毎回誤字報告してくださる皆様には頭が上がりません。いつもありがとうございます......
「おお、始まりましたか、やっぱり宝塚は人が凄いですねぇ。さすが春レースの締めくくり」
「だ、ダービーよりも人が多い......!」
「それはそうですとも。なにせ人気投票ですからね。去年の活躍、春レースの戦績。それを見てファンの人が走るウマ娘を決める、現役版ドリームトロフィーなんですから」
「そうなんですか! それに選ばれて1番人気のスズカさんは」
「とっても凄いということですね! 我ながら鼻高々ですよ。やはりこの前贈った幸運の鯛の置物のおかげ......!」
「テレビの前ではしゃぐない」
「あた!」
データ用のタブレットでフクキタルの頭をどつきつつ、椅子を引き出して座る。今日は7月の頭、春レースの締めくくりたる宝塚記念だ。本当なら現地応援したがったが、中山記念に小倉、6月末のフクキタルの鳴尾記念と遠征しすぎてお金がない。鳴尾記念も雨降りだったのもあるが8着と振るわなかったが、たまたま桐生院とミークにタキオンまでいるのはビックリしたなぁ......
さて、と。知らないウマ娘だって顔してるスペシャルウィークのために解説もしてあげないとね。
「今年も豪華な面子揃いだ。春の天皇賞を勝ったメジロブライト、昨年のティアラ2冠ウマ娘メジロドーベル、去年有馬覇者シルクジャスティスに女帝エアグルーヴ、勝利は少なくても掲示板を常に外さないステイゴールド。他にも重賞で戦績を残した実力者揃いときたもの」
「錚々たるメンツですね。しかも私の同級生も多いですし、私の世代ってばなかなか実力者揃いということなのでは?!」
「一つ下のスペシャルウィークの方が騒がれてるけどね」
「そういえばそうでした......」
「えへへ」
黄金世代。元々前評判が高いのに加え、流れ星のように現れたスペシャルウィークを加えた彼女の世代はそう呼ばれ始めていた。その声が大きくなったのは日本ダービー同着1位を成し遂げたスペシャルウィーク、エルコンドルパサーの熱戦からだろう。秋戦線にもクラシック級ながら出場することも考えられる。菊花賞も楽しみだがシニア級とも矛を交える秋天、JC、有馬......楽しみだ。
「始まりますわよ皆さん」
「悪いねメジロマックイーンさん」
「おきになさらず。しかしこのモニター小さいですわね」
「悪いねちんまいテレビしかなくて」
メジロマックイーン。名ステイヤーを輩出するメジロ家の御令嬢でスペシャルウィークのダービー前に加入した新人だ。どうしてこんな変人ばかりのチームに来たのかといえばなんでもゴールドシップの2ヶ月にわたる付き纏いに等しいくらいの熱烈な勧誘があったらしい。本人に理由を訊けば「実家の畳の匂いがするから」と言っていた。たまにある『なんとなく気が合う』類の、ウマソウルの悪戯だろう。
トレーナーが目をつけてなかったといえばそれまでだが、ステイヤーとしての実力は確かだ。まだ仕上がる前からスタミナは群を抜いており本格化すればそれは言わずもがな、3000m以上になれば向かう所敵なし、少なく見積もってもゴールドシップとほぼ同格かそれ以上の才能がある。
形式ばったことばかり言ったが本質は喧しい中等部に変わりないし何か裏があると見た、ダービーの時なんか応援の時の掛け声が年季入ってんのよ彼女。阪神だか甲子園だかでよく見る類の声の出し方だよアレ。
さて。
「トレーナーさん、誰が勝つと思います?」
「まー、スズカが勝つだろうなぁ」
「ですね!」
「そう言い切られると、不満を覚えずにはいられませんが。我々メジロのウマ娘を舐めていると?」
「貶してるわけじゃないが、相手が悪い。あの2人は数年に一度の天才である事は認めるけど対抗するには20年に1人の天才がいるんだよ。恨むならスズカがいることを恨むんだな。
まあ今回は苦戦するだろうけど」
「その理由は一体......?」
「カノープスのステイゴールドがやばい目をしてるから。大分仕上がってる、ただ最初っから真面目にやれば勝てるってのに勿体ない」
「ゴールドさんは省エネがモットーと常日頃言ってますしね。あと生徒会のエアグルーヴさんもいます、負けてほしくはないですが勝てるんですか?」
「勝てる。今月の給料かけたっていい。それくらいスズカは今絶好調なんだ。今回も逃げ切るさ」
目の前ではスタートを切ったウマ娘たち、その先頭にはもう既に緑の勝負服を着たサイレンススズカがいた。そのまま1コーナーに差し掛かる頃には後続に3バ身をつけて気持ちよく逃げはじめた。後続はスズカを捉えられそうなベストポジションをキープといった構え。
「あーあ、スズカを気持ちよく逃げさせたらもう捕まえられないよ。スズカを抑え込むには自分が先頭になってスズカを競り合いに付き合わせるしかないってのに。ま、それをやって勝てるウマ娘がどれだけいるかって話だけど」
「我々ではどうしようもないですかねぇ。付け焼き刃の逃げでは負けてしまいますし、私が勝った時はこの走り方を身につけてはいなかったですしね」
「正直背中に張り付くしか対策案がないんだな。スペシャルウィーク、もしかしたら戦うことになる相手だ、よーく見とけよ」
「はい!」
「聞きしに勝る速さですわね。『現役最速』の渾名は伊達ではないですか」
「我ながらどうやって勝ったんだかという話ですよ。まさに運が向いていたとしか思えませんね」
「それ」
一度は破った相手とはいえあの頃のスズカは片手落ちもいいところ。フクキタルの怪我がなくても捉えられたか、勝負はやってみなくてはわからないけどイメージでは厳しいものがあるね。
「気持ちよく走るね、スズカは」
「とても楽しそうですね。走りからすでに楽しさが伝わってきますよ」
「ですね!」
尻尾をブンブンと振って同意するスペシャルウィーク。同室ということもあり、小鴨のようにスズカの後ろをついて回る光景ももう見慣れたものだ。日本ダービーを勝った後はスズカと走りたい、と燃え尽きることなく新しい目標を立てて頑張っている。日本ダービーを勝って燃え尽きるウマ娘も多い中、モチベーションの保ち方が上手い。大成するウマ娘は総じて自分のモチベを保つのが上手いから、きっとスペもうまくいくだろう。
「っと、もう最終直線か。エアグルーヴは......2400なら届いたな」
最終直線、内から突っ込んでくるステイゴールドを追い越さんばかりに大外から追い上げてくるエアグルーヴ。流石女帝と恐ろしい末脚で迫るがしかしその間合いはスズカを捉えるには遅すぎた。
『サイレンススズカ1着で今ゴールイン! 2着にはステイゴールド、女帝エアグルーヴは届かず3着!』
ほんと、恐ろしいウマ娘だこと。
「はい、練習行くよ。今日はストレッチメニューと体幹トレーニング、着替えてトレーニングルームに10分後に集合。飲み物も忘れないでね」
「「はーい」」
「わかりましたわ」
「そこの2人はこの真面目な返事を見習うように。トレーナーにはもう少し敬意を持って接して欲しいもんだよ」
「こないだ扇風機に向かってあーってずっと言っててそれは難しいですよトレーナーさん」
「ウッソあれ見てたのフクキタル!」
「いえ、ゴルシさんが動画を撮ってグループに投稿してましたので」
「ゴルシィ!」