「......の、割にノーミスで踊ってるのはどういうこっちゃねん?」
「私にもわかりません?」
「なぜ疑問系」
「それが記憶がとんでいまして、で気がついたら控室にいたといいますかなんといいますか」
「はぁ」
つつがなくウイニングライブを終えた帰り道、新幹線の中で何が何だかと2人して顔を見合わせていた。
「最終直線もうろ覚えですし、どうしたもんかと棒立ちになってたらいつのまにかライブも終わってますし、今日は厄日です」
「
「ゾーンですか?」
「一流アスリートならたまになるらしい『究極の集中状態』てやつだよ、聞いたことない?」
「全く聞かないですねえ」
「一種のオカルトみたいなものだからかな。都市伝説というかなんというか」
実際、私は現役時代に一度だけそれを体験したことがある。といっても私ができたわけじゃなく、目撃しただけだ。レース直後に目の前にぶっ倒れたウマ娘の肩を叩いたら、ガバッと跳ね起きて最初に言った言葉が『寝坊したレースに遅れる!』ときたもんだからさ。
なんでも朝っぱらから記憶がすっぱりないんだという。フクキタルも時間は短いけども似たようなことになっていた。
「......意図して入れるものじゃないことだけは確かなんだよね。それだけレースに集中できたってことだろうし、あの豪快な捲り方も納得がいくかな」
「動画見ましたよ! 我ながら凄まじい豪脚、まさに神懸かり的といっても過言ではないかと!」
我ながら鼻が高々ですよとドヤ顔を披露するフクキタル、その伸び切った鼻をつまんで左右に揺らしながら眉間に皺を寄せて、
「油断しない。次はもっと強いウマ娘が出てくる京都新聞杯。マークされるし、注意するウマ娘もたくさんいるんだからね」
「ふがふが......」
「でも、今日のレースができれば勝てる。そこは自信持っていいから、練習と対策会議頑張るよ」
「ふぁい!」
◇◇◇
「負けて、しまいました......」
「そう」
1 1/4バ身。
同じく同期で燻り続け、一度は下したマチカネフクキタルとはどこで差がついてしまったのだろうか。それはトレーナーの差や彼女達の才能ではない。
相性、だろう。
サイレンススズカと私、東条ハナの育成理論は合わない。そう結論つけざるを得ない。スズカを育てられそうなトレーナーと言えばあのいけすかない2人の顔しか思いつかないけど、これほどの才能は私の手で埋もれさせるのにはあまりにも惜しい。
スズカには少しばかり辛い思いをさせることになるけれど、ウマ娘の幸福な未来を。
ルドルフの受け売りじゃないけど、スズカには気持ちよく走ってもらいたいもの。
「スズカ、2ヶ月後にレースに出てもらうわ」
「秋の天皇賞ですよね」
「......それについては、見送ろうと思うの」
そう告げると寝ていた彼女の耳が立ち、信じられないと後ろに耳を倒す。正直に伝えるべきだろう。
「どうして、ですか」
「......スズカ。私はあなたの才能に惚れ込んでスカウトした。けど私ではあなたの才能を扱えない。悔しいけれど」
「......」
彼女はあまり多くを語らない。だけど、耳や尻尾に表情はよく出る。申し訳なさと、自分に対する不甲斐なさ。気にしないで、と肩を叩いて声をかける。
「この時期はじっくり身体を作ってほしいのだけれどその前に11月末、あなたにはタウラス
「......はい」
「
「......!」
驚いたように目を見開くスズカ。
「いつも煩く言っていたものね。でも今回は何も言わないわ。あなたの好きなように、望むように走りなさい」
「いいん、ですか」
「ええ。これからは思うように走りなさい。けど、身体には気をつけるようにね」
「......はい!」
さて、あとは仕込みをするだけ。あの男とあの子に連絡をしておけばいいでしょうね。
そういえば、レースの日には北海道から転入生が来るんだったわね。ちょうどレースが見れる頃合いかしら......