諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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オークスではゴルシの娘さんが勝ったようで。ソダシの三冠も見たかったですが......ま、これも歴史ですわね。


第21話 夏の夜には怪キタル

 

 

 

「お前ら、肝試しに行くぞーっ!」

「「「「おーっ!」」」

 

 夏の日ざしでこんがりと焼けたウマ娘、ヒシアマゾンの号令の元ジャージ姿のウマ娘達が拳を突き上げる。同じ合宿所に来ていたリギルのヒシアマゾンを筆頭に、ゴールドシップは勿論の事その他数名の騒がしいもの好きのウマ娘が企画していたらしい。本音を言えばさっさか寝て疲れを取ってほしいが息抜きも悪くない。

 

「しかし、おハナさんが企画を通すとはね」

「彼女らの息抜きをする事も大事でしょう? それに、慣れない場所で寝起きするのは意外とストレスなのよ」

「てっきり、さっさと寝ろとか言うと思ってましたよ」

「そこまで厳しいわけじゃないわよ」

「私らのころは却下したくせにー、ぶーぶー」

「......昔は昔、今は今よ」

 

 夏のおかげか、いつものスーツ姿よりは幾分ラフなハーフパンツやパーカー姿のおハナさん。私はバレないために四六時中長袖長ズボンのジャージでクソ暑いというのに羨ましい限り。

 

「だったら脱げばいいじゃない」

「エスパーか何かです......?」

「元担当なんだから考えてることくらいわかるわよ」

「もう何年前の話なんですか、律儀ですねえ」

「忘れないわよ。一度担当したウマ娘のことなんて、いやでも忘れられないもの。貴方もすぐにわかるわ」

「よくわからない事を言いますね」

「貴方と駆け抜けた1年間は、鮮烈だったもの」

「そうですか? ひどい成績ばっかだったと思いますけど」

「それでも、よ」

 

 負けた時のことなんて、すぐに忘れてしまいたいものなのに。私なんかクラシック級のことなんかもう断片的にしか思い出せない。なんで嫌なことは全部忘れたいタチだし実際忘れられるならそうしている。

 

「貴方負けるたびにわんわん喚いてたじゃない」

「記憶にありませんねえ」

「そっけないわね」

「もう担当ってわけでもないですし他人のようなもんでしょう。今はただのトレーナー同士、そういうことで」

「......変に大人になったわね」

「大人になることの何が悪いんです?」

 

 私の疑問におハナさんは答えることはなかった。それっきり黙り込んでキャイキャイと組分けと順番わけのくじ引きで盛り上がるウマ娘の方を見やっていた。

 

「うおーし、お前ら決まったなー! それじゃ1番から行くぞ! レッツ肝試し!」

「でもヒシアマ先輩、人数が奇数だから1人余ってしまいませんか?」

「しまった! どうしよう!」

「あ、トレーナーさん、ちょうどいいところに!」

「ん? どしたのフクキタル?」

「肝試し人数が余ってしまうので参加してもらえませんか?」

「ゔぇっ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「それで、ペアは君か」

「よろしくお願いします」

 

 キラキラした目を向けられると断れないのは私の悪いくせだ。流されるまま数合わせとして参加することになった私のペアになったのは、アグネスタキオンの件で知り合ったマンハッタンカフェ。コーヒーが好きだと聞いている、黒鹿毛のウマ娘だ。低身長と黒い髪も相待ってふとした拍子に見失ってしまいそうになるから気を配れて一回り大人なトレーナーの私をペアにといったところだろう。

 

「しかし、肝試しとは。またアグネスタキオンだったら『科学的には存在しない』とか言うんだろうねえ」

「幽霊は信じませんか?」

「少なくとも見えないものを信じるつもりはないよ」

 

 懐中電灯の小さな光を頼りに林道を歩く。夜の林というのは静かで、風の音や木の葉が擦れる音ばかり。鳴く虫の羽音もしないというのもまたおどろおどろしく恐怖感を掻き立てる。カツカツと硬い乾いた地面を歩く音だけが、妙に響くのが不気味で仕方がない。

 

「そういう君は信じるのかい?」

「私も幽霊は信じているつもりはありません。ただ、私にだけ見えるものがあるのは理解しています」

「へえ」

「......私の隣にいる『あの子』とか、学校の切り株の中にいる『あの子』。他にも何人か学園内で歩いたりしてる様子は見たことがあります。マチカネフクキタルさんにも」

「フクキタルにも?」

 

 聞き逃せない言葉が彼女の口から出てきた。別に霊を信じるわけじゃないが彼女の話となれば気になる。続きを促すように疑問を投げかけると答えが帰ってきた。

 

「同じ髪色の、双子のようにそっくりなウマ娘が彼女の隣や後ろによく立っているのを見かけています。水晶玉を一緒に覗き込んでいたりしていましたね」

「双子そっくりな......うーん、似たような親戚がいるのは知ってるけれど、双子は知らないな。もし居るなら聞いた事くらいはあるし、履歴書にも記載があった覚えはないね。間違えてないかい? ほら、和装とか着流しを着ていたりとか」

「マチカネワラウカドさんのことは知っていますよ」

「なら違うか」

 

 思い当たる節があるとすれば件の『シラオキ様』。占いや夢を通じフクキタルに助言を与えてくれる超常的なナニカ、なんてのはまさしくそれに近いものではなかろうか。

 

「その子、シラオキ様とか名乗ってないかい?」

「流石に会話内容までは」

「だよねー。流石に無理か」

「あの、シラオキ様、とは?」

「占い好きのフクキタルがよく言ってるカミサマのこと。なんでも彼女自身だけが信じてるようなもので、占いで助言をくれたり夢の中でお告げをくれる、らしい。他人にはわからない事を信じているってんなら君と似たようなものかもしれないね」

「そうでしょうか?」

 

 首を傾げるあたり、マンハッタンカフェにとってはちょっと的外れな言葉だったようだ。だが、何か肩を叩かれたように私と反対方向を向いて相槌をうちはじめた。

 

「......ああ、はい、なるほど、そうですか」

「虚空に向けて話しかけないでくれるかな急に?!」

「彼女が貴方のいう『シラオキ様』で確定だと彼女が」

「彼女?!」

「はい。あとそれと」

 

 こちらを覗き込む琥珀色の瞳には嘘はなく、情報源はさておきフクキタルにいるという背後霊はシラオキ様で確定らしい。もっとも、それを知れたところでどうしろという話だが......

 

「おばけだぞー!」

「ぎゃあああああああああ!?」

「そこにハルウララさんが隠れていると......」

 

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