諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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前書きに気の利いたセリフが思いつかなかったのでファル子のガチャ結果でも書こうと思います。

40連でブルボンとタイシンが来てくれました。


そうじゃない。


第17話 雨が降って夏来たる

 

 

 

 

「ごめん、迷惑かけたけどもう大丈夫だから!」

「ご心配をおかけしましたッ!」

 

 フクキタルが泣き止み、私もなんとか気が晴れたところでこちらを優しそうに見ているスカーレットとパソコンと向き合うシャカールを見つけ、いの一番に頭を下げた。

スカーレットはかける言葉を選んでいるようで手を所在なさげに動かしているが、シャカールがいつものようなぶっきらぼうな口調で端的に告げた。

 

「で? 今日の練習はどうする」

「......今日はオフにしてもらっていいかな? 折角だしトレーナーさんから伝えると思うけれど、これからの予定について話そうか」

 

 これからの予定。そう、恐らくあるであろうあのイベントについてしっかり伝えておかないといけない。準備とか色々大変だし学生の時は楽しみの一つでもあったからね。

 

「トレセン学園は7月と8月の2ヶ月間が夏休み。それを使って、我々チームスピカは『夏合宿』をすることになる......と、思います」

「「「夏合宿」」」

「夏場は中央だと目立ったレースないしね」

 

 というのも、夏場はウマ娘にとって休養シーズンだからだ。

まずウマ娘は人間より暑がりで体調を崩しやすく、夏バテにも弱い。

 次に主な中央G1レースがその選考レースも含めて9月まで無いこと。秋のシニア路線やクラシック最後の菊花賞、秋華賞は10月から本格始動する上、そうでなくとも春はレース間隔が短く疲れが取れにくい。

 そして最後に、学園がそもそも夏休みだということ。寮制ともあって流石に寮や最低限の設備は開放しているのもの、どうしてもカフェテリアや半分以上のトレーニング施設が閉鎖してしまう。

 

 だからこそトレーナーが数人で集まったり、チーム主導で全国各地の施設を借り受けて『合宿』の形でトレーニングを行う。そのほか、夏の間は地方遠征に行くものもあれば、海外のレースを学びに留学するもの、半分以上を休養に当てるものと過ごし方は様々。うちのトレーナーがまだチームを持ってないころは、数人のトレーナーたちで合宿をしていたからきっとあるだろうて。

 

「補助金なんかも学園からはしっかりと出る制度があるし、ゴルシの成績を見れば多少の追加予算は降ってくるはず」

「トレーナー質問! 夏合宿はどこに行くのかしら!」

「海ですか、山ですか、両方ですかぁっ?!」

「ンフフ......それは知らない。安くて予約空いてるところ探すからね」

「世知辛エことで」

「ウチは弱小とは行かないけどどうしても現役で走ってる子が少ないから肩身が狭いんだわ」

 

 未勝利戦だけが勝利のフクキタルはともかく、G1で複数回勝ってるゴルシは間違いなくトップクラスのウマ娘だ。だがチーム全体で見れば未デビューが3人にOP戦にやっとこさ2位だったウマ娘が1人にトップエースが1人。例え現役生の戦績がパッとしなくとも、現役生が少ないチームがいい場所を占領するのはいただけないから、いい場所は少し使いにくい。

 

「合宿の件はまたトレーナーから正式な話があると思うから......ハイ?」

「失礼します、カノープスの南坂です」

「南坂先輩!? どうぞどうぞ!」

 

 ノックされたと思えば、養成学校時代にお世話になったあの先輩の声がするじゃないか! 皆に中央と椅子を空けるようにジェスチャーして招き入れる。

 扉を開けて入って来たのは、軽く髪にパーマをかけた、優しそうな顔の青年といったいでたちの男性。スーツがよく似合っているのは昔から変わらない。

 

「失礼します。やっぱり、聞いた声だと思えば鏑木さんじゃないですか」

「いえいえ! こちらこそ、どうぞ座ってくださいよ。ところで何か用事ですか?」

「ええ。沖野トレーナーと合宿の件について、決まった事があるので連絡をしようと思ったんですけど、連絡がつかなくて」

「今は少し忙しいですからね。それで、決まったこととは」

「日程と場所です。資料はこちらに」

 

ぴらり、とA4の紙を手渡された。それを一斉に覗き込む私とメンバー。その1番上にはこう書いてあった。

 

チーム『スピカ』『カノープス(仮)』の合同夏合宿について。

 

「チーム『カノープス』? 聞いたことないですね」

「お恥ずかしながらまだ人数不足なんです。あと1人ですし、名乗ってもいいかな、なんて」

「南坂さんもチームを......素晴らしいですっ!」

「あはは......難しいことばかりです。沖野トレーナーからも何か学べることがあればと思ってこちらから持ちかけたんですよ。まだ仮段階ですけど」

「いえいえ是非是非! トレーナーにはプロレス技かけたって首を縦に振らせて見せますとも!」

「強引なのは相変わらずですね、悪い癖ですよ......?」

「ピエッ」

 

 一瞬だけ昔に戻ったような殺気を感じたので思わず変な声が出てしまった。それを見てすまなさそうに南坂さんが頭をかく、やっぱり昔と変わってないじゃないのよ。

 

 軽く話をして、部屋を後にしたのと入れ違いにトレーナーとゴルシ、ウオッカがやって来た。

 

「お、みんな揃ってるな。ちょうど話があるんだ。夏合宿についてなんだが......」

「海! 海ですねよねトレーナーっ!?」

「ど、どこから聞いたんだスカーレット......?」

「さっき南坂とかいうのが来たからな」

「入れ違いだったのか。なら、話は早い。千葉の海で夏合宿だ。他のウマ娘と練習できるいい機会になる、学べることは全部学べ、いいな」

「「「「はいっ!」」」」

「あ、そうそうフクキタル」

「はいっ、なんでしょう?」

「お前、福島でレース走ってもらうからな。7月いっぱい福島にいてくれ」

「えっ」

「鏑木、お前も一緒だ」

「えっ......えっ?」

 

 

◇◇◇

 

 

 

「えっ」

 

『さあ、夏の福島レースシーズン。本日第10Rは、芝1700m右回りさくらんぼS。実況はわたくし......』

 

 視界にはこじんまりとしたレース場と、青々と葉を茂らす木々が眩しい山裾。

 

「ターボターボターボ〜」

 

隣には青髪の騒がしいちんまいウマ娘。

 

「......あれ?」

 

 何故か発走機に収まる、きっと私も似たような顔でキョトンとしてるフクキタル。

 

そもそも、何故適正外のマイルレース。

そもそも、何故7月の今に走るのか。

そもそも、隣にいるこのウマ娘は誰なのか。

 

疑問は尽きず、されどレースの幕は開く。

 

発走機の扉が開き反射的に飛び出すウマ娘たちとフクキタル。

そうして、私の夏が始まった。

 

「どうしてこうなった」

 

波乱の夏が、始まる。

 

「マチフクがんばれー!」

「ケッタイな名前つけないでくれるかな......」




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