諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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うまぴょいから逃げられなかったよ......

とりあえずアニメ1期と2期をおさらいしてたらかけました。
本当はタキオン怪文書の予定でしたが別物になってました、不思議ですね。


第1章 一番星に集うもの『チーム スピカ』
プロローグ 夢のゲートをもう一度


 

 

 

 

 

「さて」

 

昔の癖で、つま先で2、3度地面にカンカンと地面を叩く。

あの頃のように甲高い音は帰ってこない。聞こえるのは、鈍いスニーカー特有のゴム底の音だけだ。

 

「なーんにも変わってないなあ」

 

煉瓦造りの青屋根の校舎。

三女神像を模った噴水。

綺麗に生えそろった芝生。

生徒たちが行き交う石畳の道。

 

私がこの学園を去ってから、何も変わっていない。

 

「おはようございまーす」

 

 たったかと駆けていく制服姿の生徒達も、

 

「おはようございます!」

 

ランニングに勤しむジャージ姿の生徒たちも。

私がここにいた時となんら変わりはないのだ。

 

「いや、むしろ変わったのは私か」

 

私が着ている服は白と淡い紫を基調にしたセーラーでもなく、中央トレセン学園指定の赤と白の練習着でもない。

そこらの量販店で買える、黒の無地のランニングウエアの上下だ。本来ならスーツあたりでバシッと正装するべきだったのだろうが、

 

「いくら気が立ってたからと言って普段使いのジャージを着てくるかね、私」

「変わらないな、君は。いつも物事をはやり過ぎる」

 

もう一つ変わらないものがあった。

礼儀折り目正しく、目の前で出迎えてくれる生徒会長だ。

 

「げえーっ!? ルドルフ!」

「そんなに驚くことはないだろう。幽霊じゃないんだ、私は」

「今日は入学式だろう? こんな所に居ていいのかい?」

「問題ない。エアグルーヴに任せてきた」

「あのねえ」

 

 やれやれ、と肩をすくめる女帝の姿がありありと目に浮かぶようだ。折目正しい生徒会長とは言えども、こうたまに無茶苦茶な迷惑をかけるところはいかがなものか。

 彼女はいつものマジメ腐った顔を崩して、少し笑った。

 

「君のことだから、随分と先に来ていると思ったんだ。昔から気が早かったじゃないか」

「そんな昔のことよく覚えてる。入学式の時のことじゃないか」

「つい最近のように思い出せるよ。それほどまでに、君達と鎬を削ったあの頃は鮮烈だった」

「よく言う。先頭はずっと譲ってくれなかった癖に」

「今も軽々に譲るつもりはないさ。何故ここに?」

「可愛い後輩たちが心配でね。それに、世話になったトレーナーが数年前にチームを立ち上げたって言うから先輩風を吹かせてやろうとね」

「『チーム・スピカ』だったか」

「どお、みんな元気してる? 会長なら知ってるでしょう?」

「......」

「なんだよ、突然黙り込むなよ」

 

 昔のように肘で脇腹をつつく。いつもだったら小寒いジョークも交えて返してくれる所だが、今日だけは違った。歩き始めていた足を止めて、こちらに向き直る。その顔はいつものように笑ってくれもせず、真面目な顔でもない。

 まるで大怪我でも伝える医者のような、そんな顔だ。

 

「チーム結成の規則は、知っているな?」

「トレーナー1人以上にウマ娘が5人以上だっけ」

「ああそうだ。これはトレセン学園が設立されてから変わらない掟の一つでもある。切磋琢磨すること、仲間と友情を育むこと、どちらも大切なことだ」

「私は周りくどいことは嫌いなんだ、本題を頼むよ」

「では、単刀直入に言おう」

 

 

「このままでは、『チーム・スピカ』は解散する」

 

 

その言葉を飲み込むのに、少し時間がかかった。

 

「はい?」

「このままではスピカは解散する。具体的にはあと2週間だ」

「ちょちょちょ、待ってくれ! 私のトレーナーが作ったチームなんだ、実績は申し分ない!

たしかにあのトレーナーは初対面のウマ娘のトモを触るような変態。まさか、トレーナーが更迭されたとか」

「トレセン学園の校風は『自由』。多少の事には目を瞑る」

「じゃあなにが原因さ」

「所属ウマ娘が1人だけだからだ。卒業式を前に、何人ものウマ娘がチーム脱退届けを提出している。

 学園側からも、今季の選抜レースで十分な人数をスカウトしなかったないしできなかったのならチームは解散させると通達した」

「うちのトレーナーがそんなに捕まえられるわけないじゃないか!」

 

 彼はメイクデビュー戦の成績如何ではなくそのウマ娘のポテンシャルを、可能性を見る。資質がなければ世代エースと謳われるウマ娘も見向きせず、無名で負けばかりのウマ娘に目をつけ、スカウトをかける。

 

デビュー前、騒がれもしなかった私を見初めた。

それを置いて彼は語れない。

彼は常々言う。

 

『お前達に、夢はあるか』と。

 

彼はウマ娘に夢を見て、夢を託す。

逆説的に言えば、夢を見られないウマ娘に興味はない。

 

だからこそ一流とは言い難い。

 

彼は『一流しか育てられない』。

彼に『才能のないウマ娘』は育てられない。

 

 彼の目に叶うウマ娘は年に1人か2人というところだろう。才能を見抜いたとしても、チームに入ってくれるかどうかは別問題だ。

 

「そんな......そんな......」

 

彼を説得して無理矢理チームに何人かを入れる?

 

ダメ。同じ事の繰り返しだ。

 何人もの脱退者をすぐに出すようではトレーナーの経歴に傷がつく。成績が残せないウマ娘もトレーナーと衝突を繰り返すようになればチームの雰囲気は最悪だ。多少の延命措置にはなれど、チームが空中分解して誰も幸せにはなれない。

 

他のチームと合併する?

 

 ダメ。彼の指導が他のチームと噛み合うはずもない。現役時代に自分の練習方法を周りに話したら驚かれたくらいだ。トレーナーの目的が食い違う状況でトレーニングがうまくいくはずもない。

 

 

このままチームを解散する?

 

ありえない。『チーム・スピカ』はトレーナーの夢だ。

私に語ってくれたあの話を、忘れることなど出来ない。

 

「みんなの夢に輝く一等星を。そう言ってたじゃないか、トレーナーッ!」

「待て待て、君は気が早いと常々言っているじゃないか」

 

 優しく肩に置かれた手が、私を現実に引き戻す。

ルドルフが昔のように苦笑いを浮かべながら、一枚の書類を差し出していた。

 

「......君は幸運だよ。1年遅かったら、君の愛するチームは無くなっていた。だが、今ここに君がいる。

 

戻ってこないか、()()()()()()()

また、一緒に走ろう」

 

私の目の前に突き出された書類にはチーム入部届とあった。

これを書けばトレーナーの助けにはなるかもしれない。

4人と3人の重みの違いは火を見るより明らかな上に気心の知れた誰かがいるだけでかなり楽になるだろう。

しかし、私は首を縦にはふらなかった。

 

「私はダメだ、ルドルフ。私はもうあの(ターフ)で競うことはできないよ」

 

 私は優しく書類を破り捨てた。

春風に吹かれて空に舞う入部届を見ることもせず、私はルドルフに語りかける。

 

「もう、レースは走らない。そう決めたんだ」

「何故。怪我なんてしていないじゃないか。トレーニングだって欠かさずしているのはその格好から見ればわかる。

急に学園から君が姿を消してから、私は」

「身体が悪いんじゃない。私が悪いんだ。それに」

 

首に下げていた入校証を見せる。

私の名前の下には、こんな文字が書き添えられていた。

 

「トレー、ナー......」

「もう、私はウマ娘じゃない」

 

 決別の意も込めて、ポケットにねじ込んでいたスポーツキャップをかぶる。

 

耳を帽子の裏に押し込め、尻尾をズボンに隠す。少し窮屈だが、それくらいが私には相応しい。ターフから逃げ出した負けウマには、この場所は少しばかり広過ぎる。

 

「だが、諦めるつもりもない」

 

 キュッと帽子の鍔を後ろに回し、もう一度足を鳴らす。

現役時代と同じルーティーン。レース前はこうしてターフを踏みしめるのが常だった。

 

「私を勝たせてくれた恩師のためだ。現役時代は苦渋を舐めさせてもらったが、次は私の教え子があんたに土をつけてやる。皇帝伝説も今年のうちに終わらせてやるさ」

「フッ。闘志は消えてはないか」

「当たり前だ。一度去った舞台のターフを踏めるウマ娘なんていない。つまり、ここにいるのは正気じゃないか愚か者なウマ娘に違いない」

「君はどっちだ?」

「正気を失った愚か者に決まってるじゃないか。もとより正気で皇帝には勝てない。だったら正気は不要だともさ」

「......ならば見せてみろ。君の導くものとしての力を」

「いやと言うほど味合わせるさ。WDTは、チームスピカのものだって思い知らせてやる。リギルの時代はもう終わらせてやるんだ、アーッハッハッハッハッハ!」

 

決意をあらわにするように、天高く笑う。

これは決意表明だ、2人だけの約束だ。

いつか必ずお前を超えてみせる。王者として、首を洗って待っていろと。

 

「......本当なら、君と競い合いたかった」

「なんか言ったか、ルドルフ」

「いや、なんでもない。案内しようか新米トレーナー。新入生の名簿くらいは見たいだろう」

「そいつは是非に頼むところ! と、言いたいところだが、まずは恩師とチームメンバーに挨拶をしてくるよ。1人だけの後輩にもね」

「そうか。ではまた後ほどになる。携帯番号は昔のままだ、用事が終わったら連絡してくれ。ではな」

 

 シンボリルドルフはそう言って、校舎の方へ戻っていった。当たり前のように私が電話番号を覚えていると思い込んでいるが、実際覚えているのが腹立たしい。同期の絆、とでも言えば良いのだろうか。

 

「さて、チーム棟のある場所は」

 

確かこっちだったかな。と脇道に歩を進める。

 昔からプレハブの戸建てだったソレの名前を指を差しながらひとつひとつ確認していき、数分とかからずに目的のソレを見つけた。

 

「シェリアク、シリウス、スピカ......ここか」

 

 入学式だというのに部屋の電気はついている。トレーナーは隠れて熱心に仕事をするのが好きだったな。

 

「たのもーっ!」

 

ノックもなく扉を開ける予想通り鍵はかかっていなかったから、思い切り開けてやった。

 何も連絡していないから、さぞトレーナーの驚く顔が楽しみだ、と笑いながら部屋に目をやって。

 

「ハイ四隅取ったー! どうした、こんなんじゃゴルシちゃんには勝てねえぞう?」

「待った待った! 今のなし! というかお前2枚置いたろ!」

「これはゴルシオセロだから2枚置いて良いんだぞ?」

「そんなこと知らねーよっ!」

 

「なーにチーム解散の危機なのに呑気に遊んどるかぁっ!」

「そげふっ!」

 

 間髪入れずに、私はそのいけすかない髪の男の腹を蹴り上げた。

 

「こんの、バカトレーナーっ!」

 




とりあえずトレーナーを蹴っ飛ばすところから
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