諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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というわけでアニメじゃーいじゃーい。
オリジナルウマ娘も出るよ......


第35話 スカウト その2(非合法)

 

 

「あれ、みんなは? 今日は練習でしょうに?」

「ちょっと野暮用でな」

「今日のトレーナーさんの運勢は......中吉、新たな出会いがあるかも!」

「新たな出会いとな」

 

 フクキタルが水晶玉を膝に乗せてそう宣言するが、どうも疑わしいものだ。結局フジキセキが言っていた転入生の件についてもわからずじまい。放課後にフクキタルのつきそいで病院に行っている間に『リギル』冬の入部テストがあったらしいが、冬の入部テストは通年でも特に不作なのはよく知ってるのでみなくても構わないだろう。実力者であれば秋までにスカウトがかかっているだろうし、殆どが他チームからリギルに移籍を狙ってのテストになるからだ。

 

 そんなことより今はスカーレットのデビューも間近、デビュー戦の時期やどこに出走するかなどしっかり話を詰めたかったんだが、チーム室には影も形もない。

 というよりチーム室にウマ娘がいない。今ここに居るのは私、フクキタル、沖野さんと客が一人居るくらいだ。

 

「「「えっほ、えっほ、えっほ......」」」

「たのもーっ!」

 

 するといつものごとくゴルシが扉を蹴破って現れた。何故かマスクにサングラスと不審者然とした格好をした上同じ格好のウオッカにスカーレットにシャカールをひき連れてだが。

 彼女らが担ぐ肩の上にはちょうど人間サイズのズタ袋、しかも抵抗するように中身がモゾモゾと動いている。

 

「コイツで良いんだよなトレーナー。

 ボブカットに編み込みハチマキみたいなやつに白いメッシュ。んで田舎者のおのぼりさんっぽいやつ」

「沖野さん何やってんだいやこら拉致だよ!」

「助けておかーちゃーん!」

「......とりあえず話をしたいから下ろしてやれ」

「あいよー」

 

 ズタ袋を脱がせると、中身は何の変哲のないウマ娘だった。というより、レース場で出くわした田舎ウマ娘じゃないの。

彼女はぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開くと、ちょうど目の前にいた沖野さんを見つけ飛びのいた。

 

「あーっ! 痴漢の人!」

「「「痴漢?!」」」

「沖野さんのいつものだよ」

「「「あー」」」

「みなさんもここに染まってきましたねー」

「ああっ! レース場にいた車椅子の人!」

 

 フクキタルがのほほんと呟くと、声に気がついたのか指をさしてまた声を張り上げる。

 

「さ、お前ら自己紹介だ」

「「「「ようこそ、チームスピカへ!」」」」

「スピカ......? ああっ、表の怪しい看板!」

「いつの間にそんなものを......」

 

 大方ゴルシと沖野さんが結託したんだろう。あいも変わらず常識はずれというかなんというか、って怪しい看板ってなんだそりゃ。

 

「今日からお前は俺のチームのメンバーだ。ちなみに俺がトレーナーで、そこのジャージがサブトレーナーだ」

「か、勝手に決めないでくださいよう!」

「勝手に決める。お前は俺が磨く」

「ゔぇええええ!?」

 

 どうにも沖野さんのお眼鏡にかかって拉致紛いのスカウトとなったようだ。しかしこの決定に既存メンバーは不満げ。

 

「さっきのレース2着だったのにかよ」

「ああ、そうだぜトレーナー」

「上がり3ハロン33秒8はこの時期じゃ平均以上だろォがよ。そりゃ才能があるってことだ、ナァ?」

「シャカールの言う通りだ。それに走った後の息の入り方も良い。心肺機能も評価できる」

「ふぅん?」

「むむむむむ......」

「まあまあ落ち着いてください、皆さん悪い人ではありませんよ」

「あ、えっと......」

「マチカネフクキタルです。今後ともよろしくお願いします」

「あ、どうも。スペシャルウィークと言います」

 

 ぺこり、と律儀に頭を下げ名乗るスペシャルウィーク。やんややんやと騒ぎ始めた本人達が自己紹介を始めるまでにも時間がかるだろうと、フクキタルは自己紹介の続きを勝手に始めた。

 

「1番背が高い芦毛さんがゴールドシップさん。赤い髪のツインテールがダイワスカーレットさん。茶髪に白いメッシュがウオッカさんで、黒髪がエアシャカールさんです。

そして、今日から貴方と同じようにこのチームにやってきたのが」

「すすっす、スズカさん?!」

「おや、そういえばレース一緒に見ていましたっけ。なら名前と顔を知っていて当然ですか」

「どうしてここにいるんですか?! リギルの所属だったんじゃぁ!」

「今日付けでウチに移籍だよ」

「うええええええええええええええええ?! どうしてなんですか?!」

「あのチームはスズカさんの走りをわかってないのよ」

 

 同じ逃げウマの苦悩がわかるのかふふんと胸を張るスカーレット。不思議そうにスズカさんが首を傾げるが、やっと事態を飲み込めたと見た沖野さんがスペシャルウィークに声をかけた。

 

「お前、『日本一のウマ娘』になるのが目標だと言ってたな?」

「い、言いましたけど」

「じゃあ聞こう。『日本一のウマ娘』ってなんだ」

「そ、それは......」

 

 言い淀むスペシャルウィーク。たしかに日本一というのはとてつもなくアバウトな目標だ。それを再確認させるため、か。

 

「そりゃG1で勝つことだろ!」

「俺はダービーだな!」

「バカね、有記念だって!」

「三冠に決まってるだろォがよ」

「宝塚記念でしょう!」

「スズカは何だと思う?」

 

それぞれが即答する中。彼女は少し考えて短く呟いた。

 

「夢」

「夢、ですか?」

「見ている人に夢を与えられるような、そんなウマ娘」

 

息を呑むスペシャルウィーク。燻っていたスズカが自分に言い聞かせるようなセリフだったが、彼女はそれに深く感銘を受けたらしい。

 

「なぁ、お母ちゃんと約束した日本一。俺と、俺たちと一緒に、叶えないか?」

 

トレーナーが優しく問いかけると、彼女は呟くように返した。

 

「トレーナーさん、私の夢、笑わないんですね」

「笑う奴がどこにいる? ここは『夢を叶える場所』なんだよ、スペシャルウィーク」

 

 私はそう言って笑って返した。私のバカバカしい夢もここで叶えてもらった。なら、後輩の夢も叶えてやるのが道理というものだろう。

 

「私......私、ここで頑張りたいです!」

「よしゃ、新入部員ゲット!」

「早速、来週からトゥインクルシリーズに乗り込んでいくぞう!」

「おうおう!」

「お前、スペシャルウィークだったな。登録しておくから、来週頑張れよ」

「来週? 登録?」

「沖野さん、まさか......」

「来週デビュー戦だ!」

「ちょっと待ったーッ! アタシのことを忘れてもらったら困るぜ!」

「......うん?」

 

 またしてもドアを蹴破る阿呆が一人。

 

「アタシも入れてくんな!」

 

ドアを蹴破ってきたのは、黒髪に赤いメッシュを入れたウマ娘。彼女は自分を指差し、そして目の前にいる沖野さんではなく......私を見てそう言ったのだ。

 

「なんだ、新しいメンバーか? スカウトしてんだったらそう言ってくれよ」

 

やれやれと沖野さんが私に向かってそう言う中、私はこう答えるしかない。

 

「ど、どちらさまですか?」

「えっ?」

「えっ?」

 

「「「......えっ?」」」

 

「新たな出会い......成る程、そういうことでしたか」

「誰か説明しろってンだよぉ!」

 

シャカールの突っ込みが冴え渡る。

 

チームスピカは、今日も今日とて騒がしい。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

場所は阪神レース場。時間はスペシャルウィークの入部から1週間後。

 

 赤メッシュのウマ娘を含めた全員で、スペシャルウィークの応援に来ているというわけなのだが。

 

「んで......君の名前は」

「レットキングダムと言います、ヨロシク!」

「なんでウチに来たの?」

「フク先輩の走りがスンゲーカッコ良かったからです! 神戸新聞杯の時なんかは──」

「......なんか子供のウオッカを相手してる気分だよ」

「なんか言ったかサブトレ」

「なんにも」

 

 両拳を震わせ、いかにフクキタルがカッコ良かったかを熱弁する彼女、レッドキングダム。なんでもフクキタルに憧れ、私のことを一日中探し回った挙句、やっと見つけたとのことでスピカの扉を蹴破ったと先程語ってくれた。

 

「......とりあえず君の熱意は買おう。ようこそスピカへ」

「ははーっ! ありがたきしあわせーっ!」

 

 というより自力で阪神まで引っ付いてきて入れろ入れろと騒がしければ折れるしかないだろうに。とはいえ熱意があることも才能だ、これだけやる気があるなら練習に真面目に取り組んでくれるだろうし、いい影響を与えてくれるかもしれない。

 

「ところで、スペシャルウィークにパドックのパフォーマンス教えました? 我々(トレーナー)の仕事ですよね」

「やべ」

「フクキタルの時から何も学ばなかったですか沖野さん?!」

「まあなんとかなるだろ」

 

 目の前のパドックでは、両手両足を一緒に出して歩いているスペシャルウィークの姿が。思わず頭を抱える。

 

「あいつ緊張しすぎだろ! どーすんだ!」

「上着カッコよく脱ごうとしてますが......あの掛け方では上手くいきませんよ」

 

 フクキタルの心配どおり、彼女はバランスを崩し漫画よろしくズッコけた。張り詰めたパドック内にちょっと和やかな空気が流れる。

 

「オイオイ大丈夫なのか......?」

「あー、しまった。ゼッケン渡し忘れてた。これ、誰か行ってくれないかなー」

 

 ぽりぽりと頭をかきながら、白々しい演技も交えつつゼッケンを取り出した沖野さん。その視線の先にいたのは、言うまでもないだろう。

 

「スズカ、頼めるか?」

「......はい」

 

 

 十数分後、憧れのスズカと何か話して吹っ切れたのか、緊張がほぐれ堂々とした立ち振る舞いを見せるスペシャルウィーク。そのまま行われたデビュー戦では順当に先行策を取り、後方から追い上げてきた芦毛のウマ娘を直線で差し返す見事なレースを見せて、その才能を証明した。

 

した、のだが......

 

 

「ダンス教えてないのは知ってるのでちょっと身体乗っ取ってきます。トレーナーさん何とかして私ごと控室に潜り込んでください」

「しょうがないなぁ。じゃあちょっと行ってくるよ」

 

 もはや隠す気もないのか、一瞬で入れ替わったシラオキさまが闇深そうな目でにっこりと笑って睨みつけてくる。瞳孔まで真っ黒なのは流石にホラーなんよ。

 

「というわけでスペシャルウィークよ。後ろ向いてちょうだい」

「? 別に構いませんけど。そ、それよりウイニングライブの練習なんて全くしてないんです助けてくださいぃ!」

「大丈夫です、シラオキさまを信じなさい......当て身」

「はぐぅ?! ......ふぅ、これでよしと」

 

 フクキタルの手刀で見事にダウンを取り、目を回したかと思えば一瞬で乗っ取りを完了させていた。喜怒哀楽が激しいスペシャルウィークがニコニコと目を細めるさまはなかなかに異質だ。

 

「あ、皆さま。このことはどうかご内密に......もしうっかりバラしてしまったりしたら、その身に不幸が降りかかる事、覚悟してくださいね?」

 

彼女の異様な雰囲気と態度に恐れをなしたか、ブンブンと首を振る2人のウマ娘。その後つつがなくウイニングライブは終了し、スペシャルウィークの思い出を犠牲にしてスピカが恥をかくことはなくなった。

 

だが、これを機に学園の中で不思議な噂が流れることとなる。

 

 

 ウイニングライブを疎かにするものは、舞台に立てず亡くなってしまったというウマ娘の幽霊に呪われてしまう......という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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