諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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誤字脱字確認してるハズなのに偉く出てくるのはどうして......???


いつもお世話になってます。誤字報告だけじゃなくて感想もよろしくね!(感想乞食


第12話 皐月賞バ『サニーブライアン』

 

 

「皐月賞バサニーブライアン、大逃げ宣言、か」

 

 トゥインクルシリーズ専門のスポーツ紙の一面には、ガッツポーズをする小柄な黒鹿毛のウマ娘がゴールする瞬間と大見出しでさっき言ったようなことが書かれていた。

 

「おや、サニーさんじゃないですか。G1バはやっぱりすごいですねぇ」

「世間ではフロック(まぐれ)扱いだけど」

 

 サニーブライアン。逃げを主戦とするウマ娘で、ジュニア級からレースに精力的に出場していた。ただ、逃げウマの宿命かメイクデビュー戦では逃げ切り勝ちを収めたものの、次のレースでは5着7着と沈む。しかし次に挑戦したオープン戦ではペースを握って逃げ切りがち。弥生賞では前めにつけるレースで4着、皐月賞の優先出走権を滑り込みで確保。

 

ここまで見れば泣かず飛ばず。重賞には勝てるが皐月賞には絡んでこないだろうという評価だった。私も含めて。

 

 大外18番に配置されたという幸運も手伝い、一時は先頭を譲ったものの、先頭を握ってなんと超スローペースなレース展開に自分以外を錯覚させ堂々と逃げ切ってしまった。実力者が揃いも揃って差し型、追い込み型で後方で牽制合戦をしているうちに悠々と逃げ勝ってしまったなかなか食わせ者なやつ。

ただ幸運だっただけとも言われ評価自体は高くない。

有力バが全員揃って後方待機だったこと。

スローペースに気が付かれなかったこと。

大外枠の配置でハナを取りやすかったこと。

そして言われる「皐月賞は最も『はやい』ウマ娘が勝つ」というジンクス。

 

 先行策を使うであろう有力ウマ娘「サイレンススズカ」が現れたこともあって彼女の人気は高くはない。普通なら皐月賞を勝っているなら3冠の期待もあって人気投票の順位は高くて然るべきなのに、現時点は7位。フクキタルはあれだけ僅差だったスズカが4位にも関わらず、なんと下から数えた方が早い11位。納得いかないがデビューが遅かった影響だろう。

 

「サニーブライアンは調整不足でプリンシパルSに出る噂もあったっけか、戦えるなら戦っておきたかったな」

「私としては戦わなくて幸運でしたよう。はっ、これもレース前の夜に買ったラッキーアイテムの招き猫のおかげ......?」

「ないない」

 

 ダービーのレース展開は皐月賞と同じ後続の潰し合いにはならないだろう。なるとすれば、サニーブライアンやサイレンススズカがレースを引っ張るような若干ハイテンポなレースになるはず。

となると気をつけるべきは後続に続く有力バが気になる。

 プリンシパルSで矛を交えたランニングゲイルにエアガッツ、名門メジロ出身メジロブライトに、直近3レースを勝ち上がって調子に乗っているシルクジャスティス。

 今回も前目につけるレースになるだろう。末脚勝負の段階に持ち込んでも、スズカとサニーが潰れなければ逃げ切られてしまう恐れがある。スズカはそれほどまでに警戒しとかないとまずいのはフクキタル自身がそれをよく知っているはずだ。逃げ切りが上手くいかずにもし2人が潰れたら差しウマ娘同士の殴り合い。最終直線に向いた時前が空いているかどうか、もしくは空けられるかどうか、末脚勝負できるだけのスタミナが残っているかどうか。

 スピードは問題ない、あとはバ群を割るパワーや脚を残せるスタミナや経験だろう。その中で1番期間が短くても詰め込めるのは、レース経験だ。

 

「トレーナーさん、それで、今日は何を練習しましょう」

「バ群の抜け出し方の座学だな。授業でやるよりもちっとばかし複雑になるよ」

「うええ!? 授業が終わったのにまた勉強ですか」

「レースに勝つためには勉強しないとな。今回のレースは差しウマ娘がゴール前でもつれる展開になるかもしれない。そうなった時フクキタルの末脚は頼りになる。だから、それをいかに殺さずにコースどりするかって話」

「ほほう! わっかりました! 走ってもいいですか?」

「今日のラッキーアイテムは参考書です今決めました」

「わかりました! 勉強がんばりましょう!」

「ちょろすぎない?あと今私がテキトーに考えたラッキーアイテムに縋りすぎじゃないかな」

「トレーナーさんは運命の人なんです、きっと神様と同じくらいのご利益があります。なんたって私をダービーの舞台まで運んでくれたじゃないですかっ。これを幸運と呼ばずしてなんと呼びましょう!」

「......やる気出してくれてるならなんでもいいや」

 

 これだけみんなが素直だといいんだけれど。そう心の中でぼやいたところでひとつ忘れていたことを思い出した。

 

「そういえば勝負服のデザイン届いたよフクキタル」

「なんと朗報ですっあいたあ!」

 

 がつん、と勢いよく立ち上がったところで脛を強かに打ったらしく転げ回るフクキタル。とりあえず机を邪魔にならないところにずらして、学園支給のタブレットに画像を表示させる。

 

「お望み通りシンプルなセーラー服っぽいデザイン。陰陽の模様も刻んで、走りやすいようにスカートは短め。靴は?」

「セーラー服にブーツは似合いませんよ。ローファーっぽいデザインのがあったのでそれで行きますっ!」

「腰の太い革ベルトはなんでなんだ? それこそセーラー服には似合わないでしょ」

「それはもう決まってますよ!」

 

 フクキタルがゴソゴソとカバンの中身を漁り出したところで私は止めるべきだったのかもしれない。

 彼女が取り出したるは『必勝』『大吉』が墨痕たくましく書かれた木製の絵馬と、リュックサイズの大きな招き猫。

 

「これをつけるためです!」

「......絵馬はともかく、このでかい置物をつけるって?」

「失礼な、ぬいぐるみですよ。中は小物入れになってます。触ってみますか?」

「うお、これはなかなかもふもふな良き触り心地」

 

 抱え込むほどの大きさだが、受け取ってみると確かにフクキタルの部屋にある陶器製の立派なやつではないらしい。良い綿を使っているのか、見た目とは裏腹に重量は軽くもちもちとした手触りでクセになりそうだ。

 

「背負い紐付き。もしかして背負うの、コレ?」

「この中にラッキーアイテムを詰め込めばレース中も運気をブーストできるということです!」

 

 我ながら良い考え、とはなの下を誇らしげに擦るフクキタルの指を引っ掴んで逆に曲げてやった。

 

「いだだだだだだだ地味に痛いことをやめてください!」

「だめ」

「なんでダメなんですかあ!」

「ドーピングとか不審物持ち込みでレース違反とかなんやらで審議になったらどうすんの!」

「いくらトレーナーさんとはいえどもここだけは譲れません! 係員の人に中のもの全部見せれば問題ないじゃないですか」

「こういうところだけ賢くなっちゃって......! ダメなものはダメ! レース中に落っこちたら危ないんだから!」

「鍵付きジッパーにしますから!」

「どうしても背負わなきゃいけないこれ?」

「ここだけは譲れません。幸運を手放す訳にはいきませんから」

「......しょうがない。いいよ、ただし汚れたり壊れたりしても文句を言わないこと。あとレースで落とさないようにするのと、会社に連絡」

「? どうしてですか?」

「決まってんでしょ。レース中にソレ背負うんだったらそれも含めて似合うような衣装にしてもらわないと」

「さっすがトレーナーさん、話がわかるぅ!」

「結果出せなかったらソレなしで走って貰うことになるけど」

「大吉がついてるんだったらレースなんて全戦全勝ですよっ」

 

ほんにゃらか、とよくわからない事を言いつつ両手を広げて身体をふわふわと揺らすフクキタルを見て、私は苦笑いせずにはいられなかった。

 

まったく、どこまで能天気なんだか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 生徒会副会長エアグルーヴ。自他に厳しいと言われる彼女の趣味は、意外にもガーデニングだったりする。今日も水やりをとジョウロ片手に花壇を訪れてみれば、先客が花壇の前にしゃがんで楽しそうに尻尾を振っていた。

 

「今日もここの花壇のお花は綺麗ですねぇ」

「そう言ってもらえるとは、嬉しいな」

「ふええええええっ!?」

「そんなに驚かなくともいいだろう」

 

 飛び上がるウマ娘をたしなめるエアグルーヴ、彼女の耳についている花の耳飾りに目が止まった。それは彼女の黒毛のコントラストと相まって名前が表すような太陽のように輝いていた。

 

向日葵(ひまわり)が好きなんだな」

「え、あ、はい! トレーナーさんと一緒に買いました!」

「そうか」

「へへ、ライブで踊る時も、ファンの皆さんに言われました。耳飾り綺麗だねって」

「いいな、それは。次のレースは?」

「本当はもう一回レースに出たかったんですけど、疲れが取れないからってトレーナーさんに止められてしまって。次の日本ダービーも頑張ります!」

 

 ティアラ路線を歩む彼女には日本ダービーにあまり憧れはないが、自分がオークスにかける熱意と同等だとすれば共感はできる。つまらない風邪の発熱で桜花賞をフイにしたのもあって熱意は人一倍だと思っているが、目の前の彼女のそれは自分にも勝るとも劣らない。

 楽しみに笑う彼女の目の奥底には、あふれんばかりの渇望があった。勝利を求める貪欲なものではない。ただ走りたいというだけの、ウマ娘の原始の渇望が。

 

「だが、サイレンススズカ......彼女は強いぞ」

「スズちゃんには負けませんよ! 1番は例え同室でも譲りません」

「ふふ、手加減するつもりはないか」

「当然ですよ、でも叶うならずっと隣で走っていたんですけど」

「隣で?」

「ええ。青い空に、緑のターフ。それをずっと2人で眺めて、走るんです! ずっとずっと!」

 

両手をひろげて、彼女は目を瞑る。サイレンススズカと一緒にターフを走る姿を想像しているのか少し頬を緩ませながらゆらゆらと身体を揺らしていた。

 

「そうか。所属チームの都合上スズカには勝ってほしいが......いいレースを期待しているぞ、サニー」

「ふふん、いいレースじゃなくて、私が1番のレースですよ」

 

自信満々に胸を張るそのウマ娘の名。

彼女は、サニーブライアンという。

 

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