2番 トウジントルネード
2枠 3番 テイエムトップダン
4番 マチカネフクキタル
3枠 5番 ノーザンウェー
6番 パルスピード
4枠 7番 ダイワオーシュウ
8番 ヒダカブライアン
5枠 9番 エリモダンディー
10番 ルールファスト
6枠 11番 ショウナンアクティ
12番 ニケスピリット
7枠 13番 サードサンスリル
14番 メジロブライト
15番 トキオエクセレント
8枠 16番 シルクジャスティス
17番 シルクライトニング
18番 シャコーテスコ
レースは序盤は波乱なく澱みなく進んだ。向こう正面からスタートする長丁場、スタート直後は横に広がるけれども、コーナー入口から3、4コーナーにかけてそれぞれが立ち位置を決めていく。バ群は縦に広がりながら正面スタンドへと差し掛かった。
先頭逃げを打つ3番テイエムトップダンに続く形で2番トウジントルネード、その後ろにフクキタルがいた。メジロブライトとステイゴールドは中段で様子を伺い、シルクジャスティスは後方待機で追い込み態勢を見せている。
「せんぱーい! 頑張ってくださーい!」
「がんばれって下さい!」
「気楽に行けよ気楽にー」
スタンド前は応援の声に盛り上がりウオスカコンビと沖野さんが軽くフクキタルに声をかける中、私とゴルシくらいだろう、浮かない顔をして腕を組んでいるのは。
「やっぱり様子がおかしい。真剣なのは伝わるけど、なんというか違う」
「言語化できない『感覚』か? それは理解を放棄してるのと同じだ、向き合えよトレーナー」
「......もっとフクキタルは横を見るよ。自分が弱いと信じてうたがわないクチだったんだ、その性根は直っちゃいない。
中段に控えてるなら尚更位置取りには気を使うハズなんだ」
「それだぜそれ! あいつが前だけ見てるなんて珍しーンだよ! 今日あいつ大吉だったか?」
ゴルシの言葉にハッとした。
「今日、あいつとは当たり障りのない会話しかしてない。バ場状態、ウチの荒れ具合に作戦の最終確認、調子良さそうなウマ娘のピックアップ。
素直に話を聞いてくれていたから何も思わなかったが......
「......!」
「オイオイ、ソイツは」
「そりゃスカーレットが3着に拘るくらいにはヤベーぞサブトレ。なんか思い当たる節はねーのか、もう1コーナーにいっちまうぞ!」
「緊張なんてもんじゃない、何かおかしい、何か......」
フクキタルは緊張すればするほど騒がしくなるタイプなのはダービーでよく知っている。あんなに落ち着いてるくらいの口調で応対したのはリラックスした証拠とは思ってたけども、今思い返せば別人のようだ。
「あんな別人みたいなフクキタル初めてだ」
そう口にしたところで、バカバカしい仮説を思いついてしまった。
『シラオキ様』
夏合宿の時、マンハッタンカフェがフクキタルに憑いているという幽霊について語ってくれた。フクキタルと瓜二つだという外見と、時折語られる『シラオキ様』の的確なお告げ。そして神戸新聞杯でのレース中の『領域』と習いもしないダンスが踊れた謎。
バカバカしいにも程があるが、説明はつく。
もしかしてだが、『シラオキ様』とフクキタルが入れ替わっているとしたら?
「冗談......とも、言い切れないかもしれない」
目の前でフクキタルがバ群に埋まり、1コーナーを駆け抜けていった。
スローペースな展開、有力な先行バがいない上に3000mという長距離を走り慣れないクラシック級ではままあることだ。この展開では長距離戦ではなくある種のマイル、スプリント戦とも言われる展開になりがちだ。予想していた通り、最終直線での瞬発力勝負になるだろう。
中盤のメジロブライトのスパート距離次第ではそうはならないだろう、スタミナ自慢がペースを途中から握り、周りを潰すような展開にならなれば状況は一変する。しかし、それをできるスタミナは彼女にはないだろう。悪いが彼女が名門育ちであろうが今はまだ『並以上』のウマ娘に過ぎず、規格外でなければそんなレースメイクはできない。
となれば、レースのターニングポイントはどこだ。
「どうするんだ?」
「......祈るしかない」
バ群は向こう正面へ。先頭は以前テイエムトップダン、しかしその差は3バ身ほどで、あとはバ群が切れずにまとまって続き全体では10馬身と少しほどだろうか。
フクキタルは先行集団の前方、4、5番手、理想的。
このままいけば、勝てる可能性は大いにある。
勝てるなら文句は言わない。
誰が走ろうが勝者に文句はつけられない。
だとしても、だ。
「フクキタルの気持ちはどうなる」
気がついたら栄光が転がり込んでいたとして、しかしその記憶はないとして。
自分のものではない勝利を、素直に喜べるウマ娘でいるだろうか。フクキタルはそんなに図々しくはない。占いに頼りきりだったのは自信のなさの表れだ。けど、最近は占いの質が変わってきていたはずだ。
レースに対する自信、自分の実力に対する自信。それがあるからこそ、彼女は占いに対して真剣だった。
『人事を尽くして天命を待つ』とはまさにこのこと。自分の身でやれることは全てやった。それ以上の干渉は不要だと。
カミサマだか何だか知らないが、レースにでしゃばって貰っちゃ困る。
何より......私が気に入らん。
フクキタルにはそんなもん要らない。背中を押してもらわなくても『マチカネフクキタル』は勝てる。
私を舐めるな、何よりフクキタルを舐めるな。
菊花賞に天運など要らない。
このレースは1番『強い』ウマ娘の舞台だ。
運を排した、実力の世界だ。
さあ、第3コーナーを抜け第4コーナーへ。
「マチカネフクキタルッ!」
私は柵から身を乗り出して4コーナーを回ってくるフクキタルに届けと、思いっきり叫んだ。
虚な目でふらふらと走るフクキタル。今すぐにでもウチラチにぶつかってしまいそうで、バ群に埋まって見えなくなってしまいそうな限界の彼女にかける言葉などそう多くはない。
なら、その想いの丈を叫べ。
◇◇◇
「く、ぅっ......」
苦しい。
吸う息が鉄臭くて、視界は朦朧とし始めている。
脚先からビリビリとした感覚が伝わって、ふくらはぎはパンパンで、太ももは痺れるような疲れが伝わってくる。
腕なんて自分で振っているのか慣性で振らされているだけなのか。
どうでも良い。
私が苦しいと感じるならあの子はそれ以上だ。
私の苦痛はどうでもいい、コレが終われば全て終わる。
あの子には申し訳ないけど忘れて欲しいから。
私を終わらせるためには、
勝てばあの子は私をもう背負うことはなくなる。
勝てば誰も私のことを気にしなくなる。
勝てばあの子をみんながしっかり見てくれる。
背中を押しすぎて入れ替わってしまったなんて、本当に最後まで迷惑をかけてしまった。天才だ神童だと讃えられて、行き着く先がこんなものだなんて。
私では限界だ。偽物で借り物の私には、
これ以上背負わせたくない。
これ以上後ろを向いて欲しくない。
なのに、なのに。
「マチカネフクキタル!」
誰かが叫んだ。
「コレは、お前のレースだろうがっ!」
誰かの声が聞こえた。
身体が震えて、胸が熱くなる。
「......今までありがとうございました、シラオキ様。いいえ......お姉ちゃん」
マチカネフクキタルが突き抜ける。
私を置いて、誰よりも速く加速していく。
私の手助けなんてもう必要ない。
知らないうちに、フクは大人になってたんだね。
行け。行け。行っちゃえ。
誰よりも速く、時間さえ止まってしまいそうな
◇◇◇
最終直線は後方から外側を通って追い上げてきた後方集団の激しい捲り合い勝負。先行集団は伸びを欠き、逃げていたテイエムトップダンをはじめ苦しい顔をしたウマ娘が群れに飲み込まれていった。
「フクキタルッ......」
私の叫びは届かなかったのか。フクキタルはバ群に埋もれてもう見えない。あそこで伸びないのなら、フクキタルに脚は残っていない。
『外からメジロブライトが伸びる! その外からエリモダンディーも伸びてくる、おおっとダイワオーシュウも突き抜けてくる、コレはわからないぞ!』
実況も差し合いの先頭に目を向けていた。
大外を突っ切ってきたメジロブライトが苦しげに歯を食いしばる。ダイワオーシュウが在らん限りを振り絞るように叫ぶ。
誰が抜きん出るかわからない。だがフクキタルはその勝負の場に参加しているとは言い難かった。
「......駄目だな、コリャ」
「おい、あたしらが諦めてどうすんだゴラ」
「伸びてこねェよ。あそこで伸びなきゃ、勝ち目は0%だ」
エアシャカールが諦めたように首を振った。
ゴールドシップが突っかかるが彼女のいう通りだ。
差し合い勝負にもデッドラインはある。1ハロンが限界だ。神戸で見た神がかり的な末脚でも瞬間移動なわけじゃない。
「......なんて言い訳をするな」
頭を下げるな、諦めるな。私が諦めてなんとするか。顔を上げろ。諦めるな、道がないなら切り開いて見せろ、主役は勝者だ。なら、勝者は誰だ!
「コレは、お前のレースだろうがっ!」
「ええ、そうですとも」
バ群の中に、金色の焔が立ち上るのを幻視した。
誰かがバ群を切り裂いて上がってくる。
白いセーラー、青のスカート。トレードマークは招き猫。
「「来た!」」
「......へぇ」
「よっしゃ!」
「はァ?!」
「行け、行け、いっけーーーーーーーっ!」
『マチカネが突き抜ける! フクキタルが来た! またまた福が来た、神戸、京都に続き、菊の舞台にも福来たる!
一着はマチカネフクキタルです!』
菊の舞台に
クラシック最後の一冠。
彼女は見事自分の元に幸運を運んで見せたのだった。
疲れました。