「ふう、ライブも気持ちいいものですね」
「君踊れたのね......」
「ダンスはみっちり仕込まれましたから!」
チームスピカで控え室にすっ飛んでダンスを教えようとしたところ「え、私踊れますけど」とキョトンとした表情のフクキタルが待っているだけだった。不安を抱きつつその場を後にしたが、その後のウイニングライブでは完璧なダンスを披露していた。
これを教訓に未デビューの後輩諸君はレースだけじゃなくてライブの練習もしておこうね。トレーナーとの約束だ!
さて今はライブ諸々も終わり、荷物をまとめて帰路につこうという時。応援に来ていたチームメンバーは門限があるので先に帰り、トレーナーはその付き添いに一緒に学園に戻っているだろうところ。
今は私とフクキタルの2人っきりだ。私が現役の時はトレーナーさんとレースの振り返りや他の子をみての感想、次はどうするかなんてのを話し合っていたっけか。
だが、今回ばかりは気になることがある。
「それで......そうだな。レースの振り返りについては後々やるとして、聞きたいことがある。
レース後のあの言葉、覚えているよね?」
「もちろん。勝敗よりも大切なことでしたのでばっちりと」
「勝敗も気にして......じゃなかった。じゃあ、聞かせてもらおうかな。シラオキ様のありがたいお告げの真意。シラオキ様の言葉の真意ってやつを、君の口から聞かせて欲しい」
シラオキ様の言葉の真意ってやつを、君の口から聞かせて欲しい」
「はい。お節介かもしれないですけど」
少し間を置いて、彼女が口を開いた。
「観客席から見てスズカさんのレースはどうでしたか?」
「......良い末脚の持ち主だった。レース展開についてはまだ慣れてないから、っていうのもあるだろうけど彼女は強い、そう思わせるレースをしてた」
「そうじゃなくてですね......! ああ、伝え忘れていた私のほうも悪いですけど!」
「じゃあ、どう答えれば良いの?」
「端的に言います、スズカさんは
「楽しそうに......?」
フクキタルの問いかけに思わず考え込む。
たしかに直線で抜け出した時、ゴール前だけあって顔はしっかりと見ることができた。集中しているような、無表情のような判別の難しい表情だったことは覚えている。
ただ、無表情であっても仕草は顔に出るものだ。
OP特別だからさして重要なレースじゃないかもしれない。だとしても、あの日本ダービーに出走できる喜びがあるはずだ。
ただポーカーフェイスな彼女の表情や仕草からはそういった感情は読み取ることはできなかった。ウイニングライブでは笑顔だったが、それは外して考えるべきだろう。となると、今答えるべきことは......質問には正直に答えよう。
「わからなかった。ただ、嬉しそうじゃなくてもあまり感情を表に出さないタイプなだけじゃなくて?」
「よく言われますが、結構雄弁ですよ。耳とか尻尾とか、左回りのクセとかですね。」
悩ましい事がある時は大抵左に回ってますからね、とは彼女の弁だ。
「最近教室で左に回ることも増えてきましたし、尻尾も耳もしょげてました。レース前なんか特にですよ!」
「それはクラスメイトの君にしかわからないんじゃないか?」
「......そう言われるとそうでしたっ!?」
なんと言う見落としを! と頭を抱えて耳や尻尾を逆立てるフクキタルは置いておいて、ひとつそれに引っかかりそうなことを思い出した。
「そういえば、トレーナーが気になることを言ってたんだ。フクキタルは第3コーナー手前を覚えてるかい?」
「ええ! 大きな欅があるところですよね!」
「そのもうちょっと手前かな。2番手のウマ娘が先頭に並びかけて、その後ろにサイレンススズカがピッタリついてた時」
「それがどうかしましたか?」
「トレーナーとも同じ意見だったんだが、明らかに先頭の2人は若干へばり気味で一瞬スピードが落ちてた。スズカは余裕のありそうな走り方してたし、あそこで先頭を取って逃げに移れたんじゃないかなんて思ったんだけど。どう思う?」
「確かに、スズカさんは余力があったと思います。ですがあのタイミングでは先頭に立つにしては早すぎますよ」
「あそこから抜け出して勝てるスタミナがあることはあの末脚が証明してる。加速力はあるが君と違ってスピードが乗るまで若干長いからロングスパートか逃げよりの脚質だと思うんだよ。現にトレーナーだったら『逃げさせる』って言ってたし『彼女の好きなように走らせてみたい』って」
「......じゃあ何でスズカさんはトレーナーさんに提案しないんでしょう?」
「さあ。ただリギルのトレーナーは頭が硬いわけじゃない。何か理由があると思うんだけれど」
「「うーん」」
2人で揃って腕を組んで考え込むばかり。サイレンススズカに注目はしたが、それが誰かのためになるのかはさっぱりわからない。ただ単純に『サイレンススズカは所属チームのトレーナーと折り合いが合わないのではないか』、こうした推察しか浮かばないわけだ。
「この問題はこの場ではどうこうできないね。トレーナーさんと共有しておくとして......せっかくの2着なんだしご飯奢るよ。何か希望はある?」
「実は今日のラッキーアイテムがアジだったのでお魚で!」
「じゃあ回転寿司にでも行こうか」
「はいっ!」
ま、これはトレーナー側の問題だろう。彼女らに心配させる必要もあるまいて。とにかく今はフクキタルのダービー出走決定を祝ってあげないと。人生に一度っきりの晴れ舞台。それにフクキタルにとっての初めてのG1だ。全力で勝たせにいってやらなきゃ。
「ダービー、絶対勝とう!」
「......はいっ!」
拳を握りしめ決意を新たに。
私たちのクラシック戦線は、今ここから始まった。
「......それはそれとして気になるんだよなぁ」