでいる事も相まって、お兄が連れて来た。その流れで話をする事になったのだ。
当初はただの近所の人という認識だったが、時間が経つに連れて、八にぃを段々と意識していくようになった。その最中に彼の優しさに触れて、好きになった。
でも、私は不安だ。
八にぃの優しさは甘い毒だ。私だけじゃない。愛さんを含めた沢山の女の人が八にぃの毒に侵され、八にぃを好きになっている。
それが堪らなく嫌なのだ。八にぃの意識の先には常に私だけであって欲しい。愛さんでも伊井野さんでも、他の人でも無い。私、白銀圭だけが良い。
でも現実はそう上手くいかない。私が「他の女を見ないで」って言っても通用するわけが無い。しているのならもう既に言ってる。
「…八にぃは誰を選ぶの…?」
眠っている八にぃに尋ねる。答えが返って来るわけでも無いのに。
私以外を選んで欲しくない。私を選んで欲しい。私は彼女達より裕福でも無いし、頭がキレるわけじゃない。
でも誰よりも八にぃを愛する自信はある。健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も。
私は八にぃをずっと愛し続ける。一生。永遠に。例え八にぃが犯罪者になったとしても、私は愛し続ける自信がある。
八にぃへの愛は絶対に負けない。負けたくない。
「八にぃ…」
私は起き上がって、ベッドから降りる。そして八にぃの眼前に、自身の顔を近づけた。
「カッコいい…可愛い…」
八にぃの目は特徴的だ。そこを含めて好きなのだが、目を閉じると顔立ちの良さが際立つのだ。そこがカッコいいのだが、いつもツンツンしていて捻くれている八にぃが、今は無防備に眠り顔を見せている。そんな彼の顔が可愛くも見えてしまう。
「八にぃ…八にぃ……」
私は彼の名前を呼び続ける。起こす為では無く、愛を囁くかのように。
その愛を囁く度、私の興奮が溢れてくる。以前、私は八にぃが寝ている時に頬にキスをした。
でも、今は頬だけじゃ満足出来ない。
「んむっ」
私は八にぃの唇を啄んだ。優しく1回…また1回。
頬にキスをするより断然、こちらの方が燃え上がる。本当なら、八にぃの目が覚めた時にキスをしたかったけれど、遠慮をしていたら他の女の人に横取りされてしまう。
遠慮をすれば後悔もしてしまう。ならそうならない為に動く。
次に私が目を付けたのは、八にぃの首筋だ。八にぃは制服をきちんと着ていないから、首もよく見える。私は彼の首筋を、舌の先で舐める。
「…しょっぱい…」
でも、嫌な気持ちにはならない。むしろ、身体が火照ってしまう。舌の先で舐めていたのが、いつの間にか首筋に舌を絡めるかのように舐めていた。
舐めて、啄んで。
「八にぃ…八にぃ……」
その過程で、首筋に少し赤い痣が。意識して噛んだわけでは無いが、啄む時に出来てしまったのかも知れない。でもその痣が、私の興奮と独占欲を強くする。
八にぃに私の印が付いた。「これは私のものだ」。そんな意味を付与するような痣に見えてしまう。
もし八にぃと付き合ったのなら。私は遠慮なく彼の首筋に、いや、身体中に私の印を付けた事だろう。誰がどう見ても、万が一の事があっても、八にぃの隣には私が居るという牽制になるから。
「…もう、我慢出来ないよ…」
私は最低で最悪な方法を思いついた。きっと八にぃからも嫌われてしまう。でも、上手くいけば八にぃとずっと一緒に居られる。
子を授かれば、責任感の強い八にぃは私を見捨てないよね。
最初からこうすれば良かった。この方法なら、私と八にぃは永遠に結ばれる。あの女達よりも早く繋がって、深く愛し合って。
「八にぃ……3人で幸せな生活を送ろうね」
学校なんてどうだって良い。八にぃさえ隣に居てくれるなら、私は全てを捨てて彼を愛する。
八にぃ……私と一緒に…。
「…んん……」
「あ…」
すると、運の悪い事に八にぃが目を覚ましてしまった。
「寝ちまってたか…」
「あ、うん…ぐっすりだったよ」
私は複雑な心境に陥っていた。
後少しで名実共に八にぃを私のものに出来たかも知れないという事と、一時の迷いで恐ろしい行動を仕掛けようとした事。
「もう熱は無いのか?」
「計ってないから分からないけど、身体の怠さとかしんどいのはもう無いかな。ちょっとお腹も減ったし」
「そうか。そりゃ良かったな」
こんなにも優しい人を、私は平気で襲おうとした。
いや、こんなにも優しい人だから襲おうとしたんだ。八にぃの優しさを独占したくて。誰にも渡したくなくて。
「…なんか首濡れてね?」
「あ、汗じゃないかな?」
「汗…なのか?…まぁそれなら気にするほどの事でも無いんだろうけど」
八にぃは深く考えず、生理現象として流した。けれど、彼の首筋には淡い赤色の痣が残ったままだ。あれを見ると、また興奮が溢れ出してしまう。
私って、こんなにやらしい女の子だったんだ。
「じゃあまぁとりあえず、俺はもう帰るわ」
「え」
「もう後は白銀パパに任せるべきだろ」
「…やだ。帰らないで」
私は八にぃにしがみついた。逃すまいと、帰らせまいとして。
「まだここに居てよ。どうせ明日休みじゃん。お兄の部屋空いてるんだから、今日泊まっても…」
「泊まったらお前は夜遅くまで起きるだろうが。マシになったとはいえ、まだ大人しくしてろ」
「…嫌だ…」
今生の別れというわけでは無い。けど、帰って欲しくない。残りの時間ぐらい、ここに居て欲しい。
「無理を言っちゃいかんぞ、圭」
私を嗜めるように言い放つのは、部屋に入って来たパパだった。その言葉にムッとする。
「比企谷くんにも比企谷くんの都合がある。今日だってわざわざ来てくれたんだ。これ以上の我儘はやめなさい」
「…嫌だ」
駄々を捏ねている私。すると八にぃは溜息を吐いて、私に優しく言葉を掛ける。
「これが最後の別れってわけじゃないんだ。会おうと思えば会えるだろ」
「……じゃあ、また家に来て。私の部屋に。約束しないと帰らせないから」
「…あぁ、気が向いたらな」
「ダメ、絶対に来て。そんな言葉じゃ信用出来ない」
「…分かった分かった。どのタイミングになるかは分からないが、またいつかな」
「約束だからね」
八にぃは渋々といった面持ちで了承した。これでもう1度、八にぃを私の部屋に招く事が出来る。明日なのか明後日なのか、1ヶ月後なのかそれ以降なのか。いつになるか分からない。
けれど、今度私の部屋に来たその時は。
2度と離さないからね。
原作ヒロインのアンケートです。(番外編にて他のヒロインのルートも投稿しますが)
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私を選ぶよね?(早坂)
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私から離れるつもりですか?(伊井野)
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私以外の女を選ばないで。(圭)
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私にしろ。(龍珠)
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私に告るわよね?(眞妃)
-
ラーメン食べに行きましょ〜(千花)