やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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藤原千花は可愛らしい

 

「ラーメン食べましょ〜」

 

「お前ヤベェな」

 

 伊井野に続き、今度は藤原までもが千葉にやって来ていた。

 というのも、元々個人的な用で外出していたのだ。千葉なら少なくとも秀知院の連中には会わないと思っていたのに、まさか藤原がこんな所に出没していたとは思わなんだ。

 藤原といい伊井野といい龍珠といい、何故こいつらは他府県に姿を表すのだ。ライコウ、エンテイ、スイクンみたいにランダムで飛び回って出没しているのか。何そのポケモン的現れ方は。

 

「ていうかなんでお前こんなとこ居るの?」

 

「大学のオープンキャンパスに行って来たんですよ〜。それで折角千葉に来たんだし、千葉にあるラーメン屋でも食べて帰ろうかと」

 

 こいつ千葉県の大学も視野に入れてるのか?

 

「それこそ昼飯くらい大学の食堂で済ませりゃ良かっただろうよ」

 

「いやぁ、汗掻いて塩分が無くなってるんですよ。だからその補給にラーメンを食べたくて」

 

 こんなクソ暑い時にラーメンかよ。まぁラーメンは年中食べて美味しいもんだが、暑い時に熱い食べ物を食う気が無くなる事もある。いくら冷房が付いていたとしても。

 

「比企谷くんも昼食がまだでしたら、一緒に食べましょうよ!どうせなら、比企谷くんのおすすめのラーメン屋を紹介して欲しいです!」

 

「…まぁ別に良いけどさ。まだ食べてないから」

 

 おすすめのラーメン屋は色々あるが、強いて1番を決めるなら龍珠を連れて行ったあのラーメン屋である。

 

「ここが比企谷くんのおすすめですか?」

 

 こってりラーメン、なりたけ。

 

「ああ。東京にもあると思うが、発祥地は千葉なんだ。つまりなりたけは千葉のもの。異論は認めん」

 

「私も中々のラーメン通なんですけど、こういう店があったんですね〜。早速入りましょ入りましょ!」

 

 俺達は店の中に入って行く。店内は冷房が効いており、太陽に照らされた身体が冷えていく。それだけで無く、ラーメンの香りが漂うのだ。

 

「この店のオーソドックスはなんなんですか?」

 

「この醤油ラーメンだ。オーソドックス、かつ1番人気の品だ」

 

「そうなんですか〜。じゃあ私はつけ麺を頼みます

 

 話聞いてた?醤油ラーメンが美味いっつってんのにつけ麺頼むのかよ。まぁ美味しいけどつけ麺も。初めて来た店って大体、その店の1番人気の品を頼むものじゃないの?

 

「まさかなりたけに来てつけ麺を頼むとはな。ラーメン通であるなら、そこの少年が言っていたように醤油ラーメンを最初に食べるのが然るべきじゃないか?」

 

 すると、俺の隣に座っていた女の人が突然話しかけて来た。とても長い黒髪で、美人という言葉が合う女性。しかし、口調は男勝り。

 

「誰ですかこの人?」

 

「知らん」

 

 藤原が俺に耳打ちして尋ねるが、俺も知らんよこんな人。誰だ。

 

「これは失礼。私は平塚(ひらつか)(しずか)。総武高校で教鞭を取っている者だ」

 

 平塚と名乗るその女性は、どうやら総武高校の教師らしい。秀知院に行かなければ、もしかすればお世話になっていたのかも知れない。

 

「君達、名前は?」

 

「比企谷です」

 

「私は藤原千花と言います〜」

 

「比企谷に藤原か。見た所高校生のようだが、どこに通っているのかね?」

 

「秀知院学園ですが」

 

「ほう、東京屈指の難関校ではないか」

 

 平塚先生とやらは教師だからか、秀知院の存在を知っているようだ。偏差値で言えば、総武より上だし、全国的にもまぁ有名っちゃ有名の難関校だからな。

 

「話を戻すが、藤原とやら。君はラーメン屋に来てつけ麺を食べるのか?初めて来たのだから、醤油ラーメンじゃないにしても、ラーメンを食べるのが普通だろうに」

 

「ラーメンは比企谷くんから貰いますので、大丈夫ですよ〜」

 

「俺からパクるつもりだったん?」

 

「折角2人で来てるんですから、同じ品を頼むと勿体無いじゃないですか〜。後でつけ麺も分けますから」

 

 すると平塚先生はチッと舌打ちをした。えっこの人急にどうした。なんで舌打ちしたの?怖ぇよ。

 

「デートでラーメン屋に来るとか……クッ、私なんてそんな相手が居ないというのに…」

 

 あっこの人絶対独り身だ。カッコいいのにどこか残念な所がある。なんだろう、なんか俺の知り合いで似たような奴居た気が。

 

「んんっ!まぁつけ麺という選択肢が一概に悪いわけでは無い。しかし、ラーメン通が嫌う選択肢だ。麺が冷たく、汁が緩くなる。スープの味はラーメンより濃いし、何より汁を啜る楽しみが得られない」

 

 生粋のラーメン好きだろこの人。俺も藤原もラーメンは好きな方ではあるが、この人も中々にラーメンに対する気持ちが強い。

 

「東京の高校に通っているのなら、この4人の話を聞いた事は無いか?東京都内ラーメン四天王を」

 

「知りません」

 

「私も。というかその名前付けたの誰なんです?」

 

「この界隈じゃあ有名な4人だぞ。渋谷のサンちゃん、高円寺のJ鈴木、神保町のマシマシママ、そして巣鴨の仙人。知らないのか?」

 

「だから知りません」

 

 全然知らん登場人物が4人も。というか東京に一人暮らししてそこそこ都内のラーメンを食べてきたけど、そんな4人衆の名前など知らない。

 

「しかし、その四天王に食い込む新星が現れているという噂もある。四天王最強と謳われたJ鈴木と同レベルの状況判断能力を持った人物。その名を、"F"という娘だそうだ」

 

 なんだろう。Fって1つのアルファベットだけじゃ何の確証も無いんだけど、もしかしたらそのFって藤原じゃない?

 

「まさかお前?」

 

「そんなわけないじゃないですか〜。大体、そんな仰々しい名前を持った人達と会った事すらありませんよ」

 

 でも藤原ならあり得そうなんだよな。なんせ白銀や四宮ですら予測が困難と認識されてる奴だぞ。会ってても不思議じゃない。というかなんならちょっと納得しちゃうレベル。

 

「まぁ噂でしかないからな。しかし、出来るのなら1度一緒に食べてみたいものだ」

 

 そうして話していると、頼んでいたラーメンが先に来た。

 

「うわぁ〜、美味しそうですね!」

 

「…食べるか?」

 

「いただきまーす!」

 

 俺は何度も食べているから、別に少しぐらい食べられても文句は言わない。でもあるとしたら、俺の箸を使われると否が応でも間接キスが思い浮かぶからそういう配慮はして欲しかった。

 

「ん〜!」

 

 前から思ってたけど、美味そうに食べるよなこいつ。ラーメンを作った店主もこの笑顔を見たら仕事がやりがいに繋がるだろうな。

 

「ふっ、君もラーメン好きだったわけか。だがこの店の醤油ラーメンこそが最適解。そういう反応は君じゃなくとも出る事だろう」

 

 この人何か勝負挑んでんの?さっきからやたらとライバル的立場のセリフ多いんだけど。どういう立ち位置なの?

 と、平塚先生に疑問を抱いていると、藤原のつけ麺がやって来た。

 

「わぁーい!あ、比企谷くん食べますか〜?」

 

「いや、食べた事あるからいい」

 

 なんなら全品食べ尽くしたまである。なりたけ常連客なら、それぐらいやってのけるのさ。

 

「藤原。君の喰い方(いきかた)を見せてもらおう」

 

 何このカッコいい教師。この人多分アニメ好きだろ。

 

「いただきまーす!」

 

 藤原はつけ麺を食べ始める。と同時に、伸びる事を危惧した俺も早くラーメンを食べる事に。すると隣から凄い勢いで麺を啜る音が聞こえて来る。

 

「…なるほど。考えたな」

 

 何が?

 

「つけ麺の麺は冷たい。ゆっくり食べれば汁が緩くなってしまう恐れがある。だがあの勢いで食べれば、汁が緩くなる事は無い。その上、スピードに乗った箸捌きで濃いめのスープがうっすらと絡んで、最適な温度、味で楽しむ事が出来る」

 

 もう片方の隣の人さっきからヤベェ。解説しちゃってんじゃん。なんなら周囲の人もちょっと耳傾けてるぞ。だが藤原は耳を傾けずに、麺を啜っていく。

 

「おいひぃ〜!」

 

「本当、美味そうに食うな…」

 

「そうだな。彼女の強みは麺を食べる際のテクニックだと思っていたが、この笑顔が彼女本来の強みだったのかも知れない。見てみろ」

 

 平塚先生が周囲を見るように促すと、周囲の客がつけ麺を食べ始めているではないか。その光景に驚かざるを得ない。

 

「ラーメン屋だからラーメンを食べなければならない、という暗黙のルールに囚われず、自分がただ食べたい物を食べる自由さ。この自由こそ、食に対する礼儀なのかも知れないな」

 

 あんたさっきからカッケェな。周りがつけ麺食べてる驚きよりそっちの方が気になるのよ。このすばでちょいちょい出てくるあのカッコいい事言う荒くれ者の立ち位置なの?

 

 平塚先生の名言を聞きながらゆっくりラーメンを食べているうちに、先に藤原の方が完食してしまう。

 

「替え玉頼もーっと」

 

「お前早ぇな」

 

「比企谷くんが遅いんですよ。というか、結構人が混んで来ましたね。流石は比企谷くんがおすすめするだけはありますね」

 

「まぁな」

 

 藤原はそうして、替え玉を頼んで食べる。

 

「ちょっと味チェンしちゃおー」

 

 こいつに正攻法の食べ方なんて無い。だがそれが彼女の食べ方であり、周りを引き寄せるきっかけともなる。

 ラーメンの食べ方なんて人によって違ってくるが、こうも自由に食べて美味しそうにしていると、つい顔が綻んでしまう。その上、その光景を見た周囲の人間は「自分も食べてみたい」と求める事になる。

 

 今日のなりたけはつけ麺の売り上げが突如として爆上がりしていそうだな。

 

「ご馳走さんでした」

 

「ご馳走様でした〜!」

 

 俺はラーメンを、藤原はつけ麺を食べ終えて水を飲む。安定の美味さだったわ。

 

「君こそ、このラーメン業界に革命を起こす者だ」

 

「何を言ってるんです?」

 

「藤原千花、だったな。ラーメン通の1人として、君の名前を覚えておくとしよう」

 

 そう言って、彼女は一足先に店から出て行った。

 

「あの人最後までわけ分かんない人でしたね

 

 姿消したからってなんて辛辣な事を。その通りですけど。

 ただ彼女について分かった事がいくつかある。総武校の教師で生粋のラーメン好き、そんで独り身。初めて会った人ではあるが、同じラーメン好きとして気が合うのではと、少しだけ思った。

 

「…これ以上長居する事も無いし、俺達も出るか」

 

「はいっ!」

 

 俺達は人が混むなりたけを後にした。

 

「お腹いっぱいです〜」

 

「結構食べてたからな、お前」

 

「ちょっと食べ過ぎちゃったので、腹ごなしの散歩しましょ〜」

 

「そうかい。じゃあな」

 

 俺は藤原と別れようとするが、藤原は俺の腕を両手で掴んで離さない。

 

「散歩がてらに千葉を少し巡りたいので、千葉県民の比企谷くんに着いて来て欲しいです」

 

「えぇ……」

 

 俺はさっさと冷房の効いた家に帰りたいんだが。観光するなら1人で観光しろよ。ガイドが居るより、1人で巡る楽しさだってあるんだぞ。

 

「早く早く〜」

 

 彼女が掴んだ両手は依然離さないまま、俺を連れて歩き始めた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 なりたけ美味しかったぁ〜。

 

 やっぱりラーメン好きの人と一緒に居ると、ラーメンの話で盛り上がれるし、自分の知らない店を教えてくれる事もある。

 

「ラーメンは嗜好の逸品ですね〜」

 

「お前が食べてたのつけ麺だけどな。…まぁ、あの手の料理を好む人は多いだろ」

 

 比企谷くんとは何かと気が合うのだ。ラーメン然り、ゲーム然り。

 気が合う人と一緒に居るのは楽しい。けど、多分それだけじゃない。楽しい上に、ずっと一緒に居たいと思うのは、気が合うという理由だけじゃない。

 

 腹ごなしがてらの散歩は本当ですけど、千葉を観光したいと思ったのは、比企谷くんともう少し一緒に居たいからですよ?比企谷くんはきっと、そんな事あり得ないって否定するでしょうけどっ。

 

 それに千葉の大学のオープンキャンパスに来たのだって、高校を卒業しても比企谷ともう少し関わりたかったからなんですよ?

 比企谷くんは千葉に戻るか東京に居続けるかのどちらかと聞きました。同じ大学に通う事は出来なくても、同じ県内の大学に通う事は容易ですからね。

 

「今度、比企谷くんとラーメンの食べ歩きとかしたいですよ。他府県に行って」

 

「…まぁ一緒に行くのは兎も角、ラーメンの食べ歩きは夢があるよな。俺千葉か東京しか知らねぇし。福岡とか行ってみたいとは思う」

 

「ですよね〜!行きましょう行きましょう!」

 

「そうだな。またいつかな」

 

 言質は取りましたよ比企谷くん。今すぐとは行きませんが、絶対に一緒に行くんですから。「俺そんな事言ったっけ」なんて言葉は通用しませんよ。

 

「それで?千葉観光したいとか言ってたけど、どこ行きたいとかあるのかよ」

 

「どこでも良いですよっ」

 

「は?」

 

 私の言葉に、比企谷は素っ頓狂な声を発してこちらを見る。

 

「比企谷くんと一緒なら、どこに行ったって良いんですっ」

 

 さぁどうです比企谷くん。結構恥ずかしい言葉を言った自覚はありますが、比企谷くんはこんな直球な言葉に弱いのは、愛してるゲームでもう分かってるんです。現に今だって、ちょっと顔が赤いんですもん。

 

「…そういう事を言ってくれるな。うっかり惚れそうになる」

 

「良いんですよ〜惚れたって。私に惚れてしまうのは仕方の無い事ですもんね〜」

 

「うぜぇ…」

 

「とかなんとか言いつつ、本当は心が揺さぶられたんでしょ〜?」

 

 楽しい。好きな人と一緒に居るのは、本当に楽しい。こうやってただ話すだけでも、一緒にラーメンを食べているだけでも、比企谷くんと一緒なら、私は楽しいと思うだろう。

 

「はいはい。揺れた揺れた。超揺れました〜」

 

「…最後の何ですか?」

 

「お前の真似だけど」

 

「似てませんよ!私そんなアホみたいな言い方しません!」

 

 全く!生徒会の方々は私を舐め腐ってるんでしょうかねぇ!これでも秀知院の中では優良物件とされているんですよ!?もうちょっと優しさというか、尊敬的な眼差しは無いのでしょうか!

 

 と、このように学校と大して変わらないやりとりをしながら、私達は千葉の街を適当に巡った。千葉の事を時々尋ねると、「マッカンは美味い。あれは千葉の水」だの「千葉と言えば落花生だろ」だの、千葉に関するうんちくを聞かされる。

 比企谷くんと話して分かった事があるのだが、彼は好きになったものに対して愛が深い。小町ちゃんの溺愛っぷりや、千葉への愛を見れば分かる。

 

 彼が、誰かと付き合ったら。

 彼はきっと、その相手を心の底から愛し尽くすだろう。捻くれながらも、愛するのだろう。

 

 もしそれが、私だったら。ミコちゃんや早坂さんなどではなく、私が相手だったら。

 私はきっと、その愛に溺れてしまいそうだ。今よりもっと、彼の事を好きになっていそうだ。

 

「…えへへ」

 

「何急に笑ってんのお前。怖いんだけど」

 

 比企谷くんはこちらを見て引き気味にそう言う。

 

 人の笑顔を見て怖いとは、本当比企谷くんは礼儀というものを知らないようですね。とはいえ、そんな彼を好きになってしまった私も大概なんですけど。

 私ってば、結構面倒な男が好きだったのかなぁ。まぁ、世の中に面倒じゃない人間なんて居ないわけなんだけど。

 

 今までは人の恋の悩みを解決するラブ探偵千花でしたが、もう離職するとしましょう。ラブ探偵千花改め、ラブ策士千花として、知恵を絞って私自身の恋を成就させてみせましょう。

 

 チカッと成功させてみせますよ〜!

 




 ラーメンと言えば、平塚先生必要でしょうよ。

原作ヒロインのアンケートです。(番外編にて他のヒロインのルートも投稿しますが)

  • 私を選ぶよね?(早坂)
  • 私から離れるつもりですか?(伊井野)
  • 私以外の女を選ばないで。(圭)
  • 私にしろ。(龍珠)
  • 私に告るわよね?(眞妃)
  • ラーメン食べに行きましょ〜(千花)

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