2枠 2番 スノーエンデバー
3枠 3番 ビンラシットビン
4枠 4番 マチカネフクキタル
5枠 5番 ナムラキントンウン
6枠 6番 テイエムトップダン
7番 トウジントルネード
7枠 8番 サイレンススズカ
9番 ムーンライトソング
8枠 10番 トウカンイーグル
11番 ルールファスト
「それで、枠番の方はどうなのかしら?」
「良い。阪神じゃ有利なウチ側を貰ったし単枠指定で余裕がある。後方に下げるレースをすると決めた以上、ウチラチ側に素早くつけられるのはありがたい。変にバ群に飲まれることだけが心配ってところかな」
「サイレンススズカは外か、逃げるなら不利な枠順だが先行有利なレース場だからなァ」
「色々考えてるわけね、勉強になるわ!」
「デビューしたら嫌でも覚えてもらうことになるよ」
レース場によっては枠番でどうしても有利不利が出来てしまう。例えば東京レース場は最終直線が長いため差し追い込み型に有利、逆に中山は短いため逃げ先行が有利になる。
こればかりはくじ運で決まるからどうしようもない。負けて枠番にケチをつけても結果は変わらない、ただ運が悪かったのだ。その面で言えば、フクキタルの大安吉日の運勢通りに枠番は勝ち上がり率の高い2〜4枠、1番のライバルであるスズカも7枠の外側と風はこちら側に吹いてる。
『さあ菊花賞トライアル、最後の一冠の挑戦権を手に入れるのは誰だ。GⅡ神戸新聞杯......レース開始です! 各ウマ娘、綺麗なスタート』
明るい栗毛のウマ娘がレース開始早々バ群から突き抜け、スッと先頭を取った。
ゼッケン8番、サイレンススズカだ。
「予想通り、だな」
「綺麗なスタートと加速! すごい!」
「ああ、やっぱり彼女は逃げウマ娘、スタートとスピードの乗せ方が上手い」
そのまま2番手、GⅢ毎日杯覇者のテイエムトップダンに3バ身ほどつけトップ、3番人気シルクジャスティスはバ群の最後方につけ、フクキタルはバ群の中央あたりで最内につけ様子を伺っている。
そのまま直線から1コーナー、2コーナーを抜け折り返しの向こう正面へ。今回は露骨にかかったウマ娘もいるというわけもなく、牽制こそあれ殆どが伸び伸びと自分の走りができていることだろう。目の前ではフクキタルが位置を下げ、最後方付近につけようとしているところだ。その向こう正面、目印のハロン棒が見えたあたりで隣でストップウオッチをにぎるシャカールに声をかける。
「1000mは?」
「59秒3。逃げウマがいりゃあ平均より若干上だが、超ハイペースって訳でもない。平均よりは速いが」
「だいぶ速い方だと思うけど」
サイレンススズカは先頭につけ後続とは3バ身前後。バ群は中段あたりがごっちゃになり、先行集団が若干壁になりつつあるか。3コーナーに差し掛かろうというところその中で、誰かが露骨にペースを上げていく。
「誰か仕掛けたわよ!」
「ゼッケン1番......シルクジャスティスか」
「焦っちまったな。あれじゃ最終直線に脚が残らねえよ。あと200は先で仕掛けてりゃ8%の勝率はフイになっていなかったたってのに」
呆れ声を漏らすシャカールだが、シルクジャスティスの気持ちもわからないでもない。
後ろから数えればスズカとの差は10バ身以上、さらに前にはバ群の壁、早めに仕掛けないと厳しいと判断したんだろうさ。コーナーでうまく抜けられる自信があるなら、ロングスパートをかけることも難しくない。そんな器用なウマ娘私はゴルシともう1人くらいしか知らないんだけど。
『最終コーナーを抜けて最終直線、依然先頭はサイレンススズカ、2番手テイエムトップダンとは1.5バ身差!』
「来た、来たわよ!」
「365.5m、さて、捲れるか......?」
「フクキタルはしっかり外に持ち出してる。あとは信じるしかない」
実況にも熱が入る。最終コーナー直線を抜けた瞬間だった。
サイレンススズカの身体が、沈む。
「まさか、あれはっ!?」
「疾く、もっと、疾く──」
『サイレンススズカ強い強い! あっという間に後続を突き放した! 2番手との差は3、いや4バ身!』
「スパート!?」
「オイオイ、冗談だろう......?」
「冗談もへったくれもない、コイツは」
名は身体を表す通り、彼女の走りはレース場を沈黙させた。
埒外の2段スパート。最終直線でなお加速するスタミナと才能。ハイペースな展開に食らい付いてきた後続のスタミナを喰いつぶし、希望をへし折る、圧倒的なレース運び。
「......コイツは......無理だ......!」
思わず鉄柵を握りしめる。2段スパート対策なんてやってない。8バ身を捲る練習はしたが、それは4コーナーからを想定した600mからを想定したものだ。
最終直線残り250m。
先頭とのその差は、なんと6、7バ身はゆうにあろうか。
「クソ......!」
対策のそのさらに上を力技にて轢き潰す。才能で何もかもを圧殺していくその走りは、現役時代の怪物達を彷彿とさせるかのようで、
「また、勝てないのか、才能には......!」
絶望に目を、伏せてしまった。
◇◇◇
「背中が、遠いです、ねェっー!」
そう呟かずにはいられませんでした。
ダービーのサニーさんよりも遥か遠く、速い背中。一度届きかけたあの時とは違って、手も届かないとバッサリと切り捨てるような、圧倒的な差が立ち塞がりました。
「ハッ、ハッ、ハッ──」
周りがスローモーションに見えました。色を失い、ゆっくりと動く世界。私も、他のみんなも、灰色で止まっているようでした。
その中で、スズカさんだけが輝いて見えました。
白と鮮やかな緑の勝負服、栗色の髪と尻尾。
それはとても眩しく、儚く見えました。
このままでは、目の前から消えてしまいそうで。
しかし、なにより。
彼女が
私は、負けたくはありません。
当然です、好き好んで負けるウマ娘はいません。
それに......色んな人に、力を貸してもらいました。
トレーナーさん、スカーレットさん、シャカールさん。
沖野トレーナーさん、ウオッカさん、ゴルシさんにも。
そして何より、応援してくれる人がいます。
その為にも欲しいんです。
好き嫌いは減らします。
勉強も前より真面目に頑張ります。
練習はもっと頑張ります。
私のためじゃなくて。
私のために頑張っている、トレーナーさんに、勝利を!
『いいよ。日頃の行いと......いつものお供物に免じて、ちょっとだけ。ちょっとだけ、力を貸してあげる。全く、手のかかるーーーーなんだから』
◇◇◇
『大外からマチカネフクキタルも上がってきたぞ!
あと200m、ドンドンと差を詰めてきている!』
「「来た!」」
「来たわよ、見てよ、トレーナーっ!」
「......え?」
スカーレットに肩を叩かれ、指を差した方を見る。
そこに居たのは。
「ふんぎゃろ、ふんぎゃろ、ふんぎゃろーっ!」
必死に脚を動かして、目を見開いて、追いつこうと叫ぶフクキタル。
そうだ、諦めちゃいけない。私が先に諦めてどうするっての。
柵から身を乗り出して精一杯叫ぶ。声がフクキタルに届くように。
「行け、行け、行けーっ!」
『どんどん差を詰める。あっという間だ!
その差は3バ身、2バ身、半バ身! 並んだ! 躱した! そして今、ゴールインっ!
マチカネフクキタルが勝ちました! 神戸の舞台に福が来た! 2着はサイレンススズカ、3着にはトウジントルネードが入りました。
3コーナーまでシンガリだったマチカネフクキタルでしたが、4コーナーで一気に差を詰め、最終直線抜け出しました。さてー』
「おめでとうフクキタル! 重賞初制覇! 菊花賞にも出られる! 最ッ高! 今ならシラオキ様信じられる!」
「へへへ......ありがとうございます。アハハ......」
「もうちょっと喜びなさいよこのこの〜!」
「先輩を胴上げしましょ、胴上げ!」
「3人じゃ無理じゃねェか?」
「や、る、の!」
「チッ。しょうがねえな」
「ええ〜?」
地下道に先回りして、わっしょいわっしょいと一通り胴上げ。力を使い果たしたかふらふらと歩いてきた身にはちょっぴり手荒い歓迎だけど今日ばかりは許して欲しい。なんせGⅡの勝利だ!
「......実感湧きませんねえ」
「まあまあ、そういうもんさ。とりあえずライブの準備をして、終わったらパーっとね!」
「トレーナー随分とキャラが違うような、本当に同じ人?」
「ハメを外せばこんなもんよ私。なに、もうちょっとおカタイ人だと思ってたクチ? うりうりー」
「端的にいうとその......なんというか......」
「世間一般から見れば『熱苦しいうざってえ飲み屋の酔っ払い』だろうが」
「......辛辣すぎない?」
「事実を述べて何が悪い」
スカーレットのほっぺをつついてたらシャカールのなんて言いようだか。ま、普段よりかはテンション高めなのは認めるけどもね。これでしばらくのストレスから解放される......
「28日後には京都新聞杯だろうがヨォ。1番人気は成績と勝ち方見れば確定だ。マークされる上、菊花賞で競るだろうウマ娘ばかりだ。ステイゴールドもいる、さァ対策考えなきゃなぁ?」
「考えたくないそういえばそうだった。頑張ろうねフクキタル」
「それよりトレーナー。ここ1週間以上フクキタル先輩のダンス練習見たことないんだけど......大丈夫なの?」
「......あっ」
「あっ」
「「あっ?!」」
「またやらかしてるじゃないの、もー!」
くぅ疲れました、これにて1戦目です。あと2回、がんばるぞい!