諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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97年クラシックにおいて、絶対にやらなければいけない事。

妄想したくなるんですよ。スペちゃんの前にいた、ルームメイトって誰だったんだろうなって。
なんでいなくなったんだろうなって。

こういうことだと、自分は思ったんですよ。


第4章 最後の一冠は誰の手に『菊花賞』
第25話 秋のG1予報/大荒れの曇り空


 

 

 

 

 

「と、いうわけで夏合宿お疲れ様。お盆休みはゆっくり休めたかい、宿題は終わらせたかい、休み明けのテストは赤点は回避したかい?」

「48点でした! 末吉です!」

「平均点以下で胸を張るない!」

「あいただだだだだだ!」

「全く、成績取らないと後々苦労するんだからな」

「トレーナーがお母さんみたいなこと言ってる......」

 

 赤点でなかっただけ良しとするが、同じように構えていた自分も学生時代苦労する羽目になったので勉強してほしいのが本音だ。これじゃ期末テストも先が思いやられる。

 まあいい。まずは目先のレースの方が大事なんだ、目の前のものをこなしていこう。

 

「今年の菊花賞は11月2日。それに向けてフクキタルは別に優先出走権利もなければレーティングが足りてるわけじゃないから、いくつかレースに出てもらうことになる。

シャカール、菊花賞のトライアルレース2つ挙げて」

「セントライト記念、神戸新聞杯の2つだ」

「正解。距離と場所まで言える?」

「中山2200m、阪神2200m」

「正解だ。頼りになるね」

「逆にフクキタル先輩がなんで知らないのかって話だがな」

「ぐさり」

「まあフクキタルだし」

「はぐぅ!?」

「傷つける要素あったかい今の言葉」

「この見透かされているという感じ嫌なんですよ......」

「何を訳のわからんことを。まあいいとして。

とりあえずフクキタルにはどちらかを勝ち上がってもらう」

 

 目指せトライアル制覇、とホワイトボートに書き込んだ。

 

「い、一位じゃないと駄目ということですかっ?」

「ダメとは言わないけど、菊花賞を諦めてもらうほかない」

「そんな、大凶のような......」

「仕方ないよ。レースで勝ちがつかないんだからレーティング足らなくなるんだもん」

「ひぐぅ!?」

 

 フクキタルがダメージを受けているが、その責任の一端は私にもある。ダービーを狙った高望みの結果として、フクキタルのレーティングは低いままなのだから。

 レーティングというのはウマ娘の強さを表す一種の指標だ。各レース掲示板内、5着までのウマ娘にレースごとに得点として付けられる点数のようなもので、勿論だけどG1のレートは高く、オープン戦のレートは低い。

 

そして、菊花賞などのG1レースではレーティングによって『足切り』が行われる。

 

「菊花賞は最大18人が出走できるけど、優先出走権の枠も多いからね。まずトライアル3着以内、2レースあるから6人かそれ以下。あとの12人にも留学生特待枠もあれば、地方枠なんてのもある。こればかりは読めないけど例年通りなら残りは7枠か9枠くらいかな。

 

その残りはレーティングの高さで決まる。そうなるとG2、G3の出走が少ないフクキタルは圧倒的に不利になる。

過酷なレース日程を避けるためには一発勝負でやるしかない」

「おお、3着以内となれば一気に気が楽になりますよ! 運気がむいてきました」

「出走するのはダービーでフクキタルを抜いたウマ娘たちばかりだからね。スズカもステイゴールドも出走する。みんながみんな夏合宿で成長してることも考えると、ダービーで3着以内より難易度は上かもしれない」

「やっぱり大凶ですっ! そんなー!」

 

 がーん、と頭を抱え出したフクキタル。私にとっても頭を抱えたくなるような問題だ。何より、ダービーで完全に吹っ切れた『逃げる』サイレンススズカと戦うことが求められる。距離不安もあるだろうけれど狙いはするはずだ。他にもステイヤー気質だろうメジロ家のご令嬢やダービーでフクキタルを下した面々もいる。

 

「ともかく。腹括ってもらうからね。まずは2週間後の神戸新聞杯。それを勝つと見込んで10月の京都新聞杯も出走登録したから」

「......へ、2週間後?」

「出走ウマ娘一覧も出てるよ」

「へえっ?!」

 

 変な鳴き声を上げながら画面を見せたウマホをぶんどるように取って画面を覗き込むフクキタル。帽子の中で耳をしっかりと畳んでおけば予想通り、次の瞬間にはぎゃーっと潰れるような声で悲鳴をあげ、頭をまた抱えた。

 

「す、スズカさんがいるじゃないですかぁ!?」

「うん。そうだね」

「あとはあとは......あとは? おや? おやややや?」

 

しかし、その声は尻切れトンボのように萎んでいく。

 

「そう。サイレンススズカが出走するけど、それ以外めぼしいウマ娘は出ない。フクキタルに運がむいてきたよ!」

「ほんとですねえ!」

「でも油断するとダービーみたいになるからね」

「大丈夫ですよトレーナーさん。これだけ運が向いているなら、これは天運が私に勝てと言っているとも同然!」

「調子乗らない」

「あいたっ」

 

取り上げたスマホで頭を軽く小突きつつフクキタルを嗜める。調子に乗るとすぐとちるから、トレーナーとしてしっかりと舵取りしていかねば。

 

と決意をひとり新たにしていると、なぜか指を折っていたウオッカが首を傾げてこんな事を言った。

 

「なあ、計算おかしくねえか?」

「何が?」

「何がってほら、出走人数だよ。菊花賞は18人出られるから、まずトライアルで6人だろ? そのあとトレーナーは残り12枠って言ったじゃねえか。でも、残りは12枠じゃないはずだぜ?」

「バカね、18から6を引いたら12じゃない。そんな計算もできないの?」

「ば、バカにするなよスカーレット! それくらいはできるけど......でも、おかしいだろ? だって俺はこう習ったんだから。菊花賞の優先出走枠は()()()()()()()()()()()1()()()()()、そしてトライアル競走3着以内だぜ?」

「全く頭が硬いんだから。今年のクラシックはサニーブライアン先輩が2冠達成したんだから、1人しか......あれ?」

「な? 合わねえだろ?」

「......それでも19になっちゃう。ねえトレーナー、忘れてる訳じゃないわよね?」

「そうでした! サニーブライアンさんがいるんじゃないですか! もしかして......京都新聞杯の方には出走するとか!」

「ない。サニーブライアンはトライアルにも出ないし、なんなら菊花賞にも出走しない」

「......それはとっても幸運ですが、では天皇賞秋に?」

 

私は無言で首を横に振った。

 

「サニーブライアンは秋シーズンには出てこない。それどころか、もう一緒に走ることもないかもしれない」

 

そして新聞を広げる。

紙面には大見出しでこう書かれていた。

 

『2冠ウマ娘サニーブライアン骨折! 菊花賞は絶望か!』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「すっかり遅くなっちゃった......ただいま、サニー」

 

 合宿から帰省を経てやっと学園に帰ってきたサイレンススズカが寮の部屋の扉を開ける。返事はなく電気もついていないから、同室のサニーブライアンは寝ているのかと壁の電気の電源を入れた。

 

「......サニー?」

 

だが彼女の目に飛び込んできたのは妙に小綺麗で殺風景な部屋の景色。右半分は自分のパーソナルスペースで何も変わらない。では左側、同室のウマ娘のスペースには?

 

何もない。

 

備え付けの机と、フレームだけになったベッド。机の本棚に教科書もなければ、ひまわりの花畑の写真を引き伸ばしたポスターも、目覚まし時計も、何も。まるで、入寮した時のように真っさらだった。

 

いや、ひとつだけあった。

手紙が一通。ひまわりのシールが貼られて、可愛らしい文字で、自分宛に書かれた手紙が机の上にある。

 

何もわからないまま、彼女はそれを開いた。

 

その手紙の内容は、簡素なものだった。

ダービーの後、怪我をしてしまった事。

もう走れないかもしれないと言う事。

だからこそ、学園を休学すると言う事。

 

そして最後に、彼女はサイレンススズカに対して謝っていた。

 

『ごめんなさい』

『一緒に走れなくて』

『いつかまた、必ず戻ってくるから』

『その時は、一緒に』

『どこまでも、誰もいない先頭の景色を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで史実ではダービー直後でしたが、ここでサニーブライアンは舞台から消えます。

史実では怪我ののち屈腱炎を発症、結果的にダービーを最後に引退し種牡馬入りとなりました。

三冠馬の難しいところですよね......あの過密ローテも怪我なく走り抜けなくちゃいけない。だからこそ三冠馬が讃えられる理由なんですけどね。
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