やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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 これにて原作ルート最終話です。今まで長きに渡る"やはりこの生徒会はまちがっている。"を読んでくださり、ありがとうございます。もう最終話なのかと感慨深くなってしまう傍ら、この物語を締める事が出来る達成感もあります。

 番外編はやっていきますが、ひとまず原作ルートは今回の1話で終わりとさせていただきます。

 では最終話、どうぞご覧あれ。




比企谷八幡の最終回 後編

 

 秀知院学園文化祭、通称"奉心祭"最終日。ついに高校生活最後の文化祭となった。去年の白銀みたく、全校生徒を巻き込んでの事件は無い。むしろ恙無く進んでいる。

 

「人がゴミみてぇだな」

 

 恙無く進む中、物騒な事を仰りながら屋上に黄色の寝袋を敷いてゲームしている龍珠桃。今のところ、この文化祭でゴミみたいな事してるのお前だけどな。…なんて言ったらフルボッコ確定だから言わない。

 

「そういえば去年もこうしてお前と駄弁ったっけか。また居場所が無いのか?」

 

「俺に居場所が無い前提で話すのやめようね。確かに無いけどそうストレートに言われると八幡傷付くから」

 

「こんなんで傷付くほどのヤワなメンタルしてねぇだろ。似非豆腐メンタルが」

 

 龍珠とのこの変わらないやり取り。まぁ普通に考えてこのやり取り要審議なんだけど。これ変わらないとか俺どんだけM体質なんだって思われちゃう。

 

「今年は去年に比べて増員数が凄いらしいぞ。去年のキャンプファイヤーがバズったらしいしよ」

 

 確かにアレは印象に残る出来事だった。久方ぶりのキャンプファイヤーだけでも生徒達の思い出に残るが、白銀の今世紀最大の告白がそのキャンプファイヤーを盛り上げるトリガーとなった。そりゃバズってもおかしくない。

 

「ただでさえ奉心祭には恋愛成就の伝説がある。東京の学祭でトップを争うレベルっつっても不思議じゃないわな」

 

「意外だな。お前そういうの信じるタイプなのか」

 

「事実そうなった連中を知ってるからな」

 

 白銀は四宮と、そして石上は子安先輩と付き合う事が出来た。その根底にあるのは、奉心祭でのハートの贈り物。石上に関しては奉心祭が直接関係しているかは知らないが、結果的に伝説の通りとなっている。

 

「どいつもこいつも青春してやがる。バカみたいに騒いで、笑って」

 

「伝説があるから尚の事な」

 

 奉心祭最終日午前。朝早くから祭りが盛り上がっている最中、俺と龍珠は屋上にて静かに過ごしていた。文化祭でも変わらず静かに過ごすのが俺の、俺達のスタンスと言えるのかも知れない。

 

 それからしばらくの時間が経ち。

 

「…そろそろクラス戻るわ」

 

「もう戻んのか?」

 

「店番あるからな。ほったらかしにしたらリンチされる」

 

「そもそも戻ってもお前の存在なんざ気付かねぇだろ」

 

「俺の存在感の無さを直球に言うな」

 

 ゆっくりと腰を上げ、尻に付着した汚れを手で払う。そして屋上の扉に手を掛けようとした瞬間、龍珠から名前を呼ばれる。

 

「比企谷」

 

「…なんだ?」

 

「…私はお前が居てくれたから、今の自分を肯定出来た。龍珠桃という人間を嫌いにならずに済んだ」

 

「なんだ急に。いや本当に」

 

 振り返ると、龍珠は穏やかな笑みを見せた。今まで話した中で、あのような表情を見たのは初めてである。龍珠は寝袋から出て革靴を履き、こちらに歩み寄る。

 

「比企谷。私はお前を…」

 

 そして互いの距離が縮まると、龍珠は俺の額に人差し指と中指の指先を当ててこう言った。

 

「愛してる」

 

 そう言って、人差し指と中指で俺の額を軽く弾いた。言われた俺の頬は熱くなり、鏡を見ずとも赤面してる事は明らかである。が、言った本人である龍珠も乙女のような表情ではにかむ。

 

「お前が誰を選んでも、ずっとな。…まぁ選ばれた人間に殺意を向けるとは思うがな

 

「最後の1番怖ぇよ」

 

「当たり前だ。素直に祝福なんざ出来るかボゲが」

 

「…まぁ、分からんでも無いけど」

 

 俺は龍珠と別れ、クラスに戻る。昨日に引き続き、今日も四条と店番である。ただし、今度は姉の方である。

 

「遅いわよ。私1人で店番をさせるなんて不調法者ね」

 

「アレがアレでアレだったんだ」

 

「アレアレうるさい」

 

 すいません。

 

「さっきかぐやが歩きスマホしながらニヤニヤしてたのよ。華麗に人をかわしながら」

 

 凄ぇなあいつ。歩きスマホって人とか何かにぶつかる可能性大なのに。ていうかなんで歩きスマホ?ポケモンGO?それは校長だけで十分よ。

 

「それに喋りながらだったし。ビデオ通話かしらね」

 

「ビデオ通話……あぁ、白銀か」

 

「御行?…なるほど、そういう事ね」

 

 白銀の名前を出した途端すぐに理解した四条。

 四宮のように軽々しく日本に来る事は出来ない。白銀にも白銀の時間があるし、今あいつが何してるかなんて知らん。しかし電話に出るぐらいならかろうじて可能なんだろう。夜中にビデオ通話しても律儀に出てくるぐらいだし。

 

「遠くに居ても変わらないわね、あの2人」

 

「遠距離恋愛なんつう別れる確率が高い繋がりでも、あいつらを見るといつまでも続くんじゃないかって思う。気持ち悪いぐらいラブラブしてやがるからな」

 

「かぐやと御行だけじゃないけどね、ラブラブしてるのは。ほらあそことか」

 

 四条が指差した先には、柏木さん&翼くんカップルである。人混みが多いせいか、柏木さんを労ってる翼くんの姿が窺える。何故なら柏木さんは妊娠しているからである。

 その事実を聞いた四条の顔面は、「ばなな」って発言しそうな頭の悪い人そのものであり、作画崩壊もいいところである。

 

「…現実でドラマみたいな事起きるんだなって恐ろしく思ったわ」

 

「現実でハーレム築いてるあんたがそれ言う?」

 

 ちょっと?そういう事を言わんでくれませんかね。俺別に作ろうと思って作ったわけじゃないのよ。むしろガンガン来てるのそっちだからね?しかも半分以上が病んでるし。ある意味終末のハーレムだろ。

 

「でも、そろそろあんたも腹を決めなきゃダメよ。有耶無耶にするようなら、あんたの人権は一切無い人生を送らせてあげるから」

 

「怖い怖いよ。早坂といいなんで人権とか意見とか諸々ガン無視した言葉が二酸化炭素みたいに出てくんの?」

 

「当たり前じゃない。乙女の心を蔑ろにした罰は取らなきゃいけないでしょ?」

 

「俺の人権を蔑ろにしてる件について」

 

「あんたの人権と乙女の心は同価値じゃないの」

 

 ぐうの音も出ないわクソが。いやまぁ元から俺に人権なんてあって無いようなものだからこの際ガン無視されても良いんだけどさ。いや良くないけどね?

 ガン無視された結果の果てが単なる肉塊とかになったらマジでヤベェから。

 

「大丈夫よ。地獄に落ちるのはあんただけだけれど、地獄に居るのはあんただけじゃない。地獄に落ちた者を審判して、監視する者が居るでしょう?」

 

 天国行きは無いんですかそうですかそうですね無いんですね。

 

「死ぬ事は多分無いから安心なさい」

 

「多分を強調したら余計に怖いんだけど。安心出来る要素今消えたよ?」

 

 四宮とは別のベクトルで怖いよこの人。やっぱり似た者同士って事なのかね。要らんとこばっか似てる気するけど。

 

 四条と店番をしつつ雑談を交わし続け、そして交代の時間になった。次の店番の人と交代し、俺は固まった身体をほぐす為に背伸びをする。

 

「あんたはこれからどうするの?」

 

「俺は…」

 

 もう午後の3時を過ぎている。数時間もすれば奉心祭は終わる。別に奉心祭でなくても、彼女に伝える時期はまだ先に延ばせる。今絶対言わなきゃならない時でも無い。

 

 …いや。もし先延ばしにしてしまえば、今みたいな思考に陥るに違いない。もし卒業式の時にも同じ思考になって先延ばしにしたら。そしたら彼女達からの裁きが降るだろう。それは怖い。怖いし、前提として彼女達の心を蔑ろにする事になる。

 

「…俺は行きたい所がある。四条はこれからあのカップル達と周るんだろ?」

 

「まぁ渚に頼まれちゃあね…。それじゃまた後でね」

 

「おう。また」

 

 俺と四条は別れ、互いに反対方向へと歩き出した。

 彼女の好意や言葉が嘘でなければ、断る事はおそらくない。でも俺は、あいつに何1つ伝えちゃいない。何も返していない。

 

 だから伝えなければならない。これが俺の意思だから。

 

 そうして周り続けた時間がいつの間にか1時間を超えて、自動販売機で喉を潤そうと思ったその時。

 

「3年生が今体育館でライブやってるんだって!」

 

「センターの人めっちゃ綺麗らしいよ!」

 

「観に行こ観に行こ!」

 

 通りがかる女子生徒達の会話が聞こえた。そういえば、あいつ確か最終日にライブ出るとかなんとか言っていた気がする。

 

「…行くか」

 

 俺は自動販売機で缶コーヒーを購入し、件のライブが行われている体育館にやって来た。中に居る客数は凄まじいもので、ペンライトを持っている者もチラホラと。

 

「…あいつやっぱスペック高ぇな」

 

 センターでインカム付けながら踊り歌っているのは、早坂愛。女優顔負けの姿に、俺は思わず見入ってしまう。

 

『これはフィクションじゃない!夢じゃない!

 

 ワタシだけの世界 無敵のヒロイン

 

 キミのズルい台詞と このストーリー

 

 鍵をかけて

 

 アクションなんて起こせない!

 

 未だ見習い でも無敵のヒロイン

 

 Sunday 準備は万全

 

 君に見せたくて 春色リップ』

 

 …普通に商売として売り出したらマジで売れそう。そう思わせるほどの美声。そして皆を引き寄せる彼女の優れた容姿。

 

 普通にファンになりそうで怖い。

 

 ペンライト持って一緒に踊ってそう。そんでグッズとかなんか買って部屋に飾ってたら「うわお兄ちゃんプリキュアの次にドルオタになってる」って若干ゴミを見る目で小町に見下される未来が容易に想像出来ちゃう。

 

『みんなありがとーっ!!奉心祭も残りわずかだけど、最後の最後まで一緒に盛り上がってこー!いえーい!』

 

 早坂の言葉に呼応するように、観客も皆「いえーい」と叫ぶ。演技もそうだが、女優が天職だったりしない?バチバチに売れるぞあれ。

 そろそろライブも終わりそうなので、体育館の出口が混む前に一足先に出る事にした。

 

「凄かったですね、彼女。ライブは大盛り上がりでしたよ」

 

 いつの間にか隣に居てそう呟いたのは、四宮であった。ナチュラルに気配を気取られずに近づいた事を一旦スルーし、返事をする。

 

「そうだな」

 

『女優の才能でもあるのだろうな。思わず魅入られてしまったよ』

 

 機械音声で聞こえたその声の主は、四宮のスマホの画面から映される白銀であった。

 

「その発言に対して後でお話がありますが、確かにあの場に居た観客は皆、彼女に注目していました。…自慢の友人ですよ」

 

 四宮は嬉しそう微笑む。

 

「…友人の舞台が見れて良かったな」

 

 俺はそれだけ言って、その場から去ろうとする。

 

『待て、比企谷』

 

 しかし、白銀が待ったを掛ける。俺は振り返り、四宮のスマホの画面に視線を向ける。

 

『今のお前に一言送ろう。…伝えるべき事は、全て伝えろ』

 

「なんだ急に」

 

『俺はかぐやに伝え、石上は子安先輩に伝えた。次はお前の番だろう?伝え残す、あるいは伝えなければ後悔してしまうからな。奉心祭でもクリスマスでも卒業式でも良い。…言葉に表して、ちゃんと告っ(つたえ)てやれ』

 

「…分かってる」

 

 言ったから分かるってのは傲慢だと思ってた。言った人間の自己満足、言われた奴の思い上がり。色々話し合って、それで理解が出来るわけでも無ければ、納得が出来るわけでも無い。伝わるわけでも無い。ずっとそう思ってた。

 それでも、言葉にして伝えなければ理解も納得もクソも無い。ただ何も起きないだけ。言わなくても伝わるなんてのは幻想でしかないのだ。意思疎通なんてコミュニケーションに確実性は無い。

 

 だから、比企谷八幡の答えを口に出さなければならない。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 奉心祭の全てのプログラムが終了。そして残るのは、キャンプファイヤーでの後夜祭。生徒達は薪に付けられた火を囲んで騒いでいる。

 

 そんな中。

 俺と、そして早坂は、屋上にて上からその模様をお届けしていた。彼ら彼女らがどれだけ楽しんでいるかなんてのは見なくても分かる。去年の怪盗アルセーヌの大々的なイベントに比べれば見劣りするだろうが、それでも夜空の暗さに負けぬように激しく燃えて輝く炎は、素晴らしいの一言に尽きる。

 

「…綺麗だね、八幡」

 

 どうして俺達2人が屋上に居るのか。

 

 ライブが終えた後、俺は廊下を歩いていると早坂と遭遇した。どの道、後から呼び出すつもりもあった為、そのまま奉心祭が終わるまで周った。

 その後キャンプファイヤーの準備の時間に入ると、早坂は至近距離では無く、屋上から遠目で見ようと提案した。早坂曰く、「近くからよりも遠くで2人で見る方が私は良いな」と。

 

 その結果、いつぞやの白銀と四宮みたいな状況下になったのである。

 

「…そうだな」

 

 あの炎も永遠に続くわけじゃない。徐々に弱くなり、そしていつか消えてしまう。人間関係と同じように、冷めて消えてしまう。

 彼女の事だから、そんな簡単に関係を断とうとはしない。油を注ぎまくって燃え上がらせようとするだろう。そうしてまで、彼女は俺と関わろうとするだろう。彼女の時間を歪めさせた。

 でもこれは彼女だけじゃなく、残る5人も言える事。だからこの歪めた時間の対価を払うのは前提条件。

 

 だからその上で、俺が対価として払わなければならないものは。

 

「…早坂」

 

「うん?どうしたの?」

 

 俺はポケットからとある物を取り出し、差し出した。それは、ハート型のキーホルダーである。四条と別れた後、個人的に購入した物だ。これを差し出された早坂は、目を見開いていた。

 

「これって…」

 

「俺の気持ち…なんて、これじゃ足りないと思うけどな」

 

「え、ちょっと、な、なんで…?いや、私から好きって言っておきながらだけど、なんで…?」

 

 突然ハートを渡された早坂は戸惑いの様子を見せる。

 

「…こういう事言うの凄ぇ恥ずかしいし今すぐ死にたくなる気分なんだけど。ハートを渡すだけじゃ全然足りないと思った。……お前が俺の隣に居る事を望んでいるように、俺もそうありたいと望んだ。義務じゃなく、意思の問題だ。……俺にお前の時間を歪める権利をくれ」

 

 途中で何度も閉ざしかけた口を閉ざす事なく、そして間違えぬようにゆっくりと、言葉を連ねた。

 

「…歪めるって何…?」

 

「多分、俺もお前も普通に進学して、嫌々でも就職してそれなりに真っ当に生きると思う。でも関わり合うと、なんか遠回りしたり足踏みしたり、色々するだろ。だから、人生がちょっと歪む」

 

「…その理論じゃ、私なんて八幡を思いっきり歪ませてると思うよ」

 

「そうだな。俺はお前と出会って、色々歪められた。その対価として、俺はお前の時間を……いや」

 

 そこで1度閉じて止め、そして再び開いて答えを出す。

 

「お前の人生を歪める権利が欲しい」

 

 俺の言葉に早坂は再び目を見開き、そして頬を赤く染める。

 

「その代わり、俺の人生を歪める権利をやる。…人の人生に関わる以上、こっちも賭けなければフェアじゃない。今までみたいに時間なんてそんな矮小なものを渡しても釣り合わない。財産に至ってはほぼゼロだし。だから最低でも渡せるのは感情とか…それ以上渡せるものがあるなら俺の人生とかだ」

 

 長々と伝える俺の気持ち。そしてこれが、俺が伝える最後の言葉。

 

「諸々全部やるから、お前の全部も俺にくれ」

 

 早坂だけじゃない。白銀にも四宮にも、藤原にも石上にも伊井野にも、秀知院で関わって来た人間全員に俺の人生は歪められた。だから歪める歪められるなんて言葉だけならば、早坂じゃなくても良くなるのだ。

 

 それでも早坂にこうして伝えたのは、今までの早坂の姿が俺にとっての理想だと思ったから。自分が汚れても、裏切っても、主人である四宮の為に己の身を削ったその姿。苦悩を抱え、葛藤に苦しんで、それでも足掻いて尚、早坂愛はその足で、毅然と立っていたその姿に、俺は無意識のうちに憧れを向けていたのかも知れない。

 

 もしかしたらその憧れが、俺の恋だったのだろう。

 

 でもそれを伝える事なんて出来ない。憧れからの恋、だから好きになった。そんな程度で済ませたくない。伝えると決めた以上、語彙力が無くなるレベルの言葉を伝える。

 

 それが俺、比企谷八幡が決めた事だから。

 

「…それって、もうプロポーズだよ。付き合う付き合わないとか言うレベルじゃないよ」

 

 早坂は両手でスカートの裾を握り締めながら、顔を俯かせてそう言う。

 

「かもな。今世紀最大の言葉だと自負するレベル」

 

「…知ってる通り、私は嫉妬深いし面倒くさいし重たい女だよ?八幡が誰かと一緒に居るだけで、話すだけで…もっと言えば目を合わすだけでも私は嫌だ。殺意湧く。それから…」

 

「良いよ」

 

 徐々に早口になっていく早坂の言葉を、一言で遮る。

 

「お前が嫉妬深かろうが面倒くさかろうが重たかろうがなんだろうが、全然良い。俺は嫌じゃない。むしろ八幡的にポイント高い」

 

「…ちょっとぐらい否定しても良いでしょ。重たくて面倒って言われて嬉しい女子が居ると思う?」

 

 早坂は顔を俯かせたまま俺の胸元に近寄り、そして両手で学ランを弱々しく握る。

 

「自分から言い出したんだろうがよ。ていうか、先に言うけど本当に殺しちゃダメだからね?毎日刑務所に行って面会する羽目になるから。なんならそのまま俺までよく分からんありもしない罪で逮捕されちゃうから」

 

「…じゃあそのまま私と一緒に牢屋で生活だね」

 

「場所がやだなあ…」

 

 人殺す前提で話してるけど、本当にダメだからね?正当防衛とは言え、君一応未遂があるから。首元にナイフ当ててた事、俺普通に覚えてるから。俺OKなんて出さないからね?

 

「…八幡」

 

「ん?」

 

「もうちょっと。…伝える事があるでしょ?」

 

「…そうだな」

 

 早坂が求めている言葉とは違うかも知れない。でも、俺が伝えられる最大の言葉は、これしかない。

 

「さっきも言ったけど、俺の人生なんてうまい棒より安い底値程度だ。お前の人生を歪める権利に見合うわけも無いし、全部を貰う対価にすらなって無いかも知れない。けどアレだ。全部やる。要らなかったら捨ててくれ。早坂が面倒だと思ったら俺の事なんて忘れてくれて良い。返事だってしなくて良い」

 

「…結局変わんないじゃん」

 

 むすっと拗ねた声色だが、その感情とは反対に先程よりも更に俺に身体を預けてきた。彼女の重さで転倒しないように、足を踏み締め、そして彼女の両肩を持って支える。

 

「私は、しっかり言葉にするから。だから黙って聞いて」

 

「…おう」

 

 早坂の答えが出るまで、俺は待つ事にした。そして、早坂が開いた口から出たその言葉は。

 

「君の人生、私にちょうだい」

 

 端的にそう伝えた。言葉の額面としては俺のと対して変わりない筈なのに、内容としては違うものだと感じた。

 

「私は君が好き。私を見つけて、私を助けてくれた。本当の早坂愛を肯定してくれた。だから好き。君のその濁った瞳も。どこかの声優さんのような低い声も。どうやって自然の摂理に逆らってるのか分からないアホ毛も。どうしようもなく捻くれてるところも。時折優しくしてくれるところも。好きな物に対してうんちくを並べるところも。ちょっと近づくだけで顔を赤くする初心なところも。全部。比企谷八幡の全部が好き。大好き。一瞬たりとも離れたくない。死んで輪廻転生しても、また来世で君と繋がりたい」

 

 早坂の言葉が続いていくと同時に、学ランを掴む力が徐々に強まる。そして一頻り言葉を言い終えたと思いきや、俯かせていた早坂の顔がゆっくりと上に向かって上がってくる。

 

「愛してる。世界で1番、君の事を」

 

 すると彼女は掴んでいた学ランを離すと、今度は俺の頬を両手で固定して、自身の顔に近づける。そして俺の唇と彼女の唇が。

 

「んっ…」

 

 直に触れ合った。その触れ合った唇は、少し湿っていて、それでいて熱い。ほんの1、2秒しか触れ合っていないのに、とても長く感じたキス。彼女の想いは、触れた唇から確かな熱と共に伝わった。

 

「…これで、2回目だよ」

 

 そうはにかむ早坂。…ってちょっと待って?

 

「2回目?俺いつ早坂と、き、キスなんかしたの?」

 

「大阪行った時。八幡寝てたからやっちゃった。あれが互いにファーストキスだよ」

 

「え、お前俺寝てる間に奪ってたの?嘘だろ?」

 

 知らん間に奪われてたとか何それ。俺てっきりファーストキスがあのフランス校の人かと思ったんだけど。

 

「今、あのフランス校の女思い出したよね。ダメだよ。あの女とのキスなんて思い出さないで」

 

 目敏い早坂。エスパーかよ。

 

 超能力者早坂は、件のフランス校の女子を思い出した事が気に食わなく感じて、俺を突き飛ばした。いきなりの事だったので、勢いよく尻餅を付いてしまう。立ち上がる事の出来ないように、早坂は俺と向かい合う形で太腿辺りに跨り、そして両腕を俺の頸に回した。

 

 彼女の熱や鼓動、諸々全てが俺の身体に伝わる。

 

「私の人生は八幡のモノ。でも八幡の人生は私のモノ。歪める権利は私だけにある」

 

「早速大きく歪めさせるつもりなのお前…」

 

「ふふ。そのうち、もっと大きく歪めさせてあげる。私が君の姓を名乗る日も、君との子が出来る日も。そんな遠くない未来の話だから」

 

「えぇ……」

 

 早坂の瞳は潤んでいる上、光が一切映されていない。そして依然赤いままの頬に、徐々に距離が縮まる彼女の顔。

 

「まだキャンプファイヤーが終わるまで時間がある。ううん、終わった後は私の家に行こ?今日は泊まって行ってね」

 

「ち、ちょっと?」

 

「泊まったら何しよっか。とりあえず一緒に寝るのは確定だけど、私の部屋にゲームとかそういう娯楽系統の物無いから。でも八幡が居ればそれだけで良いや」

 

「おーい」

 

「これからは学校でもずっと一緒だよ。登下校も、休み時間も。1日2回以上は必ずキスしたいし、ハグもしたい。卒業したら私の家で同棲決定ね。でも妹ちゃんの事もあるから時々帰って良いよ」

 

「もしもーし」

 

「大学は私も八幡と一緒の所に行く。他の女に目を付けさせるわけにはいかないから。空いた時間にキスしたり、ハグしたり。休みの日にはデートもしよ。プランは私が練るから任せて」

 

「へいへーい」

 

「今はキスで我慢するけど、後々はキス以上の事もしたい。私の身体の中に八幡の証を刻みたい。子どもも欲しい。私と八幡の子どもだから、多分面倒くさい子になりそうだけど、きっと可愛くて優しいとこもあると思う。名前はどんなのにしよっか」

 

「早坂さーん?」

 

 勢い凄いんですが。もう先々の事まで決めていらっしゃる。これ多分即興で思い付いたとかじゃないよな。前々からちょっと考えてたよなこれ。

 

「愛って呼んで?」

 

 早坂呼びが嫌だったのか、早坂は名前呼びを強要…もとい、お願いしてくる。このままではいつまでも状況が変わらないとヒッキーのセンサーが反応した為、諦めて彼女の名前を呼んだ。

 

「あ、愛……」

 

「ふふふ、照れてる。可愛いなぁ。こんな姿見る事が出来るのも私の特権なんだ。とっても幸せ」

 

 なんだか悦に入ってる。これアレですね。ちょっと発情してますね。

 

「八幡の両腕が暇してる。ねぇ、抱きしめ返して?」

 

「お、おう…」

 

 俺はゆっくり彼女の腰に両手を回して、こちらに類寄せるように両腕に力を入れる。

 

「ん……八幡の熱が伝わる。今まで以上に、八幡と繋がってる。これマジでやっばい。理性が抑え切れない」

 

「え、ちょっと流石に屋外でそれは遠慮したい」

 

「だったら抑えて?私の口、空いてるよ。八幡が抑えてくれたら、多少マシになるかも」

 

 彼女は揶揄いながら誘惑。そして俺からするように仕向ける為に、目を閉じて少し顎を上げる。

 

「…い、いくぞ」

 

 ゆっくりと、彼女の顔に近づいていく。そして今度は、自身の唇を早坂……もとい、愛の唇に重ねた。すると、俺の口内に愛の舌がいきなり侵入し始めた。フランス校の時と、いやそれ以上の濃厚なキス。

 互いの舌が絡み合って、熱い唾液も混じり合う、最早オーラルセックスと言っても過言ではない行為を始めてしまった。

 

「んっ…あむ……んむ……れろっ…」

 

 先程の優しく触れ合うキスよりも、強く、深く、彼女と繋がっている。彼女に呼応するように、いつぞやサクランボの茎で見せたキステクを披露する。

 まさか俺からすると思わなかった愛は閉じていた目を開いて、徐々に舌の動きが鈍くなる。そして、俺に全てを委ねるように完全停止した。

 

 これは俺人の事言えないな。理性がちょっとやばい。流石に付き合ってすぐに手ぇ出すとかクズ過ぎる。というか告白してからすぐにこのキスもおかしな話。ウルトラロマンティックも何も無い。ただの男女の爛れた時間じゃんこれ。

 

 一呼吸置く為に、一旦彼女の唇から離れる。離れた途端、自身と彼女を繋ぐ透明な架け橋が見えてしまう。

 何秒、何分繋がっていたかは分からない。ほんの1、2分とかかも知れないし、数十秒なのかも知れない。それでも俺と愛が繋がったこの時間は、とても長く感じた。

 

「はち…まん…」

 

 目はとろんとしており、先程と打って変わって呂律が回っていない様子の愛。かくいう俺の表情もどうなってるか。鏡で見たら多分人生最大の変態顔になっているかも知れん。このまま街に出たら間違いなくお巡りさんに声を掛けられる。

 

 ていうかキスってこんな疲れるのね。呼吸なんてしにくくて仕方が無い。けどちょっと良かったです、うん。何が良かったかって言ったらなんか生々しくなるから伏せるけど、なんか良かったです。

 

「八幡……もう1回…もう1回したい…」

 

「待って待って。お前四宮に神経疑うとか言っておきながらまだするつもりかよ」

 

「そんなの知らない…。それより、もう1回キスしたい…」

 

「いやせめて休憩挟んで?俺喉からっからだから」

 

 今世紀最大の告白とすんごいキスが怒涛の勢いで続いたんだ。俺の喉は砂漠地帯で彷徨う旅人と同じ状況下にある。誰か氷結晶とにが虫持ってない?今ここで調合するから。

 

「嫌……んむっ」

 

 そんな余裕を許す愛では無かった。再び唇を重ね合わせ、そしてもう当たり前のように舌も入れた。これはアレですね。もう断れないやつですね。

 いやだって可愛いし。めっちゃ甘え出したから。死ぬほど面倒くさいし重たいけど、そこが可愛いから良いんだ。可愛いから許す。もういっその事全部可愛い。

 

 愛が満足するまで俺達は交わり合った。勿論、身体では無いよ?それは流石に早すぎる。スピード出世で良い感じとかじゃないのよ。

 どれほどの時間が経ったのかは分からないが、愛は満足して、俺の胸元に身体を預ける。互いに肩で息をするほどの疲労感に襲われてしまい、少しの間は下で騒いでいる学生達の声をBGMに休憩する。

 

「…こんなに愛してくれるなんて、もう幸せ。言葉で表せないくらい」

 

「そうかい。…でも、これからが大変なんだよな…」

 

 愛と付き合ったとなれば、報告するにしろしないにしろ、あいつらが黙ってるわけが無い。特に伊井野とか圭とか龍珠とか四条とか。藤原はどういう反応するのかは分からないが、少なくとも彼女達5人とは今まで通りの関わりは難しいだろう。

 

「…私が言うよ。彼女達に報告する義務は、私にあるから」

 

「なら俺も一緒に行く。あいつらをあそこまで依存させたのは、俺に非がある。責任取らなきゃならない」

 

「八幡らしいや。…明日、みんな集めて話そうか」

 

「そうだな…」

 

 一体どんな反応するのか分からない。もしかしたら俺がボッコボコにされるかも知れない。彼女達は泣き喚いてしまうかも知れない。それでも、俺が決着を着けなければ意味が無いし、何より彼女達に失礼極まりない。

 

「…ちゃんと、伝えないとな」

 

 …ここで画面の前の君達に伝えたい事がある。俺が今まで、彼ら彼女らと過ごして来て分かった事である。是非とも聞いていただきたい。

 

 青春とは嘘であり、悪である。

 

 青春を謳歌せし者達は、常に自己と周囲を欺く。自らを取り巻く環境の全てを肯定的に捉える。何か致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。

 

 結論を言おう。

 

 やはり俺の青春ラブコメは間違っている。

 

 




 これにて原作ルートは終了になります。前書きでも述べていましたが改めて。
 長期に渡るご愛読、本当にありがとうございました。告白に至っては賛否両論あるかも知れませんが、八幡の締め方はこれじゃないかなって思ったので、僕は満足しています。

 番外編では早坂愛とのその後の話、そして四条眞妃、伊井野ミコ、白銀圭、龍珠桃、藤原千花のルートを作成します。そして八幡が選択しなかった場合の、ハーレムバッドエンドも作成します。
 もしその上で余裕があれば、ちょいちょい絡んだ不知火ころもやフランス校のあの子とか、もしかしたら藤原姉妹のルートも作るかも知れません。

 残る5人のヒロインのルートに関しては、おそらく告白した後の話となる可能性があるかも知れませんので、そうなった場合はご了承ください。不知火ころもとかその辺に関しては、俺ガイルのゲームで言うとこの折本とかめぐり先輩的な感じになると思います。…多分ね。

 とにかく、原作ルートはこれで終了です。次は番外編か、あるいは別作品か。またどこかでお会いしましょう。

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