なんかこれn番煎じな気がします
今日も今日とて偵察任務。
選抜レースは何も1日だけの開催じゃない。年4回、レース相手や距離を変えつつ何回も走ることになるため、1週間中央模擬レース場はトレーナーやウマ娘で溢れかえる事だろう。
「というわけで中等部の方にやってきたわけですが」
双眼鏡を覗き込みつつ、あたりをぐるっと見渡してみる。
高等部より落ち着きがないゲート前は騒がしく、友達同士で話をするウマ娘もいれば忙しなく体を動かしているウマ娘もいる。
「懐かしいなあ」
「ノスタルジックに浸りにきたわけじゃ無エだろ?」
「失礼失礼」
「ラップタイムに狂いがあれば計算が狂う。絶対にミスは許さねえからな」
「トレーナー試験にラップタイ厶計測があるのご存知?」
隣でビデオカメラを構えているのは、先日ゴールドシップが簀巻きにしたエアシャカール。私とゴルシの説得も虚しくチーム加入は先送りになってしまったものの、前のトレーナーよりは興味深いとしばらくは仮加入としてチームにいることとなった。
「さて、この学年注目株は」
「ウオッカ、ダイワスカーレット、カワカミプリンセス、スイープトウショウって所だ。学内レースじゃ結果を残してるのは主にこの4人、他にも名前は出せるが?」
「流石にそれ以上は見極められないからパス」
「元学園生の割には眼が悪いんだな」
「トレーナーとしては新米なんですー」
ただしこの歯に衣着せぬ言葉ばかりは気に入らない、先輩なんだから少しは敬意を持って接して欲しいものだ。ゴールドシップは何を言っても聞いてくれない以上、1人くらいは素直になって欲しい。
「ところで彼女らどんな娘なの? トレーナーと何か話してたろうし、私が知る以上の資料はどうせ握ってるでしょう?」
「察しが良いトレーナーは良い、無駄な会話が要らないな。だが、トレーナーはお前に『見せるな』ってさ」
「見せるなって......もー、自分の目で見極めろってか!」
「そういうことだろ。ロジカルじゃないが......」
「トレーナーは教え子に考えさせるのが好きなだけなんだよ。出走表ちょうだい」
「はいよ」
「注目株のレースは......って、どういうこと?」
「どうした?」
「ダイワスカーレットとウオッカが一緒に走ることになってる。有力ウマ娘はある程度バラけさせてレースを編成するってのに、学園側のミスか?」
「トレーナーの頼みで私が書き換えたからそうなってる」
「ハァ?!」
棒付きの飴を咥える様はトレーナーと瓜二つ。私は彼女の奥にいたずらっぽく笑うトレーナーの姿を幻視した。
「2人は確実にこの学年の目玉になる。だったらいっそ競り合わせて実力を測りたい、だとさ」
「んな無茶苦茶な」
「それに、こうも言ってたぜ」
「あん?」
「『ウマ娘は一皮剥けば負けず嫌いの集まりだ。負けたくない
「ライバルねえ」
一着なんかより、ライバルに勝つために走る。
そう思ってレースに臨むウマ娘も少なくはないが、その誰かに勝った後、燃え尽きてしまうことも少なくない。
もし担当ウマ娘がなってしまっているのであればそれとなく次の目標を見据えさせるべきだ、と教本にはある。レースをいくつも走らせ勝たせるには、常に新しい目標を掲げ続けることが重要で、セオリーだ。
圧倒的な実力差は時に心を折る。
ライバルなんて、作るべきではない。
「お、はじまるぞ。準備はいいか?」
「そっちの方がトレーナーらしくなってどうするのよ」
1800m芝、右回り。馬場状態、良。
決着は2分も経てば明らかになることだ。
◇◇◇
「現役の時と何も変わっていないとは」
日も沈みだす夕方。
私は学園裏山近くにある神社を訪れていた。
山の頂上まで長い長い石階段が伸びるソコは格好のトレーニングスポットでもあり、困った時やどうしようもない時に学園生が祈りに来るパワースポットでもある。
何を祀っているか定かではない神社とその境内は、信心深い誰かがいつも掃き清めているらしく落ち葉ひとつない。
年末年始は騒がしくなるここも、春だけあってまだ静か。山の上で空気も澄んでいて、考え事をするにはとっておきだろうと思っていたのだが......
「ほにゃらかはにゃらかふんぬらば〜」
「なんかおる」
本堂に向かって深々と頭を下げ両手を擦り合わせる明るい栗毛のウマ娘。何やら願い事をしているようだが、今年のクラシックのことか勉強関連か。
「運命の人が見つかりますように〜シラオキ様〜」
うん、違う恋愛関係だわアレ。
厄介ごとに巻き込まれそうなのでそそくさと物陰に隠れつつ時間を潰す。学園も放課後の自主練の時間。もし、彼女が来るとするならそろそろのはずだ。
「はっ......はっ......」
階段を踏む規則正しい音と、呼吸音。
あの長い石階段を駆け上るには、足を上げ続けることができるパワーとスタミナ、最後まで息を切らさない肺活量が必要だ。
ここで鍛えられるのはスタミナと根性、トップスピードで先頭を走り続ける先行・逃げ策をとるウマ娘はまずスタミナを鍛えるのが鉄則だ。
「だから来ると思った。おつかれ、
汗を拭くタオルを投げてやると、無言でそれを受け取り顔を拭き始めた赤いツインテールのウマ娘。勝ち気そうな鋭い目をこちらに向け、半ば睨みつけるのと変わらない目線を此方にぶつけてくる。
「タオルありがとうございます。ですが自主トレーニング中です。お引き取り願えますか?」
「休憩にはいい時間だろう? 水分補給は大事だよ」
「......いえ、大丈夫です。休憩なんて取っていられるほど、私に実力はありませんから」
「休むのも練習だ。座りなよ」
境内のベンチを指さすと、彼女は渋々といった様子で私についてきた。タオルを受け取る代わりにスポドリを手渡し、先に座って自分の隣に座る様に促す。
「スカウトのつもりですか? トレーナーさん」
「まーね。入学前から騒がれてて、私みたいな新米でも注目してたくらいだしね。選抜レースも見てたよ」
「......っ!」
「立派じゃないか。ウオッカに最後まで競り合って
「2着じゃダメなのっ! アタシは、1番じゃなきゃ!」
鋭い叫びが境内にこだまし、彼女が拳でベンチを叩く鈍い音がした。思わず耳が総立ちそうになるところを、人間の耳を押さえ込むふりして帽子をしっかり掴んで誤魔化した。死ぬほど痛い。
「っ、す、すみません」
「気にしないで。誰も好き好んで負けたくないのはわかるさ」
耳をしょんぼりと丸めて、此方に律儀に頭を下げてくるダイワスカーレット。気にしないでと手を振ると、彼女は飲みかけのスポドリを私に手渡した。
「では私はこれで。自主練がありますので。スポドリ、ありがとうございました」
「いいってことよ。ウマ娘をサポートするのは、トレーナーの仕事だ」
私の言葉を聞くこともなく彼女は階段を駆け降りていった。
「1着、ではなく『1番』に拘る。不思議な感性の持ち主だこと」
あの口ぶりからすればレースだけではなく、学校生活も、些細な事でも『1番』でありたいということだろうか。なんとも自分に厳しい性格をしている様だ、礼儀正しいとの前評判だったが一皮剥けばじゃじゃウマ娘。
自分を厳しく律しすぎてパンクしかねない危うさもあるが、それだけ努力を怠らないのはトレーナーとしては有難い限り。それにゴールドシップはそこらの息抜きが上手いからオンオフの切り替えも彼女から勉強してくれるだろう。根は真面目なダイワスカーレットとゴールドシップのちゃらんぽらんな性格との相性はあんまり良くないかもしれないが......
「見つけましたッ!」
「わっつ?」
「見つけました、運命の人っ!」
さっきお参りしていたはずの栗毛のウマ娘が、その目をキラキラと輝かせて此方を指差していた。