諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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マジックカード発動!


第2話 黒い新風

 

 

 

「ナウイあなたもチームスピカに入ればバッチグー、と。

どうだ? いけるだろ?」

「却下」

「なーっ!」

 

私はトレーナーが書いた手書きのチラシをビリビリと破り捨てた。センスが昭和かマルゼンスキーかっちゅーの、こんな古臭いつまらんポスターで誰がやって来てくれるか。

 

「じゃあお前書いてみろよ」

「任せときなさいよ」

 

 文句ありげなトレーナーからマーカーを受け取り、まっさらなA4用紙にペンを走らせる。

 

「ヤングな君たちもスピカにくれば万事オッケーモーマンタイ、っと。これでパーペキというわけよ」

「却下」

「なんでえゴールドシップ!」

「いや何書いてあるかわかんねーぞ」

「「マジで?!」」

「じゃあこれは没だなー。お前は風になるのだー」

 

 私とトレーナーはゴールドシップが適当に折って飛ばしたポスターの成れの果てを見ながら膝をついた。

 

「これが若さか......」

「いや、お前らセンス古いだけだと思うぞ。ゴルシちゃんが一筆書いてやっから任しとけって」

「絶対にダメ」

「なんでだよサブトレーナー!」

「なんて書くつもりか言ってみな」

「そりゃ『スピカに来なかったらダートコースに埋めてやる』って」

「脅迫文じゃないダメダメダメダメ!」

「ちぇー」

 

 手で大きくばつ印を作ると、つまらなさそうに回転椅子でクルクルと回り始めたゴールドシップ。だが、トレーナーは仕方ないかと言わんばかりにため息をついた。

 

「結局スカウトに頼るしかない。今日の放課後から選抜レースだ、偵察に行くぞ」

「わかりました」

「へーい」

 

 

そして放課後。

 

「いやあ今年の新入生は豊作ですよ」

「エルコンドルパサー、グラスワンダーの2人は特にずば抜けたセンスの持ち主と聞いています」

「いやはや、セイウンスカイも負けてはいないそうですよ」

「中等部の方では......」

 

 練習コースのスタンド前に集まるトレーナーの人だかりを抜け、なんとか1番いい席であるレース場全体を見渡せる高台の席を確保。トレーナーは別コースのデビュー戦を覗きに行くといってココにはいないし、ゴールドシップはどこにいるかわからずじまいだ。

 

さて、と独り言を呟きつつ双眼鏡を取り出す。レースを待つウマ娘を見渡せば、目的の娘はすぐに見つかった。

 

「今年の目玉は留学生のエルコンドルパサーにグラスワンダー。

エルコンドルパサーは先行策を得意とする好位差し型。ビッグマウスではあるが、それに見合った実力を持っていると聞く。

グラスワンダーは差し型。熱意はないおしとやかな性格の持ち主とあるがトレセンに来るウマ娘がそんな筈もない。

少々体が弱いとあるのがネックだが、最終直線のスパートは目を見張るものがあるという、か。

 

まー、この2人はウチには来ないだろうな」

 

 なにせ話題になるほどの有望株だ。他のトレーナーや強豪チームが目をつけないはずもない。後日には学園最強と名高い『チームリギル』の選抜レースもある。レースは希望制だというが、環境を求めるウマ娘ならば必ず申し込む事だろう。

同年代に、彼女らを超えられるウマ娘がいるのかどうか。

彼女ら2強の牙城を崩しうる才能あるウマ娘は。こればかりは、まずクラシック戦線を走ってみないことにはわからない。勝負に絶対はない、ハズなのだから。

 

「ま、トレーナーに見てもらわないとわからないか」

「さあ、各バゲートに入りまして......スタートしました!」

 

後でじっくり観察できるようにと渡されたビデオカメラの録画をスタートさせつつ、目線を発バ機の方へ向ける。

 

学園生のアナウンスを合図に、ゲートが開いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「前評判通りというかなんというか」

 

 エルコンドルパサー、グラスワンダー、2人の実力はずば抜けていた。どちらも2位に差をつける形で一着を獲得し、今はトレーナーたちに囲まれている。

 レース勘もデビュー戦前とするならばかなり優秀だ。スタートも悪くなく、スタミナ、スピードも頭ひとつ抜けているのは確かだ。

 

だが、収穫もあった。

 

セイウンスカイ。水色の髪が目立つウマ娘だ。

 2000mをしっかりと逃げ切るスタミナとペース配分が初戦からできるウマ娘はそうそういない上、最後はまだ余裕があった。おそらく中距離より長距離向き。

ペースを上げ下げして後続を混乱させるような走り方は後方からのレースでも遺憾無く発揮できるだろう。いい意味で『読めない』、そんな印象を受けた。

 

キングヘイロー。栗毛に青い耳のカバーをつけたウマ娘。

 有名な学園卒業生の娘とあって前評判は悪くなかった。留学生2人の話題性に喰われる形にはなったが、彼女らがいなければ今年の新入生の目玉になったに違いない。

 先行策を取り、なおかつ大外を回っても問題ないくらいの切れ味を持つ末脚は将来性を感じる。ただ、ペース配分やレース運びはまだまだ粗く、勉強が必要だろう。

 

レースで圧倒的な力を見せたのはこの4人だ。

 

 他に目に止まったウマ娘といえば......ぶっちぎり最下位でゴールしていた桜色の髪のウマ娘だろうか。ハッキリ言って悪目立ちしてたから目に止まったんだが、レース後も楽しそうに他のウマ娘に話しかけに行く様子はなかなか見られない。チームのムードメーカーとしては少し欲しくなるが、中央では戦える実力はなさそうだ。

それに騒がしいウマ娘はチームに1人で十分だと思うね。

 

「にしても」

 

 トレーナーに囲まれて高笑いして見せているキングヘイローに目が止まる。

 

「なんか、噛み合わないんだよなぁ」

 

 彼女のレースが、頭から離れない。

というのも彼女のレース、特に最終直線に何か違和感を感じていたからだ。たしかに最終コーナー、膨らみすぎて外を回る形にはなったが末脚で捲っていく様は見事だった。だが、最後の末脚は明らかに仕掛けが早かった。2000mだったらともかく、2400mならば2バ身から半バ身ほどの僅差で決着がついていたはずだ。

2000mを選ぶ以上クラシック戦線を選ぶのは明らかだが、彼女の適正は......

 

「マイル以下かよ、クソッタレ。コイツもハズレだ」

 

 私の疑問に答えたのは、観覧席の端に腰掛けてパソコンをいじっていた生徒だった。

 

 黒い短髪をワックスで尖らせ、耳には大きなピアス。顔にもいつくかピアスが埋め込んであり、目の下の黒いクマが近寄り難い雰囲気を醸し出している。パソコンで見ているのは先ほどのレース映像か、何か違う別のものか。

 ブツブツと爪を噛みながら呟きをやめない彼女の背後にこっそりと回り込んで画面を覗き込んでみる。私は、それを1秒とかからずに後悔することになった。

 

「ぜんぜんわからん」

 

 日本語と数字の羅列なのはかろうじて理解できるがあとはそこまでだ。ぐちゃぐちゃに混ざって書きつけてあるよくわからん文字の羅列。普段パソコンを使わないし、液晶画面に慣れてないおかげで目がクラクラするくらいだ。

 

「オイ」

「......あら、申し訳ないね」

 

パタン、と軽い音を立てて画面が閉じられた事で私は意味不明なカオスから解放された。そのかわりこのあからさまのファンキーなウマ娘にじっと睨みつけられている。

さて、こういう時にトレーナーのやることは?

決まっている。

 

「......名前は?」

「答える必要性があるか?」

「少なくとも、トレーナーがいなくて、チームにも所属していないなら、問いかける必要性は私にはあるね」

「はん。エアシャカールだ。聞いたことあるか?」

「エアシャカール、エアシャカール......知らない名前だね」

「そういうこった。時間を無駄にするより有効活用する方がいいんじゃないか? 気になるウマ娘の1人や2人いるだろう」

「目の前にいるね」

「ああん?」

 

 何を言ってんだコイツ、と言わんばかりの表情で私の方を見ているエアシャカール。彼女は頭をかき少しだけ考える素振りだけ見せて、立ち上がった。

 

「選抜レースを走ったウマ娘より隅でパソコンいじってた私に興味があるだあ? アホか」

「アホでもバカでも結構。あなたは走らないのかい?」

「もう走ってる。こんな不良もどき誰もスカウトにきたがらねえってさ。第一、ココのトレーナーは不勉強が過ぎる」

「へーえ」

 

 エアシャカールの言葉に私は引っかかった。というより最初に浮かんだ感想が「舐めているのか」だ。

 

「トレーナーだってライセンスを必要とする職業だ。筆記に実技、面接、そんじょそこらの誰しもが就ける職じゃない事を知っていて、それを言う?」

「ああ言うぜ。根拠に欠ける不確定な根性論を振りかざす能無しだ。散々ロジカルじゃねえって噛みついてやったら、めでたく放り出された」

 

 今思い出しても腹が立つのか舌打ちをかましつつゲートなんかを片付けるレース場を眺めているエアシャカール。なるほど、相当な好き嫌いがあるウマ娘と見た。だけど、こういう個性あるウマ娘こそスピカの水が合うハズだ。

 

「じゃ、ウチに来ないか?」

「ハァ?」

「ゴールドシップしかウチにいないが、ウチのトレーナーは」

「はいよ!」

 

 掛け声一閃、どこからか飛んできた投げ縄がエアシャカールをぐるぐる巻きにした。お互い信じられない状況に言葉が出ない中、芦毛の不沈艦が植え込みから姿を表して一言。

 

「だいたいわかった! ようこそチームスピカへ!」

「「そうじゃねえだろ!」」

 

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