作者は感想をもらわないと死ぬ生き物なので感想を書こうね!!!!!!!!!!!!!
「ところでトレーナーさん。ファン感謝祭はどうするんですか?」
「休む」
「御無体なっ!?」
「私だって休ませたくはないけど、レース本番と被っちゃどうしようもないとしか、ねえ」
学園生活メインイベントの一つ、ファン感謝祭は春秋2回に分けて開催されるイベントだ。4月9月と2回に分けて開催されるそれはどういうわけかレースシーズンとダダ被りしている。息抜きということでこの時期に実施してるんだろうがその当日にレースは関係なく行われるし、出走登録するということはつまり学園祭に行けないということだ。フクキタルが出走予定の神戸新聞杯は9月14日。学園祭の日程と全く同じである。
「今年は無縁ということで諦めてちょうだいな」
「しょ、しょんにゃあ〜」
こういうこともあるのでどうしようもない。私の時は確か10月末だったからレースも終わって満喫できたんだけど、フクキタルには運がむいてなかったようだ。
「んじゃ、神戸新聞杯のレース対策するからノート開いて」
「はい......」
「どっかで埋め合わせはするから元気だしなよ」
「うにゅう......」
机の上でだらりと伸びてしまったフクキタル、よっぽど感謝祭が楽しみだったようだ。
「ワラウカドの寄席行きたかったのに!」
「友達に動画撮ってもらいな」
「撮影禁止って言われましたよっ!」
「あらま」
「彼女のお師匠さんがカメラが嫌いだとかなんとかで」
「昔気質の落語家の人なんだね」
「レースの練習より厳しいやい、って愚痴ってますよ」
「大変だねえ」
「それでこの間ですね、ワラウカドと買い物に行った時の話なんですけど」
「うん。私は一切意志は曲げるつもりはないよ、移動日含めてファン感謝祭は1日も行けないし、行かせないから」
「鬼! 悪魔! 皇帝シンボリルドルフ!」
「シンボリルドルフなんてそんな、照れちゃうな」
「照れる要素が一体どこに?!」
「というわけで、サイレンススズカ及び逃げウマ娘を倒すにはどうするべきか対策会議を始めます」
対策会議、と銘打ったホワイトボードを指さす。前にもやった記憶があるけど今日は2人っきりだ。
「逃げウマが勝つためには何をするか、何をしないのか、何をしてくるのか。身に染みてわかってるだろうけどね」
「敵を知り己を識れば百戦危うからず、ですね!」
「まず初めに。逃げウマ娘は
「さんざん言ってましたもんねトレーナーさん。逃げは邪道だとかなんとか。恨みでもあるんですかってくらいに」
「あるからそう言ってるの。それくらい逃げは大博打、ハマれば大勝、ハマらなければ大爆死。安定しない戦法はトレーナーとしては選ばせにくいもの」
「確かにハマれば強いのは身をもって知っています。ですが、戦法としては弱いというのは一体どうして?」
「......辛いんだよ、逃げのレースは」
思い返すのは現役時代の頃秘策としてトレーナーから提案された戦法が逃げだった。その時に言われた言葉をよく覚えている。
『1人でレースを戦う覚悟をしろ』
「まず周りに誰もいない孤独感をずっと味わうことになる。
もし近くに誰かいてもそいつは後ろで顔も見れない。
戦う相手は常に自分。負けても言い訳できないくらいに追い込まれるしプレッシャーが半端じゃあないんだよ。
想像できるか? 後ろから地鳴りのような足音がして、他のみんなが迫ってくる。その恐怖感に負けて脚を前に進めたらアウト、怖気付いて緩めてもアウト。誰も寄せ付けずに、皆の勝利への渇望を最終直線で背中に浴び続けて、その全部を潰して押し切れる覚悟と心の強さがいる。普通のウマ娘じゃできない」
「......想像しただけで寒気がしますね」
「寒気どころじゃない。胃に穴が開くウマ娘だっているんだ。どれだけのストレスを抱えるのか想像なんてできないよ」
実際有馬のレース後にお腹痛くて医者に診てもらったら胃潰瘍って言われたっけ。懐かしいな、じゃなくてだな。
「次にストライドが広くなりすぎること。ストライドとピッチ走法くらいはわかるよね」
「それはもちろんですとも、歩幅が大きいほうがピッチ走法で、狭い方がストライドです!」
「逆だからそれ」
せめてレース知識は真面目に勉強してくれとツッコミを入れつつ咳払いをして話を仕切り直す。
「こほん。ストライド走法の特徴は加速力が少ない代わりに、最高速度をキープしやすい走り方。ゴルシのロングスパートがわかりやすいよね。
ピッチ走法はその逆、加速力が高いけどスピードを長い時間キープするのに向いてない。フクキタルもスパートの時はピッチ寄りの走り方になってるね」
「おお〜、そうだったんですね〜」
「本人が感覚的に走りやすい方を選んでるし自覚ないことがほとんどだからね」
「それで、ストライドが広くなりすぎると何が悪いんです?
というか走ってる時の歩幅なんてレースに関係あるんですか?」
「ある」
ここはしっかりと断言する。なにせトレーナーさんと積み上げた大事な理論の一つ、これを意識するしないで最後の一歩が変わる。
「フクキタル。普通に歩くのと大股で歩くのと、どっちが疲れる?」
「大股で歩く方が疲れますよ」
「そりゃまたなんで?」
「それは......うーん、言われてみると感覚的にとしか」
「ま、そんなもんでいいよ。逃げで走るわけじゃないし大雑把で。そんで、大股になると疲れやすくなる。
これをスピードとスタミナ消費を天秤にかけてバランスよく両立しているのが、ストライド走法のベスト。だから焦って踏み出す足が1、2センチ前に行くだけでそれはもうベストじゃない。スピードは伸びず、スタミナを無駄に消費するダメな走りだ。それに前に壁もない。いくらでも脚は前に踏み出せる。意識的にか無意識的にかはともかく、そうしてしまうだけで終わりなんだ。
逆にいえば先行、差し策を取るウマ娘が多い理由もここにあるんだよ。前にウマ娘がいれば脚は前に出にくくなって歩幅が広くならないんだ。走ることに意識を向けずレースに集中できる。前が開いた最終直線はその押し込められてた足の分、末脚も爆発的になる。
だから逃げは『難しい』。確かに自分の走りを維持すれば、先頭で走り続ければ誰にも邪魔されず周りを見る駆け引きのいらない、理論上は最高の戦略だ。
理論値を達成すれば、自分の走りを完璧にできれば勝てる」
「ほほう、わかりましたよトレーナーさんの言いたいことが」
私の言いたいことが伝わったか、したり顔のフクキタルがこちらに向かって宣言した。
「逃げるウマ娘を負かすには『自分の走りをさせなければ』いいんですね?」
「正解だ。先頭を走っているのはサイレンススズカ、フクキタルはどうする?」
「後ろにピッタリとくっ付きます」
「その理由は?」
「プレッシャーをかけ続けます。自分が後ろにいると足音で聞かせて、早く前に行かないと追いつかれちゃいますよって言い続けますね」
「うん、そういう方法もあるね」
私が現役の頃はあることないこと囁いたりだとか露骨に喋ったものだが今じゃ好まれないだろう。フクキタルくらい軽くてやりやすいのがベストかな。
「じゃあ大逃げしてたらどうする?」
「大逃げ、ですか?」
「そう、大逃げ。5バ身も6バ身も離されてたらどうする。その後ろにピッタリとついてくわけには行かない。そんな時は?」
「ど、どうしましょう?」
「難しいところなんだよね。大逃げってほとんど失敗するから無視すべきって意見のトレーナーも多い。成績を残したウマ娘もいるにはいるけど、圧勝か惨敗かの2択だし」
「ターボさんを思い出しますねえ」
「あの子もたぶん大逃げするタイプだろうね」
夏合宿にいたツインターボ、人懐っこいが先頭が大好きな彼女はランニングで先頭を突っ走ってはオーバーペースになりヘロヘロになっていた。
「大逃げとは戦略もへったくれもないスタミナ勝負。最初っから全力疾走してゴールまでに追いつかれるかどうかの運試しみたいなものなんだけど、ついていけば損するけど誰かついていかないとのうのうと逃げられる」
「......日本ダービーのようにですか?」
「アレは普通の逃げだけどよく似てるかもね。後方で牽制合戦してるうちにサニーブライアンを誰も警戒しなかった、そのお陰でしっかりと逃げ切らせてしまったわけだ」
「あの時は警戒はしてたんですけど捉えきれませんでした」
「あはは、対策がっつりしてたわけじゃないしね。今回はそんなことはないようにってちゃんと勉強してるんだから」
「そうですよね! 天は私をまだ見捨ててはいないのです、次なる舞台は見ていてくださいシラオキ様ーッ!」
「まあ、うん、やる気出してんならなんでもいいや」
「では早速」
「勉強の時間は占わない」
「あたっ!? ち、違いますよう」
気を取り直したかやる気ありげに耳を立て何やら捲し立てるフクキタル。流れるようにカバンから水晶玉を取り出して拝み出そうとしたのをチョップで咎めるが、彼女が鞄から取り出したのは、いつもの占い道具ではなく大学ノートだった。
「ノート?」
「人事尽くして天命を待つ、と言うじゃないですか。スズカさんと戦うことになってから、逃げの事はいっぱい調べましたよ。昔の逃げウマ娘とかもそれはもうバッチリと」
「そ、そうかい......」
「持つべき友はエアシャカールさんですね。それで、大逃げされた時はどうするんですか?」
「大逃げ?」
「はい。スズカさんが大逃げしてきたらどうしますか」
「してくると思う? そんな博打戦法リギルがさせてくれるかな。私としては無いと思う」
「スズカさんはレースともなれば人の話は聞かないタイプですよ。それに、ダービーでわかってるじゃないですか。先行策じゃ勝てない、トレーナーさんの言葉に従っても自分には合わないって」
「......それを言われると厳しいな」
「でしょう?」
目を細めてニコニコとしたり顔で笑ってくる。なんだかムカつく顔してるので後で頬は引っ張るとして、大逃げの対策か。
「対策はないわけじゃないかな。ピッタリ後ろにつくのも一つの選択肢だけど、フクキタルの脚質なら追いつける差をキープし続ける。スパートをかけても追いつけないようなセーフティリードをさせないことを心がけるんだ」
「私の脚で追いつける距離を見極めると言うことですね」
「スカーレットが代役になるとは言えないけど、おおよその感覚は掴める。明日からやろう」
「今日からはやらないんですか、トレーナーさん」
「だって今日ほんとは休養日だし」
「......えっ?」
「えっ? 言ってなかったっけ?」
そういうと細かく震え出すフクキタル。
確か非番でやることないし朝からずっと対策を練りつつ、一応形になったからフクキタルに声をかけて。
非番でやることなかったから、って、もしかして?
「トレーナーさん? きょうは、なんようび、ですか?」
「に、日曜日、だけどって......ヴァ」
「休みの日に呼び出したかと思えば! これ明日でも良かったじゃあないですかせっかくの遊びの約束断ってきたのにそれはないでしょう! うわーん!」
「わわわ悪かった悪かったからちょ、胸元掴むな揺らすな帽子が落ちる!」
「許しません許しません、天と地とシラオキ様が許してもこの私は許しませんとも、ブラックチーム反対ッ!」
「わかったわかった、わかったから落ち着いてーッ!」
学校近くのカフェにある高級パフェを奢ることで一応落ち着きは見せてもらえたが、あのパフェの値段はしばらくもやし生活になりそうなくらいには高いことはよく知っている。
「月初ってのに、こんな臨時出費があるとは、トホホ......」
「休養日はしっかり守ってください、モウッ!」