まぁ多分後編を待たなくても誰が原作ヒロインなのかすぐ分かると思いますが。
兎にも角にも、次回が最終話です。どうぞ最後の最後までお付き合いください。
奉心祭がついに開催した。新生徒会長伊井野の主導の下、今年も安全性を確保した祭りが始まっており、去年に復活したキャンプファイヤーは今年も続けて行うらしい。
この奉心祭が終われば、受験と卒業だけだ。東京に残る事を決めたとはいえ、彼女達と関わる機会がこれで終わりになってしまう。あの騒がしく、間違い続けた日々が。
ここまで本当に色々あった。思い返せば、濃い3年間だったと言える。正確にはまだ2年半とかそんな辺りだが、とにかく濃い日々だった。1日1日が鮮明に思い出せる日々で、彼ら彼女らとどういう会話をしたのか、何をしたのかなどすぐに思い出せてしまうほど。
それも、もう終わる。
「今年も大盛況だね、お兄ちゃん」
「…そうだな。去年のキャンプファイヤー復活があったから、余計にな」
例年通り、外部の人間や学生達が賑わうこの奉心祭。そして秀知院の文化祭に纏わる奉心伝説。ハートのチョコやクッキー、アクセサリー、風船など、文化祭マジックを利用したアイテムが今年も販売されている。
「あ、比企谷くん!」
俺と小町が廊下で話していると、前方から神奈川からやって来た子安先輩に呼び止められる。隣には、石上も一緒に。
「どうも。子安先輩」
「うん、おひさだねー!…ってこの子は?」
そういえば、子安先輩と小町って初対面か。
「俺の妹の小町です」
「初めまして!妹の小町と言います!えっと…」
「あ、私は子安つばめ!去年まで秀知院の生徒だったの!それにしても、小町ちゃん可愛いなぁ〜!本当に比企谷くんの妹?」
「それを言うなら子安先輩だって!もうビジュアルが女神のそれですよ!」
と、何やら会話の弾む2人。本当、コミュニケーション下手な所とか諸々俺に似なくて良かったとつくづく思う。もし目が腐ってて性格もゴミみたいな妹だったら、比企谷家は終わる。
「比企谷先輩は何してるんですか?」
「特に今やる事ないからな。適当に周ってる」
「去年もそうでしたけど、比企谷先輩小町以外と歩いてるとこ見た事ないですよ。小町以外の誰かと周ったりしようとかってあったりしないんですか?」
「彷徨える孤高の魂は拠り所を必要としないんでな」
「何言ってんすか」
呆れてツッコミを入れる石上。すると突然、後ろから衝撃を与えられる。しかも背中が柔らかくなる衝撃。
「比企谷くんだー。久しぶりだね〜」
「藤原の姉さん…って事は…」
「はーい。その通りですよ〜」
視界に突然現れたのは、藤原妹である。前後で良い匂いがすんごい事に。後背中もすんごい事に。石上なんて「こいつ何ラッキースケベ味わってんだよ」みたいな目で見てくるし。お前子安先輩居るだろうよ。
「やっぱり比企谷くんの反応は可愛いなぁ〜。私の部屋に欲しいなぁ〜」
「ダメですよ姉様。比企谷さんは私が
1番怖いのはやっぱり妹だろ。遊ぶとか言ってるけど弄るとかそんな意味が孕んでいそうだぞ。こんなサイコパスな妹に遊ばれたくない。小町のような天使以外は受け付けんぞ。
「何やってるんですか2人共ぉー!」
と、藤原姉の背後から藤原千花がやって来た。そしてこちらに走りながら一気に何かを振り抜き、3人揃ってちょっと痛めの衝撃を受ける。ていうか俺まで受けたのおかしくない?被害者よ?
「藤原先輩…ってそのハリセン、まさか…」
「はい!例のアレです!石上くんが私の胸を弄り倒した時のハリセンです!」
「優くん?私の知らないところでそんな事してたの?聞いてなかったなぁ…」
子安先輩は石上に微笑む。だが、どうにも目だけ笑っていないように見えるのは俺の錯覚だろうか。
「ちょっと待ってつばめ先輩!弁明!弁明させてください!」
「優くんがそんな事する筈ないのは分かってるから、ちゃんと聞いてあげるよ。人気の無い所でゆっくりね」
藤原の核爆弾は石上に直撃。更に子安先輩という兵士が助けを乞う石上に追い打ちをかける。
「それじゃ、私達はちょっと失礼するね。行こっか、優くん」
「た、助けて!比企谷先輩助けて!怖い!つばめ先輩怖い!ってか力強ぇ!」
石上はこれ以上ない満面の笑みを浮かべる子安先輩に連れて行かれ、姿を消した。この後、石上がどうなったのかは皆様のご想像にお任せします。多分にゃんにゃんされてるんだろう。
結果。藤原が現れると、その場が混沌と化する。
核爆弾、暗黒物質など、常識に当てはまらないのが藤原千花という人物だ。こいつが高度育成高等学校に入学してたらどこのクラスになるのかってちょっと気になるよな。
「それで、姉様も萌葉も何してるんですか?」
「比企谷くんと遊ぼうとしてたー」
「比企谷さんで遊ぼうとしてました〜」
凄いよな。「と」と「で」の1文字違いで文の内容がえらい違いになるんだから。日本語大事。
「ていうかさっさと離れてくれません?」
「えぇ〜」
えぇ〜じゃねぇ早よ離れて。
藤原姉は渋々といった面持ちで俺から離れる。なんだか背中が寂しく感じてしまう。べ、別に背中に柔らかいのが当たってたのが気に入ってたわけじゃないんだからねっ!
「姉様も萌葉も比企谷くんに迷惑掛けないで下さい!本当、まともな私がこの2人を見ていないと危なっかしい事するんですから!」
「…千花さんのあれって本当の事言ってんの?」
「知らん。本人はそう思ってんだろ」
藤原がまとも?どこが?今までそんなまともなところあったかな?ってレベルでまともじゃない。藤原だけじゃなく、姉も妹も。
「それじゃあね〜比企谷くん。また一緒に遊ぼうね〜」
「今度は手錠とか首輪とか持って待ってますからー!」
そんな不吉な言葉を残して、藤原と共に目の前から去った。というか手錠とか首輪とか一体どこで仕入れてるのん?アマゾン?
「あ、そろそろ時間かも」
「何かあんのか?」
「店番の時間がそろそろだからさ!ちょっと小町はこれで退散するけど、お兄ちゃん小町以外の誰か誘って周らないと折角の青春が台無しだよ?」
「余計なお世話だわ。早よ行ってこい」
小町はクラスの方に戻り、俺は1人になった。まぁ1人で周る事に特に何の感情も湧かないけど。
「あ、ヒッキー先輩。ちーっす」
どこに行くか決めておらず、適当に歩いていると不知火が現れた。なんか久しぶりに見たなこいつ。
「先輩今1人?」
「まぁな」
「じゃあちょっと駄弁ろうよ」
特に行先を決めたわけでもなく、俺と不知火は適当に歩きながら話す事になった。
「この間発売されたスプラ3買った?あれ超面白くてさ〜」
「初回と2に比べて売り上げが凄かったんだろ。流石スプラ」
「ヒッキー先輩は買ってないのー?」
「俺一応受験生な。買って遊んでる暇ねぇよ。受験して落ち着いたら買うと思うけど。なんなら新しく出るポケモンも買うまである」
「ポケモン好きなんだ〜。因みにどのシリーズが好きなの?」
ゲーム好き同士での会話は盛り上がった。不知火って、石上とも気が合いそうだよな。子安先輩がそれを許すかどうかは分からんけど。あの人若干ヤンデレ気質なとこあるからな。
「あ、私そろそろ学校抜けないと。これから収録あるんだー。じゃあねー、ヒッキー先輩」
フラッと現れたフラっと去って行った不知火。またもや1人になった俺は、廊下を歩いて行く。
「比企谷先輩っ!」
高らかに俺の名を呼んだのは、伊井野だった。と、両隣には大仏と小野寺も一緒に居た。
「おう。何やってんの?」
「学内の見回りっす。生徒会長直々にする必要は特に無いんすけど、こういう無礼講な時ほど普段よりやんちゃをする人が居るから取り締まらないとって言って。とはいえ、去年みたいに片っ端からしょっぴく真似はしてないようなんで」
「折角の文化祭ですから。羽目を外すのはよろしいんですけれど、外し過ぎるのも良くないので」
成長したよなぁ伊井野。なんだか大人になったみたいで、先輩泣きそう。まぁ病んでるとこは相変わらずなんだけども。
「もし良かったら、しばらくミコちゃんと一緒に見回りしてくれませんか?私達、そろそろクラスの方に行かなくちゃならないので…」
「…まぁ別に良いぞ。どうせやる事無いし」
「じゃ後は任せたっす」
残ったのは伊井野と俺。去年もそういえば一緒に周ったな。
「伊井野もどっかのタイミングでクラスに戻るんだろ?ならさっさと行くか」
「はいっ」
不知火に続いて、伊井野と周り始めた。どこに行くのか尋ねると、どうやらスイーツが食べたいらしい。まだ午前10時とかなのに、昼飯食えなくなるぞ。…と思ったそこの皆様、それはただの杞憂である。
この伊井野ミコは大食いが出来る。真面目で大食いキャラ。まるで中野五月である。そのうち、カレーは飲み物とか言いそうだ。それもう単なるデブキャラじゃん。
「比企谷先輩も食べますか?クレープ」
と、食いかけのクレープを差し出す伊井野。なんで食い掛けのやつを差し出すのこの子は。こいつの事だから意図して間接キス狙ってるとか無さそうだけど、そういうのは良くないよなぁ、良くねぇよ。
「お前が買ったんだろ。気にせず食べてな」
「そうですか」
と、もぐもぐしながら歩く伊井野。伊井野が食べてるとこがちょっと可愛いんだよな。小動物っぽいというか。肉食動物顔負けの中身してるのに。
「先輩は結局、どこの大学にするんですか?もうそろそろ受験でしょう?」
「第1志望は東京。第2が千葉。第1志望が受かったらそのままあのアパート使えるし、何より小町としばらく過ごせる」
うむ。最良の選択だ。俺の生活には小町が必須である。小町さえ居ればそれでいい。むしろ小町以外要らん。一家に1人という時代は終わりだ。1人につき1小町がこの世を平和にする術だと思うのだが、どうだろう。
「…先輩は東京の大学なんだ…」
だがいくら小町の事を考えていても、この騒がしい中だったとしても、彼女の言葉を聞き逃す俺ではない。こいつ確実に俺が受かった大学に来るつもりだ。確かに法学部もあるにはあるけど、伊井野の学力ならばもっと上の大学に行ける筈なのに。
「あんま他人に合わせて大学選ぶなよ。ずっとおてて繋いでなんてあり得ねぇんだから」
「それぐらい分かってます。受験の大切さを分からないほど愚かじゃありません。私は私の進むべき道を目指します」
「…なら良いんだけどよ」
どうにも不安が拭い切れない。おそらく法学部のある大学を選んで進学するのだろうが、伊井野にとって法学部を進むのが1番なのか、俺の居る大学に行くのが1番なのか分からない。
「その進むべき道が、私にとって最良の選択ですから」
「?おう」
そう言った彼女の表情が髪で隠れて見えなかった。今の言葉、何か含みがなかったか?気のせいか?
「あ、ハニトーやってますよ!食べに行きましょう!」
気のせいだったかな。クレープ食った直後にハニトーに目ぇキラッキラさせてる奴の言葉に含みもクソも無いかな。知らんけど。というか君のっけからよく食うね。胃袋にダイソンでも装備してんの?上杉くんなら太るぞって言うぞ。
結局、正午になるまで伊井野と食べ歩いたのであった。語弊があるようだから先に言うが、食べ歩いていたのは伊井野が、である。この倒置法大切よ。
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「あのハニトー罰ゲームかよ…」
パン丸出しだったぞあれ。もうちょいパン感消す努力しなかったのかよ。もう超パン。つうかあれ固かったし。中の方まで蜂蜜染みてないし。途中からモサモサ。まぁ、不味くはなかったけどさ。
食べ歩いて満足した伊井野は仕事だと言って離れた。そして俺はまた1人となった。
「八にぃっ」
「ん?…って圭か」
私服姿の圭がやって来ていた。どうやら1人で来ているようだ。
「藤原妹ならさっき見かけたぞ」
「萌葉とはまた明日周るから。それよりも、今日は八にぃと周りたいの」
と、上目遣いを駆使して頼む圭。圭も圭で、割とやべぇ裏を持っているが、こんな表情で見つめられて断れる勇気も意思も無い。即ち断れないに等しい。
「…俺は別に周りたい所は無いから、圭が行きたい場所に行きな」
「本当っ?じゃあ…」
伊井野の次は圭と周る事に。伊井野とは違い、最初から最後まで飲食店を周る事は無かった。
「さっきの凄かったね。教室内にジェットコースター作るなんて」
「子どもなら間違いなく喜ぶだろうな」
的当てやホラーハウスが作られるクラスは見た事あるが、ジェットコースターを作るクラスは見た事無かった。斬新、かつ興味を引き寄せる強い出し物だ。
「ジェットコースターもだけど、色んな石を展示するクラスもあったね。大きい石とか、赤い液体が付いた石とかお地蔵さんに似た石とか」
赤い液体って言うけど、あれなんか事件の匂いするだろ。誰かあれで人1人殺めただろ。後、お地蔵さんに似たって言うけどあれガチのお地蔵さんだろ。あれ持って来ちゃダメだろ。何考えてんだよ。
「それに、真ん中にヒビ入って要石っぽいのもあったし。あれ中からなんか変な音って言うか、鳴き声みたいなの聞こえなかった?」
「多分スルーした方が良いやつ。変に刺激したら108個の魂が集まってわけ分からん化け物出るから」
あれどこで拾ったんだよ。誰かシンオウ地方行って来たのん?きっとあの石の中から「おんみょ〜ん」って鳴きながら出てくるよ。
「あら、圭」
内心でツッコミまくっていると、俺達の前に四宮が現れた。1人で居る辺り、どうやら休憩時間なのだろう。
「かぐやさん!」
「今年の奉心祭も楽しんでいますか?」
「八にぃと一緒ですっごく楽しめました!」
圭が率直な感想を述べた瞬間、四宮から絶対零度の視線を向けられる。そういやこいつ白銀だけじゃなくて圭の事も好きだったんだっけ。大方、「私の圭に変な事していないでしょうね。もし彼女に手を出していたら、四宮家の令嬢として貴方を叩き潰します」とか込められてる。
既に何度か叩き潰されてるんだよなぁ俺。それで何度も生き返ってる辺り、俺の生命力ゴキブリじゃね?まさかのテラフォーマー?
「比企谷くんはそろそろ店番の時間でしたよね?」
「え?…ってマジか。全然見てなかった」
四宮の言う通り、数分も経てば店番の仕事の時間である。中でなんか作業するわけでも無いから、全然楽なんだけどね。
「じゃ俺はクラスに戻るわ」
「また後で行くからね、八にぃっ」
圭は四宮に任せて、俺はクラスに戻った。俺達のクラスの出し物は飲食店系統の店。俺が接客担当など不可能に等しく、また客からのクレームを入れられる事必須。料理だってそこまで得意ではない。簡単な物程度なら作れるが。
そんなわけで、消去法で店番担当となった。俺が仕事するだけで却って業績が悪化するとか何その疫病神。反逆のカリスマにでもなれるぞ。
「店番担当が何どんよりしてるんだよ」
気さくに話しかけて来たのは、同じ時間帯に同じ店番を請け負う事になった四条帝だ。そういえば、四条帝と2人で話す事なんて今まで無かったな。別に必要のある機会でもないけども。
「奉心祭初めてなんだけどさ、この学校って好きな人にハート型の何かを渡せば結ばれるジンクスがあるんだろ?去年の奉心祭じゃ御行が大々的に渡したって聞いたぜ」
怪盗を名乗り、全校生徒を巻き込んでまでやったあの出来事。正直ちょっとエモかった。あれがウルトラロマンティックという事なのだろうか。
「…まぁあれで結ばれるんなら、伝説の確率は高いんだろうな」
白銀は四宮に、石上は子安先輩にハートを渡した。結果として、この2組は現在ラブラブカッポーとして成立している。あの手の伝説はリア充が盛り上がる為に作った偽物だと思っていたのだが、案外馬鹿に出来なかった。
「比企谷は居ないのか?渡す相手」
「俺が渡す相手…」
「あれだけモテてるんだし、渡したい奴ぐらい居るだろ?」
あのハートが自分と相手を繋ぎ止める為の証であるなら、俺が渡したいと思う相手は。
「…まぁ、居ないわけではないけど」
「えっマジ?誰なんだよ!」
「うるせぇ…」
こういう反応されると余計に言いにくくなるのが、好きな相手が出来た人の心情である。この男に言ったからといって広められるおそれは無いのかも知れないが、それを言うのは四条帝じゃない。
優先順位として、最初に伝えたいのはあいつだから。あいつから先に伝えなければならないのだ。
比企谷八幡の、答えを。
明日の夜20時に投稿します。過去一長い文字数を誇る1話になると思います。