今回もトレーニング回ですってよ......話の進みが遅い? 気の所為ですよ。
「やってしまった」
体重計に乗りながら思わずつぶやいた。レトロな体重計の表示板が指している数字は私の記憶する体重より6キロは多い。つまり結論はひとつだ。
「肥えてしまった......それなりに」
思い当たる節はある。練習ではらぺこな現役ウマ娘と同じような量の飯を食うと体重が増える事は当たり前。しかもカロリーを消費する彼女らと違って、私はそこまで運動するわけじゃないから余剰カロリーは当然、お腹に行くわけだ。勝負服で肌を晒したりする以上、見栄えもあるからさわればわかるというほどだがしっかり鍛えていた。だが今はどうだ、つっついてみればぷにぷにと可愛らしい感触が返ってくるばかりで、鍛えられているとは絶対に言えない。
自分がウマ娘だとバレる危険性はあるが背に腹は代えられない、か。
◇◇◇
「と、いうわけで今日から私も参加する事になったから」
「人間に負けんじゃねーぞお前ら」
トレーナーに事情をぶっちゃけたところ呆れ顔ながらも認めてくれたので、いつもの格好で大手を振って参加する事にした。
「正気か?」
「だって太ったんだもん」
「アッハッハッハッハッハッハ!」
シャカールの言葉に正直に返すと、ゴルシが案の定大爆笑。
「まーまー、いいんじゃねーの? 置いてかれないように気をつければさ」
「大丈夫大丈夫、鍛えてっからさ!」
「本当に大丈夫なの沖野トレーナー、悪いけど、トレーナーさんじゃあ追いつけないと思うんだけど」
「それについては問題ない。鏑木は人間辞めてるくらいだから」
「そんじょそこらの人間じゃないってよ。それに今日の予定は長距離ラン、持久戦ならなんとかなるなる」
「うええ......?」
「何故疑問符なんだいフクキタル」
「その向上心は認めますけども」
「ままま、やってみればいいのよ」
「んじゃ出発だーい!」
ゴルシの号令の元みんなが走り出す。目指すは山頂、舗装道路とはいえ高低差ありきの15kmのマラソン、それもウマ娘基準の人間と比較すれば超ハイペースなものが始まるわけだ。
ペースメーク役のゴルシを先頭に、メジロライアン、ステイゴールド、フクキタルとシニア、クラシック級の現役面子が並ぶ。その下はナイスネイチャを筆頭に未デビュー組、そして最後尾に私とサポート兼救護班として原付に乗ったトレーナーがいた。
ツインターボはまだ身体も仕上がっていないので桐生院に預けることにした。今頃砂浜でアグネスタキオンやミークとうまいことやっている事だろう。
「誰が1番最初にへばると思う?」
「せーので言う。多分おんなじこと思ってるよ。せーの」
「「ウオッカ」」
「俺はそんな簡単にへばんねーから!」
「元気そうで何より」
後ろで喋ってたら耳聡く前からウオッカの声が聞こえてきたが、実際問題へばるのが1番早そうなのはウォッカになる。
「力を出し切るのは上手いんだけど、長距離ともなるとスタミナが流石に足りない。あの子マイラーだもの」
「これを通してペース配分をスカーレットから勉強するといいさ。次点で誰が落ちると思う?」
「そりゃスカーレットでしょ。スタミナ面だったらスカーレットの方がちょっと強い。その次はキングヘイローと見た」
「ヘイローのお嬢さんか、その理由は?」
「本人には言いたかないけど彼女はマイル、短距離向き。ウオッカと似たタイプだけど脚の爆発力は彼女の方が良いもの持ってる、距離を伸ばすと持ち味を失うよ」
エアシャカールの分析の受け売りなので胸を張って言えるわけでも無いが、彼女の末脚は魅力的だが、欠点はスタミナ面。前にレースで見た時よりスパート時の爆発力に磨きがかかっているのは事実だが、距離適性、そして同期に阻まれることになるだろう。エルコンドルパサーとグラスワンダーさえいなければ......と。
「昔を思い出すか?」
「だからスカウトしなかったんですよ。変に入れ込んじゃうし、彼女の夢と私の指針は噛み合いません。トレーナーさんだったら上手くいったかと思いますけど」
「よしてくれ、もう手一杯だ」
「1人増えたところでもう変わりゃしませんよ、昔も大概だったでしょうに」
「お前が1番やんちゃだっただろうが」
「そうでしたっけ?」
「すっとぼけんな」
「なにも聞こえませんわ〜」
「全くお前は、もう!」
ペースが若干落ちてきたウオッカとスカーレットと入れ替わるように前に。次の背中は赤みがかった髪の存在感を放つツインテール、ナイスネイチャ。
「さて、どこまでいけることやら」
そして──
山頂の広場に備え付けのベンチに腰掛けつつスポドリを飲む。タイム的には現役時代とは及ぶべくもなく、スタミナ自慢のゴルシやメジロライアンには最後まで追いつけなかった。
「だというのに、君たちは人間にも負けるのかい? だらしないぞクラシック組」
「ぜひゅー、ぜひゅー......」
「ど、どういうことですか......」
肩で息をするステイゴールド、地面に倒れるマチカネフクキタルを見下ろし挑発するようにない胸を張って見せる。自分で言っていて少しだけ悲しくなったが重いと走りにくいのは知っているから実質アドバンテージだ。
それに、彼女らと違って10回以上はこのコースを走っている。高低差や残り距離を感覚的に理解するしていないは明確にこちらが有利なんだけど、実際のレースでもそんなことはあるから言い訳を聞くつもりはない。
「この練習で本当に鍛えるのはスタミナじゃないんだけれどな」
「あ、お疲れ様です」
途中でへばったらしいウオダスカコンビを回収しつつやってきたトレーナーが原付から降りてきた。その後ろにはふらつきながらもナイスネイチャとエアシャカールがいて、最後にはキングヘイローが地面に突っ伏した。ふむふむ、タイム的にこの時期ごろとしては及第点以上はあげられるね。
トレーナーがヘルメットを置き、全員がまともに話が聞けるくらいには回復したところで、集合と手を叩いた。
「タイムの発表の前に、俺からいくつか伝えることがある。まずステイゴールド、不合格」
「......ハァ?」
「フクキタル、不合格」
「......かい?」
「キングヘイロー、合格」
「......」
「ナイスネイチャ、一応合格だ」
「あ、どうも」
「シャカールは......不合格だな」
「......ああ」
「スカーレット、ウオッカ。合格点はやるがレース途中では絶対にやるなよ」
「「なんでコイツとまとめるんですか!」」
「そう思ったからだ」
「喧嘩しないの、まだ話の続きはあるんだから」
仲良く喧嘩を始めそうになった2人の頭を叩いて正気に戻しつつ、続きを促す。
「今の練習、もといランニングは現時点のスタミナを見るのもあるが、それ以上に俺が見たのは勝ち気、根性......要は気持ち的なものだ。限界まで追い込まれた時に、体力を絞り出せるかどうか、それを見た」
「......んで、テメェのお眼鏡にかかれば合格ってか?」
「その通りだ。ステイゴールド、お前最後サボったろバレてるからな。あと2秒はタイムを縮められたはずだ」
「チッ」
「フクキタルは粘り強さが足りないな。ステイゴールドに並ばれた時にもう少し競り合いができるようになってくれ」
「はいぃ」
「シャカールなんだが......お前のやり方に口を出すつもりはない。だが、最後の気持ちも計算に入れてくれ。レースは確定要素で出来ているわけじゃない」
「一考はする」
「ナイスネイチャ、抜かされた後少し経ってやる気出せるなら最初っから出してくれ」
「あははー」
「合格者はその気持ちを忘れるな。自分に負けない、誰かに負けない。その気持ちは、最後のラストスパートの時必ず助けになるはずだからな」
「というわけでもう一周頑張りましょう。次は下りですよ」
「「「「「......は?」」」」」
あれほど息の揃った疑問符を生まれて初めて耳にしたよね。初参加のみんながみんな私の方を見て「正気か?」って言いたげな顔してるけど正気なんだ。うんうん、これ下りも含めてワンセットなんだ。そういう練習なんだ。昔と何にも変わらないんだ、諦めて走るよ。
「というわけで、頑張りましょう」
「お前らさっさと準備しろ、合図かけちまうぞ」
「ちなみに、下りで私より遅かったら皿洗いとトイレ掃除だから......って並ぶの早いね、んじゃスタート」
いきなり手を叩いて、同時に私はスタート。レースさながらに綺麗に飛び出せた私を追いかけるようにいくつもの足音と気配が追ってくる、この緊張感がたまらない。
「いやー、逃げるの楽しいわ。お先に失礼っと」
「ちょ、ペース速すぎだろサブトレ!?」
「トイレ掃除は嫌だトイレ掃除は嫌だトイレ掃除は嫌だ」
「はやく追いつくわよ!」
「言われなくたってわかってるっての」
「ハァ? あんたに言ったんじゃないんですけど!」
「ンだとテメー!」
......喋る余裕があるならペース上げとこ。