誤字報告毎度毎度親切な読者さんには頭が上がりません。スマホで書いてるのでどうしても多くなってしまって......感謝感激雨あられ! あなたの運勢はきっと今日も大吉でしょう!
「タイキさんタイキさん、ちょっと相談事が」
「オウ! フクキタルがヒソヒソするのは珍しいネー」
レースから数日。教室にてフクキタルはとあるウマ娘に相談を持ちかけていた。その名はタイキシャトル。
青い目とカタコトの日本語が特徴的なこのウマ娘はサイレンススズカとマチカネフクキタルの同級生。海外生まれもあってか若干スキンシップがオーバーだったりするが、持ち前のフレンドリーさと怖いもの知らずの強心臓っぷりからかなにかと愛されているウマ娘だ。
またスズカと同じチーム『リギル』であるため、彼女なら何か知っている事があるんじゃないか、とフクキタルはトレーナーにお願いされ声をかけたのだ。
「実はスズカさんについて色々とお話が聞きたいので、放課後私のトレーナーさんに会ってもらえませんか?」
「OK! 今日は練習お休みなので良いですヨ!」
「本当ですか! やっぱり今日はツイてますっ!」
「デモ、本人から聞かないのはどうしてデス? あなたのトレーナーさんはナーバスなのデスか?」
「スズカさんに隠したいからじゃないですか?」
「ソーリー! スズカへのサプライズなら、ワタシもお口にチャックしないとデスネ!」
何か勘違いしているみたいですけど来てくれるならよし!と前向きに捉えたフクキタル。ちょうどそんなタイミングでスズカが教室にやってきた。
「グッモーニン、スズカ! この前のレース凄かったネー!」
「ありがとう。でも、もう少しでフクキタルちゃんに追い抜かされるところだったし、運が良かっただけだから」
「いやいや、謙遜されると立つ瀬がありませんよぉ」
◇◇◇
「エクスキューズミー!」
「......どちら様ですか?」
「タイキシャトルデース! フクキタルに来て欲しいと頼まれて来ましたー!」
「せめてノックしてくださいな」
「ウップス! ごめんなソーリー!」
チーム室で書類をまとめているとタイキシャトルが押しかけて来た。言伝通りに彼女を呼ぶことに成功したらしい。
「すまないわね、私生活について見る余裕が無くて」
「いえいえまあまあ......」
「しかし、わざわざ呼びつけた客人の顔も見ないのも失礼だと思うわね」
タイキとは違う、聞き覚えのある大人の女性の声。急いで書類から目をはなし面をあげる。
「それで、わたしのチームの子に何か用かしら?」
灰色のパンツスーツに、白縁のアンダーリム眼鏡。手に持つタブレットをカンカンと軽く叩いてこちらを急かすのは、現役時代散々お世話になった女傑。
どうしてリギルのトレーナーのおハナさんがいるんですか?
「ワタシが呼んできましタ。スズカの話なら欠かせマセン!」
「久しぶりね」
「どどどっどどどうも......お久しぶりです......」
「オウ、おふたりは知り合いなのデスカ?」
「腐れ縁といえばそれまでよ」
あの時の話を出すとおハナさんは少しだけ不機嫌になる。うちのトレーナーと仲がいいが、あの2人の確執を作る原因になったのは他でもない私の行動だった。それを後悔してはいないけれど、私があんなことしなければどうなっていたかと思わないほどではない。
「昔学園でお世話になった、それだけ」
「そうなんですネー」
「それで、タイキシャトルに聞きたい事があるってことだったわね。サイレンススズカについて、だったかしら」
「ええ。ウチのフクキタルがどうしても気になるからと。
最近、クラスでスズカの調子が悪そうとか悩んでいそうとか、そういった話は知っていますか」
「確かに最近スズカは騒がしくないデスネー。前はもっとオハナシしてくれましタ」
「そうね、確かに最近のスズカは調子が良くないわ」
「あれで調子が悪いとは」
「スズカの本気の走りはもっと凄いわよ」
「マジですか......」
あれより速いとなれば手のつけようがない。今回はステップレースだからマークもされなかったというのはあるが、あの抜け出した後の末脚はフクキタルでも捉え切れるか難しい。
「......すごいウマ娘をスカウトしたもんですね」
「ええ。私では扱いきれないくらいの才能。大成すれば世界にも手が届くわ。でも」
「でも?」
「才能は時にウマ娘を潰すのよ」
おハナさんぱぽつりとそんな事を言った。
「スズカはハイペースでレースを作った後でもスパートをかけられるスタミナがあるわ。彼なら気が付いているでしょうけど、彼女の適性は『逃げ』それも『大逃げ』。最後まで先頭をあの速度で駆け抜けられるポテンシャルがあるわ」
「あの体格では逆に競り合わせればパワー負けしますか」
「ええ。それに、彼女は1人で走ることが好きだから前に誰も居させたくないのよ」
「じゃあ何でやらせないんです。好きに走らせれば今からでも彼女のクラシック2冠だって夢じゃありません」
「耐えられる脚があれば、の話よ」
「脚......」
「あなたならわかっているでしょう? 逃げがどれだけ身体に負担を強いることになるか。何故逃げ戦略を選ぶウマ娘が多くないのか」
明文化されてはいないが、逃げ馬は身体に負担をかけるのではないかと言われている。1秒から2秒も通常ラップタイムより早く走り続けるのは意外と難しい上に、追われ続けるストレスというのはバカにならない。また、先頭を走ることによる風の影響を受け続けることも身体にダメージを与える。
逃げを主戦とするウマ娘は、得てして競技生活が短い。
あれだけの苦痛を多ければ十何回、模擬レースや練習の併走を含めれば100を越す。それだけの傷を身体に負わせれば数年と立たず足や肺が悲鳴をあげ、そして壊れる。生き残れるのはよほど身体が頑丈なものだけだ。
「確かにサイレンススズカは身体が出来上がっているわけじゃありません。ですが、彼女たちウマ娘の目標は『勝つこと』。それを優先してもいいのではないですか?」
「貴方スズカを殺す気? レース中の事故くらいなりたてのあなたなら資料映像と一緒に勉強しているはずでしょう?」
「数十年前までは何度かそういった事件はあります。ですが今の勝負服の素材も強化されてますし、私たちが走っていた時からそんな事故なんてないじゃないですか!」
「それはトレーナーたちの努力の結果よ。ウマ娘が変わったわけじゃない」
現役の経験があるとはいえ、そもそもトレーナー歴が半月と十年単位では勝負にもならない。だから私はズルい手を使う。
「......だとしても、彼女に全てを話すべきです。彼女が長く走る事を望むか、勝利を望むか。
それを選ぶのは私たちじゃなく、本人です」
「ますます彼に似て来たわね貴方。そうまでして
「っ......!」
「what? どうしてルドルフの名前が出てくるンデス?」
「話は終わりよ。帰るわよタイキ」
「デスガ......」
席を立ち有無を言わさぬ態度でタイキシャトルを連れて出て行くおハナさん。彼女が最後に告げた言葉が耳にこびりついて離れなかった。
「誰かに夢を託すのはいい。けれど夢を押し付けてはいけないわ。
トレーナーは主役にはなれないのよ」