アルェ......?
「うう、口からおみくじが出そうです」
「それどういう状況?」
「とても緊張してるってことですよ、モウ!」
「相変わらず個性的な表現をするね」
セーラー服めいた勝負服......と、いうわけでもなく、今回はGⅡレースということで赤地に白字のゼッケンに体操服である。どうしてこう、私が現役の頃からレトロな体操服でしか走らないんだろうか。ルドルフの体操着姿なんて似合わなすぎて同期の間じゃ笑いの種だったなぁ......違う違う。
「さてフクキタル、今日の運勢はなんだった?」
「ムッフッフ、なんと本日は大安吉日、星座占いとシラオキ様の託宣によればなななんと大吉でございます!」
「およ、だったらレース勝てるんじゃないの?」
「いえいえ、人事を尽くして天命を待つとも言います。
トレーナーさんと積み上げてきた努力とスズカさんへの対策案、この二つを活用することこそ勝利と開運への道と考えています」
目を瞑り、腕を組んで頷くフクキタル。運だけに頼るのは卒業出来たようで、成長を感じる。
「この舞台はその集大成、文字通り菊花賞への
「そこは1着と言って欲しかった。相変わらず変に卑屈なんだからもー」
でも前向きになっているのは良いこと、ウマ娘の意見はしっかり尊重しないとね。
さて、と言いつつ懐からノートを取り出して作戦会議。日本ダービーよろしく資料はバッチリ集めてきたが、何人ものデータに目を通すのはいらないかもしれない。
「逃げるスズカを捉えることだけを考えるとして、どうする?」
「実力はずば抜けていますから前半からマークしたい......ですけど、少し試したいことが」
「ん?」
「最後尾から抜いてみようと思うんですよ。全員を」
「......じゃあ、今日は先行策ってことで」
「わああ待ってくださいトレーナーさん、これにはちゃんとした理由があるんですよう!」
「話だけなら聞くけど」
確かにフクキタルなら出来んこともないが、スズカの逃げを捕らえることがか出来るかというと少し確証はない。私個人としては前につけて差す好位差しがベストだと思う。
「実は夢枕にシラオキ様がたちまして......」
「却下」
「最後まで聞いてって言ったじゃないですか! モウ!」
「はいはい、それでシラオキ様のお告げで最後尾からの全員を抜く作戦を貰ったと」
「なんと! トレーナーさんの夢枕にもシラオキ様が!」
「予想しただけよ。んで、やるの、それ?」
「勿論です、私なりにもできるかどうか考えてきたので!」
今までなら言わないような台詞に思わず驚いた。今までだったらシラオキ様の言うことには盲信的に従ってきたであろうフクキタルが、ワンクッション置くことができるようになってるとは。
「その理由を聞かせて」
「はい!
やはりこのレースで1番実力がある、マークされやすいのは私とスズカさんの2人です。ダービーに登録していたシルクジャスティスさんもいますが、直近レースでしっかり一位を取っている私の方がより警戒されることでしょう。
レースが開始します、先頭ではスズカさんが逃げている。放置していれば6バ身7バ身、下手をすれば10バ身と伸び伸びと走ってしまうことでしょう。となれば離されてはいけない、自然とハイペースなレースになります。スズカさんの
バ群の内ではおそらく壁が多すぎてダメなのでしょう。
前にいればハイペースに潰されてしまうのでしょう。
捕まえるならスタミナを温存し、バ群なんて関係ない大外を走れる」
「「最終直線」」
フクキタルと私の声が揃った。
「今までの練習はこの為にあったのですね! シラオキ様の託宣もありますが、トレーナーさんは素晴らしい慧眼の持ち主! やはり運命の人で間違いはなかったのです!」
嬉しさで跳ね回るフクキタルは無視して、彼女の意見を自分なりに噛み砕く。
予想される展開はフクキタルの言う通りで間違いない。
スズカの逃げと追従する面々。11人立てのレースだがGⅡ以上の経験がある面々は多くない。GⅠレースを走ったともとなればスズカとフクキタルのみ、レース経験数の差はあれど経験値は遜色ない。
スズカの平均スピードは世代トップ、練習と対策なしでかち合えば破滅まっしぐらだ。最終直線、バ群はそっくりそのまま高密度の壁になる。器用じゃないフクキタルにバ群はすり抜けられない。
だったら、長距離用に鍛えたスタミナで大外からぶち抜けば何も関係がない。後方待機し風を避けスタミナを温存し、最終直線に全てを賭ける。
ハイリスク、ハイリターン。
スズカの逃げが勝つか、フクキタルの末脚が勝つか。
「それで行こう。シラオキ様の意見、信じてみようか」
神頼みするのも悪くはない。
◇◇◇
「トレーナーっ、こっちこっち」
「いやーすまんね、兵庫くんだりまで来て貰ってさ」
「先輩の応援ですから!」
「データは生で取れるに越したことはねエからな」
レース場のゴール前のベストポジションで手を振ってくれたスカーレットとシャカール。スピカ揃ってというわけにはどうしても行かなかったが2人が付いてきてくれた。
「ありがとう、あがり症っぽいフクキタルの緊張も少しは解れるよ」
「別に、チームメイトとして当然のことですから」
「まァな。明石焼き食うか?」
「食べる食べる」
シャカールから差し出された、スチロールパックに6個並んだたこ焼きのようでそうでないものを口に入れつつ、空を見上げる。白く曇った空は少し寒く手のひらには雨粒。バ場状態は良で変わらないが、やや小雨気味といったところだろうか。
「バ場状態は良、天気は小雨。どう見る」
「ンー、スピードは2〜3%下がる、良発表だろォが摩擦係数低下は否めねエ。芝が手入れされて雨も小雨だろォがな」
「半バ身?」
「クビ差だな」
「なら問題ない」
「......なんの話してるの?」
「「そりゃ、今日のタイムの話よ」」
「こんな小雨だったら変わらないじゃない? 滑りやすいタイルの上を走るわけじゃないのに」
「お前それダート専のウマ娘に言ってみな、蹴っ飛ばされるぞ」
「優等生が聞いて呆れラァ」
「そこまで言われます?!」
「君はバ場気にするほど繊細なタチじゃなかろうけども......」
バ場状態で露骨に成績が変化する繊細なウマ娘もいる。スピカの面々はその例外ばかりが集まったようなものだが、レースともなれば話は別だ。手帳に挟んでた赤ペンをクルクルと回しつつ、シャカールのパソコンデータと見比べる。
「スズカの雨中レースは一回だけか。タイムは刻めてないし、並クラスには苦手とみた」
「それは重バ場だからろうがよォ。平均タイムをみりゃわかンだろ」
「でも例年よりかは時計が落ちてるんじゃないかい」
「あァ?」
「......トレーナーさん一昔前にレース場に入り浸ってたっていうオジサンみたいじゃない。明石焼き食べてるし尚更」
『GⅡ神戸新聞杯、出走ウマ娘たちがパドックに姿を......』
アナウンスと共にレース場中央の液晶にパドックの様子が映し出された。枠番順に準備体操をしたり、手を振ってアピールしたりする様子が映し出される中、フクキタルといえば......水晶玉に手を当ててなにがしかを祈っていた。
『エコエコアザラシ......エコエコオットセイ......』
「先輩はいつも通りですね」
「何祈ってんだよ、神なんて居ねえってのに」
「シャカール君は無神論者なのかい? 神様が数値化出来ないからって」
「たりめーだろ、見たものしか信じられねえんでな」
「んーリアリスト」
GⅡ神戸新聞杯、バ場状態良、天気は小雨。
「......約束、果たすから。見ててね、サニー」
「勝つ、勝つ、勝つ! ダービーの失態はここで晴らす!」
「ムッフッフ、今日の私は無敵ですよぉ〜」
三者三様それぞれの想いを乗せて、レースが今、始まる。