諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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というわけでこの小説も40話突破ですよ。

先は長いねぇ


第43話 勝利は何処

 

 

「......ダメかぁ」

 

小倉レース場第2R、クラシック級未勝利戦、ダート1700m。

天候曇、バ場状態不良。

レッドキングダム、16人中の10着。

後方待機策を取るも先行バ群を抜けられず、先行集団に追いつくどころか垂れてきた先行バに追いつきクビ差が精一杯。トップのウマ娘とは2秒半も離される屈辱的な2桁順位だった。

 位置取りは悪くない。コース取りはそれなり、レース運びは及第点か。不良バ場で脚が前に進まずタイムは刻みにくかった......としても、あがり39秒の末脚では追いつけるものは何もない。平均値だとしても、ここで求められるのはそれ以上だ。

 泥まみれ汗まみれで、若干アレンジの入って人一倍高く飛んでるキングダムがバックで踊るライブ風景を見ながら、私はいつ退学すべきだと伝えるか考えていた。現在学園も夏休みでスピカも合宿中。皆がいるところでは伝えにくいが遠征に1人出ている今は、絶好の機会のはずだ。

 

このレースが終わったら、伝えよう。

 

 ライブ終了後の控室。ノックしてから入ると、顔の汗をゴシゴシと拭うレッドがタオルを投げ捨ててこっちに駆け寄って笑った。

 

「トレーナー、ダメだった!」

「ダメだったねぇ......あとタオルは投げない。ものは大切に」

「はーい!」

 

 人一倍子供っぽく、人一倍騒がしい。威勢よく返事を返してタオルを拾いに戻る赤いメッシュのウマ娘にこれから酷いことをすると思うとやるせない。

 

「レッド......次のレースなんだけど」

「次が決まったんですか、いやっほう!」

 

 嬉しいのかぴょんぴょんと跳ね回るレッド。レースもライブもやったというのに元気なことだ。これだったらステイヤーにでもすれば良かったかもしれない。ま、3000mの未勝利戦なんてないので出すことは叶わないんだけどね。

 

「いやぁ違うんだ、実は」

「次は芝っすか、ダートっすか? なんでもいけますよ!

なんだったら中1週でもかまいやしません! じゃんじゃか走らせてください!」

 

ぶんぶんと腕を振り回して元気良さをアピールするレッドキングダム。だが、言わなくちゃならない、言わなくちゃ......

 

「未勝利戦に出るのはこれで終わり。日程はあるけど、休養の関係で出走登録はしない」

「なーんだそんなことっすか! で、次は?」

「次、次は......」

「9月っすか? 10月っすか? 決まってないなら正直に言ってくださいよもう!」

「......ああそうなんだ。ちょっと日程が組めてなくてな。暫くかかると思う、ごめんね」

「もったいぶった言い方するからもっと深刻なことかと思いましたよう! 今からならみんなの夏合宿にも間に合いますよね? よーし、頑張るぞー!」

 

 次こそかーつ! と勝利宣言をして拳を掲げる彼女をみて、私は乾いた笑いでこの場の空気を誤魔化すばかりだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「とまぁ、言えなかったわけで」

『アッハッハッハッハ!』

「笑うなよ!」

『ひー! こんなに愉快なことがあるかな、笑わずには言われないよ現役時代はあれほど他人に厳しかった君が甘々じゃあないかぁ!』

「ぐぬ......」

 

 後日、あの日の出来事を現役時代の同期に電話で漏らしたがまあ大笑いされた。電話先で笑い転げているらしくドタバタと物音がするくらい腹を抱えて転げ回っているらしい。

 

「大学生満喫してるアンタは社会人の辛さなんてわからないですよーだ」

『私だってバイトはしたさ。人が来すぎてすぐ辞めさせられるんだけどね、全く人気者ってのは辛いねぇ』

「自覚があるんなら手品師でもなったらどうさ」

『エンターテイナーになるのは否定しないよ』

「というか自分で稼いだ賞金だけで学費賄ってる化け物が何おバイトだなんてしてるわけさ。嫌味か?」

『暇だからだよ』

「こちとら汗水垂らして給料貰ってんのにくそがよぉ......」

『言葉遣いが汚い』

「だってトレーナーがクソとかバカとかアホとかいうわけにもいかないじゃん。ぶちまけられんのはアンタやルドルフくらいなもんなのさ」

『それは......褒めてるのかな?』

「貶したいけど褒めてるんだよ!」

『素直じゃないねぇ』

「うるさいやい」

 

 同級生で同時期にデビューしたもの同士、親友とまでは呼べないが心内を明かすには充分な仲だ。秘密を抱えて肩肘張ってる学園の立ち振る舞いは肩が凝るし、学園に来てから近況報告がてら愚痴を聞いてもらっている。

 

『それで、()()()()()()()()()()()()()

「......察しがいいのは嫌いだよ」

『なんとなく想像したまでさ』

 

 ふふんと自慢げに鼻を鳴らすのは相変わらずだ。もう少し心の準備をしたかったが、あと時のように言い出せないよりは幾分かマシだ。

 

「頼みがある。地方トレセンのツテは?」

『......フゥン、都落ちかい?』

「5戦0勝。でも本人は走りたがってる」

『適性は?』

「ダート芝は問わない。距離は1600以上、できれば1800は欲しい」

『......ならひとついいツテを知ってる。少し面白いことになると思うから先にキミを紹介しておくよ』

 

そして、アイツはこう言った。

 

『メイセイオペラ。彼女に会いに行くと良い』

「メイセイオペラ......名前からしてウマ娘だけど、どこの所属?」

『それは自分で探しなよ。じゃあね〜』

「あ、ちょっと!」

 

それだけ言って電話を切られた。

 

「......昔っからこうなんだから、もう」

 

気まぐれで気分屋、察しが良いがお人好しではない。友人にしておくにはやっぱりもう少し付き合いやすいヤツを選ぶべきかもしれない。

 

「メイセイオペラ、か」

 

 ウマホを適当に放ってベットに寝転び、天井を眺めながら口に出しても心当たりはない、見たことも聞いたこともない名前だ。地方から中央に来たウマ娘か、その逆の道を取った同級生か。いやでもクラスにそんな名前の子はいなかった。となると......ネットで調べてみるか。

 

「メイセイオペラ、検索っと......6月末の帝王賞に出てるのか」

 

 昔と比べて今は便利になったもので、レース動画が合法非合法に関わらずすぐに見られるようになったし、誰がどのレースに出走したかったのもわかる。現役時代にこれがあれば対戦相手調べるのにも苦労しなかったろうに。JCの時は海外ウマ娘のレースなんて見るのにしこたま手間がかかったんだからなまったくもう。

じゃなくて今は違う違う。メイセイオペラだメイセイオペラ。

 

パドックの動画を再生すると、画面に彼女の情報を表示しながら実況が説明をしてくれる。あー便利便利。

 

栗色の毛に大きな白い流星。目つきはスカーレットのような吊り目じゃなく、どちらかといえば人懐っこいスペシャルウィークに似ていた。しかし、その赤い目に宿る闘志は荒い画質からでも見えるほどに昂っていた。黄色いビビットカラーを基調とした着流しの上にカーキ色のマント姿と、簡素な勝負服がローカルらしいと言えばローカルらしい。

 

『4枠4番メイセイオペラ、岩手、水沢レース場所属。本日は7番人気です。主な勝ち鞍に東北ダービー、不来方(こずかた)賞......』

 

「岩手ローカルか。そんなところにもあるんだな」

 

 知識だけでは知っていたが、いざ言われてみないと実在を疑ってしまう。芝専門だったから私が行ったことがあるローカルレース場はカサマツくらいなものだし。

 

「レースの方は逃げ先行型。けどここじゃ差されて3着止まりか......ってインのつき方エグッ!? 内ラチギリギリも良いところじゃないかよくすり抜けたな!」

 

 顔を血塗れにしながらもニヒルに笑う1着ウマ娘は『南関東のエース』アブクマボーロ。2着はURA所属のバルトラインか。ローカルは荒っぽいレースが多いなぁ......

 

「まあ、アイツが言うんだしなぁ」

 

ろくでなしだが人を見る目は確かだ。

僻地まで行っても会いに行く価値は、ある。

 

 

 

 

 

 

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